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メットンの決意

コットの村へと帰る道中で、メットンは思う。

ジンナは、すべて忘れていた自分にもあんなに親切にしてくれた。前の自分を思い出しながらも、今の自分について興味を抱いてくれた。


木の根や、岩を乗り越えながら山道を進む。


そしてナコットたちコットは、自分を通して前のメットンを見ていることが多い。

……みんな、実を言えば前のメットンがまだ恋しいんじゃないだろうか。活動的だったというメットンは、一体どういうコットだったのだろう。それを、ただ自分ひとりだけ知らないでいる。


山の麓でひとり立ち止まって、村を眺めてつぶやく。


「……前のメットンのことを、知りたい。前の自分は、何を思ってスンヤに行ったんだろう。それを知らなきゃ。自分を知らなきゃ。そうしないと、自分は一生この弱気で、誰からもきちんと見られない自分のままなんだ。それは……いやだ。」


山の上の固いキワンでぼろぼろになった手のひらや足をみて思う。

腕についたジンナからのお守りを見て、言葉が転び出た。


「——旅に出よう。前のメットンでもしないような、そんな旅を。自分は、自分のことをもっと知りたいんだ、だって、自分は、」


そうして、メットンは足早に村へと帰っていった。



「はぁ!? 旅へ出るだって!? 」

「うん。しばらくの間、行ってきたいんだ」

「め、メットン、ちょっと落ち着いて考えてみろよ、おまえは自分自身を守れるのか? なにかあったら対処できるのか? 今はコンネの里へ行ってきた帰りだから自信もあるのかもしれんが、おまえは——」


村へ帰って、プットンの下へ行きキミンの確認をしてもらい、ナコットと再会した。ねぎらってもらった後、考えを打ち明けてみたのだ。

そうしたら、この慌てようである。メットンは、信頼される力量がないことに、前のメットンであればこうは言われなかったろう、と悲しく思う。と、そこへ


「ナコット」

「ぷ、プットン! 」


プットンが、ナコットのすぐ後ろに立っていた。杖をつき、穏やかな表情を湛えている。


「メットン。このプットンにも、その話聞かせてはくれんか」

「は、はい、プットン」


メットンは、話す内容を頭の中で整理し、ゆっくり話し始めた。


「……自分は、旅に出てみたいのです。前のメットンもしないような、そんな旅を。

自分は、その中で自分を探してみたいのです。何ができて、何ができないのか。何を思い、行うのか。力試しをしてみたい、と心の底から思うのです。

駄目でしょうか。みんな、コットもコンネも、自分を通して前のメットンを見ている。それが辛抱ならないのです。どうか、行かせてください」

「——そうか、そうか。自分たちの目が、想いが、おまえを苦しめてしまっていたのだな……。よかろう、行くがいい新たなメットンよ。ただし、必ずこの村へ帰ってくると、そのことだけはしかと約束しておくれ」


プットンは、メットンの傷ついた手を撫でながら、目を合わせて穏やかな口調で言う。

メットンはその手を握って


「……はい! 」


そう、力強く答えたのだった。



「やはり、メットンはどうあってもメットンだ。好奇心が強く、行動力もある。勇気あるコット、それがメットンだ」

「しかし、今の臆病な気質のあるメットンが旅立って無事でおられましょうか」

「はっはっは、そこは信じてやらねばなるまい。無事に帰ると、そう約束したのだから。ナコット、おまえも今回のメットンの思いきりには前のメットンを思い出したろう」

「……ええ。それと同時に、メットンにあんなことを言わせた自分に腹が立ちました」

「今のメットンをとおして、前のメットンを見ているというところか。たしかに、我らにとっては耳の痛い話だ」


プットンは、遠くにあるメットンの家を見て言う。今頃はすやすやと夢の中へ旅立っているのだろう。もしかしたら、一足先に旅へ出ているかもしれない。


「しかし、なればこそあの子を信じて送り出しこそすれ、自分たちには引き留める権利がない。そうではないか」

「…………そうですね」

「なぁに、大丈夫。あのコットには、トコントが味方してくれるろう。コンネから守りも貰ったようだしの」

「……とにもかくにも、メットンが無事で帰ってきてくれさえすれば、自分は安心できます」

「それはどちらの意味だ? 」

「もちろん、文字通りの意味です」


そうしてふたり、座敷で話しているうちに夜はますます更け、群青色から黒へと世界は姿を変えていった。

翌朝には、メットンは旅立つ。このふたりは、心を悩ませ互いに「明日メットンを引き留めない」という決意を固めたのだった。



「それでは、メットン、行ってきます! 」


必ず戻ってくるから、そう言うメットンの頭を、帽子をとってぐりぐりと撫でまわす。ナコットは、どうしても別れがたかった。


「約束、覚えているな」

「うん」

「無理だと思ったら引き返してくるんだぞ」

「うん」

「誰も笑ったりなんかしないんだからな」

「うん、わかってるよ」


プットンにナコットが引きはがされているすきをついて、メットンは「いってきます! 」と手をふって故郷を後にした。まずは森へ。トコントのいるという、神聖な森へ。意を決して、第一歩を踏み出したのだった。


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