第九話:和解
陸奥葵・生徒会長やその取り巻き四人を連れて、戦火を免れた葵の部屋へと戻る。
道中、俺以外全員無言であった……。
あのさあ、これ前もやったよ。ものすごい身に覚えがあるわ。どうせアレだろ。なんか辛く当たってギクシャクした俺に、うっかり助けられて困っているんだろ。
女の子ってなんでそうなっちゃうのかな。仲良くなれるなら、今までのことは水に流せばいいじゃん。よろこんでまたお茶汲みするよ。
女子という生き物は、一度敵対すると取り返しがつかなくなる、と勘違いしていることが多い。
別に気にしてないって。もうどうすればいいか分からなくて、頭痛くなってきた。
自分の部屋というテリトリーに戻っても、葵の心細い様子は改善することがない。膝抱えて、その膝に口元を埋めている。
「会長、お怪我は大丈夫ですか?」
「……あっ……あ……の」
しかも泣き出す始末。いつもの真っ直ぐな背筋はどこに隠れたのか。しっかりせい。
いや、か弱い葵もこれはこれでアリだけれど、やっぱり堂々としている方が似合う。
「ご、ごめんなさい……助けてくれてありがとう……私……」
「はい、会長と俺の仲ですから。ピンチの時はいつでも呼んでください」
「……わ、わたし、昨日の晩よく考えていたんです……!」
「ん?」
「み、み、三津谷君は森でも、ま、守ってくれたのに……。つい、勢いで、ひどいことを言って、追い出してしまって……」
「ああ、そういえばそうでした。気にしていません。俺ももう足を引っ張らないように頑張りますから、また仲良くしてくれますか?」
「ほ、ほんとうなんです……! 謝りたいって昨日から考えていて、嘘じゃないです!」
「分かっていますとも」
びえーん、ってオノマトペが飛ぶくらいに。葵が小学生の子みたいに泣き始めてしまった。
んん、成熟した女性が恥も外聞もなく泣きわめくのは、こんなにいたたまれないのか。
葵が胸板にすがってくると、背中から腰の完璧すぎるラインがくっきり見える。大変よろしいのではないでしょうか。
「ほんとうなの、次あったら謝ろうって……それなのに……こ、こ、こんな風に再会するなんて……」
「よしよし、もう泣かなくて大丈夫ですよ」
「……ほんとうに、しんじてほしい。み、三津谷君がかっこよく助けてくれたからでも、三津谷君が……将軍? 将軍、だからでもないの……ほんとうに謝ろうと……」
「信じます。会長のためなら何度でもお守りします」
「っ……! ……あ、あ、あの……三津谷君は今、……恋人っていますか?」
涙に塗れている葵が顔を寄せてくる。
うぉい良い女すぎる。
まつ毛長いし瞳は大きいし。それでいて唯一男を遠ざける要素だった、ピリ付いた眉は不安そうに垂れ下がっている。
どんな聖人でもこの攻勢に耐えきるのは難しいだろう。後で聞いたが、「どうせ童貞だから涙でゴリ押せると思った」という打算もあったらしいが……。このときの俺はそんな恋の策略なんてかけらも気づかなかった。
「会長、俺、は……」
「葵って、呼んでください……」
「葵」
「ストップ! 会長、そこまでです!」
「ず、ずるいですよ」
「独り占めはさせません」
お互い目を瞑り、葵の口づけまであと三センチ。
実にギリギリのところで、他のメンバーが割り込んできた。
葵が「しまった」という顔になり、鉄の結束で知られる『山束生徒会』にギスっと亀裂と牽制が走る。おかしいな。今まで君たち泣いてなかった? すっかり涙が止まっているじゃないか。
そんな様子の副会長さんやその他の娘たちが、俺の首を掴んで目線を無理やり自分に固定する。おい、そっちに回したらフクロウになるぞ。
「三津谷君、助けてくれてありがとう」
「あ、あの、私も実は恋人欲しいなと思っていて……」
「汚らわしい男は根絶やしにしたほうがいいと思っていましたが、三津谷さんなら『生徒会』にまた入ってほしい……です」
「……こ、恋人の第五候補でいいので立候補させてください……」
ん? 今、副会長の口から女性同性愛原理主義者みたいな発言が出なかった?
こ、こわ。根絶やしとか言っていたような。
「お伝えするのが遅れていました。俺、もうお嫁さんが居るんです」
「そ――!」
「そんなあ……だ、誰? 現地人? 転移人?」
「本当に三津谷君に相応しいのでしょうか? 一度検証の必要があります」
「監査ですか」
「か、監査はしなくていいよ。そして、君たちを手放すつもりもありません」
こんな有能で素敵な女性が、俺に言い寄ってくれるだなんて。ここでラブコメチックに話を引き伸ばすほど、俺は愚かではない。
当然、好かれている今がチャンスだ。ひとり残らず入籍して、一生添い遂げてもらおう。
――
その晩、寝具の上で葵が気絶と覚醒の間をさまよっている。
昼間の働きぶりも実に優秀な女性だが、こちらの方も大変良くできました。優・良・可の優! 流石全校生徒代表だ。
「か、かひっ……♥ か、ひっ、ご、ごめんなさい。に、二度と葉介様のことを追放なんてしません!♥」
「よーしよし。凄く綺麗だよ、葵」
じっくりと愛した葵の腹を、冷やさないようにすりすりとさすってあげる。
幸せそうにヨダレ垂らして喜んでくれた。風紀違反が過ぎる。これ青少年の教育に良くないだろ。
「『生徒会』商人連盟を仕切る、陸奥葵生徒会長が宣言します!」
「おおっ?」
「み、三津谷葉介元雑用は、終身名誉顧問に就任!♥」
「やったー!」
もう二度と俺のことを追放したりしないよう、追加でたっぷりと愛情を注いでおく。
葵本人が望んだのだから遠慮はしない。
愛情と一緒にテイムの光も叩き込んで、パチパチと気絶する葵のへそには俺の魔力がまとわり付いている。最近気づいたのだが、このテイムの魔力は自由に紋様を弄れるのが嬉しい。試しに俺の名前を刻んでみよう。えい。
「かひ!♥」
「あー……二度と取れなくなっちゃった。このテイム、解呪の方法わかんないんですよ」
「う、う、嬉しい……!」
喜んでくれるからヨシ。
ぐったりと仰向けガニ股で意識を飛ばした葵を撫で、周りを見回すと他の役員も揃っている。全員テイムに負けちゃって、恋人を一足飛びにしてお嫁さん確定しちゃったけどいいのだろうか。本人たちが了承しているからいっか。
元の世界での彼女たちのモットーは『不純異性交遊厳禁』『男子禁制』『汚らわしい男は死ね』といった感じだった。特に副会長とか、元の世界では葵生徒会長にガチ恋していた筋金入りの百合百合男嫌いである。
キチッと前髪を整え、長髪は三編みでまとめ、無論髪染めなどせず、目元はコンタクトではなく眼鏡。形骸化した校則も一つ残らず守る風紀の番人たち。
そんな彼女らだが、一緒の寝具で夜を過ごすようになるとすっかり変わってしまった。昼は貞淑そのものだが、夜は髪をほどいて化粧を目一杯頑張るようになった。うーん、控えめに言って最高。
「『生徒会』会計、桂木桃子ですっ……。よ、葉介さんが望むなら、私が保有する『生徒会』の株式をぜーんぶ差し上げます……」
「あっ、わ、私も!」
「同じくっ」
そう言ってどの娘も額をシーツにすりすり、腰を頭より高くしてふりふりしながら、お手元に株式を差し出してくる。
気絶している葵などは既に差し出し済みなので、これでは俺が保有率百パーセントになってしまうではないか。
「これだとみんなの生活費がなくなっちゃうから、俺は元の通り一パーセントでいいよ」
金や株式なんかより君たちそのものの方が欲しいし。実質的な権力が俺の元を離れて久しいトリバレイ、その運営の一部で彼女たちにも活躍してもらおう。
「商人連盟は葵に任せるとしてー……他にもいろいろやって欲しいことはあるよ」
「な、な、なんでもやります!」
「頼もしいなあ。風紀の番人らしく、警察組織でも活躍してくれそう」
他にもエルフから医療系の知識を学んだり、資源採掘の管理をしたり、優秀な人手は幾つあっても困らない。一気に五人も確保して逃げられなくした俺は、一人ひとり平等に愛でながら眠りについた。
っかしーなー……
この物語は主人公とヒロインの恋愛模様を中心に描くつもりだったのですが、
なんでこうなっちゃったのかなあと不思議に思っています。




