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第八話:五人揃って四天王

 耳が凍えて千切れ飛びそうだ。


 音速近くまで加速した火竜・上総介の背の上。俺はトリバレイからオッカズムまでを瞬間移動に近しい短時間で戻っている。


 オッカズムが魔王軍の四天王に襲われている。その知らせを聞いて、持てる最高速の移動手段を選んだ。耳や指先が体感温度氷点下に晒されるが、葵たちの危機だ。かまっている場合ではない。ほんのり伝わってくる上総介の体温で暖を取りながら、最速でぶっ飛ばす。


 到着。


 天空から見下ろした町には戦火が広がっている。


 が、敵戦力はそう多くない。少数による奇襲か。それでもこのオッカズムはミッドランドの北西端。国境をトリバレイに面していて、組織的な魔物がやすやすと入り込める場所ではない。空から襲ってきたのだ、と俺は確信した。


「あれは……、竜騎兵か!」


 竜騎兵というと元の世界では馬上筒のことだ。竜のように素早く機動し、銃火を吐くからだろう。


 だがこっちの世界では普通に竜がいるので、竜騎兵といえば竜に跨っている兵士のこと。オッカズムでは、大小さまざまな羽付きトカゲに跨っている魔物が暴れまわっていた。


 大小さまざまということは一番大きい竜も居るわけで、そいつが群れのリーダーであることは明らかだった。おそらく四天王だ。


 上総介とともに降り立つ。いかんな。急いで駆けつけたが、かなり中央部まで侵攻されている。ここを抜かせては葵たちがいる市場がすぐ側に……。


 と振り返って絶望した。なんでまだ避難していないんですか、貴女たち。


「会長!」

「み、三津谷君……! そ、その竜は一体……」


 五人の生徒会メンバーが雁首揃えて、魔王軍に蹂躙される順番を待っていた。


 バカな。とっくに逃げたものだと思っていた。


「早く! 北西の方角へ! とにかく逃げてください!」

「う、うう」

「あっちですよ、北西はッ」

「ま、間宮さんと桂木さんが怪我をして動けなくて……それに、煙だらけでどこに行けば……」

「ああもう!」


 肝心なときに行動が鈍い!


 普段は無駄一つ無い振る舞いをするくせに、どうして一番緊急事態で固まっているんだ。


 いや、そもそも戦火に慣れていない人間はそんなものなのか。彼女たちを護りながら敵を撃退するのは、かなりしんどいぞ。


 だがやるしかない。護衛必須の対集団戦になる。ただ殺すよりも何十倍も難しい。剣を握り、上総介を励まそうとしたところで――


 視界の端に白銀が走った。


 葵の背後から噛みつこうとしていた小竜の、その長い首を白狼の牙が噛みちぎる。思わず笑みがこぼれた。


「は、はは、はははは」

「オォォォオ――――――――!」

「凄いな。どうやって間に合わせたんだ。ええ? なんで上総介の最速に追いついたんだよマジで」


 白狼ナビエが首を振り、返り血を払い落とす。


 俺の同僚。同じご主人様に仕える使い魔。通常の狼より遥かに大きく、全長は四メートルを超える白銀の戦士が駆けつけてくれた。


 流石俺の嫁。トリバレイの居城から盤面見えすぎだろ。使い手も使い魔も優秀ないい例だ。


 続けて殺到してきた魔王軍竜騎兵を、これまた一噛みの元に両断する。こいつになら葵たちの護衛は全幅の信頼をもって任せられる。というか、こりゃ張り切らなければまたしても使い魔として差をつけられるな。鮮血で化粧した口元を、にたりと歪めてナビエが勝ち誇った。


「ふん。やるな、ナビエ」

「ヴォルフ」

「ならば俺はリーダーをやるぞ。上総、部隊長を潰す」

「――――――――――――!」


 上総介の咆哮。ありとあらゆる魔物、獣が本能的に逃げ出す爆音。


 突如現れたナビエに浮足立っていた敵兵が、大半散り散りになって空へ逃げる。


 しかし本命の巨大竜は逃げずに正対してきた。手強いな。ヒルのようなぬめぬめした肌。鱗のない緑色の巨大竜だ。


 その背中に俺と同じようにまたがるのは――黒い鎧が全身を覆う人。いや、人ではなく人型の魔物か。濃い影が兜の隙間を埋め、その相貌は隠されている。


「やぁどうも。魔王のところの者か」

「魔王軍四天王、ニドゥコライドである。そこの竜騎士、名のある人間とお見受けした」

「理屈に合わねえなぁ」

「……何?」

「お前も四天王なんだろ? 過去にアリシア・ミッドランド女王が一体、ロザリンデ・バルトリンデ女王が一体討伐済み」

「ふん、忌々しい。人間どもの首魁か」

「そして残りの二体は俺が殺した。三津谷葉介だ、よろしく」

「貴様がッ」


 親指で自分を指し、名乗りを上げる。ニドゥコライドが剣を握り直した。


「五体目じゃねえか。理屈に合わないってのはそういう意味」

「ふっ、はははははは! 貴様ら矮小な人間が足掻こうが、魔王四天王の体勢は万全也ィ! 既に第七席まで補充されておるわァ!」

「多いなあ」

「そして我が愛竜、ギルドゥグもまた四天王の末席に連なる――」


 また一から根絶やしにしなければ。


 皆殺しだ。


 大仰な手振りで空手を掲げ、高笑いするニドゥコライドの隙を突く。


「頼む、上総」

「――!」


 ぬめぬめ緑竜に突進した我が愛竜は、後退も防御も反応する暇を与えなかった。


 ヒルのように全周牙を備えるロを、自慢の脊力で強引にこじ開ける。


 上総介が踏みしめた反作用で地面が割れた。自身と同じくらい巨大な竜を、上総介は難なく地面から引き剥がす。勝ったな。俺はといえば流れ弾(ブレス)がオッカズム市街や他の集落に当たらないよう調整するだけ。


 大きく開かれ固定したヒルのロに、火葬竜・上総介のブレスが炸裂した。


 ぱっぱっ、ぱぱっ


 とほんの数秒だけ四天王末席の意地を見せた緑竜ギルドゥグは、しかし臨界点を迎え、腹から弾け散って細切れウェルダンと相成った。


「ぬぉっ……! ば、バカな! なんだその熱量は……ぐむっ!」


 もはや竜騎兵ではない。宙に投げ出されたニドゥコライドの背後に飛びかかる。


『対象:魔王軍四天王ニドゥコライド』

『強者上位:0.1% 対象判定:OK』

『革命スキルを発動可能 ……首狩り一文字』


 抜き打った剣が魔王軍四天王の数をさらに一つ減らした。


 これでもまだ五人揃って四天王らしいから、今後もサクサク減らしていこう。


――


 圧勝だった四天王戦よりも、戦後処理の方が大変だった。


 瓦礫をどかさなければいけないし、火もまだ燻っている。空からの奇襲を今後防ぐために、何か上手い策も考えないといけないな。


 うーん、これは一人では無理だ。駆けつけてきたストーン少尉に面倒なことをガッツリ任せる。信頼しているからな。うむ。


「お任せあれ!」


 元気があってよろしい。


 一番に駆けつけてくれたこの青年尉官は、なかなかに忠誠心が高くて頼りになる。もう全部こいつがやればいいんじゃないかな。


「ただし少尉、あんまり張り切りすぎないように」

「は、ははっ……? ええと、なぜでしょう」

「ここはトリバレイの管轄ではない。ミッドランド本国領土だ。デカイ顔しすぎると、本国の部隊から反感を買う」

「あー……管轄争いですか」

「そういうこと。延焼を防ぐことと、重傷者の手当、火事場泥棒の検挙だけでいい」

「了解しました。部隊全体に徹底させます。ただ……」

「ん?」

「恐れながら。閣下は既に、本国の将軍にやや嫉妬されるお立場かと……」

「んん?」


 ストーンが指し示した方に向くと、オッカズム町民の大歓声が上がった。


 しまったな。民草の前で大立ち回りをしたらこうなるか。火葬竜を操って魔族を撃退する。その様子を洗いざらい公開してしまった。


「お、こっち見たぞ!」

「三津谷将軍! 将軍! 将軍!」

「お、おお……!? あの兄さん市場で見たことあるぞ」

「はは、ははは。あの方はワシの店をいつもご贔屓にしてくださる。いやあ、只者ではないと思ったが、この目に狂いはなかった。三津谷将軍はワシが育てた」


 おめー偽物の装飾指輪売りつけようとしただろ。最後の奴。忘れていないぞ。


 他の奴らも普段はこちらの財布ばかり見ていたくせに。流石生き馬の目を抜く商人の集い。気持ちのいい手のひら返しだ。


 騒ぎはどんどん大きくなる。とどまるとマズイな。


「少尉、事後処理任せます」

「民に手を振ってあげてください」

「目立つの苦手なんだよ。後はよろしくね」

「その器でいらっしゃると、小官は愚考しますが……」


 あんまり目立って後からくるミッドランド軍に睨まれても困るからな。


 見方によってはオッカズムをトリバレイに引き込もうとしているようにもとれる。李下に冠を正さず、だ。


 歓声から離れ一息ついていると、『生徒会』のメンバーが心細そうに近づいてきた。


 やれやれ、彼女たちのメンタルケアも一仕事になりそうだ。泣かなくてもいいっていうのに。

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