おまけ:論功行賞
おまけです
人物情報の整理だけなので読み飛ばしても大丈夫です
元敵国バルトリンデとの交渉がひと段落したという事は、次にやるべきは内部のこと。
青色作戦の成功に貢献してくれた面々に、褒美を与えることだ。アリシア・ミッドランド女王陛下から許しを頂き、トリバレイに関する論功行賞は俺に一任されている。
そんな俺はトリバレイ城の儀礼場で、あらかじめ用意された原稿を読み上げる機械と化していた。この原稿を作った女性陣が褒美をもらう側に含まれている気がする。いいのかな、これ。
「まずは、暫定となっていた各省庁の立ち上げについて。トリバレイは独自の省庁を作る許しを得た。その席次第一、国務長官・城ヶ辻綾子」
「はい」
トリバレイ辺境地初の公的な儀式の場。
その威厳を示すために、ひらひらと大仰な格好で飾り立てられ、神妙な面持ちで儀を進める。ミッドランド式の儀礼服なんだろう。歩けば裾を踏んづけるし、厚着過ぎて汗が止まらないのはなんとかしてほしい。
一生懸命真面目な顔を作っている俺を、綾子はおかしそうに笑って辞令を受け取る。
国務省はいわば国策の管理者だ。外交や交易、国内の流通管理など、最も重要な役割は綾子に任せるのが一番いい。
というか俺には出来ないのである。こういう省庁を立ち上げれば、俺に出来ないことを正式に彼女たちに引き継げる。そして俺は食っちゃ寝生活というわけ。我ながら名案だ。
「軍務長官はジェイコブ・ストライテン中将、財務長官はバーナード・フェルトン、法務長官はユースティティア・アン・クローデル」
と、顔なじみの三人に権限を委譲していく。この辺は既定路線だ。元々彼らでないと出来ないことに、追って正式に委任する。正式に、というのが肝心。省内の人事もやりやすくなるし、予算もあてやすい。
「魔法長官は霧八佳苗」
「……はい……つつしんで……」
俺だけに分かる微かな笑みに、つい顔を綻ばせてしまった。ありがたやありがたや。拝んでいると脇腹に綾子の肘が飛んでくる。正式な場でトップがぶん殴られたのに誰も手を差し伸べてこない。本当のトップが誰か、赤子でもわかっているということか。
えーっとなんだっけ。
そう、魔法長官。これはちょっとだけ自慢の俺の工夫だ。元の世界には当然なかった部門である。この世界の重大な要素である魔法を、専門にして管轄する部門。魔法への理解が随一の佳苗なら、よく取り組んでくれる。魔法具の生産数管理とか、魔導書の管理とか、新魔法の秘匿・特許管理とか。やることは沢山ある。
国務、軍務、財務、法務、魔法。
警察なんかを担当する内務なども要るが、一先ずはこの五つがあれば国としてのトリバレイは成立する。行政長官はこれでいいだろう。その傘下の管理は彼ら・彼女らに任せればいいし、長官数の不足を感じたら付け足していけばいい。
「次に臨時徴税に協力し、著しく功績のあった五名。姫野佑香、三島椿、崎田アンナ、小早川皐月、藤堂みなみは、独自の屋号を立ち上げることを正式に許可。爵位の授与。また、トリバレイを一部割譲して五名の領地とする」
「はいはい、いただきますっと」
「ぷ、なにそれ葉介。えらそーな服、似合ってないし」
「屋号どうしましょうか。取りあえず姫野商会で統一していますが」
「旧姓で良いんじゃないですかぁ?」
「ねぇ。この領地とか屋号って、葉介との子供出来たら引き継いでいいの?」
三人集まれば姦しく、五人集まればなおさらだ。
一応、論功行賞の真面目な場なのに騒がしいな。あと跡継ぎのことは昼から大きい声で言わないように。夜にこっそり相談させてください。
「続いて元バルトリンデ北部改め、アオタニ地方について。ジュウベ・ルリ、クジョウ・ミカゲの二名に統治権を返還する」
「おぉ。いいのか、旦那様」
「あら、お優しい」
「さらに、治水作戦で功績があったギディオン・ギラン少佐がアオタニに赴任。同地域の軍備を一任する」
「はっ! さらに精進いたします」
「三名で協議しながらアオタニを治めること」
直近の作戦ではあまり隣に置けなかったが、舞台裏でのギランの活躍は捨ておくことができない。なにせ河を一本、一時的にだが向きを五十度強捻じ曲げたからね。泥だらけで土嚢を五個も十個も担がせた。大変だったな。無茶振りしてごめんなさい。
軍人ではあるが、意外と土木・都市づくりに適性がありそうなのでアオタニ赴任官に採用。爵位も送っておこう。
「次は元バルトリンデ西部、ニェルガド地方。ムラクモ・ジル少佐」
「はっ、こちらに!」
「見事な艦隊運用で劣勢を凌ぎ、優勢を決定づけた。ニェルガドに赴任。現町長ニェルガド・ケンシと二名で協議しながら治めること」
「敗戦の挽回の機会を頂き、感謝の至り」
「想定以上に機会を活かしてくれました」
ひげもじゃの海の男は、意外と涙もろかった。肘で涙を拭いながら嗚咽をこぼすムラクモに代わり、若干引いているニェルガド町長が辞令を受け取る。
アオタニ、ニェルガドの二つの町は重要拠点だ。続々と交易量が増えて、今や大陸でも有数の都市となっている。トリバレイと合わせて三つの港。第一から第三艦隊を運用できる。ルリ、ミカゲ、ギラン、ムラクモ、ニェルガドの信頼できる人員に任せよう。
「最後に制圧圏の南端について。ジグムント・アクスライン中佐」
「はっ!」
「抜群の指揮で陸上戦線を支え続け、我が艦隊の勝利を導いた。戦功第一を認め、ニェルガドからさらに南の地域を全て貴官に預ける。好きに統治するように」
今までは既定路線だったけれど、この権限移譲は流石にどよめきが起きた。
一佐官の領分をはるかに超えている。
ただ、反対意見はない。トリバレイから最も離れ、しかも元敵国バルトリンデに最も近い地域。彼にしか担当することが出来ないのは周知の事実だ。
「軍備も委任、つまり直属部隊もそのままだ。これからは治定が主になるけど、頼りにしてます」
「万事、お任せください」
微笑んで辞令を受け取るアクスラインは、どうも俺の思惑を把握しているようだった。
――
各々が退出した後、一人残ったアクスラインが話しかけて来た。
「三津谷殿」
「ああ、お疲れ。結構肩凝るね」
「はい。上層部だけなら逆に気軽でしたでしょうが、尉官級も出席しておりましたから」
「ボロが出ないように気を遣ったぜ~。ボロ、出てなかったよね?」
「……えー……はい」
「……」
出てたか。
尉官級にはせめて威厳を保ちたいね。
「それにしても、なかなかお上手な人員配置です。城ヶ辻殿のお考えか」
「ガッツリ相談したけど、一応俺発案」
「おぉ、トリバレイ当主が堂に入ってきました」
「褒めるな褒めるな」
「特に人員数の振り方が良い」
むむむ。そこまでお見通しでしたか。やっぱり切れ者ですね。
アクスラインは軍人として優秀だが、そして根っからの軍人に違いないが、たぶん他の道に進んでも栄達したのだろう。将来は町長とか長官とかやらせてみたいな。
「トリバレイでは官と民を分け、さらに官は五人、民も五人に権限を分けている」
「うん。統治が成熟してきたトリバレイはそれがいいね」
「アオタニは三名。ただし、出自がアオタニの二名とミッドランドのギラン少佐」
「ニェルガドは二名。出自がアオタニのムラクモと、生え抜きの町長」
「やはりお考えの内でしたか」
この人員のキモは権限の分散と、その分散させた人物の属性をバラつかせること。
例えばアオタニにムラクモを配置したら、完全にアオタニ出身一色になってしまうので独立心が強くなりすぎる。ルリたちはお嫁さんなんで裏切ることはしない。けれど、数十年後の後任のことを考えると、適度に出自をバラつかせた方が良いのである。
「十名、三名、二名、と。トリバレイから南下するほど、権限の分割が粗くなっております。これは敵地に近い地域で、上層部の即応性を高めるため」
「その通り」
「ならば」
ならば最後の地方は。
ジグムント・アクスラインが治めることになる南端部は、どうなるか。彼自身が察している。
「小官一人に全権限をお与えくださった」
「ああ、これは単に君を信頼しているからじゃあない。ギランやムラクモだって信頼はしている」
「戦がありますか」
「おう、君の赴任地は魔族や停戦不服派のバルトリンデ勢が近い。これを俺達で叩く」
「お任せあれ。今作戦では最後に足を引っ張ってしまったようですから――」
いやいやいや、その百万倍活躍しているけどね。
「次はお役に立ってご覧に入れます」
「うむ、期待しているよ」
やはり頼もしい。魔族だろうが何だろうが、ウチの自慢の先鋒大将に勝てるもんかね。
アクスラインと拳を合わせながらそう思った。
第三章は近々投稿できそうです
宜しければ引き続きお付き合いください
実は他の作品がノクターン送りになっていまったので、
この作品では清廉で上品な内容を心がけてガンバリマス!




