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第七話:自己紹介

 森を抜けた。


 ついに長かった帰路をようやく抜けた。


 隣の綾子も、流石に少しくたびれて手を膝に乗せている。


「やっとついたぁあー……」

「お疲れ様、三津谷。帰り道の方がマシだったね。獣もほとんど出なかったし」

「そうか。うーん、往路は必死過ぎて比べられない」

「……そうね」


 おや、綾子がまた意気消沈してしまった。


 森の道中でもそうだったが、さっきからイマイチ綾子の元気がない。多分、俺への罪悪感とか細かいことを気にしているのだろう。


 この子に暗くなられるのは嫌だ。話題を変えよう。


「まあとにかく、一旦宿かな。街に戻ろうよ」

「……!」

「あれ、綾子さん? ……ん? もしかして足首ひねった?」

「い、いえ、ま、ま、ま……」

「ま?」


 自信家の綾子が壊れたからくり人形のように発声に苦慮している。


「ま、ま、街っ、街は……街はあっち……! こ、今度は間違いない、間違いない……嘘じゃない、嘘、嘘は……」

「あ」


 しまった。話題を転換できていない。


「街、案内するよ。さ、三時間くらい、まちは、こっち、うん……街、ま、街……」

「ああ、ありがとう」

「こっち、先に行くから後ろからついてきて。前に、絶対前に、で、出ないように!」

「……綾子さん」

「そっ、それとも、一旦別れようか。一旦、というか……もう森は抜けたし……」


 まいったな。先日の谷でのことが随分トラウマになってしまったようだ。


「綾子さん。そのことはもう気にしなくていいよ。気にし過ぎだよ」

「う、ぐ……」

「何と言うか、綾子さんだってテイム状態から抜け出すために考えたわけだし、人をテイムして喜んだ俺の自業自得ってことで」


 それを言うなら綾子の方が先に仕掛けてきたわけだが、面倒だ。


 全部含めて許して、出来ればもっと綾子とお近づきになりたい。今回のことでこんなに仲良くなれたのだ。もっと親しくなりたい。だって学校一の美女だぞ。いや、この子くらいに才色兼備の優れた女性、国一つ探しても見つかるかどうか。突き落とされたくらい大した代償ではない。


 万が一億が一、上手い事アピールできれば、綾子の婿候補五、六番目くらいにはなれるかもしれないし。でも綾子はモテるから彼氏とかいるんだろうなあ。いい女には大抵彼氏がいる。辛いな。ただ、キープくんくらいにはなれるかも。


 そんな下心満載で全部許すと、ようやく綾子の過呼吸が収まって来た。


「じゃ、街に一緒にいきたい。つ、ついてきて三津谷」

「隣歩いても良い?」

「良い」


 先行するわけでもなく、後をついていくわけでもなく。肩を並べて綾子と歩く。うーむ、充足感が半端じゃない。超自慢したい。


「本当に気にしなくていいよ。元凶はテイムだから、そうだ、今ここで解除してしまって――」

「解除したら殺――だめ」

「ん?」


 なんか一瞬不穏じゃなかった? 気のせいかな。


 気を取り直して。よしよし、いい感じに話題を変えられそうだ。


「まあ、綾子さんが魔物狩りとか手伝ってくれるならありがたいんだけどね」

「でも、三津谷くんは私が敵わない奴も倒せるし……居ても足引っ張るだけかもしれないね」

「いや実はさ、俺って大型の魔物しか倒せないから」

「……は?」

「いやあ、もう森抜けちゃったし種明かしするけどさあ。実は俺のスキルの『革命』は超強い奴に『だけ』勝てるって効果なんだよー」

「……」

「だから綾子やエルフにも勝てたってわけ! 凄いぜ、綾子。世界で上位0.1%の強さって、そうは居ない……な、なんでそんなに睨むのん……?」


 俺が完璧に種明かしをしてあげたというのに、綾子は物凄い形相でこちらを睨んでいる。


 なんでだ。


 結構面白いスキルだと思うが。そうか、綾子は負けず嫌いな方だから、こういう裏技的なスキルは嫌いなのか……?


 恐る恐る後ずさりしようとすると、そうは問屋が卸さなかった。


 襟首を握られ引き寄せられる。


「どっ、どっ、どうして!」

「痛っ、どうして?」

「どうして話すの! いや、ちょっと待って整理させて。まず、そう……誰に話した! こっ、声が大きいよこのバカ!」


 綾子の方が千倍声が大きいが。


 必死に周りを見回しているが、見晴らしのいい草原には人っ子一人いない。当然だ。ここは生活圏から離れすぎている。


「誰に話したって……いや、別に綾子が初めてだよ」

「エルフには!?」

「は、話していません。誓って」

「ふっ、ふーっ……ふー……よ、よし……」


 少しずつ綾子の狼狽が収まってくる。


 ……そういえば綾子に革命スキルのことを言うのは初めてか? 今まで小型の魔物を綾子に任せたりはしたが、あくまでその場の役割分担程度と思っていたようだ。


 そんなに驚くとは思わなかった。


「では次にもう一つ誓いなさい。今後、絶対に、誰にも、そのスキルのことは話さない事。聞かれても答えない事」

「えー、でも、スキルの特性を伝えればパーティとか組んでくれるかも……」

「ダメ! パーティは必ず私と組みます。渉外や些事は私がやるから、他には話さなくていい」

「はっはい……」

「あとは、ああもう、イライラする。バカなんじゃないの」

「そんなに隠しておかないとまずかった?」

「まずいに決まっているでしょう」


 うーんそうかなあ。


「結局は勝てる相手には勝てるし、勝てない相手には勝てないってことだから、秘匿してもしなくても勝敗には影響しないって言うか」

「バカ。バカ。私がテイムしたスライムを二匹もけしかけたら、三津谷なんてイチコロでしょ」

「……」


 ……。


 …………。


 確かにね。


 確かにそういう考え方も無きにしも非ずだね。


 うむ。


 まあ、そこまで臆病になる必要はないかもしれないが、ここは何かな。綾子の顔を立てると言う意味でも同意しておこうかなっと。やーれやれ。男は度胸と言うが、その辺のローマンは女子にはまだ早かったかな(笑)。


「綾子さん! お願い内緒にしておいて!」

「ふーっ……もう、当たり前でしょう」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「まあ、秘密が守られているなら問題ない。これから絶対にばらさなければ、うん……むしろ活かし方は幾らでもある。巨万の富すら築ける」

「マジ?」

「ええ。バカの三津谷は幸いにも、革命スキルが効くほどに強い人材をテイムしている。城ヶ辻綾子は三津谷にとって最も重要なパートナーになるでしょうね」

「綾子さんが」

「私が勝てる相手は私が、勝てない相手は三津谷が必勝出来る。これほど単純明快な共生関係はない」

「なるほど」


 そうか。森での役割分担を、そのまま拡張すればいいのか。


 そうすればどんな敵だって百戦百勝。


「あ、綾子先生ェ! 一生ついていきます!」

「ん、よろしい」

「かたじけねえ、かたじけねえ……」

「それじゃあ、そのスキルの仕組みを今のうちに共有しておきましょう。一から全部教えて」

「了解!」

「……み、三津谷は、他人のことを信用し過ぎるのは止めるように……私以外は」


 良かった。


 ようやく活き活きと話してくれるようになった。


 この感じなら、例のトラウマもそのうち解消されるだろう。もし尾を引くようならまた何とかケアしてあげればいい。


 綾子の説教を横で聞きながら、俺はそう思った。

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