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第九話:進水式

 揺れる床に大股で立ち、声を張り上げる。


宜候(ヨウソロ)――!」


 アオタニの兵から、荒々しくも頼もしい応答の声が上がる。一方、ミッドランド兵は焦りでそれどころではない。彼らは陸上では強兵だが、海の上はほぼ初めての経験だ。慌てふためいて可哀想に……。許してくれ。


 不安が残る乗り出しだ。けれど操船技術を属人化、いや属地方化させすぎないためには必要なことである。ミッドランドでも操船をできるようにならないとね。そしてミッドランド兵の心配をよそに乗船は滑るように進む。


「わっ、はや……!」

「当然です。我がクジョウの秘術、存分にお使いくださいませ」


 造船アドバイザーのクジョウ・ミカゲが誇らしそうにしている傍ら、俺の方は慣れない揺れと塩気で少々気分がよろしくない。ミカゲに背中を撫でて貰ってなんとか持ち直す。


 それにしても……ひどい揺れ”ではない”。この世界の技術では鉄甲船も防振構造もまだまだ未開発のはずなのに、この程度の揺れで収まっている。これが船向けの魔法の力か。


 新造艦・黒蓮(こくれん)


 ミカゲ率いるクジョウ家の技術をベースに、ルリの実家のジュウベ家の秘術を融合した最新鋭の船、その試作一号。


 全長約六十メートル。最大乗員五百五十。


 かなり大きな船体だが、ミカゲの活躍で現行最速。緊急時は魔力放出を伴う推進移動も可能だ。この世界で発展した魔力砲が左右に六門ずつ。黒一色に塗装された船体は、戦場での威圧に役立つ。それだけではなく、ルリによって研究されてきた対魔法外壁をふんだんに使っているので堅牢さも随一。


「凄い! 随伴の船がもうあんな後方に……!」

「計算どおりです。いい機会なので未実装の技術をたくさん詰め込みましたが、どれも上々のようで」

「流石ミカゲさん!」

「ま、まぁ……嬉しい……」


 色っぽく腰をくねらせて喜ぶミカゲも魅力的だったが、というかずっと見ていたいが、今だけはもっと衝撃的な光景が船の後方に。


 ミッドランドがかろうじて抱えている軍船どころか、アオタニ産の船までぐんぐん置いていく。凄まじい加速だ。竜骨とマストに工夫があるようなのだ。詳しいことは分からんけどとにかく凄い!


「フフ、まだまだこんなものでは有りませんよ」

「へ?」

「模擬戦の信号弾が上がりました。本艦の実力をお見せしましょうか。……今だ、面舵一杯。後方の船につけよ」

「オォ!」

「右舷、訓練弾斉射二連続の用意」


 うーむ、人が違うようだ。二人っきりの夜は妖艶で甘やかしてくれるお姉さんって感じのミカゲだが、号令を下す声色は凛として逆らい難い。


 操帆部門と射撃部門からそれぞれ了解の怒鳴り声が聞こえてくる。乗員がキビキビと動き、船は右へと方向転換。


 急激な遠心力で投げ出されるのをミカゲに支えてもらいながら、かろうじて見えた光景。それは俺たちが訓練用の目標船の進路直前をギリギリすり抜け、


「撃て!」


 の号令で目標の船頭に一斉射。


「面舵そのまま。右旋回、両舷魔力放出!」


 さらに魔力放出の補助を受けながら、ドリフトみたいな急激な右回転を続けて……最後は目標の右舷にペイント弾を打ち込む様子だった。


 速い。とんでもなく速い。三倍くらい速いんじゃないの。言い過ぎか。でもそう思えるくらいにめちゃ速い。マストだけでこんな機動できるはずがない。


「あの、ミカゲさん。今の……どばーって出した粒子は推進剤ですか」

「ええ、姿勢制御に用います。これで斉射も接舷も思うがままです」


 放出した魔力が霧状になってあたりに立ち込める。黒蓮の急激な操舵に対応できず、相手方はまともに応射もしてこない。ミカゲの、アオタニの造船・操船はこんなに凄いのか……。目標の左前方から右舷をあっという間にすり抜け、最後にはピタリと真後ろにつけてみせた。


 途中の一斉射はまず前方の喫水線。実戦ならこれで敵の船体は大いに揺れ、反撃もままならない。


 続けて、左前方を警戒していた敵の死角、右横腹を叩いたことで目標の乗組員たちは文字通り右往左往。


 最後は反撃が難しい後方近傍へつける。他の敵方が誤射・巻き込みで援護をためらうような、そんな絶妙な位置取り。


 実戦に換算すれば一隻撃破、損耗なしってところか。驚愕で開いた口が塞がらない。早く塞がないと胃の内容物が吐き出されそうで困る。


「訓練そこまで。次は艦隊運動を試します。本艦を先頭へ! ……ふむ、ミッドランドの素人が混じっている割には上々ですね。どうでしょうか、葉介様」

「……は、はい。かっこいいです。ミカゲさん」

「ふふ、そうではなくて、船の具合は? お気に召しましたか?」

「大変良いかと」

「ありがとうございます。これを全部葉介様に差し上げましょう。嬉しいですか」

「はい!」

「ふふ、ふふふふふ……これでルリよりも一歩先に行きましたね」

「い、いえ、そんな競争しなくても……。大好きですよ」


 忠義深い大型犬みたいに体を擦り寄せてくるミカゲ。もじもじと寂しそうなので腰に手を回し、腹を優しく撫でてあげると嬉しそうだった。


――


 旗艦・黒蓮が港へと進む。


 三隻の小型随伴艦を引き連れて。この時代の技術と人口レベルだと、これで十分船団といえる。流石にいきなり十隻も二十隻も仕上げるのは無理だった。少々駒不足を心配したが完全に杞憂。


 ミカゲを伴った先日の訓練よりも、ずっとずっと簡単に敵を叩き潰した。つい口に手をあてて驚く。


「うわ……私の艦隊、強すぎ……?」

「大勝ですな、提督」

「提督? ……提督か。アドミラル三津谷。ふふん、悪くない響きだぜ」


 傍に控えるムラクモ・ジル艦長のよいしょ持ち上げにも、今だけは浮かれてもいいだろう。


 それだけの大勝だ。港から少し離れた外洋には、バルトリンデ製の船団四隻が沈んでいる。さらに二隻を鹵獲。大戦果だ。乗組員の習熟を進めれば、もっと戦果を上げることも出来るだろう。


「……うーん、でもなんで……こんなこっちだけ強いの? アオタニの船乗りを連れているとは言え、あっちもバルトリンデだろ?」

「そりゃあ、アオタニ人は南方の海に繰り出しても一、二を争う船乗りですからな」

「バルトリンデ地方でも強弱があるのか」

「もちろん、腑抜けた奴らもいますよ」


 ムラクモ艦長いわく、今沈めたのはどちらかというと弱兵。本当に強い船団はまだまだ居るとのこと。そいつらは風を読み、波を読み、嵐を読み、まるで天を操っているかのように味方につける手練。


 これからも全部今回のように、と簡単にはいかないだろう。


「ま、いいんじゃないの」

「と言いますと」

「俺、こっちの世界に転移してから結構従軍して気づいたんだけどさぁ」

「ふむ」

「戦争って弱いところぶっ叩いたほうが簡単に勝つんだよね~。数減らせば強いやつを走らせるだけにできるし」

「おぉ、ごもっとも。戦の真理の一つですな」

「敵の強々(つよつよ)船団とやらは後回しだ。まずは弱そうなところから港を潰していく」

「はっ!」


 アクスラインたち既存の陸上部隊も、これでだいぶ楽になるだろう。港周辺の軍事拠点は物資の搬入に長けるが、陸海の挟み撃ちに遭いやすい。その弱点を今回は突かせてもらう。


「ところで艦長」

「はっ」

「君はこの港の奴らが嫌いだろう。なんで? ここはバルトリンデの西軍というよりも、どちらかというと北側。君たちの側だ」

「む! ……なぜ、そのようにお考えで」

「さっきから数えて、腰の刀を磨いたのはこれで三度目だよ。ぴかぴかだ」

「……むむ」

「自分で上陸部隊を引き連れるつもりか。やる気だね。頼りになる。ま、血気盛んなのはアオタニ人の長所だけど」


 この髭もじゃのムラクモ艦長は野蛮人ばかりのアオタニでも、かなり理性的だ(※当社比)。アオタニ人でも上の年齢で指揮をする立場の人間は、それなりにブチ切れるのを我慢したりしなかったりする(※九:一)。


 彼の性格ならまずは穏当な使者を送ると思ったのだが。


「ここの港の住民は気に入らない奴らでしてね」

「ほほう」

「西と北のどっちにもいい顔をするコカトリス野郎で」

「コカ……何?」

「コカトリス。蛇のふりして鳥。鳥のふりして蛇でしょ」

「ああ」


 コウモリ野郎ね。


「連中、口ばかり達者だ。戦ではどちらにつくか読めない厄介な奴らです」

「例えば、たった今港を降伏させたわけだけど……?」

「腹の中ではいつ離反するか、降伏時点で検討を始めているでしょうな」

「マジでか」

「提督もお気をつけください。ニェルガドは交渉上手。まだ戦は終わっていません」


 ムラクモの助言は正しいと、俺は直感した。黒蓮を接舷したところへ出迎えてきた向こうの町長。


 ニタリと笑う中年の男は、快勝の心地を揺るがせるのには十分だった。

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