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第七話:試作一号

 トリバレイ地方担当の第七軍団には、三人の将軍がいると言われている。


 一人は俺。三津谷葉介少将。


 二人目はジグムント・アクスライン少佐。本人は佐官だが、全く戦術・戦略眼がなくて指揮を丸投げしてくる上司を揶揄しながら、現場の兵士たちは『先鋒総大将』と崇める。実際、先日はアオタニから更に南下した台地の集落を制圧。そこでトリバレイへ組み込む経済圏を整備しながら、防備と攻勢準備を万全にしている。


 やっていることは間違いなく将軍級だ。なぜ佐官に甘んじているかというと、若いのに今まで出世し過ぎだから。この前も「さっさと三階級くらい昇進させてね☆」と女王陛下に上申したが、「馬鹿者」と返信を賜った。


 若すぎて周りとのバランスが取りづらく、前例がないらしい。分かっていても実力主義に徹しきれないのは、しがらみの多い大国のさがだ。とりあえず中佐には内定済み。


 前置きが長くなったが、三人目の将軍はジェイコブ・ストライテン中将。その本人と、トリバレイ直結の港で握手を交わす。


「三津谷、ただいま帰還しました」

「ご苦労さまです、少将」

「留守を担当いただきありがとうございます。なんでもこちらでもバルトリンデと一戦交えたとか」

「なに、一戦というほどのことでもありません。小規模な斥候です。先日のオーガ大攻勢で空いた警備の穴を使われました。すでに埋めたのでご安心を」


 黒に銀の装飾の軍服。それをチリ一つも違和感なく着こなす歴戦の将軍。ロマンスグレーの頭髪は老いよりも頼りがいの象徴だ。アクスラインほどの神速の部隊運用はないが、それを補って余りある経験・戦術のバリエーションがある。


 簡単に住み分けると、相手に対応させないほどに急激なアクスラインは攻め担当。あらゆる戦術に応じられるストライテンは守り担当。彼が居なければ、妻たちがいるトリバレイを一週間も空けるなんて考えもしなかっただろう。


 アクスラインのような強烈な戦果は見えにくいが、我が軍団になくてはならない存在だ。じゃ、じゃじゃ、もう一人の将軍閣下は何やってるのw? と言ってくる兵がいたらそいつはシベリア送りだ。この異世界にもシベリアを開拓させてやろう。先月の執行猶予は五人だった。


 さて、本題のトリバレイ港はと言うと、


「……げ、港がすっごい広がっている」

「はい。城ヶ辻殿の指示の下、作業の進捗は予定を上回っています」

「こんな大規模工事、兵たちは辛いのでは」

「いえいえ。ご指示が効率的だからか、却って怠けてしまいます。もっと仕事を振って頂きたい」

「承知しました。伝えておきます。……ふーむ。ぱっと見でどうかな、お二人」


 アオタニの造船コンビに感想を聞いてみる。いくら綾子でも専門外のことは根本的に間違い得る。やっぱり港や船関連は二人に逐一確認して進めたほうが良いだろう。


 今回の採点はと言うと、ルリもミカゲも頬を引くつかせながら批評を下した。


「ま、まあ、まあまあ、良いのではないですか? 一週間でこれですか。アオタニなら三日ですが」

「……も、う、少しコンパクトに纏められますけどねえ。これだけ広げて主な桟橋は五つですか」


 採点結果は良好らしかった。女性がこういう表情をしながらこういう批評を下せば、採点は優ということ。最近知った。女はみんな京都人だ。


「拡張性を重視したんだよ。あまり詰め過ぎると大型艦の試作が面倒だから」

「あ」


 ミカゲの批評に反論しながら颯爽と現れたのは城ヶ辻綾子。


 俺の一人目のお嫁さんだ。可愛い。今日も可愛い。まだ冬が厳しくて、真っ白な頬に赤が差しているの可愛い。さらりとカラス色の髪をかき上げるの可愛い。いつもは地味めの黒一色な服装だが、今日は動きやすい軽軍服なのも可愛い。似合ってる可愛い。結婚したい。結婚してた。


「お帰りなさい、葉介くん」

「たっ、ただいまぁ……」


 いじいじと綾子の前でためらっていると、見透かしたように両腕を広げてくれた。間髪入れずに抱きしめる。綾子には膝を曲げてもらって、こちらでは目一杯背伸びしてようやく口づけできる。うぐぐ、もう少し背が伸びないもんかな。


「ただいま。ただいま帰りました綾子さん」

「おーよしよし。お帰りなさい」

「一週間も空けてごめん。俺、俺ちょうさみし――」

「はいはい。相変わらず人前なのに我慢が効かないね」

「あ……」

「こほん」

「失礼しましたストライテン中将。えー……はい」

「工兵のご協力」

「工兵のご協力に感謝申し上げます」


 綾子に耳打ちされて社交辞令をどうにか済ませる。くっくっと渋く笑ったストライテンは、特に無作法を気に留めなかったらしい。


「お安い御用です。これでミッドランドは海からもバルトリンデに対抗できるのですから。女王陛下もきっとお喜びになります。いかんせん、ミッドランドは騎兵が強すぎる故」

「はい。海軍は手薄でした。が、これで解決してみせます。陸は中将とアクスラインにお任せします。我らは海を」

「良いお考えかと。……それと」


 ちらりと横目で綾子を見て、老将は続ける。


「一週間も不機嫌続きだった軍監の機嫌も直り、兵たちも一層励むでしょう」

「そうなの」

「そんなことありませんけど、中将」

「はは、思い違いでしたか。それでは私はこれで。……あー……三津谷殿」

「はっ」

「それとも、もう少し残って援護が必要でしょうか」


 ストライテンが心配そうに目配りをする。その先には嫉妬と不満でボルテージが溜まってきたルリとミカゲ。しまった、綾子だけを贔屓しすぎだ。女の子を複数手篭めにしたクズになって分かったことだが、災厄を招きたくなければ誰一人として蔑ろにしてはいけない。鉄則である。


「あー……大丈夫です。プライベートなことなので、何とかします」

「ご武運を」


 火葬竜と対峙したときよりも心配そうな目線を残し、ストライテンが退出。どさくさに紛れてストライテンのマントに隠れつつ俺も逃げようと思ったが、しかし回り込まれてしまった! 残ったのは夜叉が三人、供物が一人。


――


 ルリたちがトリバレイ港の造船所を見回す。


 造船所見学のはずなんだが、どうして物陰のホコリを指でさらう必要があるのでしょうか。よくわかりませんね。桟橋でも結構いびっていたが、綾子の理屈立った説明に二人共どうにか納得した。納得した、とはもう少し穏やかな眉でするはずだが、とにかく納得した。


 で、最後に見るのがこの造船エリア。船の修理も出来る上、この異世界では最先端の船が建造できる。技術レベル的には木造船。だがその中でも大規模な、元の世界で言うところのキャラックからガレオン船くらいだろうか。魔法のアシストもあるのでもう少し船速は優れ、外洋でも魔法砲をバカスカ撃ち合える。


 その試作一号が、この造船所で製作中ってわけ。製作中か……こいつはアオタニの二人の指摘も冴えそうだぜ。「専門外のことで恐縮ですが」とか枕詞に付けそうだ。


「ふん、桟橋の方は大体わかった」

「それで、こちらが試作艦ですか」

「ええ。アオタニの職人が到着まだだから時間かかっているけどね」

「ま、アオタニなら三日ですね」


 何が。三日で船一隻は流石に無理でしょ。とルリに突っ込もうと思ったが帯びる覇気で突っ込めず。ルリたちは引き続き見下しながら製造途中の船を眺めている。が、その表情に緊張が走る。


「これは、この外殻と塗装は……! 我がジュウベ家の……」

「やはりか。竜骨にもクジョウの魔術が見られる。葉介様にしかまだお見せしていないはず。貴様、この手法をどこで盗んだ」


 貴様て。


 盗んだて。


 こ、これこれ、もう少し仲良くなりなさい。仲良くな~れ☆えいっ☆


「それはもちろん、昔ミッドランド軍が苦労して鹵獲した船を参考にね」

「な……破損船でこれを再現したのか……ま、まあ、まずは見事」

「だが、これでは詰め込みすぎです。クジョウの手法は船速を」

「そしてジュウベの手法は堅牢さを高めるもの。両立するには術式が混雑しすぎる」

「そう。そうなんだよね」


 綾子が船体に手を当てて、少し歯がゆそうにしてみせた。


「私の実力だと再現だけで限界だった。やっぱりこういうのは専門的な知識と才能が要る」

「当然だ」

「そう。だから手伝って欲しいの。二人なら船速と堅牢の融合、出来るでしょう」

「……なぜあなたを手伝わないといけないのです?」

「それは……だって、旦那には良い船に乗って欲しいでしょ。戦場に出るにしても、出来る限り安全に居てほしいし」

「……!」

「い、意外と良いことをいいますね、転移人」

「城ヶ辻改め、三津谷綾子です。よろしくね二人共」


 船体に描かれた魔法陣の細かさに目を回していると、いつのまにか三人が楽しそうに船の設計を始めていた。きゃっきゃっとアイデアを出し合う様子はずっと眺めていられる。これが――尊さか。俺も間に混ざりてぇ~~。


 ってかなんでかいきなり仲いいな君たち。


 きっと俺の仲良くなれビーム☆が効いたのだろう。うん。

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