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第六話:凱旋

 ルリとミカゲと一緒に馬車に乗って、本拠地のトリバレイへ。


 ものすごく嫌われていた統治当初、アオタニ人の移住なんて絶対にあり得ないと思っていたのに。二人共トリバレイでの造船のために引っ越しを快諾してくれた。後から熟練の技術者・職人も連れてきてくれるとのこと。


 前途多難だった造船術の獲得も、あとは二人に任せておけそうだ。領地経営のコツは、人に任せられることは全部任せること。そのためにベストな人材をゲット。しかも美人なお嫁さんでいう事無し。


「葉介様、お住いへはあとどれくらいでしょうか」

「もう集落は見えてきそうだよ。丘の向こう側。あと二十分ってところかな」


 流石に引っ越しとなれば不安そうなルリ。


 落ち着かせるために腰に手を回して、へその辺りを撫でさする。先日夜を一緒にしてから、この撫で方がすっかりやみつきになってしまったルリは、よだれ垂らすのを必死に我慢して我慢しきれていない。


 ルリばっかりかまっているとミカゲの機嫌が悪くなる。こっちもへそ下の五から十センチ辺りを指でノックしておくと、勝手に機嫌が良くなるのでそうしてあげる。道中では平等に尽くすのに徹していると、トリバレイ城への到着はあっという間だった。


「ご、ご、ご到着です……」

「ありがとう、坊や。ほら、降りますよ二人共」

「……」

「……ぅ♥」


 ルリたちの腰を後ろからつまみ、引き連れて馬車を降りる。


 従者を務めてくれたのはアオタニ出身の少年だが、車内の婀娜(あだ)っぽい雰囲気にあてられて顔が赤い。扉を開けたときなんて、二人の蕩けきった前後不覚顔や香り、熱気で膝をついてしまった。


 君も将来、こういう子たちをお嫁さんにできるように頑張るんだぞ。少年よ大志を抱け。


――


 相変わらず商人たちの往来で騒がしい根拠地トリバレイ城に到着した。


 そこで俺たちを迎えてくれたのは、一つ年上の美島椿だった。学年も一個上。元の世界は弓道部。エルフに劣らぬ凄腕の弓使い。泣き黒子が実に栄える白い肌。関西の方の旧家出身。茶道に造詣が深い。艶やかな黒髪を後ろに束ねた、袴のよく似合う和風美女。


 そして今は、


「ただいま帰りました、椿先輩! 長く留守にしてすみません」

「お帰りなさい、あなた。……もう、先輩はよしてください」


 今は俺のお嫁さんの一人。先日求婚を快諾して、トリバレイの共同運営者として公私ともに支えてくれている。


 結婚しているのだから昼でも夜でも椿の胸元に顔をうずめるのは合法である。


「学校ではないのだし」

「そ、その……だって姉さん女房みたいで響きが最高にいいから」

「はいはい。そちらのお二人が?」

「ああ、ジュウベ・ルリさんとクジョウ・ミカゲさん。二人共アオタニの造船術に精通してて、この度婚約しました。二人共、こちらお話していた美島椿さん」

「よろしくお願いします、ジュウベ・ルリです。……う、肌白い……」

「クジョウ・ミカゲです。……くっ、転移人と言うのは随分綺麗なのですね」

「はい、よろしくお願いします。……? 二人だけですか。他の馬車は?」


 軽く挨拶を済ませてから、きょとん、と椿は俺達の後ろを見回す。


「え、馬車は一台だけですが」

「……? ではアオタニで新しく妻になった他の方は? 置いてきてしまったのですか。いけませんよ、甲斐性の無い」

「い、いえ、新加入はこの二人だけです」

「まぁ、それはそれは。この一週間ずいぶんとサボっていらしたのね、あなた。観光にでもうつつを抜かしたのでしょう」


 細く整った眉をひそめて、椿が俺の怠慢を糾弾してくる。冗談で言っているのかと思ったらマジだった。椿や他の娘、綾子、佳苗、佑香に言わせると、一週間出張すれば五十人とか百人のアオタニ娘を連れて帰ってくるはず、その人数をもってエルフ勢に対抗する、という皮算用をしていたらしい。が、そこまで絶倫じゃないし。一週間で新妻二人とか十分頭おかしいし。


「こ、これでも精一杯事業貢献してきたつもりですが……はい、バルトリンデ北部の市場調査です」

「あら、お疲れ様です」

「椿先輩の担当は商品作物だから……ええっと、香辛料と、綿花、それと茶葉ですね。これがアオタニの市場価格と生産地」

「ふむ」


 茶関連に詳しい椿は前述のように商品作物の流通を一任している。といっても、世界が違うので植物の生態系も異なり、ほとんど一からの知識収集になるのだが。


 それでも頭の出来が俺とは違うので、彼女に任せれば即座に茶葉メジャーの基礎ができあがり。あとはトリバレイの誇る資金力で周辺への影響を強めるだけ。乗っ取られ順調に進行中だ。


 ちなみに、椿の他にも商取引を任せている女の子は居る。それぞれの適正と得意分野を鑑み、軍事用品と金・貴金属収集は姫野佑香、魔法石含む宝石関連は小早川皐月、エルフの香木から取れる香水関連は崎田アンナ、美術品・古物商関連は藤堂みなみ。


 ぶっちゃけ換金性高く利ざやの大きい分野は全部主導権を取られてしまった。このままでは交易を頑張っているはずが全部美味しいところを持っていかれてしまう。こんな風に、俺のやれることは下働きだけだ。泣けてくる。


「―――で、アオタニ周辺の市場調査はこれで、言われたとおり流通経路もできる限り調べておきました」

「はい、ご苦労さま」

「あの……こ、これで儲かります?」

「ん、あとはこっちでやっておきますから」

「……ふぁい」


 不安だ。金の動きが全くのブラックボックス化している。少なくとも出ていくよりも入ってくる方が多いのは間違いないのだが。妻に尻に敷かれるってこんな感じなんだろうか。


「……っと報告は以上だよ、椿。ほら、サボらず一生懸命頑張ったでしょう? これでもすっごい駆けずり回ったんだよ」

「どうでしょう」


 トリバレイからアオタニへの出張は七日。


 一日目:馬車に揺られてからの、着任挨拶で盛大に嫌われる。石と槍を投げられる。


 二日目:ジュウベ家のご家族にブチ切れられながら縁談。同日夜にルリに小刀で殺されかける。


 三日目:ガルタに喧嘩を売られつつバルトリンデ西軍の迎撃指揮。酒に倒れる。アオタニ兵が偵察を深追いするのを事後承諾する。


 四日目:二日酔いで動けず。アオタニ兵が橋と田んぼ(味方の)をぶっ壊す。


 五日目:ようやく軍事面は一息かと思えば、市場調査ほとんどしてないことを思い出して気合で完了。アオタニ兵が和平を盛大に壊す。


 六日目:造船所の見学とバルトリンデ西軍迎撃指揮(来すぎだふざけんな)。ルリ、ミカゲと婚約。


 七日目:二人を愛しながら馬車で帰還。


 うーん、遊んでいるといえば遊んで……いや、これかなりタイトスケジュールよ。特に喧嘩売られ数が四回/週くらいあるのが頭痛い。頑張ってる俺、自信持って。


「という次第。超働きました」

「まだまだ本気じゃないでしょうね。お二人ともご存知でしたか? この人、一日で五人の転移人女の子を落としたんですよ」

「まあ……!」

「く、どうりで……指使いがうますぎると思った……」


 いや、いやいや人聞きが悪いにすぎるし。一日で落としたりしていない。これでも毎日一生懸命お尽くししたし、今も彼女らのために市場や戦場を駆けずり回っている。そんな即落としポイ捨てみたいな言い方しないでください。


 ん……? 五人? 人数が合わないぞ。ルリたちを入れないと綾子、佳苗、佑香そして椿で転移人の子は四人。まあ、エルフにも手を出してしまった子はいるんですが。すみません。


「椿先輩、五人ではなく四人ですよ。ああ、全員紹介するから着いてきてね」

「ふ、そういう意味ですと七人ですか」

「……?」


 ますます数を外してどうすんのよ。


「ま、とにかく、今首脳陣は城にいません」

「そうなの?」

「西の港の方に。綾子ちゃんが防波堤や桟橋の整備を進めているの。もうほとんど済んでいるけど」

「う、わ。人手とか大丈夫? 兵たちに無理させてないかな」

「今週の総括で、ストライテン中将からは『もっと兵を働かせてほしい』とお言葉を頂いていますよ」

「労働効率は万全か。まったく何でもできるんだから……」


 相変わらず仕事が早いなあの子は。そして、港と聞いて造船専科のアオタニ出身二人が黙っているはずがなかった。先程までは蕩々だったルリとミカゲが、ぎらりと目を光らせる。職人の顔に戻る。


「ふ、転移人の女が作る港か。まあひと目見てやってもいいかな? のう、クジョウの」

「どうでしょうか。一からやり直しにならないとよいのですが……。少しは手加減してあげましょうか」

「ふ」

「ふふふ」

「……椿さん、仲良くできると思う?」

「喧嘩になると思う」


 ですよね。気の強い女ってどうして絶対勝たないと嫌なのかなあ。

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