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第五十五話:エピローグ

 目が覚めると陽だまりだった。


 あれ、死んでない。


 暖かくて神秘的な雰囲気にここは天国かと思ったが、善行の心当たりはサッパリなく。ぼんやりした視界が焦点を結ぶと、大変見覚えがある場所だった。


 エルフの集落、美しい人々の指導者シグネの館だ。ベッドの上だった。あれ、なんでいきなりここ? それにさっきから周りがちょっとうるさいですね……。


「……――気がついた、さっさと来なさいシグネ! これ、これ次はどうすればいいの!」

「はいはい、あなたが喚かなくても気が付きますとも。我々の手術は完璧でしたから」

「早く! 診なさい!」

「貧血です。よく食べてよく寝るように」


 言い争っているのは綾子とシグネ。


 綾子……よかった。生き残ったか。大して怪我もなさそうだ。だから泣くのは止めて欲しい。綾子に泣かれると凄く嫌だ。


「み、三津谷くん!」

「はい、綾子さん」

「よかった……生き返って、もう、いつもいつも……なんであんなに危ないことするの……!」

「うもも」


 強引に上体を起こされ、綾子の胸元に強く抱きしめられると、しゃべるのも身動きも叶わない。


 うむ。なんて豊穣な。やっぱり綾子はスタイル非常にいいな。深く深く記憶しよう。我が生涯に一片の悔い無し。深呼吸。いい香り。調子に乗ってこっそり綾子の背中に両手を回そうとしたところで、気づいた。


 両手とも動かせるじゃん。左手くっついている。ここは遠い遠い銀河で、俺はスカイウォーカーの一族だったのか? ペドロリーノの部屋から、気を失ったらいきなりここだったし。記憶が断裂している。もしかしてあの激闘は夢だったの?


「お、おれちょっと良く覚えていなくて……あれ、どうしてここにいるんだっけ」

「三津谷くんは、綾子さんの転送魔法でひとっ飛びにこちらへ」

「おわ、佳苗さん」

「よくご無事で、おかえりなさい。戦場で突然お二人が消えたので心配しました……」


 やあ、なんと幸福な男か。綾子やシグネだけでなく、佳苗まで俺の見舞いに来てくれていたとは。全世界の男が羨む処遇。文句なしの優勝だ。


「全く……見様見真似の転送魔法だなんて、間違えていたら四肢が千切れとんでもおかしくありませんでしたからね。まあ、綾子の才覚ならこれくらいやるでしょうが……」

「シグネ様、手当はシグネ様がして頂いたのですか? ありがとうございます」

「……っ、よ、葉介様のためでしたら喜んで……、ふふ♥」

「……んん? もしかしてこの左手をポチッとくっつけてくれたのもシグネ様?」

「ええ、もちろん。エルフの秘術で、えいっと」


 うわわ、エルフの治癒術すごすぎない? 義手どころか本物だった。


「極めて鋭利な刃物でしたし、断面も新しかったのでどうにか繋げられました。ですが違和感は残りますよ。どんなに癒えても、高度な琴術は出来ないでしょう。もうしないでくださいね」

「は、はぁ……」


 言われなくてもしない。痛いし。あれは綾子が危なかったから仕方なくやっただけ。我ながら無茶をしたが、


「綾子さんが無事で本当に良かった。なによりだよ、うんうん」

「っ……! ……三津谷、くん……どうしていつも……そういう風にするの?」

「ん?」


 ん? ちょっと会話が噛み合っていない。おかしいなと呑気に首をかしげた俺は、「あっ」と何かを察する佳苗・シグネと、綾子を中心に立ち込める純黒の魔力に気づく。


 しまった、何か応対を間違ったか。でもそんな、不躾なことは何もしていませんが。


「私が……いつもいつもいつもいつも我慢しているのに……」

「ご、ごめんね綾子さん。次から綾子さんの言うとおりにします生まれてきてごめんなさい」


 がばり、と両肩を握られ、仰向けにベッドに縫い付けられる。視界が暗くなったのは魔力が濃くなったからか、綾子が眼前に覆いかぶさったからか。


 顔面が深い陰に塗られ、大きな両目だけがこちらを覗いている様はまさに妖怪。それも鬼だろうが大蜘蛛だろうがぬらりひょんだろうが従えそうな。心底震え上がる。


「我慢したのに……ちゃんと償ってからにしようって、順番は間違えないようにしようって、三津谷が嫌な思いしないようにしようって……でももう――無理」

「ひ、ご、めんなさ……」


 身を捩りまくっても肩がピクリともしない。魔力なんかなくても綾子と俺の体格差、腹筋だけで彼女に抗うのは不可能だ。


 いかん、前述の不等式からすると、今の綾子に革命スキルはギリギリ効かない。しまった。ペドロリーノなんかよりもずっとずっと危険な相手がここに。


「三津谷が悪い」

「ゆ、ゆるひ……」

「……うーん、これは三津谷くんが悪いですかねえ……」

「悪いと言えば悪いですね。悪意はありませんが、なんたる無策で無防備で無自覚な」


 敬愛する美女三人に有罪判決を下される。なぜだ、俺は悪くない。


 迫りくる綾子の恐怖に抗いきれず目を閉じたところで、唇に柔らかい感触があった。衝撃とチカチカする多幸感で目を開いても、幸せは逃げなかった。


 一息ついて弛緩した綾子の表情は、朱色が実に趣深いものだった。やばかわいい。


「くっ……ふ、ふう……ふ……よ、し……」

「……!」

「いや、もう一回しておこう。大好きだよ、三津谷くん」

「あ、あ、ありがとう、俺も――んー!」

「りょ、両思いかなと、ちょっとだけ期待していたけど……やっぱり間違ってなかった……よかった、よかった……くふ、ふふふふふ……」

「――!」

「ちょ、ちょっと待ちなさい綾子。独占せずに交代を……」

「……みんなで分けるって約束……守ってください。ああ、それとそれ以上吸うと窒息しますよ」


 初めてのキスはCO2の味を教えてくれた。嬉しいことこの上ないが息が続かない。


 酸欠と貧血で意識が落ちるまで、泣いてもはたいても綾子は離してくれなかった。殺す気か。


――


 とてつもない僥倖にまだ現実感が戻ってこない。


 トリバレイ城居室の寝具の上。普段は一人で寝る簡素なベッドで、俺は今二人の女性の頭をふとももに乗せている。


 綾子も佳苗も一糸まとわぬ姿で俺の股ぐらを枕にしながら、つんつんと管理するように指で弄ってくる。想い人と初恋の人、これの両取りという前人未到の偉業を成し遂げた俺は、全部すっからかんになるまで吸い上げられて果てた。


「っ♥、ふ、ふー……♥……は、はい、これにて既成事実の作成完了~。一生逃げられないから覚悟してね、葉介」

「あ、ああ、ちゃんと責任を胸に邁進してまいります」

「ん、よろしい」

「……うわぁ……」

「なに。文句あるの、佳苗」

「いえ……相変わらず綾子は弱みを見せるのが苦手ですね……している間はあんなに素直だったのに」

「はぁー? 佳苗こそ、あんな大声出せるとは思わなかったよ」

「普段からああすればいいのに、きゃんきゃんって鳴いて可愛かったですよ」


 あの後、綾子に続いて佳苗にもシグネにも愛の告白をされ、焦土になるかと思われたエルフ森は、人間・エルフ間に結ばれた協定にて本日も平穏。


 代わりに俺のプライベートはといえば、風刺画で見た列強に囲まれるピザみたいに切り刻まれて分配された。今日も今日とて彼女らのご機嫌伺いである。


 当然、望まれれば一晩中お相手するのもトリバレイ領主に課せられた義務。根拠となる法は無し。まさにこの世は無法地帯だ。


「ふん、葉介はこのくらい尻に敷いてちょうどいいの。まったく、なよなよして優柔不断なんだから」

「あらあら……ではものは試しに。葉介さん……さっきのを数えると綾子さん相手に三回、私相手に二回でした……」

「う!」

「……やっぱり……綾子が最優先で、私みたいな二番手は取るに足らない存在なのでしょうか……初恋は儚いものです……よよよ」

「ごめん! ちょっと休憩したら是非もう一回――」

「ほら落ちた」

「いや。佳苗、初恋実ってるし」


 と誇るように佳苗が大きな大きな胸を張る。ローブの上からでも大きかったが、生で見るとこんなに大きいのか。世界は広いぜ。


「ふ、私にかかればこんなものです。ちょっと弱そうに見せた方が葉介さんはちょろいのですよ」


 仰るとおりで反論できず。


「へー、佳苗ってば恋愛上手ね」

「……それほどでも……」

「半年間ずっと昼休みに隣で本読んでたのに、一歩も進展しなかった恋愛クソ雑魚図書委員とは思えないわ。別人なんじゃないの」

「くっ……一ヶ月二人っきりで同棲して、一歩も進展なかった私の友人といい勝負でしょうか……」

「ぐっ……」


 この煽り合いはお互いを想定以上に抉ったのか、二人はちょっとだけうなだれて、そして不自然に話題が転換する。悪い方に。俺にとって悪い方に。


「とにかく、これで夫婦の契約は完了」

「……これで終わらせませんが」

「当然。ま、葉介のスキルのことを考えると、ガンガンこの液絞ったほうがいいね。定期的に」

「吸血以上に弱体化しますから、スキル効く範囲が増えます。我々も強化されて一石二鳥」

「よし、絞り上げよう」


 嬉しいけれど手加減しろ。ちょっとだけ手加減したりしなかったりしろ。


「それとこれでエルフに対抗する前提が出来た」

「ええ……綾子の案の移行期間が活きました。あのまま条約を結んでいれば……」


 ぱしん


 と枕元に条約文の写しが置かれる。タイトルは『関連勢力における三津谷葉介の分配基本条約』。地獄か。


「人数差を背景に、プライベートタイムの大半を持っていかれるところでしたね。まさかエルフが本当に嫁候補百人揃えてくるとは……」

「あの」

「厄介なことにあのアリシア・ミッドランド女王も条約参加を図っているらしいの。ちっ、まだあいつに権力で対抗しきれない」

「ええっと」

「まずは味方陣営の人数を増やしましょう」

「そうだね。幸い手っ取り早く五人は確保できそうだし」


 俺のを間に挟みながら真面目な顔で議論するのは止めてほしい。一応存在をアピールしよう。


「俺の意思は?」

「ないよ」

「ありません」


 二人が頬ずりして俺のを挟み込んでくる。しゃーない。万事女の子が正しい。観念したところで居室の扉が叩かれる。


「おや、噂をすれば……」

「椿先輩でしょうか」

「いや、佑香とみたね。最近のあの子の蕩けきった顔見た? あれもう我慢しきれないよ」

「葉介くーん……ちょっと今良いかなぁ――チ、先越されてるし」


 入ってきたのは姫野佑香だった。この後求愛されて、永遠の愛と忠誠とタダ働きを誓わせられるのだが、まだ今は尻に敷かれる前で可愛らしいものだ。


「え”、ちょっと待って、佑香って二人っきりのときそんな感じなの? 葉介くぅん……♥。初めて聞いた声色」

「うるさいし」

「綾子も契ってるときはそんな感じですよ」

「う、うるさいよ」


 きゃいきゃいと言い合う三人、まさに集まればかしましい。


 以降、俺は転移人にもエルフにも女王陛下にも頭が上がらない奴隷として大活躍することになるのだが、それはまた別の話。

完結です! ここまで読んで頂きありがとうございました。


当初想定していたよりもだいぶ長くなってしまって、計画性の無さを恥じるとともに、最後までお付き合いいただいた方には大変感謝しております。


今までは主人公最強モノをよく書いていたので、ちょっとひねりを入れて主人公の能力を限定してみました。こっちの方が好みだな、とか、もっと強い方が良いなとか、感想いただけると嬉しいです。(合わせて、ブックマークや評価もいただけるととても今後の励みになります)


この世界観ではまだまだ強敵が残っています。が、主人公とヒロインが両想いを確認し合ってハッピーエンドを迎えるここをクライマックスとさせて貰いました。今後アイデアが浮かんだら、もしかしたら外伝的な続きを書くかも知れませんが、決して本エンディングを壊すことはしないのでご安心ください。


続きか別作品を書くとしたら、他の連載中を完結させてからになりそうです。

途中三作品が連載中とかいうお恥ずかしい事態になっていたので、今後はしっかり完結させていきます。


またどこかでお会い出来れば嬉しいです。ありがとうございました。

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[良い点] 完結おめでとうございます! 面白かったですよ やっぱりハーレムは男の夢です!
[良い点] 強くなろうと努力した結果、反ってピンチを招いてしまった葉介。 もはや絶体絶命時にとった危険な賭けと、賭けに勝ち見事四天王を撃破、綾子さんを救いました。 そして奇跡の生還…まさに主人公ですね…
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