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第四十四話:新任法務官

 バルトリンデとの戦いが一段落して、俺たちは内政に集中する余裕を得た。


 勝ったほうが負けた方よりも余裕があるのは当然である。が、今回はそれに加えていい材料がある。


 ストライテン将軍が王都から何人も武官・文官を連れてきて、アクスライン指揮の元、最前線の町の要衝化を加速した。人手が増えれば内政は並行作業が効く。事業が人を呼び、人が事業を呼び、人口の増加も好調。何事も滑るように前に進んでいる。


「うん、これもアリシア女王陛下の御威光だな。さすが、ミッドランド王都の人材は質も量も良い」

「それに、これであの女の考えもはっきりしたね」


 女王陛下とあの女。前後の文脈無く通りすがりが聞けば、まさかこの二フレーズが同一人物を指しているとは思うまいな。


 綺麗な大人のお姉さんに弱く、あっさり忠誠心MAXの俺。


 それに対して綾子の方は、引き抜きワンクリックで信長を裏切りそうな義理ステの低さだ。茶器やるから野心隠せ。


「女王陛下のお考え?」

「そう。あいつはこのトリバレイが最前線になることを望んでいない」

「言い換えるならアオタニの町は……」

「取ったり取られたりしたくない。人夫の数からしてももっと南に前線をつくるつもりだね。確かにここは供給基地として立地が良い」


 そいつはいいニュースだ。


 考え方によってはこのトリバレイも馴染みの薄い土地。ここをまるごと緩衝地帯にして、バルトリンデの攻めをいなす手もあったはず。アリシアはここの価値を評価してくれているということだ。内政にも力が入る。


「ただ……」

「ただ?」

「守りを固めるには十分な人手。だけど攻めるには士官の数があまり増えていない」

「むむむ……」

「ストライテン、アクスライン、ギラン……他のも質は良いけれど、守備隊と攻撃隊を編成できるほどじゃないでしょ?」

「はい」

「こっちの戦線は硬直させておけってことか……多分もっと東の方で大きい軍事行動を起こす気だね」

「ははぁ……」


 あれ、忠誠心では俺のほうが上のはずだが? 綾子のほうがアリシアの考えをよく理解しているのではないだろうか。


 うーん、忠誠と功績は必ずしも正比例しないものなんだな。無能な働き者としては、なるべく綾子の言うとおりに動いて下手なことは考えないようにしよう。


 そう再決意して綾子の書類をストライテンに届けるパシリをしようとしたところで――


「たぁのもーーーーーーーーう!」

「おわふ」

「ん? 何、騒がしいね」


 トリバレイ城の外から物凄い声量の呼び出しを受け、思わず俺はずっこけた。甲高い、若い女の声だ。


「ねぇ綾子さん。たのもう、って今言った?」

「言った」

「道場破りかな。住所を間違えているらし――」

「三津谷葉介、出てきなさーーーーい!」

「間違ってないね」

「いや、何事……うわ、若いおなごが怒髪天を突いていやがる。綾子さん、一緒に来てよ……」


 窓枠下側からこっそり覗いた階下には、三人の人物が居た。


 一人はジェイコブ・ストライテン中将閣下。その他は見覚えがない男女。


 女の方が逆る魔力を三階上の俺のところまで届けている。この距離まで魔力を届かせ得るということはかなりの手練だ。全くのエネルギーの浪費であるが。


「えー……私、書類の続きがあるんだけど」

「でも俺無理。ひと目見てわかった。苦手なタイプだ」

「もう、気の強い女性に弱い性分、なんとかしなさいよ」


 あのさあ、誰のせいだと思っているんだ。


 俺の後天的な性格形成の主因である綾子が、やれやれと腰を上げる。彼女を連れて、というか彼女の長身に隠れるようにして恐る恐る正門に降りると、そこに窓から見た面子が待ち構えていた。


「よ、ようこそいらっしゃいました、ストライテン中将」

「無礼にも約束なくお尋ねして申し訳ない、三津谷殿。その、本当はもう少し後で参上するつもりだったのだが……」


 老練なストライテンが、珍しく歯切れの悪い。「こいつが悪い」と言葉にせず、代わりにちらりと率いている二人を見た。


 男の方はあまり型破りな印象を受けなかった。中肉中背、中年と言うにはまだ若い。三十代中盤くらいか。


 なかなか話の分かりそうな男だという第一印象は、後で考えると決して的外れではなかったけれど、しかしこの場合は”相対的”な基準が隣にいたからに他ならない。


「あなたが三津谷葉介ね」

「あ、ああ、よろしくねお嬢さん。三津谷です。お名前を聞いても?」

「ん、申し遅れました。ユースティティア・アン・クローデル。ミッドランド国女王陛下直属の法務官です」


 ユースティティアは名乗りを上げると、ばさりと厚手のマントを翻して見得を切った。横に広げた右手には大仰な金色の権杖、胸元に構えた左手には金属製の天秤。


 天秤。


 佳苗が使うような科学的かつ実務的なものとは対照的な、持ち主の役割を象徴する厳格そうな意匠だ。


 ストライテンのロマンスグレーとは全く印象が違う、若々しく透明感のある白銀髪。かなり若い。魔力でわずかに青みがかっている。十六、十五……いやもっと……中学生くらいかも。


 神経質そうな眉。大きく、そして鋭い瞳。せっかく整った造りなのに、ユースティティアの顔からは可愛らしさが感じられない。観察している間もずっと怒っているようにも見える。一言で言えば、


(委員長みたい)


 だと思った。いや、俺や綾子がいたクラスの学級委員長は、別に規則や風紀にうるさい奴ではなかった。ここでそう思ったのは、実にステレオタイプな委員長的人物だという意味。


 遅刻を自主的に取り締まりそうだし、教諭が来なければ呼びに行きそうだし、スカートの丈上限を勝手に決めそう。


 不真面目な男子としては敵である。でも怒った顔はかなり美形。笑った顔も見てみたいところだ


「法務、官?」

「ええ。いわゆる法律を司る実務担当者です。さて、早速ですが――」

「まぁまぁ、こっちにも自己紹介の番を譲ってくれ、クローデル嬢」

「む」


 自己紹介、というよりも助け舟だな。ユースティティアの言葉を遮って握手を差し出してきたのは、もうひとりの方の男。


 ちなみにユースティティアは握手なし。前途多難そうだ。


「バーナード・フェルトン。彼女と同じく、もともとは中央勤務。本日付で第七軍団駐留地の運営を任された。担当は財務官だ」

「財務官。中央勤務ということは、ずっと女王陛下のお側に居たのですか?」

「いやいや、俺は転勤が多くてたまたま一つ前が中央だっただけ。そっちのクローデル嬢は違うがね」


 彼女はエリート中のエリートって奴さ、とユースティティアの方を指しながらフェルトンは言う。


 握手の気軽さや、聞こえているに違いない距離でユースティティアのことをひそひそという可笑しさ、ぱちりと片目を瞑る洒脱さ。フェルトンとは仲良くできそうだと思った。フェルトンとは。


 上背や胸板の厚さには特徴はなく、アクスラインたちのような軍人とは違った印象。後方勤務というやつだろう。しかし指の皮の厚さや、体に染み付いているらしいキビキビとした姿勢から、軍隊支援の任務も経験していそうだと俺は予測した。


「よろしく、フェルトン財務官。こちらは当領地トリバレイの共同経営者の城ヶ辻綾子さん」

「よろしく」

「挨拶も済みましたね。じゃ中将、今日のところはこれで――」

「待ちなさい! 三津谷葉介!」


 俺もそこまでアホではないので危機を感じていた。手っ取り早く話を切りあげて逃げ出そうとしたのだが、背中に待ったをかけられた。


 ユースティティアがかろん、と天秤を差し向けて宣言する。


「法務官ユースティティア・アン・クローデルが宣告します。トリバレイ辺境伯、三津谷葉介」

「はい……」

「あなたには複数の法律違反の容疑があります! 神妙に裁きを受けなさい!」


 ユースティティアの要件は自己紹介ではなく、新任の挨拶でもなかった。それは弾劾であった。

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