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第三十二話:労働組合結成

 トリバレイ町の町づくりは多忙を極めた。


 まずは道の整備。東にあるミッドランド国から東西へ海岸線まで。北のエルフ領から南北へ、アクスラインが制圧した敵国の町へ。


 次に治水。次郎三郎が暴れたせいで、いや、ここではおかげでと表現するべきか。肥沃な大地の中心に大河が流れる。これをミシャクジ川と名付けて山頂から河口までを整備。


 次に門構え。前述の十字路東門は女王陛下のおわす首都に繋がる最重要門。北門はシグネ達エルフ領への狼藉を防ぐ最重要門。南門はアクスラインが仮に収める新領土へ物資を供給する最重要門。西門は今後の貿易に関わる港候補地に繋がる最重要門。頭がおかしくなりそうだ。全部手を抜かずに作る。


 次に築城。これは流石に一朝一夕という訳にはいかないから土台作り。ストライテンのアドバイスに従い、一万人程度は余裕をもって収容できるよう取り計らう。


 次に砦作り。ミシャクジ川にかけた橋の前後に砦を備え、アクスラインの応援要請に即応できるように整える。


 次に外交館。バルトリンデとの外交は兆しが無いが、戦争である以上落としどころの場は作っておく。次に貯蔵庫。軍事面はストライテンの補佐がもらえるとはいえ、兵站の確保には必須。次に鉱山施設。見つけたルビー色の魔法石を採取し、エルフらとの貿易品とする。次に……


「うわ、うわあああああああ助けて綾子さん!」

「どうしたの」

「俺、異世界転移したのに過労死する!」

「異世界転移したほうが過労死するでしょう。ここには労働基準法も三六協定もないんだよ」

「嫌だあああ! この世界は剣と魔法のファンタジーな世界観じゃないのん……?」


 もう土木作業は嫌だ。一週間に八日働かせやがって。(注:比喩。この世界でも一週間は七日である)


 ストライキしてやる。


 綾子や佳苗ばっかり事務作業をしてズルい。いや、彼女らの綺麗な手を泥に塗れさせるつもりは無いし、そもそも彼女たちも沢山の書類仕事を抱えているのだが。それでも我慢の限界だ。


「今から俺はハンガーストに突入します。綾子さんのオムレツも今日は食べません」

「はぁ……はいはい、分かった。ちょっとやり過ぎた。いややらせ過ぎたね。その割にねぎらいが足りなかったよ」

「うぅ……」

「よしよし。三津谷は頑張りました」

「はい」

「はいオッケー。じゃ、また頑張って」

「そんな!」


 よしよしと頭を撫でられただけでは頑張りようがない。


 正確にはそれだけでもさらに八日働くだけの元気はみなぎった。が、幾ら何でもこれを続けるのは心を折るものがある。労働環境の改善を求める次第である。


 俺は手ごろな紙を丸めて口に据えてメガホンとし、その場に座り込んで抗議活動を開始した。


「我々は、多くを望まない。妥当な報酬、望むのはそれだけだ。公平で開かれた賃金制度を――」

「冗談だって。だからスト中止」

「むぅ……」

「とは言ってもね……人手が足りないんだよ。特に軍人以外の」

「だよねー」


 そう、綾子の指摘する通りだ。


 今、我々には人手が足りない。ここでいう我々とは俺の配下と言う意味ではない。俺や綾子、佳苗で結成している、このトリバレイ町開拓パーティーについて、人手が足りないのだ。


 ストライテン中将、アクスライン少佐、以下優秀な人材は揃ってきたが、いずれも軍人である。しかも中央からの派遣と言う部隊の性格から、彼らに頼めるのは土木作業に限る。町の企画は自分たちでやらなければならない。


「アクスライン達には頼めないしなぁ……」

「流石にそこまで主導権は渡せないね」


 かといって、他に動ける人材……というかそもそも人口が足りない。今この町に集まってきているのは、軍人と、一部その家族、そしてその物資を輸送する商人くらい。新興の町ではこんなもんだ。


 いや、他にも居たか。


 ちらほらと集まって来たクラスメイトや他のクラスの子達。でもなあ……。あいつらはなんというか……その、綾子が募った子たちである。類は友を呼ぶというか……そう、基本的に可愛いのだ。読者モデルやっていたり。所謂クイーンビー的な子も複数いる。女王蜂ばかり集まって喧嘩になんねえのかな。


 女子ばっかりな上にみんなルックスが良い。クラスカースト高そうで、俺が話しかけてもニフラムで消し飛ばされそうな力関係なのだ。


 普通に怖いので話しかけられない。


「なんで綾子は、あんな怖い子たちを集めたの?」

「ん? んー……なんでだろうね……」

「……」

「まぁ、三津谷くんも一人くらい恋人を見繕ったらどう? そうすれば、私――じゃなくて、この町を離れることも無いでしょう」

「はぁ……そんなもんかな」


 欲を言えば目の前にいる女性こそが恋人になって欲しいものだが。それは高望みが過ぎるか。人生何事も、ままならないものだ。


「とりあえず、あの子達にも協力頼んでみたら? ずっとテントにいるか遊んでいるかだし、暇していると思うよ」

「えー……やだよ、怖いもん」

「いや、別にとって食われたりはしないよ」


 呆れたように綾子は笑う。でも怖い。綾子はわからんだろうが、ああいう女子って可愛いのはいいけど話が通じないし。すぐ仲間内でくすくす笑って馬鹿にされている感じがするし。


 それに……それに、綾子は俺が他の女の子と話しても嫌じゃないのだろうか。


 佳苗をパーティーの迎えたのもそうだが、他の子と仲良くしても好きにしろという様子である。この一ヶ月弱一緒に過ごしてきたが、そしてかなり彼女のために奔走したつもりだったが、案の定恋愛対象には程遠いというわけか。要するに眼中にない。つら。


「それじゃ、ちょっと相談してくるかな」

「うん、いってらっしゃい」


 我ながらうまいこと表情を作りにくい。綾子の言うことは万事完璧にこなしたいが、正直気は進まず、加えて前述の落胆もあって複雑な顔になっていそうだ。


 綾子の方もなんだか言葉で言い表しにくい気配はしていたが、しかし無表情には変わりなかった。


――


 テントを出て、別の仮設テントの入り口をくぐる。


 恐る恐る。笑い声が聞こえてくる奥に向かって恐る恐る。


「すみませ~ん……」


 返事がない。間違いなく何人かいるはずなのに。


 うぐぐ、全く最近の若いもんは礼儀を知らん。テントの布を一つ一つ押しのけ、ようやく彼女らがたむろしている最奥にたどり着いた。確かにしっかりした住居は建設中とはいえ、大きくしすぎだろテント。


「あの、すみません」

「ん。あれ、誰? 知ってる?」

「知らなーい……? ああ、綾子のところの。名前なんて言ったっけ」

「あの、どうも、三津谷です」


 そこには五人ほどの、出身世界を共有する女子が集まっていた。あっちは俺に見覚えがないみたいだが、こっちは割とある。きっと多くは同じ二年生だろう。


 ひとり残らず自信に満ちた、そしてそれにふさわしい瑞々しいルックスをしている。つまり無敵だ。特に俺のような根暗な存在には無敵だ。関係性は神聖な光とアンデッドに限りなく近い。


 一言話しただけで格付けは済んでしまっている。男子が彼女たちに対抗するには、高水準な顔の造りと熟達したコミュニケーション能力、そして将来の有望さがいる。俺には一つもない。


「くすくす。あの、どうも、三津谷です」

「ぷふふ」

「ウケる」


 ウケねえよ。


 なんと、自己紹介をしたのに返されない……! 異世界かよここは!


 代わりに、俺の口調を真似て顔を見合わせ、一笑い初めてしまった。衝撃的な来客対応だが彼女らにとっては平常運転。基本的に、仲間内での話題が最優先なのだ。いきなり尋ねてきたアンデッドには興味がない。


 はぁ、気が重い。この子達を相手に、せめてなにか手伝ってくれと依頼をしなければ。


 これはもしや最高位難易度のクエストなのではないだろうか、と俺は肩を落とした。

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