第二十七話:アンサラー伝説
薄明るい洞窟を進む。
上総介のおかげで視界が確保できて良かった。真っ暗だと流石ににっちもさっちもいかなかった。
しかし洞窟というものは悩ましいな。自分が今まで抱いていたイメージと違い、一本道ではない。さっきから何個も何個も分かれ道があるし、段差の数も尋常じゃない。
「こりゃ、適当に歩いたら遭難するな」
「現状が遭難しているとも言えますが、何か指針が欲しい所ですね」
「うーん、うーん……あ! そうだ!」
「……?」
「じゃーん、佳苗さんに貰った試験管~」
「……?」
アクスラインが不思議そうに首をかしげている。ポケットから秘密道具を取り出す時にだみ声を作ったのだが、彼には伝わらなかった。世界の差やね。
「これを使えば、周りの魔力がどんな属性かチェックできるのさ」
「ほほう。便利ですね」
「水の反応が大きい方はどうせ水没して出られない。反応が薄い方を目指してみよう」
そう言って俺は周りの壁を少し削り取り、試験管へ。
おや?
「真っ赤、な反応ですか」
「あれっ、おかしいな」
「と、申されますと」
「これ、ミシャクジの魔力に反応すると水色になるはずなんだよね。他にも緑とか灰色とかもあるけれど。赤は無かったなあ」
「ということは、別の魔力ですか」
「あ」
そうだ。
そういうことか。
ミシャクジがこの山を押さえたからと言って、それはまだまだ短期間のことだ。西側の表層だけは奴のテリトリーになったかもしれないが、他はそれより以前……つまり、
「上総介、これは君の魔力の残滓だろう」
「――――――」
「うん。少し掘れば魔法石が見つかるかもしれない。それも、竜が長年蓄えたマグマの力。ミシャクジにやられた傷を癒し、ここの岩盤をぶち破るくらいには回復できるのでは」
「おぉ……! それでは……早速掘ってみましょう」
つまりわざわざ歩き回る必要すらないという事だ。ありがとう佳苗さん。我が愛しの人よ。
柔らかそうなところを見つけ、アクスラインと一緒にせっせと掘ってみると、やはりルビーのように輝く魔法石が転がり込んできた。でっかい。拳よりも大きい。
「こ、これは……三津谷殿、逸品ですぞ。王都で売れば言い値で取引されます」
「マジ?」
「ええ。ウォルケノ山脈を含め、その北西側は三津谷殿の領地。これは……一財産を築けるのでは」
「その辺は差し当たって脱出してからにしよう。はい上総」
ぐぁふ!
と巨竜が火の色をした宝石を一飲みにする。アクスラインは「もったいない」と言葉にはしなかったが微妙な顔をしていた。
上総介は対照的にご機嫌麗しく、バツン、バツン! と火花を放ちながら鱗の隙間を脈動させ、より一層辺りを照らし出す。
「うむ、この分ならもうちょっと食べれば回復できそうだね」
「ぐぁふ」
「よし、二、三個見つけて脱出をするか。だが、脱出してもあれを倒せるかなあ……」
「ミシャクジですか。厄介な相手です」
「うん、多分あいつは河川そのものが本体ではないと思う。水は操っているに過ぎないのではないか」
そう考える理由は革命スキルの発動具合だ。
奴の吐き出した水流を、俺は軽く抑えることができた。守備面では間違いなく発動している。しかし、攻撃面では不発だ。あんなに河川が近かったのに、手で触れるどころか体ごと呑み込まれたのに、いつもの視界の灯火は無かった。
ミシャクジの本体はどこか別の所に居て、あの巨大な白蛇を操っているのでは、と俺は考えた。
「小官もそう思います」
「お、やっぱり?」
「はい。先ほどの戦いで、いえ戦いと呼べるかは怪しい所ですが。先ほど奴と対面したとき、首のあたりに小さな蛇が泳いでいるのを見ました。常にあの大きな河を泳ぎ、とらえどころがありませんでしたが」
「え”。あんな遠いの、なんで見えるのん」
「ふ、申し上げておりませんでしたか。小官の特技は”視力強化”。魔力を目に集め白兵戦の瞬発力に活かしますが、遠見の力も持っております」
「へー!」
便利!
ちょっと遠くまで走ってアクスラインの視力を確かめると、なるほどどんなに細かいサインや模様も言い当ててくる。山のふもとから山の頂上の小さな蛇を見つけるくらいだしな。凄いなこいつ。
回復した上総介、アクスラインの視力。
あれ、何とかなるか? 上総介にアクスラインと一緒に乗って突入、蛇の本体を俺が一撃叩けば倒せるかも。
「うーん……ただ、あの濁流に突入して殴れるかなあ……。上総介だと大雑把な動きしかできないし、出来ればもう一手、ん?」
「どうされましたか、三津谷殿」
「んー?」
アクスラインの視力検査のために適当に進んだ洞窟の先、何か光っている。それもマグマの輝きとは少し違う、冷たい白色の光だ。
とっさにそっちの方の土を分析してみると……銀色。
「あれ。何だろうコレ」
「ふむ、初めて見る色ですか」
「うん。上総介が赤色。ミシャクジが水色、緑色、灰色。灰はちょっと似ているけれど輝き方が違うような……?」
他の魔物が居る? それも一部とはいえ周囲に影響を与えるほどの強大な奴が。
「上総介、もしかしてお隣さんとか居た?」
「――……?」
相棒の竜は首をかしげている。覚えがないのか。いや、もしや昔過ぎて覚えていないのか?
今回の例をもとに考えてみよう。上総介が居なくなって、ミシャクジが侵入して来たら環境が変わった。土地そのものが変わった。しかし、一部にはまだ火の属性が残っているようだ。
それを拡張して考えるなら、上総介がここに鎮座したとき”何か”を追い払ったなり、”何か”が何処かへ引っ越した後だったり。そういう世代交代が行われたことも考えられる。だが、巨竜クラスの存在の世代交代。昔過ぎて忘れているんだろう、こいつ。
「奥に行ってみよう。何か見つかるかもしれない。あ、上総はその辺漁って魔法石食べていなさい。あの蛇をぶっ飛ばせるくらいにたっぷりな」
輝く試験管をランタン代わりに掲げ、アクスラインを連れて洞窟を進む。
そこにははたして、何かがあった。
周囲より少しだけ開けた空間。壁面には原始的だが確かに感じる意匠。自然のものではない。人のものでもないかもしれない。何らかの意思によって掘られた装飾は、奥に行けば行くほど密度を増す。
そして突き当たった先には――
「短剣?」
「のようですね。かなり古い。それに……沢山あります」
一本目に気付いたのは俺だったが、アクスラインに促されて辺りを見渡すと同じような短剣が複数地面に突き刺さっていた。一つ一つかき集めて、代表の一本をよく観察してみる。
白銀に、緑白色の光が刻印された短剣。刃渡りは二十センチ弱。家庭用の包丁くらいだ。柄の後ろに輪っかがくっついていて、俺は時代劇とかで忍者が持っていそうなクナイを思い出した。逆手に持ってみるとかっこいい。ぱしっとポーズが決まった。
手に持ってみると結構重たいが、アクスラインの持つ長剣に比べるといかにも頼りない。それが、一本、二本……ええと、十二本かな。
アクスラインが、壁面の最奥に刻まれた文字を読み上げる。
「少々削れていますが……古い……そう、神話文字のようです」
「うわ、読めない。転移の時にもらった知識は現地用語だけだったからなあ。大尉読める?」
「はい。一般教養レベルですが、歴史書物の解読の為に」
おぉー……凄い。この男、力自慢のくせに頭もいいんだよな。奥さんも鼻が高かろう。
「読みます。えー……思うだけで鞘から抜け、思うだけで鞘に収まる。念じれば自ら敵を刺し、その一撃はあらゆる鎧でも防ぐこと能わず――……『アンサラー』。短剣の銘でしょうか?」
「アンサラー?」
俺の声に反応するように、手の中の、そして近くに置いた短剣たちがカタカタとひとりでに揺れ始める。
そして、
パシュッ
と空を切り裂くように疾走し始めた。俺たちの周囲を飛び回り、まるで索敵を一通り済ませるかのように縦横無尽に飛び終えると、
かしゅん
と、これまたひとりでに俺の腰元に収まった。




