表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/191

第二十話:地政学

 竜の背に乗って見た眼下を思い出す。


 ミッドランド全土に広がる草原地帯。その一かけら、綾子が拝領するであろう半島。


 北にはシグネたちが住む広大な森。そして、海側が大きく削れたウォルケノ山脈。流れ出た溶岩は、場所によっては今も蠢いている。


「陛下、現在ミッドランドは防衛に穴が開けられております」

「……穴? ……国境線は万全のはずだが……」

「新たな国境線が出来たのです。いえ、これから増え続けるでしょう。火葬竜のブレスは山を削ぎ、溶岩を流して新たな海岸線を作りつつあります」

「……なるほど」

「これによって、北にエルフの森、西にミッドランド領土、南にウォルケノ山脈、東に海と、囲まれていた半島は南に穴が空きました。他国が入ってくる恐れがあります」


 明晰なアリシアは俺の忠告の要点を即座に察した。


「溶岩でできた新たな土地か。しかもそれは、まだ完全に固まり切っていない。そこの守りを担当すると」

「はい」

「意外と欲が深いな、三津谷。確かに、いまだ増え続ける土地は投機として魅力的だ。島も数多く生まれる。だが……肥沃な土地とは言えないだろう」

「ですが、情勢によっては最前線となるでしょう。城ヶ辻の担当する領地の、緩衝地帯を作っておきたいのです」

「なるほど……そういうことなら、任せよう」

「ありがとうございます!」


 よし。これで綾子の領地やアリシアの国土を守ることが出来る。


 そのことを、隣の綾子も小声で褒めてくれた。「単なる領地ではなく、前線近くを担当すれば重要度は一気に増す」と納得している。


 上総介の背中から見て思ったのだ。ゆっくりと固まりつつある溶岩は、油断すれば他国からの侵略拠点に、自分で抑えれば要衝となりうると。軍事的にも、交易的にも。そこを押さえることになれば、地政学的な重要度は莫大になる。


 こっそり拳を握って喜ぶ俺に、アリシアが待ったをかけた。


「ただし――」

「えっ」

「ただし、我が国の前線を任せるからには、実力を伴ってもらわなければ困るな。火葬竜を打倒したその力、見せてもらおう」

「ええ……」


 そう言ってアリシアは玉座から立ち上がり、従者から受け取った剣を抜いた。


 その瞬間凄まじい魔力が竜巻を引き起こす。


 白銀色の竜巻はみるみる膨れ上がり、そして広間いっぱいを満たしたかと思えば急速に収縮。アリシアが眼前に構える剣を鍛え上げる。綾子はドン引き、ストライテンはやれやれと首を振り、そして俺は思った。


 こいつが竜退治すればよかったじゃん。


 この国の玉座にいるのは人類が到達できる極地を、天井を、六段くらい拳で突き破ったかのような化け物であった。俺が硬直しているのを見て、アリシアは好戦的な笑みを浮かべて上段から降りてくる。なんで俺の周りには非平和的な女性が多いのん。


「どれ、そう恐れずとも良い。少し力を見るだけだ」

「えー……そのー……」

「ふっ、まあ悪く思うな。爵位を賜る者に格付けを済ませておくのも、王家の義務でな」

「すみません陛下!」


『対象:白鳥王 アリシア・ミッドランド』

『強者上位:0.0001% 高貴上位:0.001% 権力上位:0.0001% 対象判定:OK』

『革命スキルを発動可能 ……てかげん掌底』


 かしょん


 と掌底一発。アリシアの陶器のような顎を打ち下ろす。


「んがひょっ!?」

「……発動してしまった……」

「ふっ、くう――……んぎっ!」


 極めて高い戦闘力に、高貴さでもこの世界でトップを争う存在。革命スキルが発動しないわけがない。


 凛としたアリシアの魔力は一息に解けてしまい、足をガクつかせて威厳も何もない。


 ぷるぷると震えながらも、王の意地で膝をつくのをギリギリこらえたアリシアであった。が、倒れ込むその体勢を支えるために俺の腰にしがみつき、息も切らして気絶の淵で踏ん張っている。脳震盪の影響か、白目をむくほどであるが、とにかく見事耐えた。


 しかし、テイムの魔力が「ぱしん、ぱしん」と全身をじんわり侵食すると、海老反り仰向けになって倒れてしまった。


「んぁっ……! あ”っ! あっ! う……」

「あの、女王陛下大丈夫ですか……?」

「ま、ま、ま」

「ま?」

「まいっ、参った! 負けっ、私の負けだ……っ」

「は、では国境線をお任せ頂けるということで……」

「う、うん……これほどの男とは……そうだ、うむ。三津谷よ」

「はい?」

「爵位も土地もなんでもくれてやるから、週に一度登城して私に稽古を付けてくれ……そしてゆくゆくは……」

「は、陛下がそうおっしゃるなら」


 仰向けにぶっ倒れても、アリシア表情は誇り高い。


 それにちょっと上気した白い頬が、冷徹な玉座の主という印象と対照的で実に魅力ある。ぶっちゃけ可愛い。王とか臣下とかいう立場を抜きにして、年上の白人お姉さんが仲良くしてくれるのは素直に嬉しい。


 俺は自分の忠誠心を一体どこに置くべきか非常に迷ったが、綾子の冷たい目線が突き刺さったので決定は保留しておいた。


――


 アリシアとの謁見を終え、退場した後。


 隣を歩いていた綾子が愉快そうに話しかけてきた。愉快そうに、とはつまり、理由もなく笑みを浮かべているので不穏であるという意味だ。


「女王陛下の国土を守る、ねー。かっこいいじゃん、三津谷くん」

「あ、ああ」

「いいなー、かっこいいなー」

「ご、ごめんなさい」

「え? どうして三津谷くんが謝るの? わかんない。全然わかんない」

「……」


 形の整った歯をむき出しにする様は、白狼ナビエに似て猟奇的とすら思えた。怖い。そんなすこぶる機嫌の悪い綾子であったが、謁見のために仕立てた新しい服が似合っていることを熱心に褒めたら機嫌を直してくれた。


 今までは元の世界の制服を、適宜現地で直したりアレンジしたりしていたものだった。が、少々痛みが目立つし、流石に女王にお目にかかるには良くないということで新しくしたのだ。黒を基調にしたスカート丈の長い礼服で、ご機嫌取りを抜きにしても、長身の彼女によく似合っていると思う。


「それにしてもよく気づいたね。溶岩で新しい土地が出来ているだなんて」

「ああ、上総介の背中から見て気づいたんだ。妙に海岸線が伸びているって」

「確かに。言われてみれば噴火のブレスの方向は西だったし、そっちの方の山が崩れているから当然か……それにしても」

「ん?」

「三津谷って、なんていうか……」


 綾子が一瞬考えて、なんと俺のことを褒めてくれた。超嬉しいのである。


「うまく言えないけれど、こう……うーん……広い視野で物事を考えるのが得意だよね」

「そ、そうかな」

「エルフとの交易のこともそうだし、溶岩で新しい土地が出来るって予測したのもそう。なんだが、俯瞰的で戦略的に見ているように思えるよ。凄い、三津谷」

「うぇふぇっ、ぇふぇっ、おうふ」


 いかん。カッコつけて笑おうとしたら変な笑い声になってしまった。落ち着け。


「俺はホラ、あー……あんまり自慢できる特技が無いから。そう、空っぽな男だから、そういう他のことを考えやすいのかもね」


 空っぽ、そう空っぽな男だ。才能ゼロ。だからこそ達観していられるのかもしれない。そんな俺に一つでも得意なことが見つかるとは嬉しい限り。しかも綾子に褒められる! 生まれた甲斐もあるというものだろう。


 綾子の方はと言えば、その形容詞に何か付け加えるか取り除くか、イラついたように考えていたみたいだが結局話題を変えるに留まった。


「新しくできた国境線で存在感を示す、ね……ただ、本当の狙いは他にある。でしょ?」

「うん、それもお見通しか。せっかく伸びた海岸線だ。きっと陸路だけじゃなく、海路でも交易が出来る。ますます忙しくなりそうだね」


 こんな男が、陸と海でせっせと荷物を運び、綾子やシグネ、アリシアの為に走り回れるのなら、これほど光栄なことは無い。


 さて、しばらくは町づくりだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[他投稿作品]
スライムにも勝てない俺は、革命スキルで強者”だけ”には絶対勝利できる
主人公最弱転移もの。強さ上位1%未満のみ対象で必勝出来るスキル持ち。シンプルな無双から少し離れて変化が欲しい方向け。
異世界渡りの征服者 ~最強の俺が征服する世界は一つでなく、二つでも飽き足らず~
主人公最強転移もの。何度でもどこへでも転移できるアイテムで、多数の異世界を全て征服する。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ