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第十七話:竜狩り

 山頂で、二頭の竜がひらり相打つ。


 火葬竜の角を頭部ごと叩きつけたガウス。優勢だと思えた味方の竜は、次の瞬間火線で右手を切り飛ばされていた。


 地面が隆起し、兵士たちが天を呪い、その脇を疾走した極太の火線は麓、海岸、そして空高くまで一刀両断する。雲をすべて消し飛ばした火葬竜のブレス。


 それを受けて怯みもしなかったガウスが、竜種特有の回復力で右手をつなぎ治し、獲物を改めて組み伏せる。押され気味の戦況を見て、綾子が唸った。


「駄目だね。エネルギー量が違う。ガウスと私では勝てない。押さえつけるのが精一杯」

「どうする」

「三津谷くん、革命スキルは」

「むむむ」


 意味はないが、両手の人差し指をこめかみに当てて獲物を睨む。さながらサイコキネシストのように。発動している。火葬竜とかいう世界でも頂点に立つ災厄が、対象にならないわけがない。


『対 :■葬竜』

『強者 位:0.00■01% 対  定: K』

『革命■■ を 動■能 …… ■』


 だがいつもと少し様子が違うようだ。視界の端に灯った光は、ブツブツと途切れるように明滅する。何か条件を満たしていないのか? という疑問はすぐに解けた。


「対処法が載っていない。テイムとか、弓術とか、今まではどうすればいいかまで分かったんだけれど……。多分あいつが遠すぎる、というか速すぎるんだ」


 ガウスの抑え込みをあっという間に抜け出した竜は、巨体に似つかわしくない素早さで横飛びを繰り返す。その度に地面が響く。


 一瞬革命スキルが灯ったと思ったらすぐに消えてしまった。やはり人間の足では追いつけない。


「必殺の一撃でも、一撃も与えられないと駄目ってことか。抑え込むにもガウスよりも一枚上手で長時間は無理だね」

「なら……これだ!」


 シグネたちエルフと友好を結んで、というかテイムして学んだ弓術。エルフ流百発百中の矢で確実に仕留める。ろくに狙わずとも当たることが分かった矢は、しかし火葬竜を射抜くことはなかった。


 竜の鱗に届くはるか手前、何百度という空気の熱に耐えきれずに発火し、鉄製のやじりすら溶け落ちる。


「う、駄目か……」

「これも一撃になっていないから発動せず、か。うーん、ちょっと困ったね」

「ごめんなしゃい……」

「三津谷、反省」

「ふぁい……」


 戦闘場面の割には和気あいあいと、綾子が手の平を寄越したところに『お手』を差し出し反省を示す。まあちょっと舐めていたのかもしれない。火葬竜の実力。


 そして知性を。


 あくまでこいつは獣や爬虫類の延長線上であり、たかが筋肉と炎のトカゲが出来るのは無秩序に暴れまわること。まさか、ガウスを支えている魔力の“供給元”をまず断つ、という戦術眼を備えているとは思わなかった。


 火葬竜と一瞬目があった。「こいつではない」と値踏みされた気がした。次に値踏みするのは隣の少女。


「……! 綾子さん!」

「ん? ちょ、ちょっと……三津谷、人が見ているから……え?」


 とっさに飛びっき、綾子を押し倒した俺の背中に、火葬竜のブレスが直撃する。先ほど見せた極太のものではなく、タメ動作不要の速射性が高い火の束。


 しまったな。つい抱きついてしまったが、突き飛ばすべきだった。これでは簡単に腹を貫通された後、綾子も炙られてしまうではないか。


 スローモーションで倒れる女の子の後頭部と地面の間に手を差し込みながら、俺は来るべき激痛に備えるように叫んだ。


「うわあああああああああ熱うううああぁ……ああ、あ? 熱くない」

「み、三津谷」

「あれ、えーっと、よいしょっ」


 続けて放たれた第二射に、手のひらを向けて受けても熱くない。豆腐の角をぶつけられるよりも柔らかな感触があったが、まったくダメージを受けずにブレスの名残が足元に落ちる。


「……あ。もしかして、俺のスキルって防御にも発動するのかなあ?」

「あ、ありがと――ちょっと待ちなさい」

「はい?」


 とっさに俺と一緒に岩陰になだれ込んだ綾子が、形の良い眉を釣り上げている。火葬竜より怖い。怒っている。


「あの、綾子様……?」

「……つまり何? 今のブレスを防げるのかは分からなかったってこと?」

「え、あー……うーん……はい。あ、いやでもほら、シャムールのときも全然牙が刺さらなかったし前例はあったわけで」

「………………じゃあ、あの時も確証はなかった」

「えー、うむむ、こう考えたらどうだろう。何事にも始めの一歩はある。偉大な一歩である」

「……二度と」

「はい」

「二度と勝手に無茶しないで頂戴。逐次私の許可を取ること」

「はい」


 綾子の表情は真剣そのものだが、俺としてはそれどころではない。狭い岩と岩の間に二人で挟まれながら倒れ込む。必然的に綾子の顔が目の前にある。


 近い。肩や腰が正面から触れ合う。超近い。何かぶつぶつ言っていたみたいだけれど、形の良い唇の動きを目で追うのが精一杯。内容が全然頭に入ってこない。


「――つまり、つまり、これでも一応大切に思っているんだから――」

「……」

「――三津谷。三津谷くん?」

「……うお、はい」

「分かった? 無茶しないこと」

「はい」


 めろめろに魅了され尽くして、良い返事をする機械となった俺である。重要で幸福なことを告げられたような気がするが、全部聞き逃した。


 が、脳みそのCPUは密着した綾子の感触を処理する以外にも、かろうじて一パーセントほど動いていた。火葬竜相手には防御が要らない。この法則はもう一頭の竜にも適用できそうだ。


「綾子さん。ガウス借りるよ」

「ん……?」

「思いっきり近づくだけで勝てる、けどそもそも追いつけない。追いつくにはガウスに乗せてもらうしかないよ」

「なるほどね。ふむ……ガウス! 三津谷くんを連れて肉薄して。近接戦をしなさい!」

「お、おいガウス。連れてって言っても優しくな。ゆっくり、ゆっくり――がふぁ」


 のそりのそりと近づいてくる黒竜にビビり、一歩引き下がった次の瞬間。


 肺から空気が全部抜けた。


 ガウスの巨大な前腕が俺を鷲掴む。言い換えるなら握りつぶす。確かにダメージは無かった。けれど急加速と無秩序な回転で、視界の輪郭という輪郭が塗りつぶされていく。


 かろうじて、山頂から飛び降りる火葬竜の明赤色が見えた。賢い奴だ。こちらが何か仕掛けるのを本能的に察知したらしい。良い逃げっぷりである。


「逃げる気だ! 追いつけガウス!」

「キシュアアアアア――――――!」

「あぼぼぼぼぼぼぼぼ」


 追いかけて空中に飛び上がったガウスが、わざとらしくバレロールを繰り返した。お前が命令するなと言いたいのだろう。まったく。鷲も狼も竜までも、主人に一途な奴らだ。気持ちは大いに分かるがね。


 よし、忠誠心の固さは分かったので言い方を変えよう。


「綾子さんが見ている。いがみ合っている場合じゃないぜ。役に立つところを見せよう」

「――――――――!」


 今度はお気に召したらしい。


 同僚の竜は岩々を砕きながら火葬竜へ全速力一直線。速い。パワーや魔力量なら向こうかもしれないが、速度ではこっちが上だ。これなら追いつける。ピッコロさん感あることを考えながら、俺はガウスへ助言を飛ばす。


「上から仕掛けたらまずい! ブレスが彼女に当たる。高さを合わせるんだ!」


 承知したように「ガチン」と顎を鳴らしたガウスは、山脈を駆け下りて獲物との標高合わせ。その着地を狙った火線もくるりと躱し(つまり俺はGで前後不覚に陥って吐き気に襲われ)、そのまま山肌を新雪のようにかき分けながら突進。


 火葬竜の喉元に、俺ごと拳を叩き込んだ。


 おい、パンチが強すぎるぞガウス。すっかりめり込んでしまったではないか。マグマなのか血液なのかわからん液体を浴びながら、たしかに視界の光を見た。


『対象:火葬竜』

『強者上位:0.00001% 対象判定:OK』

『革命スキルを発動可能 ……必中テイム』


 逆立つ鱗に拳を当てると、テイムの魔力が火葬竜を包み込んだ。

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