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第十三話:株式公開

 ミシュラ港でギディオン・ギラン中佐を迎え入れた。


 トリバレイへの往路は金銀を満載し国庫へ。復路にはトリバレイで余力のある部隊や、交易品を載せて。


「やっほー、ギラン。今回もお疲れ様」

「驚きました……。あれほど金貨を運んだというのに、次の便の分がもう用意してあるとは……」

「すごいっしよ」

「ふっ、また悪いことをされたのですか?」

「まァね。ところで頼んでいた荷物は?」

「山奥に籠もって、滝と斬り合っているところをようやく見つけました……。捕らえるのにまた一苦労。猫みたいな奴ですな」

「ハッ、久しいのう。三津谷ぃ……って誰が荷物じゃい! 猫じゃい!」

「ユナダも元気そうだね」


 ユナダ・サンスイ少尉が同行していた。


 やや体つきが良くなったようだ。もともとバカみたいな腕力をしているくせに、肩や二の腕の筋量が増している。滝から落ちてくる木や岩を斬ってたって? 相変わらずアホだなあユナダは。


「修行の調子はどう?」

「絶好調よ。お前が止めに来なければさらに、な」

「おめーさ。一応俺の護衛役で給料貰っているんだぞ」

「はっ、西方では経済力で穏当に攻め入るといっていたじゃろう。不安になったか! 今度は何やらかしたんじゃい」

「これからやるのさ」


 軽く鼻を鳴らす俺。にたりと猟奇的に笑うユナダ。アホの癖に争いの気配を肌で感じたか。


「お前の剣が不要で済むことを祈るが……」

「そうはならんな。いつだって。俺たちの行く先は争いばかりよ」


 まぁね。ミッドランド前線工作担当。直接大軍同士が槍を交える前に、少数精鋭で侵略先の状況を好ましくいじくり回す役だ。


 諜報、武器・軍勢調達、偽計、離間、罠の敷設。浸透先でやることは多い。


 対バルトリンデ戦役も対セントロ包囲戦も、これやってるとまーじで突然物騒な状況に陥るので辛い。給料増やして欲しい。


 ざくざく金貨が俺の船に積まれていくのに、今月のお小遣いも金貨二枚だ。What's up?


「ただし、こちらで既にある程度の協力関係は結んでいる。剣を抜くのは俺が指示してからだ」

「おう。任せておけ」

「頼りにしているよ。……あ、そうだ。ユナダ、それにギランも」

「お?」

「はい、なんでしょう」

「株買わない? 株」

「ええぞ。肉も野菜も食わねば力はつかん。ってなんじゃ、大陸渡ってやることは野菜売りか」

「うわぁ……」


 ベッタベタなギャグが異世界では普通に出てくるから油断ならない。野菜じゃないよ。


「株式ね。特別価格で保有率一パーセントを銅貨一枚」

「うーむ……? 小官は経済面に詳しくありません。イメージでしかありませんが……たった銅貨一枚とは。かなり安いようです」

「身内向けだからね。そのうち配当金で金貨何枚も受け取れるだろう。それも長期間。功労者へのボーナスだよ」

「おお、感謝いたします。閣下」

「フーム、こんな紙切れが。不思議なもんじゃ」

「ただし。それを売り払うと俺の立場がまずくなる。指示するまで売却はしないように」

「承知いたしました」

「細かいことは分からんが、持っておけばええのか。よかろう」


 あんまり価値を理解していないみたいなユナダだったが、売らずにとっておけという指示には素直だった。


 懐にしまい込み、「現地の道場を見て回る」といってぶらつき始める。お前……護衛役……。


 ユナダの着任早々、何故か護衛対象が護衛役の後を付いていくという現象が発生。ユナダが次々に道場破りを続けるのをみると、それはそれで面白かった。


――


 ミシュラの港はもともと西方諸国制圧の橋頭堡に過ぎなかった。


 が、少しずつ別の側面も持つようになっていた。今や情報、交易品、人員が流入出する重要拠点だ。


 ミシュラ地方。つまりミシュラ国を中心点として扇状に広がる各国について、懇意にしている王妃から日々情報が入ってくる。ヴァルマー製の金や貴金属はトリバレイの国庫へ。トリバレイ製の香水や諸交易品はこの地で大変人気がある。


 人事面でも第二艦隊のメンバーを入港させたし、ユナダ・サンスイ、ガストン・ルクセンフルトらが到着した。そして今日も、ミシュラの港で迎え入れるのが一人――


「や、四郎」

「おおっす葉兄。現地の王子にぶん殴られたって? ノースリッジでも噂になっていたぜ。相変わらず初対面で嫌われてんなあ」

「これに関しては向こうが悪い。深い事情があるのだ」

「ウソつけ。どうせその王子の妹にちょっかい出したとか、しょーもない理由だろ」

「まさか。そんなことは一切ないぞ」


 従兄弟の黒羽四郎もこちらの大陸へ。


 もともと陽気な奴だったが、先の戦で死線を越えて男子として充実した。表情に頼りがいがある。初陣で震えていたのが嘘のようだ。


 堂々と年上のミッドランド軍人を背中に引き連れている。恋人の四条香子が身だしなみを厳しく整えていることもあり、洒脱な感じがちよっとムカつく。皆さん、こいつは初陣で鎧の表裏を間違えてブルっていましたよ。


 彼には別の任務があるので短期間の滞在になるだろうが、航路の途中なので情報交換ついでだ。とりあえず元気な顔を見られてよかった。


「そっちの調子はどう」

「まぁまァだな。ノースリッジ諸島とミッドランド・バルトリンデ・エルフ連合国だと国力が違いすぎる。しばらくは強気の外交ができそうだ。今のうちに楔を打ち込む」

「ま、全任するからよきに図らってくれ」

「おう」

「あ、港を抑えるのは重視。出来れば新設したい」

「任せとけ。そうしている。現地でも無視されている無人島を見つけてな。佳苗さんのゴーレム式神で楽勝さ」


 四郎に任せているのはノースリッジ諸島という、ミッドランド大陸の北にある島々との外交だ。


 面積・人口は小規模とは言え、ミッドランド大陸にとって北の出入り口に広がる重要な国。俺は西で手一杯なので、北には四郎を派遣した。


 前の戦で一定の武功を挙げた四郎。トリバレイの首脳陣の中でも存在感を増し、場面によっては『もうひとりの三津谷葉介』のように権限を与えることも多い。血の繋がりを頼りにしていることもあるが、単純に中長期政策を練らせると意外と立派にこなす。率いている手勢も充実しつつあり。


 その手製の一人がまーた厄介もんで――


「黒羽殿。もう少しまともに指示を寄越せと、主張されてもいいのではないか?」

「いーのいーの。どうせ葉兄に細かい指示は期待してないし」

「むう、……三津谷葉介!」

「ひゃい!」


 大声を張り上げたのは元バルトリンデ七本槍の一本、ベンジャミン・アーク。


 臨戦態勢の派手な大鎧を、日常でも軽々着こなす頭おかしい男だ。先のセントロ包囲戦で当主を亡くし、貴族家として再起を図っていたところを、ハーバー城の最終決戦で四郎に敗れた。


 七本槍とかいうおっかない人種だが、なぜか四郎の戦いぶりに惚れ込んで配下になった。


「な、なんだね君ぃ。いきなり大きい声出して。ひゃい、とか言ってしまったではないか」

「貴様、黒羽殿の足を引っ張ったらただでは置かんぞ三津谷!」

「なんで俺の部下ってこんなのばっかりなの?」

「葉兄マジうける」

「うけねえよ」

「貴様の部下になった覚えはない!」


 四郎は俺の直属なので、アークは俺の陪臣ということになる。


 が、四郎の言うことは何でも素直に聞くくせに、俺の言うことは聞かねえ。説教までしてくる。


 ユナダ・サンスイにベンジャミン・アーク。強力な武人であるのは間違いないが、いう事聞いてよ君たち。


 任務や命令に忠実なジグムント・アクスラインあたりをクローン化する魔法はないものだろうか。ため息の数は日々増えている。


「あ、そうだ四郎。それにアーク殿も」

「お?」

「何だ」

「株買わないか? それぞれ一パーセントずつ。銅貨一枚でいいよ」

「ム? これは……なんだったかな。確か異邦人が持ち込んだ概念の……?」

「株式か。……まーた妙なこと考えているのか? 葉兄。もしかして、わざわざノースリッジからミシュラを経由させたのも……」

「交易品を積載してほしいというのは建前だ。少し協力して欲しい、四郎」

「ふっ……まぁ、面白そうだし一枚乗りますか」


 ぴらり


 と口元に株式を持ってくる四郎。「売らずに取っておいてくれ」という頼みに、四郎もアークを了承した。

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