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第一話:西方諸国の結婚式

四章開始します。

これからもお付き合いいただけると嬉しいです。

 純白のヴェールを持ち上げると、恥ずかしそうにこちらを見つめる少女と目があった。


 小麦色の肌に、鮮やかな碧色の瞳。ほぼ白と言ってもいいプラチナ色のサラサラとした長髪は、前髪が綺麗に切り揃えられている。


 俺が根拠地とするトリバレイから見て、海を越えた西の大陸。西方諸国に見られる人種の特徴だ。俺――三津谷葉介は、まぶたを閉じるように目線で促す。


 そしてそのまま、目を瞑ったマヤ・ミシュラという名の可愛らしい少女に口づけした。


 じわりと温かい感覚が唇から伝わってくる。祝福の拍手や花びら、色とりどりの魔法の光、花火があたりに満ちる。


 結婚式。


 男女が愛を誓い、確認し、そして参列者に証人にとなって貰うイベント。


 この儀式は異世界でも存在する。実は異世界に転移してから何人とも結婚式を経験しているクズな俺(※お相手は同じ転移人、エルフ、女王、公爵、女侍、戦乙女、未亡人etc……あれ。思ったよりクズだな)と違い、マヤは初めての体験だ。


 唇を離してもぼんやりと視線を泳がせている。促して主賓の席へと二人で戻った。


「……よ、葉介様……♥」

「はい。なんでしょう、マヤ」

「これで、我がミシュラ家とトリバレイは縁続きに……?」

「そうです。海の向こうの両者です。が、以後は家族としてどうか末永く」

「は、はい……!」


 幸せなイベントである結婚式だが、その土地の有力者の家ならば話は違う。


 政略結婚。国と国や地域と地域の協力関係の象徴として、当人たちの恋愛感情を無視して執り行われる婚約は多い。俺が今回しているのもまた政略結婚だ。


 ミッドランドと西方諸国のつながりを強める。花婿・花嫁当人たちの意思を無視した結婚話はトントン拍子で進んだ。俺としては不満じゃない。マヤはおどおどした年下の少女だが、長めの前髪をかき分けてみると大変可愛い。


 繰り返すが俺としては不満はない。というかありがとうございます! トリバレイ陣営にはいないタイプの女性だ。儚げで守ってあげたい。


 異世界格言、お嫁さんは多ければ多いほど良いんだなあ。(クズ)


 だがマヤの方はどうだろうか。政略結婚らしく、マヤと会ったのはこの式の前に一度だけ。どんな女性かはこれから知ることになる。横に座る新妻を見ると、恥ずかしそうに前髪をいじり始めてしまった。


「マヤ、とても綺麗だ」

「はい……! 葉介様もとてもかっこいいです」

「んん?! ……見た目を褒められたのは母親以来かも」

「そ、そんなことは――」

「無理に媚びなくていい。これからお互いのことをゆっくり知りましょう」

「は、はい」


 上目遣いが常の、タレ目がちの目元。小めな鼻や口は庇護欲をそそる可愛らしさを印象づける。身長も小さい。そんなマヤはこの政略結婚をどう受け止めているのだろう。


 肝心なのはこれからだ。俺は、これからどれくらい彼女を幸せにできるだろうか。頑張ろう。


 この地の文化における牧師のような役割の老人が、よく通る声で結婚の成立を宣言した。


「西方諸国随一の港町ミシュラ家と、ミッドランド国筆頭公爵家のトリバレイの結婚はここに成立した」

「おめでとう! おめでとうマヤ様!」

「婿殿もおめでとう!」


 表向きは幸せそうに振る舞うマヤだったが、その本心は分からなかった。嫌だとしても決して表情には出さないだろう。ミシュラ家、いや西方諸国そのものの文化が花嫁の異議を許さない。


 なぜなら西方諸国とは――男尊女卑がはびこる大陸だからだ。自分の家の若い娘は、婚姻政策の残り回数と数える有力者は多い。


「葉介様、私……幸せです」

「俺もです。俺を選んでくれてありがとう、マヤ」

「……は、はひ……っ。わ、私なんかで……よければ……」


 語尾をすぼませてマヤはうつむいてしまった。どうにも自己評価が低めの娘だ。正直、俺の平均未満な見た目だと出会って三秒で三行半を突きつけられてもおかしくなかったが、今のところは大丈夫そうだ。


 これから夫として頑張ってアピールしよう。


――


 西方諸国とはどんな地域かと聞かれると少々答えに困る。


 公的にはいい貿易相手だ。


 トリバレイ産の香水を始めとして、ものすごい数の物品を輸出入している国々。彼らのおかげでトリバレイは一気に潤ったといっても過言ではない。バルトリンデの艦隊を下し、西の海の航路を独占したことで更に利益は跳ね上がった。今後もご贔屓にして欲しい。


 が、私的な話になると、友達関係とはとても言えない。


 西方諸国の男尊女卑な思想は、文化が違うことが多い異世界価値観の中でもどうにも受け入れ難い。


 結婚式を終えた俺達は、夕焼けに見送られながらマヤの私室へと戻っていた。そこでお互いの自己紹介を済ませると、ようやくいくらか会話が弾んだ。


 人前に出ているときのマヤは常に大変恥ずかしそうに顔を赤くしていたが、今はちょっとだけ恥ずかしそうくらいで済んでいる。少しは俺に慣れてくれたらしい。


「ではミッドランドにも西方諸国の者が居るのですか?」

「ええ、千人ほどいます。トリバレイで暮らしているね。全員、奴隷として売られてきた」


 西方諸国の価値観で特に相容れないのが、女性を商品として売る『奴隷貿易』だ。これは嫌い。そして意味がわからん。


 多分、魔法の発展がミッドランドよりも劣っているからだろうか。魔力・知力よりも腕力が優先される土壌だと、どうしても男性が権限を握ってしまう。


 マヤも同じ女性として『奴隷貿易』にいい印象を持っていないようだ。普段から困り顔のように垂れ下がった眉を、更に歪めている。


「奴隷、ですか……女性の?」

「ええ。でもとても働き者で優秀な子たちだったので、我がトリバレイ領では奴隷ではなく市民として扱います」

「まあ! す、素敵です! 賛成です!」

「もちろん、移住して即市民というわけにはいきませんが。一定量の労働と、教育を受けることで市民権を得られます」

「労働というと、やはり新参は厳しい環境なのですか?」

「いえ、甘やかしはしませんが対価に見合った労働です。主に荘園の農業ですね。この前、田植えなどを済ませました」

「余のためにぶどう酒をこさえておるのだ。クク、人間にしては殊勝なり」

「ひゃ!?」

「あ、紹介し忘れました。こいつは友人のジロ。……おい、今は夫婦の時間だ」

「おやおや、相手が多すぎて覚えきれぬわ。静かにしてやるか、カッカ」


 マヤはトリバレイの仕組みにとても興味を持っていた。民間の商売では『姫野商会』『山束生徒会』『クラン』など、女性が特に活躍していること。官僚では国務省、軍務省、魔法省、財務省、法務省の五つの内三つ、過半数の長官が女性であること。


 近隣の指導者も、アリシア・ミッドランド女王、ロザリンデ・バルトリンデ女王、エルフのシグネなど、女性が多いこと。俺としては当然な価値観を、マヤ・ミシュラは実に新鮮そうに聞き入っていた。


「……ミッドランド大陸では……そんなに女性が活躍できるのですね」

「当然でしょう」

「当然、ですか?」

「総合的に見て優れているのですから。重用されるのは当然です」


 マヤは目を見開いて驚いていた。それほどまでに、この西方諸国と俺の領地ミッドランドでは価値観が違うのか。元々決まっていた心を、俺は改めて定める。


 やはりこの西方諸国に遠慮はいらない。今までは貿易相手としていい関係だったけれど、これからは更に一歩足を進める。既得権益を握っている男どもを経済で締め上げ、そして女性が活躍できる大陸に。少なくとも女性を金貨いくらで売り買いしなくなる大陸に変えてやる。


 何十年もかかるかもしれない。俺の代では終わらないかもしれない。


 が、これは必ずやり遂げる。魔王討伐と同じくらい重要な命題だ。そう、俺は友好的な表情をしているが、実際はこの地で影響力を広げるためにきた。武力は使わないが経済侵略のためにきた。


「私……私、ミッドランドが羨ましい……」

「この国の考え方は苦手?」

「……はい。女に生まれたらずーっと花嫁修業ばかり……。いろいろなことを一杯経験したいのに……」

「むむむ、ならいつか一緒にミッドランドに引っ越します? それから大陸一周。平和になったら世界一周もしようか」

「ま、まあ! 本当!? 嬉しい。や、約束……ですよ?」


 可愛い。こういう守ってあげたいタイプは新しいぞ。経済侵略に来たけれど、マヤのことはちゃんと幸せにしようと誓った。


 さっそくアウェーで敵味方がぼやけてしまったけれど、まあいいか。可愛いもんだから仕方がないのだ。新しい土地で新しい女の子に弱いのもいつものことであった。

新章で一々ヒロインとの馴れ初め丁寧に描写するのもあれなので、

読者の方々とコンセンサスは取れていると判断し結婚式から書きます。

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