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第五十一話:軍議

予約投稿間違って、昨日の分を一昨日に連投していました……。

お手数ですが読む順番を確認ください。

 セントロ国の情勢は混迷を極めていた。


 貴族家の過半数がミッドランドの攻勢に晒されて根拠地を失陥。ゲリラ戦を展開している。


 そしてセントロ貴族家の多くが野に下る中、主不在の土地で騎士たちが自己の利益を求めて動き出していた。忠義に基づいて敵対的な行動をしてくる者もいる。が、少なくない数の騎士家が俺たちミッドランドと内通を約束。


 それなら”まだいい”。酷いものになると、セントロ騎士同士で長年の因縁を晴らそうと武器を取る始末。セントロ勢対セントロ勢。同時営の者にとっては、頭を抱えたくなる喜劇も起きていた。


「少将閣下。点呼および装備の確認、全軍完了いたしました」

「ありがとう。ではミッドランド第五、第七軍団、進発」


 そこで俺はユルゲン・ストライテン中佐の策を採用した。示威行軍作戦。ただ大軍を率いて進み、争っている両者を宥め調停する。


 狙いは戦わずして勝つ。


 千対千で争っているところに、第三の千の軍勢がやってきた場合はほぼ停戦が成立する。第三者が相手側についたらたまらないからだ。戦なんてものはよほどの愚か者でない限り、常に落とし所を探りながらやる。終えられるタイミングによっては手打ちにしたい。


 古い因縁で感情的に始めたけれど、


『よく考えたら何やってんだ俺ら……』


 みたいなやるせなさの中、何日も続いている泥沼の戦いに効果的だ。千対千の規模なら第三勢力は千、いや五百程度でも調停は成り立つだろう。万を超える軍勢なら示威はなおさらだ。そうやって諸勢力をガンガン取り込んでいこう。


「ユナダ、先鋒よろしく」

「おうとも」


 ユナダ・サンスイ准尉が精鋭千を率いて先陣を切る。


 セントロ国の領地を我が物顔で突き進んでいく。この辺りは山や要害がちらほらあるだけで、あとは広大な平地・湿地が広がる。軍勢の総数は明らかだ。細々とした抵抗を続ける他の騎士家も、誰に頭を垂れるべきか考え直すだろう。


「ストーン少尉、四郎と一緒に左翼の守りを任せます」

「はっ!」

「うーん。こうやって大軍を率いているところを改めて見ると、葉兄ってマジで将軍なんだなって感じがするわ。ようやく実感が湧いてきた」

「実感が遅くないですか? 四郎さん」

「ストーンさん、こいつの元の世界での醜態を知らないからっすよ。数学のテストで赤点取った時なんか傑作モンで、叔母さんに泣いて謝――」

「四郎、静かに」


 ストーン少尉が率いるのは第七軍団から連れてきた三千。四郎も今回は出張してきている。OJTは未だ継続中。参列の功績が積めてきたので、そろそろ階級か職位を渡したいところだ。


「ユルゲンさんは右翼。主導権は全て預けます」

「了解しました。……殿、セラ・ラインハートが近隣に進軍しているとの情報あり。警戒下さい」

「うん」


 ユルゲン・ストライテン中佐はあいも変わらず頼りになる。


 ロマンスグレーの長髪とローブを纏う我が自慢の軍師。セントロ国東方面の切り崩しはだいたいこの人がやった。西方面はだいたいアクスラインがやった。強い。主人公の活躍の場こわれる。


 何事も得意な部下に得意なことをやらせるのがいいのだ。うむ。


「セラとかいう女侍が、いるらしいねえ」

「やはりご存知でしたか。……また悪巧みですか?」

「さあね」

「ふむ。お手並みを拝見しましょう」


 朴訥とした顔を崩さず、しかし油断なく周囲を警戒してユルゲンは右翼へ向かう。率いるのは彼が整備した第五軍団三千。本来なら魔族に離間させられた戦力を、すでにしっかりと手中に収めたのは流石の一言だ。


「最後に、ガストン・ルクセンフルト殿」

「はい」

「軍団後方の守りを。いざ決定機というときは貴殿の重騎馬兵の実力、見せてもらう」

「承知した」

「……この戦いが済んだら、君たちを戦友として受け入れられると嬉しい。頼みにしています」

「……!」


 情に厚いルクセンフルトが無言でうなずく。


 目を見ればわかる。彼も、彼の後ろに続く騎士家の者たちも、対魔族の事情を話して志を合わせてくれた奴ら。新参だからといって戦場でのサボタージュは心配しなくていいだろう。


 金持ちが金に任せてかった重い鎧。戦況を決定づける重装備。それをまとった騎兵が二千。


 そして、俺の直属が千。合計すると丁度一万の軍勢だ。はっきり言ってこの大軍を止められる奴は居ない。


 あの女を除いて。


――


 半月後、俺たちはラインハートの軍勢と睨み合っていた。


 調停によって影響力を行使、味方に加えることが出来たのは二千にとどまる。総勢一万二千のこちらに対し、セラも独自にカリスマ性を発揮し()()をかき集めていた。


(セントロ国の情勢は不安定なのに……よくもまあ。これだけで十分化け物だ)


 小競り合いを何度か繰り返してから、現在は両軍とも一時引き上げている。駐屯している砦で軍議は何度も行われ、しかし慎重派と積極派の間で方針が揺れた。


「セラ・ラインハートは何度も我々の砦を脅かした武人。名将と言っていいでしょう。今回の戦いでも、小競り合いの段階で随所に兵法の上手さ見える。うかつに仕掛けるのは控えるべきかと」

「ストーンさんの言うとおりだ。こっちの数が上なんだぜ? 守って奴を釘付けにして、他の地点から攻めればいいじゃねえか」

「四郎さんの補足に更に補足。こちらは砦に籠もっていますが、向こうも山に布陣しています。攻めかけるには被害が大きい。引くときは更に被害が大きい」

「あの女、本当に神出鬼没なんだよ。怖いぜマジで」


 何度もセラに居城を脅かされた二人。セラの脅威が身にしみていると見えるトーマス・ストーン少尉と黒羽四郎が慎重派だ。


 若いのに優秀なストーンが理屈を持って説き、時折長距離の戦略センスを見せる四郎がそれを補足する。二人の主張はもっともだ。ここ、ハーバー城(内陸なのに海っぽい名前の、ちょっと変な城)を拠点に守備。前方の山に滞陣するセラを牽制するという作戦。


 一方――


「それでは周囲の諸勢力に弱腰と見られる。日和見している騎士家は全部あちらについてしまうぞ!」

「そうじゃ! ルクセンのおっさんの言う通り! 戦いは敵を殺さにゃ話にならん!」

「数はこちらが上ならば、せめてもう少し寄って包囲を万全にすべし。姿勢を示すのです」

「包囲な! うむ、包囲。たしか包囲すればだいたい勝つはずじゃ!」


 ユナダの頼りない援護を貰いつつも、こちらも一理ある提唱をしているのがガストン・ルクセンフルト。彼ら二人が積極派だ。


 確かに、時間はこちらに味方するとは限らない。大軍勢でビビらせて引き入れるはずの諸勢力だが、戦力拮抗なら馴染みの深いセラの方に流れてしまう。


「向こうが名将ならこちらにもユルゲン殿がいらっしゃる。ならば――」


 ルクセンフルトがちらり、とユルゲンの方を見た。


 軍議の建前上はユルゲンの知略を褒めている。のだが、本心は違う。ユルゲンの意見はどうかと知りたがっているのだ。


 積極か消極か。


 そう。こうまで軍議が紛糾しているのは最後の二票、ユルゲンと俺の分が入らないからだ。この場には指揮官級が六人居るのに、まだ四人しか投票していない。俺に腹案ありとユルゲンは見抜いているのだな。その上で現状は攻めても守っても五分五分と判断し、判断を保留しているのだ。


 ありがとう。では俺が決めさせてもらおう。賛成三、反対二、棄権一である。


「ストーン少尉、四郎」

「はっ!」

「おう」

「君たちの言うことにも一理あるが、大局的に見てここは攻め入るのがいいだろう」

「はっ」

「げ! マジか……強気だな葉兄」


 四郎はまだ未練がありそうな様子だが、ストーンの方は佇まいを整えてうなずく。いざ方針が定まったらそれに全力を込める男だ。


「ルクセンフルトの言うことが正しい。時間をかければ情勢はあちらに傾く。しかし! 正面からあの女侍に立ち向かっても、勝つ見込みは多くない」

「なにか、作戦がおありかな」


 今まで一言、二言しか発しなかったユルゲンが俺の作戦の続きを促す。


「そうですユルゲンさん。奇襲です」

「ふむ」


 俺は軍議の中央に置いてある駒を動かす。山に布陣しているセラが赤い駒。ハーバー城につめるこちらは青。


「奴らを山から追い出し、さらに万全の体勢で迎え撃ちます」

「どのように」

「まず軍を二つに分ける」


 青い大きな駒を取り払い、二つの小さな駒に代える。そしてその一方をセラが居る山の北麓に持っていく。


「本陣は北の麓に布陣。別働隊が山を迂回しもう一方を反対の麓に。そして一気に山を駆け上がらせる」

「別働隊、ねえ」

「お前もその別働隊だ、四郎。駆けあがり……山の頂上にいるセラたちを南から攻撃! 反対から攻められた敵はビビる。超ビビって、一旦距離を確保しようとするでしょう」

「そう、でしょうか。小官には――」

「そうなる。そこで慌てて麓まで降りてきた敵を、本陣の鶴翼で迎え撃つ!」

「おお! やれば出来るのう、三津谷。軍師っぽいわ。おうおう、おっさん。お役御免かのう? かっかっか」

「……」

「ははは、褒めるな褒めるなユナダ准尉。啄木鳥(きつつき)は木の反対側を叩き、そして飛び出てきた虫を捕らえる習性があると言う。これぞ、『啄木鳥戦法』!」


 ピン、と黒羽四郎が何かを察する。


 ユルゲンが何も言わず目を閉じ、ユナダは両手を上げて俺を褒めたたえ、別働隊の先鋒を買って出た。

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