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第四十二話:クローバー砦

 トリバレイ自治領、ミッドランド王国、エルフ領、セブンス自治領、バルトリンデ王国のそれぞれの領地を結束させた俺は、セントロ包囲網の最重要拠点に戻ってきた。


 従兄弟の黒羽四郎が要塞化をすすめる旧アーク家の土地である。普請やそもそも人を率いる経験が浅い四郎だが、こちらからガンガン救援を送れる地域だしなんとかなる。


 ストーン少尉も補佐にいるし。しっかり経験積んでくれているかなあ。


 そう思って呑気に戻ってきたら、どうも様子が違った。砦の様子は出立時よりあわただしい。一兵卒から部隊長や士官級まで、本日も手一杯という様子で走り回っていた。ここで別れた時よりも日焼けが濃く、普請で体つきもガッシリした四郎が迎えてくれる。


 頼もしくなったのに表情はつらそう。あれ、四郎泣いてるの。


「やー、四郎。調子はどうだ」

「葉兄! や、やっと戻ってきたか……! 待たせるの長いよお!」

「……あれ?」


 どういうこった。割と気楽な新人研修のつもりだったのに。


 四郎は俺が合流して心底助かったという表情だった。へなへなとその場にへたり込み、そしてこんな場所に自分を放り込んだ従兄弟の胸ぐらをつかみ、抗議する。


「なんだよここ! すげえ敵攻めてくるじゃんかよ! ちょっと砦の工事監督するだけって話だったろ!」

「およよ?」

「もう毎日毎日、違う敵が代わる代わてくる!」

「バカな。ストーン少尉」

「はっ。そのことのご報告は、今すぐにさせて頂いたほうがよろしいかと」


 トーマス・ストーン少尉も首を捻っている。


 そうだ。おかしい。相手は五十以上の有力者がひしめくセントロ国。いや、国というのは正確ではない。ただの寄り合い所帯だ。


 外敵に対抗するために樹立した即興の共和制国家。そんなのが上手く回る()()()()()


 人間ってのは、取るに足らない議題の学級会ですら紛糾するんだぞ。富と土地と名誉をかけた有力者同士の主導権争いが、そんな簡単にまとまるものか。


 少なくとも四郎やストーンがいうように、次から次へと波状攻撃を仕掛けられるのはおかしい。


「報告を、少尉」

「はっ。現状、この旧アーク領。改名してクローバー領としました。ここのミッドランド流要塞化は完了しております」

「いい手際です。よく四郎を支えてくれました」

「はっ。ですが、続いての目標であったセントロへの侵攻や調略は手が回らず」

「!」

「逆に砦近くまで攻め上がられたこともあります」

「むう」


 実戦に慣れていない四郎の過敏な反応かと思ったが。違うか。


 戦はいくつも経験しているストーン少尉が言うのだから、敵の攻勢は本格的なものだ。本当にどうなっているんだ。


「助かりました、少尉。それと悪いことをしたな、四郎。まずはこちらの陣容を固めるのが優先でさ」

「はい。包囲網を形成するならば、味方を信頼できる状態にするのが最優先です。ここから反転攻勢ですよ四郎さん」

「うす。ストーン少尉。まあ、葉兄も忙しかったのか。別に遊んでたわけじゃあないんだな」

「も、もちろんそうだよ」


 嘘をついた。すまん、最後辺りちょっと遊んでたわ。ちょっとっていうか、かなり遊んでいた。だいたい常に遊んでた。


 聞けば四郎は、ストーン少尉の手が回らないときは独立の中隊を率いたりもしたらしい。現場の働きではもはや追い越されているのでは。


 メチャメチャ頑張ってるじゃないか。すまん我が従兄弟よ。今日から真面目にやるから。ホントホント、マジのやつ。


 四郎を慰めながら軍議の部屋へ。少尉が広げた大陸地図を眺め、今後の方針を固める。


「俺の方の動きを伝えておくのも兼ねて、一回大局のおさらいしようか」

「はっ、戦線は以前から膠着状態。国境線に大きな変化はありません」

「うん。了解」


 そういって俺は地図の上に、味方・友好国の軍隊を示す駒を置いていく。セントロ国からみると周囲はどうなっているか。ぐるっと時計回りに整理しておこう。


 まず十二時の方向。真北には今の俺達がいる。現状の橋頭堡にして、唯一セントロに食い込んでいる場所だ。ここから攻めを繰り出していくことになるだろう。どうも逆に追い払われつつあるが、挽回のしどころだ。


 一時から四時はミッドランド本国が覆う。ここは女王直属軍のおかげでネズミ一匹逃げる隙間もない。


「で、ここからが昨日までに固めてきた包囲網ね」

「ふーん。ちょっと疑ったけどちゃんと働いているんだな、葉兄も」

「ま、まあな」


 五時には先日婚姻政策を取ることが出来たセブンス家。


 六時には友好・交易関係を確立できたミルナモルド家。


 七時から八時あたりは同盟国バルトリンデ本国。


 九時には我が軍が誇る名人、ジグムント・アクスラインの駐屯地。


 十時から一周してきて十二時のここまでがトリバレイの本領。


「ってことだ」

「閣下のご尽力でセントロ包囲網は完成したと言えますね」

「おうよ。あー大変だったような、そうでもないような……」


 ストーン少尉の忠誠心高めな目線が辛い。遊んでいたことを墓場まで持っていくことを決心する。


 二人共新妻や最近できた恋人がいる身なので、一段落したら休暇をとってもらおう。さて、戦況の評価だが――


「ここまで厳重に包囲やったら負けるわけがないよね」

「そりゃあな。こんなのアホでも勝てるぜ」


 旧バルトリンデ中央部の周りにはひしめくようにこちらの駒が置かれている。強いて言えば同盟国に過ぎないバルトリンデの部分は完全な視察はできていないが、あいつらだって手を抜く状況ではない。


 そもそもバルトリンデ国に歯向かうためにセントロ国が出来たのだからな。同盟国として信頼度は高い。


「でも実際負けている。なんでかな。ユルゲン師匠が居れば教えてくれるんだが」

「実際に戦って思ったことですが」

「はいどうぞ少尉」

「小官は、敵の動きが連動しているためと考えます」


 ストーン少尉の説明はこうだ。ユルゲンが当初目論んでいた包囲戦略は、敵方がバラバラになっているのを前提としていた。包み込んでしまえば内紛と外圧で勝手に瓦解してくれる。あとは小突いてやるだけで切り取り放題。


 この”連携しないはず”という前提はおかしくない。現状の敵がおかしいのだ。明らかに緊密な連携をしている。


「古い因縁を無視するほどに強烈な、カリスマ性のある人物がいるのではないでしょうか」

「ロザリンデ・バルトリンデ女王でもまとめるのに苦労した地だが……。四郎はどう思う」

「人物じゃないのかも。何らかの別の要素がセントロを一丸としている。教義とか」

「なら今までまとまらなかった理由はなぜ……?」

「あ、確かに。今まではバラバラだったのか」


 うーん。うーん。どうにも情報が足りない感じがする。


 三人で唸っていると、窓枠に腰掛けてぼんやり腕を組んで座っていたユナダ・サンスイが声を上げた。首だけひねってこちらを向くと、おかっぱ頭が流れて意外と絵になる男だなあ。とか呑気に思ったらそれどころじゃなかった。


「三津谷」

「ん?」

「敵襲じゃ」


 敵襲を知らせる鐘が響く。飛び上がって先頭を駆ける四郎が頼もしい。が、しかし予測していない敵襲は嫌な予感しかしなかった。


――


 砦の外に滞陣していた味方をどうにかまとめ、戦線から引き剥がす。


 この局地戦は駄目だ。素人の俺が見ても、続けていいことなんて一つもない。攻めていいのか下がっていいのか、前後左右に狼狽えまくっている味方に方向を示す。


「下がれっ! ミッドランド軍は下がれ! 追撃無用! 追撃無用!」

「閣下、側面に敵の別働隊です!」

「葉兄、左からももう一団だ!」

「ストーン少尉、先頭へ! 四郎も行け! このまま振り切るぞ!」

「了解!」

「ユナダ、しんがりだ。背中を頼む」

「おう」


 ユナダ流の白刃が煌めき、敵の先鋒を血祭りにあげるが焼け石に水。


 敗戦。とにかく兵をまとめて引き上げるので精一杯だった。クローバー砦の機能拡充のため、前線拠点を築こうとしていた部隊を狙われた。


 戦況は一方的なものだった。藍色を基調に白のラインが入った、勇壮な鎧の敵騎士団が殺到。隠密行動をしていたはずなのに、こちらの部隊の位置を完璧に読み切って強襲されたのだ。


 質と体勢にまさるセントロの部隊に散々に突き破られた味方部隊は、初手で部隊長を討ち取られて恐慌状態にあった。俺たちが駆けつけて、指揮官三人がかりでまとめ、どうにか全滅だけは回避。


 ひどい敗戦だ。幸いなことに、命がけの全力疾走はなんとかクローバー砦まで横槍を入れられることはなかった。だいたいは隣にいる剣豪のおかげだ。


「くひい、槍も交えずかけっこかよ! ユナダ、サンキュー!」

「うーむ。やりよるのう、敵方も」

「よし。城門だ! みんな、よく支えたぞ! 弓兵、撃ち方用意――」

「いい引き方じゃ」

「ん?!」


 剣を掲げ、砦の弓矢で逆撃をかけようとしていたが空振りに終わる。必死で走り抜いて振り返った先に見たのは、こちらを蹂躙してゆうゆうと引き上げる敵騎士団の背中だった。


 この敵は強い。正々堂々とか言っている場合じゃないと、俺はようやく肌で感じ取った。

こいついっつも苦戦してんな

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