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第三十七話:多数派工作のやり方

 夢に違いない。こんな幸運な状況に置かれているのは夢に違いない。


 同じ学園の女子たちに連れられて登った山、その先のコテージ。そこに足を踏み入れた瞬間に押し倒された。


 次々に服が脱ぎ捨てられ、女子たちの肌があらわになる。何人だ。二十一、二……二十五人。そんな多数の年頃の女の子たちに一斉に取り囲まれている。


 こんなこと夢に決まっている。彼女たちは俺の妻や恋人ではない。ただのクラスメイトや同学年、先輩・後輩。色恋の気配なんてなかった。押し倒されるなんて。


「ふ、三津谷君軽いなー」

「胸見すぎでしょ。うける」

「あー、これは童貞だね」

「楽勝で尻に敷けそー」

「順番ね。決めたとおりに」

「おっけー」


 確かに綾子や佳苗は絶世の美女で、それに比べればこの子たちは普通に可愛い女子高生。


 だがしかし。だがしかしである。


 俺みたいなチンチクリンの下級オスと並べれば、彼女たちが釣り合うわけがない。格が違いすぎる。俺なんてのは本来一生独身でもおかしくない、下から数えて一番目な男だぞ。そして向こうは素敵な女性たちばかりだ。


 なぜ俺なんかに執着する必要がある。そう問いただして、返ってきたのは意外なものだった。


「三津谷君はさあ……無自覚すぎるよね」

「え? ……え? 俺が、無自覚?」


 呼気を荒くしながら覆いかぶさってくるのは、この前のレッサードラゴン討伐クエストの時に近くに居た女子だった。確か苗字が……藤、藤井、とかそういう感じだったような。


 クラスが違うし学年も多分違うので、話したことは殆どない。普段は快活で可愛らしい女生徒なのだが、今は()()っと目が座っていて怖い。睨みつけたまま、何故こんなことをしたのかめっちゃ喋ってくる。


 興奮してまくし立てるので理解するのが大変だった。要点をまとめると、あのときの刀匠トカゲの連撃から庇ったのが嬉しかったらしい。それだけかよ。


「それだけって……。もう。女の子をさ、あんな風にカッコよく守って……」

「いや、それは男子として当然というか……んー!」

「ぷは。カッコよく守られたら、惚れちゃうに決まっているでしょ」


 口の中を舐め回されて放心していると、他の子からにも同じように扱われる。回し飲みのグラスみたいな処遇だ。舌を強く吸うのは止めて欲しい。付け根が痛い。


 どうやら俺は感覚が麻痺していた。異世界に転移して、それからたくさんの人々を手助けしてきた。それができるスキルはあったし、できる立場だったので当然のことだと思っていた。


 元の世界では実力や機会がなかっただけで、別に異世界じゃなくてもそうしただろう。それに慣れた。麻痺していた。


 が、どうやらその人助けを大判振る舞いしすぎていたらしい。命を助けたくらいでこんな雑魚男に惚れてくれるのか。こちらはそっちの下の名前すらおぼつかないのに。


 マズイぞ。そうなると……目の前の子程度に救った子はかなり多い。


「三津谷君が颯爽と助けてくれたので、お返ししたいのが二十人。手当り次第惚れさせてくれるねー」

「い、いや、それは……」

「他にも――」


 ぴらりと他の子達が見せつけてくるのは魔法の契約書。この異世界特有の書類だ。


『乙は甲に金貨百枚を借り入れた。利息は~』


 とか書かれている。そして甲の欄は訂正線が引かれ、俺の名前に書き換えられている。債権移譲の証だ。


 そういえばそういうのもあったね。日常的すぎて忘れていたし、いちいち恩に着る必要はないのに。


 さっきの子の後を継いで話しかけてくる子も、申し訳ないことに名前すらわからない。聞いたかもしれないけれど本当に覚えていないのだ。だって精々二、三回くらいしか話してないし。会話の内容も事務的だったし。借用書の乙の欄を読めば佐々木(ささき)理沙(りさ)さんだということがようやく分かった。知らない。


「悪い現地人に騙された借金。肩代わりしてくれたよね」

「あ、ああ、そういえばそういうことも……あったっけ……」

「金貨百枚。物価的には百万円くらい」

「は、い」

「ぽんって払ってくれたから、三津谷君は私のこと好きなのかな~って勘違いしちゃった。そういう女の子、いっぱいいるよ」


 それはだって、女の子が借金をたてにされて不遇な目に合うならなんとかしないといけないだろう。たまたま資金があったから肩代わりしただけ。


 その資金も俺が自分の才覚で稼いだわけじゃない。という弁解は無視された。


「とにかく。三津谷君」

「はいっ……!」

「そうやって手当り次第女の子を惚れさせたからには、責任とってね。逃げないでね」

「あ、う」


 視界に落ちる陰が濃くなる。先程まではキスで済ませていた子たちが、発情を我慢しきれなくなってすり寄ってきた。


 俺のベルトが取り払われると、ごくり、とつばを飲み込む音が四方から響く。そして、先頭の一人がゆっくり腰を下ろし――


「……」

「……」

「……どしたの? 順番は決めてたでしょう」

「……こ、これって、どうやるんだっけ」

「え……、あー……、し、知らないの? ほら、こう、おしべとめしべが……」

「それは知ってるけど、これサイズ的に入らなくない?」

「……」

「……」

「……一理ある……」

「……入らないと思う」


 一番ひどいタイミングでお預けを食らった。寸前で作戦会議が始まってしまった。


 全員で集まって、真剣な面持ちで相談している。『絶対に入らない』で多数決が可決したらしい。いや、君らそんな可愛らしい見た目していて本物を見たことなかったのか。


 そういえば俺たちが所属する山束高校は、伝統的にお嬢様が多い校風だったな。つい、彼女たちの押しの強さに圧倒されてしまった。


 やっとこちらのターンかよ。形勢逆転を確信した俺は、一人ずつ丁寧に応接していくことを決意し、一人目のくびれを抱え込んだ。


――


 コテージは丸々七日七晩かけて女子高生の匂いでいっぱいになった。


 汗や体液もろもろの匂いが染み付いている。シーツや枕だけじゃない。壁や天井にも女の匂いがこびりついて、ひと夏くらい換気したくらいでは取れないだろう。


 全員盛大にフェロモンや体液、香りを撒き散らして果ててもらった。みんな見栄を張って誘惑してきたけれど、こういう経験あまりなかったんだな。


 ちょっと時間をかけるだけで簡単だった。可愛らしくて大変よろしい。まあ全員一周したと思ったら、同じくらいの人数が後続で来たのには少しビビったけど。そんなに節操なく手助けしていたっけ。


 自分のやったことなのにうろ覚えだ。今度から女性を助けるときはしっかり記憶しよう。


「ふう、これで六十人全員が恋人だな」

「「「……♥」」」

「あ、名前は覚えたけど、趣味とか全然知らないから。ちゃんとあとで自己紹介よろしくね」


 ベッドに腰掛けて一息つく俺の隣で、幸せそうに横たわっている子の腹を丁寧に撫で回す。軽めに気を失ってしまっているが、へそをつまむとびくびくと痙攣して喜んでくれた。


 そんな感じの子が全部で六十人。全員を妻に迎えてしまった。これはひどい。


「お、っ……♥ お疲れさ、まっ」

「うん。藤井さんも良かったよ。もう一周しようか」

「う”ぅ♥ もう一回♥ もう一回!」

「それにしても、一人で全員独占しちゃって申し訳ないなあ」

「いっ、いいの。みんなで話し合って、シェアしよって決めてたから葉介君、倍率高すぎて……っ、こっちの方がい、いかなって……」


 六十股をかけていることも謝るべきだが、俺が申し訳ないと思ったのは他の男性陣に対してだ。すまん、他の転移人の男たちよ。いっぱい独占してしまって申し訳ない。


 例えば転移人グループの『クラン』には二百五十人程度の転移人が集まっていて、男女比は半々といったところだ。


 百人を少し超えるくらいの女の子のうち、六十人がトリバレイに加入。しっかり引き抜いて戻れなくなってしまった。全員膝をがくつかせてトリバレイ加入を誓ってくれた。


 恋人がいないフリーの男女比は二対一まで偏っているが、男性陣にはどうにか頑張って欲しい。


「ど、どうかなっ。今回は来ていないけど、葉介君のこと狙っている女子まだまだいるよっ」

「嬉しいな。それに、もしかして『クラン』の多数派工作もこれで行けるかも」

「んお”っ!」


 ナデナデと仰向けになっている子の腹を撫でながら勘定を進める。


 この腹の中身は俺の所有物、という確認だ。一生好きに扱うことを承諾するように、うっとりとした表情で女の子が頷いたので満足。いいお嫁さんになりそうだな。


「『クラン』二百五十人のうち、三津谷派がこれで六十人。他の派閥といえば、玲奈に憧れている男も多いな」

「れ、玲奈って西園寺さんのこと? 仲いいの?」

「あの子も俺の嫁さんだよ」

「な!」


 一瞬、玲奈にライバル心を燃やしそうになった子の尻を「ぱちん!」と叩いて躾ける。いちいち競争相手にならなくても、全員幸せにするから全く問題ない。


「お”♥!」

「仲良くしてね」

「はいっ」

「それに玲奈は年下の女子からも人気がある。西園寺派は少なく見積もっても五十人は居る」


 三津谷派と西園寺派をあわせて百十人。俺を含めてトリバレイで抱える転移人を、『クラン』に加入させるのは容易だ。さらに十五人。久遠がどれだけ優れたリーダーだろうが、残りを浮動票ゼロにして自分の派閥とするのは難しいだろう。


 実質百二十五/二百六十五でほぼ過半数は押さえている。これを利用して『クラン』に民主主義の仕組みを導入すれば、好きに操れそうだ。


 まあ今はそんな些細なことよりも、今回の戦利品をしっかりと手中に収めることに集中しよう。


 満足しきれなかった子たちがすり寄ってきたので、俺は票勘定をやめて夫としての勤めを果たすことにした。

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