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第三十四話:トロフィーを並べた地図

 セシリア公爵が楽しそうに笑う。


 忘れがちだけれどここは玉座の間で、貴女はその玉座の主に身の潔白の証明と無罪判決の嘆願に来たはずなのだが。


 なんで女王を指差して盛大に笑ってるの。


 そしてなんで陛下も唸って聞いているんだよ。一体どこで形勢がひっくり返ってしまったのか。たんたん♪ と小躍りするようにセシリアが飛び跳ねる。こら、はしたないですよ。もうちょっと高貴な身分らしくしなさい。


「ふふふふ、勝っちゃった。勝っちゃった。あのアリシア・ミッドランドに! ふふふ、私の勝ち! 私のほうが早かった!」

「……くっ、何がいいたい。公爵」

「いいえ、何も? ふふ、あー気分が晴れました。こんな鬱屈とした城になんて死んでも来たくありませんでしたが、たまには良いわね。ふふふ。とてもいい気分です」

「ぐっ、ぐううう」


 アリシアのほうもどうした。様子がおかしい。恨めしそうに、羨ましそうにセシリアのことを睨んでいる。


 だんだんと肘掛けを叩き、地団駄を踏む様は子供のようだ。こら、はしたないですよ。もうちょっと女王らしくしなさい。本当に相性悪いなこの二人。


「く、くふふふ、おやおや陛下。ご機嫌うるわしゅう。そう言えば陛下もそろそろ結婚適齢期。お相手はいらっしゃるの?」

「う、う……」

「私は! 幸運にも、そして運命的なことに、若くて優秀な男を手に入れてしまいました」

「……う」

「三津谷葉介! ああ、運命的です。ふふ、お先に失礼しますね? 陛下」

「ううううう、ずるいぃぃい!」


 ギリギリまで女王としての威厳を保っていたアリシアの理性が、遂にプツンと弾け飛んだ。


 その怒りの形相は俺を萎縮させるのに余りあり。余波で跪かせて額を床に載せてもまだ足りない気がした。


 取り急ぎ切腹しとくか。異世界に来て以来ずっと使えてきた女上司が、こんなに怒っているの初めて見る。介錯は腕のいいのに頼む。衛兵、ユナダを呼んでくれ。


「なぜだ三津谷!」

「は、はいいい」

「城ヶ辻を娶るのは百歩譲って分かる。だが次は私だろう!」

「ぷぷ、ふふふ。大変お見苦しい。それは陛下がお決めになることではありません」

「は、半年も待たせて他にどんどん女を作って……挙句の果てにセシリア・セブンスの方が先だと!?」

「これが現実です……! 現実を直視して独り身で頑張って下さいね、陛下」

「私のほうが先に好きだったのにぃ! もおおおおおおおああ」

「アハハハハハ! ざまあああ!」


 地獄か。


 土下座から面を上げると、隣ではセシリア公爵が腹を抱えて笑い、正面ではアリシア女王が床に突っ伏して駄々こねていた。


 それ他の臣下に見られたら国が吹き飛ぶんだけど。六歳くらいの子供のように床で転げ回る。仰向けのまま両手の甲でばたばたと地面を叩く無様は絶対に外部に漏らせない。


 どうにか衛兵が来るまでに取り繕って女王を抱え、泣き喚く彼女を居室にお連れするまでセシリア公爵はずーっと笑っていた。


 長年の鬱憤を全て晴らしている。これまでで一番楽しそうだね君。


――


 またやってしまった。またやってしまいました。


 ベッドの上に転がるのは二人の大人の女性。大国ミッドランドが誇る女王陛下と公爵様。


 まーーーーーーたやってしまいました。


 アリシア・ミッドランド女王とセシリア・セブンス公爵。二人共一糸まとわぬ姿で息も絶え絶え。その真っ白い頬を茹で上がったように赤くし、震えながら呼吸に務めるので精一杯だ。


 特にアリシアの方は初めての経験で意識がなかなか戻ってこない。彼女のスタイルを支える形の良い太ももの間から、ゆっくりと離れると「びくん!」と大きく震えてそれだけだ。


 全身が弛緩しきって「ごぽっ♥」と下品な音を鳴らしている。


「あ“ーー……っ♥ うーー……っ♥」

「お疲れ様、陛下。一旦落ち着いたらもう一回やりますからね」

「はひ♥」

「よしよし。いい女です」

「はひ♥」

「ちゃんと陛下も貰って幸せにしますからね。他の女ばかりをえこ贔屓するわけじゃありませんよ。遅くなってごめんなさい」

「はひ♥」


 意識があるのかないのか微妙なところだが、どうにかアリシアは返答を繰り返す。こんな婚約の場を設けたミッドランド王族は、今まで絶対に居なかったに違いない。


 八百年続くミッドランドの歴史でアリシアが初めてだ。庶民の出に寝具の上で完敗して婚約。普段の威厳ある態度とのギャップが良すぎて、アリシアが復活する前にもう一回したくなってきた。


 そんな俺のに、セシリア公爵が頬を擦り寄せてくる。


「まったく、女王陛下は作法がなっていませんね。田舎の村娘の方がまだマシですよ」

「な、なんだと……っ、公爵……私は完璧に葉介様のお相手を……」

「論外。愛していただいた後の感謝が全く無い。こうやって――」


 つつ、つつ、つつ♥


 とセシリアがまずは愛おしそうに吸い付きながら口づけし、余った分や汚れている箇所を丁寧に掃除していく。


 口に含んだり、舌でなめたり、頬で磨き上げたりしながら完璧な状態にしたセシリア。使う前よりも使った後が綺麗になるように。作法が出来ていて大変よろしい。


 最後にセシリアは自分の後頭部の上に載せて、アリシアに向かって勝ち誇った。勝ち誇れる体勢なのかな。


「葉介様に愛していただいた後はこれが基本です。自分を気持ちよくして頂いたのに、『ありがとうございます』の一言も無いなんて。お里が知れる」

「くっ……!」

「北部の女は野蛮ですね。これからはセブンス家が夜伽の手順を規範化します」

「ぐぐぐっ……!」


 うーむ、どうにも仲良くならないなあ。困ったもんだと悩んでいると、俺の寝室(元アリシアの寝室で、彼女の意向で俺のものになった)に突如空間が裂けるような音が鳴り響いた。


 まるで暴風雨と雷鳴のような衝撃音は一瞬で収まり、そこには城ヶ辻綾子とエルフのシグネが立っていた。


 瞬間移動だ。熟達した才能ある魔法使いにのみ許された秘技。エルフのシグネはともかく、綾子もやすやすとこなしている。そういえば鳥を飛ばして呼んだのだった。二人共期待で顔を赤くしている。


「やあ、いらっしゃい。綾子さんシグネ様」

「もう。デリバリー感覚で夜になったら呼ぶのだから。私じゃないとこういうのしないからね。私だけなんだからね」

「ふっ……。綾子。貴女、昼は別々に過ごしている日でも、夜になったら瞬間移動で駆けつけるのですか? 本当に人間ってはしたない」

「……ものすっごいブーメラン刺さっているけど。自分が全く同じことしている現状についてどう思うの、シグネ」

「エルフはよいのです。一番愛される種族ですので」

「はー?」


 移動してきて早々、スカートやローブをたくし上げながら二人は喧嘩を始める。こっちも仲良くない。


 というか指導者になるほど器の大きい女性って、あんまり仲良くしてくれないんだよな。綾子とアリシア女王は犬猿の仲。エルフのシグネとアリシア女王も俺が来るまで断交状態。


 ここに高慢なセシリア公爵を入れたら大規模なテルミット爆発が起きる。俺を含めて辺りは焼夷弾に焼き尽くされるのだ。これはトリバレイの領主としてしっかり手綱を握らねば。


 そう使命感(笑)を帯びた俺は、綾子とシグネもベッドに導いた。


――


 四人の麗しい女性。それぞれが各勢力を率いる女性指導者たちが、仰向けになって陥落している。


 元々全員陥落していたが、「他の指導者と仲良くします」と誓い合ってもらった。


 後に、ごく限られた者の間で非公式に呼ばれる『寝具の上の同盟』の締結である。ひどい同盟だ。


 エルフの大指導者、シグネ。大陸北部に広がるエルフの森、およびそこに過ごすエルフたちを統べる者は――


「エルフの森は北だから~……こっち側を北にしよう。北枕になっちゃうけど、はい。シグネ様は枕元」

「……お”……♥」


 べッドの一番枕側で白目向いて気絶した。緩みまくった口元で美貌が台無し。数百年生きててもこれだ。


 トリバレイ国務長官、城ヶ辻綾子。持ち前の才覚と器量で、俺に代わって実質的にトリバレイを率いる才女は――


「トリバレイはそのちょっと南で、大陸の西海岸側ね。綾子さんはこっち」

「はいっ♥」


 テイムの重ねがけが二百を越したせいで、全身の行動権・意思決定権を全部俺に明け渡してベッドの左側。幸せそうにダブルピースしている。


 大国ミッドランドの女王、アリシア・ミッドランド。千年に一度の別格。人類種の頂点にして至宝。魔王に対抗でき、人の世を守護する数少ない偉人は――


「陛下はここ。シグネとも綾子ともセシリアとも隣人なんだから。仲良くしてね」

「わ、わかっ……♥」


 今日のところは初夜を終えた少女。ベッドの右側で痛みと快楽に混乱しながら一回休み。


 セブンス家当主にしてミッドランド国公爵、セシリア・セブンス。魔族により打ち込まれた長年の楔から開放され、その政治手腕と財によっていざ羽ばたく傑物は――


「セシリアはここね。ミッドランド本国の南側」

「うう、私だけ領土が狭い……。ごめんなさい。ごめんなさい」

「大丈夫。セントロぶっ飛ばしたら、セシリアにもいっぱい加増するからね」

「や、やった! 全部葉介様のもの!」


 俺にだけは弱々しい姿を見せてくれる。手足を縮こませて丸まり、自分の領地の狭さに恐縮している。このあたり、君の脇腹あたりを今から獲ってくるからな。


 四人が寝転んで出来上がった地図を見て、俺は満足げに頷く。みんな仲良くできそうだな。


「やはり指導者は女性がいいな」


 そうすればこうやって姉妹みたいな仲に出来る。とても良いので定期的に開催しよう。


 西海岸の方にはルリやミカゲを、トリバレイとミッドランドの間には玲奈や葵を並べるか。いい考えだ。バチが当たらないことを丁寧に天に願う。


 幸いなことに天は我が悪事を見逃したらしく、今日も昼まで快眠であった。

ハートマークに頼るな


女性をベッドに並べて地図に見立てるのは良くない行いです

やめましょう

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