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第二十四話:遭遇戦

 俺たちは黒羽四郎を拠点に残し、ミッドランド領内を一気に南下していた。


 頑張れ四郎、と手放しに励ますほどこちらに余裕はない。長い道のりである。ミッドランドは大陸全土に広がっていて、その中部より北から一気に最南端へ。


 魔法でひとっ飛びしたい距離だが、俺のラーニング済みスキル『転送魔法』は五歩くらいしか瞬間移動できない。テイムによる新規魔法取得は便利なんだけど、結構デチューンされてしまうのでイマイチなのだ。


 つまりお馬さんの力を借りなければそれだけで死ぬ。


 だというのに、今は徒歩なのはなぜ。もう疲れました。


「ユルゲン師匠、馬使いませんか」

「そーじゃそーじゃ。徒歩なんぞ雑兵がやることじゃ」

「ふむ」


 俺とユナダが抗議の声を上げ、ユルゲンが「ふむ」といえば大抵授業の時間だ。


 いい加減それを分かっても良さそうなのにこの剣法バカは「馬に乗りたい、馬に乗りたい」とうるさい。やれやれ、まったく。俺も乗りたい。


「お二人ともお気づきかな」

「?」

「ここは戦場跡です。それも比較的新しい」

「!」


 そうなんだ。左右に雑木林が広がる一本道。当然アスファルトなんて舗装されておらず、この世界の主力舗装の石畳もない。轍もまばら。


 というか馬車は小型でなければ通れない狭さだ。こんなところが戦場跡か。


「バルトリンデ中央とミッドランド軍の戦いかな。こんな南方で戦があったなんて」

「さて、なにがあったかお分かりかな」

「いえ、聞いていませんでした。報告書がまだ上がってませんね」

「そうではありません。なにがあったか予測できますか?」

「んん……?」


 うーむ。場所的にはミッドランドの南方軍、ミルナモルド家あたりにバルトリンデ中央部が攻撃を仕掛けたことになる。


 ミルナモルド家は今から向かうミッドランドの最南端。ここを叩いて包囲網を打開しようとした……とか?


「お見事。地勢から読み取るお力はやはり随一」

「やった」

「ではどのような戦が展開されましたか」

「いや、それは知りません。まだ報告書がなかったので」

「ふむ」


 俺の解答はユルゲンを完全に満足はさせなかった。彼が求めていたのは、”この戦場を読んで”どういう戦があったかを推測しろというものだった。


「もう何日も前に終わった戦でしょ。無理ですよ」

「いえ、出来ないことではない。馬を降りたのは現場に目線を向けていただくために。足跡をご覧あれ」

「ほ?」

「この道に沿った行軍の足跡。靴の形状からミッドランドのもの」

「! ……こっちが味方か。二列縦隊、かな」

「その通り。方向からして領地へ戻る動き。もう少し先に進みましょう」


 ユルゲンが道を進み、俺たちもあとに続く。確かに言われてみればミッドランドの軍靴ってこんなんだっけ。バルトリンデとは軍制が違うので、足跡だけでも敵味方は判別できる。


 もしかしてアクスラインやユルゲン、他の兵法家って、こういう細かい所全部気にしているのか。そうだとしたら、そりゃあ上手い戦をするわけだ。ユルゲンの思惑にのった気もするが、俺やユナダは彼の講義に聞き入っていた。


「さて、ここ。足跡が変わりました」

「変わった……?」

「ほぼ全員立ち止まり、右に構えた。敵襲です」

「こんな狭い道で……!」

「その通り。ここで襲われれば不利。縦隊の脇腹を食い破られる。林の中なので敵数は不明」

「いい材料がないですね」

「そうです。ミッドランドの指揮官はそう判断しましたし、準備もしていた。軍を走らせて少し先の開いた平地を目指した。警戒していたことから、ミッドランド指揮官の優秀さが分かります」


 本当だ。足跡の間が広がっているが、逃げ出すものはいないしバラバラに乱れてはいない。


 速やかな間合いのとり方だ。奇襲されてアタフタしない。俺だったらどうすればいいか分からなくて固まっただろう。


「それから本格的な開戦ですか」

「いいえ。一刻後にはミッドランドの指揮官は首だけになりました」

「!?」


 ユルゲンの誘導に従って前方、先程話題に上がった開けた地へ。進めば進むほど凄惨な敗戦が見て取れた。その辺りの土や木に血痕が大量に残っている。


「……待ち伏せされた!」

「然り」

「味方は」

「全滅しました」


 なんてこった。側面から奇襲を受けて、冷静さを頑張って保ちながら後退した先が死地。これではいきなり待ち伏せされるよりも被害が大きい。


 将兵たちの気持ちを考えると肩が震えた。突然の会敵。まずは前線と視界を確保しなければならない。打ち合わせ通り、急いで陣を張れる開けた平地へ。浮足立ちながらも振り返ったところに、「ドカン!」後ろから襲いかかられたわけだ。


 死ぬ。そしてそれを敵の指揮官は一から十まで読み切っていた。ミッドランドの将校の首を落としゆうゆうと引き上げた、というわけだ。


「お忘れなきよう、三津谷殿。バルトリンデ中央部――旧いしきたりが多い地ですが、戦闘集団バルトリンデの一員です。その武将たちは手強い」

「む、むむむむ……」


 正直、中央部のことは舐めていた。


 バルトリンデの中でも隆盛を誇るのは南部。ゲアリンデ・バルトリンデ婆さんの一族が支配する地。それ以外についても北と西は押さえているし、早々に切り崩せるものかと。これは引き締めてかからなければ。


「それともう一つ。覚えていただきたいことが」

「?」

「血の匂いに紛れていますが、土の香りが強くなった。草木が折れる音、金属の擦れる音」

「げっ、ま、まさか……」

「平地にはない軍隊の気配です。これも入り組んだバルトリンデ中央部特有。来ます、風上から」


 音の方は耳を凝らしても分からなかったが、確かに濃い土の匂い。


 ユナダ・サンスイは既に眼光鋭く周りを睨み、剣を抜き放っていた。警戒感度はさすがと言えよう。普段はおちゃらけた奴だが、最も火急の時に最も役に立つ男だ。


「ユナダ殿」

「応よ」

「お任せします」

「任された」


 どあっ


 と木々の間から躍り出たのはバルトリンデ中央の兵だった。


 剣兵。槍を持っていない。馬も連れていない。風貌から見るに斥候兵か。分隊規模で総勢五人。これは俺らを捕らえに来たと言うより、前線を索敵してたまたまかち合ったな。


 斥候は優秀な兵が務める。常備軍の一員で、練度が高く、生残性も求められる手強い人種のはず。だが――


 ひゅん!


 とユナダの剣が鳴り、その内二人の首を切り飛ばした。俺に襲いかかろうとしていた二人だ。


 つっよ。最初の任務で早速命救われちゃってるし。こいつ登用して良かったぁ……。


「や、やるな! ユナダ准尉! 昇進内定!」

「はん、他愛ない。下がっておれ三津谷」

「ユナダ!? くっ、ユナダ流が居るのか!」

「引け! 間合いを取れ!――ぐごっ」


 ユナダの剣気に慌てた敵兵を、真っ青な魔力が殴り上げた。可哀想な敵兵は一瞬で二十メートルくらいすっ飛んでいって、幹にぶっかって気絶した。


 今の一瞬で魔導書を取り出し、力を溜め終わったユルゲン・ストライテンが指先を振るう。こっちも強い。


「は、やるなおっさんも」

「いい機会ですので紹介しておきましょう。ストライテン家に伝わる魔術の内一つ。私が操るのは『弾き』の魔術」


 ひょい、とユルゲンが指を回すと、斬りかかって来た敵の剣が手元から弾け落ちる。


 落ちる途中で更にもう一度跳ね、右往左往していた俺の手元に降りてきた。


 敵を弾き飛ばし盤面に干渉し、武器を弾いて次の動きを止め、おまけに味方のサポートまで。術そのものも凄いが使い方が上手い。ユルゲンは軍略家だが優秀な魔法使いでもあった。負けていられん。


「う、うおおおお! 俺もやるぞ!」

「いや、お待ちを。投降のようです」

「へ」


 虚勢を張って剣を構えたが、既に敵の斥候兵は戦意喪失していた。二人を斬られ、一人は幹にぶち当たって気絶、もう二人は武器なし。ユナダの刃が首筋で止まり、生き残りの敵は同情するほどに震えている。やめたげてよ。


「首二つか。それなりの初陣じゃな」


 ニカリと不敵に笑うユナダ。何事もなかったかのようにローブをはたくユルゲン。


 このままだと俺要らないんじゃね、と強烈な危機感を抱いた。

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