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第十一話:大鷲フーリエ

 街を出て北西へ。


 ミッドランド王国の端、つまり大陸のやや北西部に位置する街からさらに北西へ。


 ここから北の森は全てエルフの住処だ。大陸の北部一帯は、人間にとって殆ど未踏の森が広がっている。どこかのエルフに出会うならわざわざ西へ行く必要はないが、取りあえず顔見知りのシグネたちを訪ねよう。


 ちなみにさらに西へ行けば外海が、南には湾状の内海がある。俺達が進んでいるのは半島というわけだ。


「綾子。例えば今回は塩を運んでいるけれどさ」

「うん?」

「海が近いなら、自分で作ってシグネさんたちに届けてもいいんだよね」

「うーん、確かにねー。その方が元手は少ない。規模が大きくなったら考えてもいいよね」


 綾子は賛成してくれたが、意外と乗り気では無いようだ。


 唸りながら首をひねり、何か試算している。綾子が首をひねると、さらりと艶やかな黒髪が流れて見ていて飽きない。考え込むその横顔が、知的で実に良い。でもなんでダメなんだろう。


「規模が大きくならないとダメかな? 一々買うの勿体無くない?」

「自分で作れば安いけど手間がかかる。一週間で一回運んで金貨二枚の儲け。人から買えば差額は小さいけれど手間いらず。一週間で五回運べて金貨五枚の儲け。例えばの話だけれどね」

「あれ、ホントだ……塩を他所から買った方が儲かる」

「回数あたりの稼ぎじゃなくて、時間あたりの稼ぎで考えるとそうなるんだよ」


 そうか。一から十まで全部やろうとすると、逆に儲からないのか。


 役割分担こそが交易の肝というわけだ。


 海にしかない品を森に運ぶのも、役割分担の一つだし。


「まあ、三津谷くんの意見も間違ってはいないよ。そのうち沢山儲けられるようになったら、中間地点に町を立てて塩作りしてもいいかも」

「町を自分で作るの?」

「エルフって何万人もいるのよ? その全員分の物資を賄って運ぶのは二人じゃ無理。森を運ぶのは私たちじゃないと無理だけれど、それまでは他の人にやらせればいいでしょ」

「確かに」

「そうしたら雇用が出来て、集落が出来る。自然と人が集まっていずれ新しい町になるでしょう」

「はえー……」


 それも役割分担か。


「今私たちが居るのは、南北を海と海に挟まれた草原。東に人間、北にエルフ」

「ふむ、綾子の言う通り町を興すなら中間地点が良いだろうな」

「正確には、微妙に中間を外れて海沿いが良いと思う」

「ほほう?」

「エルフが欲しいのは海由来のものだろうし、交易の拠点にするなら船の乗り入れも考えないと」

「……なるほど」


 うーむ、これでも一生懸命考えているつもりだが、綾子の頭脳に追いつくのは大変だ。明らかに考え付く量が違うし、細部まで考えているようでスケールが大きい。敵わないな。


 いっそ考えるのは全部綾子に役割分担して、俺は下働きしたほうがいいのではないだろうか。そうだ、そうしよう。


 そんな志の低いことを考えていると、綾子が警戒の声を上げた。


「三津谷! 前方に小型の魔物!」

「うひっ……!」


 慌てて手綱を引き、馬を止める。


 目を凝らしてみた先には、百メートルほど向こうにハイエナのような肉食獣が居た。わずかに魔力を帯びているようで、通常の生態系から外れた魔物に相当する。


 ハイエナはそろり、そろりとこちらに歩み寄る。牛を狙っている。他にも仲間がいるかもしれず、一斉に襲い掛かられたらマズイ。


 目を凝らしたが残念ながら視界に例の光は灯らない。


「ダメだ、革命スキル発動しない……! 相手がちょっと弱すぎるんだ。綾子さん逃げて!」

「いいえ、大丈夫」

「一旦荷物を捨てよう! ほとんど塩しかないから食べないだろうし、後で回収すればいい」

「大丈夫だって。 ――来なさい、フーリエ!」


 綾子が呼び声を上げ、右手を掲げる。


 次の瞬間、上空から凄まじい勢いで何かが飛来した。昼間の流れ星にも見えたその何かは、大きな猛禽類だった。


 鷲だ。


 翼を広げると二メートル以上、いや三メートル近くあるデカい鷲。獲物のハイエナよりもずっと大量の魔力を蓄えたそいつは、


 どぐしゃり


 と狙い通りにハイエナの頭部に着陸し、一息で眼球をえぐり出した。かと思ったら大きな鉤爪で首を捻り、息の根を止めた。


 濃い茶色の鷲が、一瞬で仕留めた獲物の上で威風堂々と羽ばたいている。飛び立つわけではなく、まさに威を示すがごとく。


「わ、わ……すご」

「フーリエ、お疲れ様。他の奴が居ないか警戒して」


 狩り終えた獲物に向けて歩みを進め、いつの間にか付けていた手袋で大鷲フーリエを迎え入れる綾子。凄い、鷹匠みたいだ。


 フーリエは餌を綾子から賜ったかと思えば、こちらを見てくくっと得意げに一鳴き。それから勢いよく飛びあがり、上空を旋回し始めた。綾子の指令通り他のハイエナが居ないか見守っているのだろう。


「くくっ、て笑った……」

「賢い子でしょう? 街の向こうにある岩谷に住んでいるの。その中でとびっきり大きくて強いあの子をテイムして、魔物を狩りに外を出歩くときは助けてもらっているんだ」

「くくっ、て。得意げに……」

「……?」


 確かにフーリエは空からの視点で警戒に向く。しかもあの戦闘力。獲物を直撃する正確さ。蓄えている魔力の膨大さ。とんでもない使い魔だ。


 ……もしかして俺、鷲に負けてる?


 羨ましい。特に、活躍の後に綾子の手から餌を貰えるのが羨ましい。俺もそれやりたし。やられたし。あれ、マジで最初から綾子にテイムされていればよかったのでは。


 手綱を握る手を震わせながら、俺はあいつとの馴れ初めを綾子に聞いた。


「あ、あ、あいつといつ頃から一緒にいるの?」

「えっと……転移してから一週間くらいだから、もうひと月になるかな」

「……! ど、どれくらい役に立つのあいつ」

「そりゃあもうお気に入りだよ。すっごく便利に――……。フーリエは雌だよ? 鷲って女の子の方が大きいし強いの。テイムするなら強い子の方が良いからね」


 何かを見透かしたように綾子は笑う。


 なんだ雌か。じゃあいいか。


 それでは二つ目に言いたかったことを言おう。


「いいな――――! かっこいい! 俺もそういうのやりたい! あとでフーリエ貸して!」

「ダメだよ。あの子信頼してくれているし、貸し借りできない」

「そんなー……」

「でも、三津谷くんはテイム使えるんだから、自分で捕まえればいいじゃん?」


 本当だ。


 俺も出来るじゃん、そういうの。テイマーの綾子をテイムしたおかげでテイムできるようになった俺(意味不明)。


 ならば俺もそういう使い魔を獲得できるのだ。大蛇シャムールは逃がしてしまったが、二匹目の捕獲といこう。


 そう思っていたところに、手ごろな相手がやって来た。


 ぱにぽにと跳ねて無警戒に近づいてきたのは、小柄な軟体動物。


「ぴぎ?」

「ムッ、貴様、いつぞやの……!」

「? 知り合い?」


 スライムだった。


 颯爽と馬から地面に降り立つ。


 まっ、前回もいい感じに引き分けだったしね。森で戦闘も経験したらから、そろそろこの小生意気な小動物をぶっ飛ばせる頃合いだろう。


「ふっ、森を越え、修羅場を越え、成長した俺の姿を見よ!」

「ぴぎ――――っ!」

「ぎゃふん!」


 ぶっ飛ばされた。


 一部始終を、綾子に馬上から見下されるのだけは勘弁して欲しかった。

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