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第十六話:横恋慕

 雷鳴が轟く荒れ模様を背に、久遠が怒りの形相で入室してきた。


 意外だった。この男は剣の腕は立つけれど、玲奈の策略に気づくほど冴えるとは思わなかった。やるじゃん。事務書類を必死に漁った俺しか気づけないと思ったよ。


 俺は久遠を少し見直し、そして直後に失望した。


「玲奈! どういうことだい」

「な、何よ圭。どうしたの」

「とぼけても無駄だ! 君は隣町の転移人グループにも所属しているだろう!」


 ガクリ、と足を滑らせそうになった。


 久遠がしているのは掛け持ちの非難。別に玲奈が形成した利子巻き上げシステムの全貌に気づいたわけではなかった。周回遅れの糾弾である。


 ってかそもそも――


「あの、久遠先輩」

「あ、ああ、三津谷君。すまないが少し待っていてくれ」

「掛け持ち禁止って会則にありましたっけ」

「そ、それは……! 罰則はないが、ここの備品を外部に持ち出せばみんなが困るだろう!」


 確かにそうだけどさ。俺は久遠の態度に違和感を覚えた。別にいいじゃん、それくらい。


 玲奈の仕掛けが実に巧妙で壮大だった分、そのほんの一端をつまんで怒る久遠は少々滑稽だった。おそらく、百人を越える人員の取りまとめに神経質になっているのだろう。


 玲奈があれやこれやと言い訳しても、一切聞く耳を持たない。ここは見に回っていいと判断して黙っていると、どんどん言い争いは激しくなっていく。


 そして遂に久遠の糾弾は行き着くところまで行ってしまった。


「残念だが玲奈、君は除籍だ。リーダーとしてここから追放させてもらう」

「ちょっ、ちょっと待ってよ圭!」

「駄目だ! この部屋も引き払ってもらう!」

「聞いて、話を聞いてよ……!」


 おいおい。


 意外な急展開。玲奈が痛い目を見て、悪事に対する溜飲は下りた。正直、玲奈の弱みと引き換えに『クラン』の運営に食い込むつもりだった。ここまで不穏当な展開にするつもりはなかった。


 が、こうなるとは。玲奈が必死に翻意をせがむ。悪女は悪女だが、久遠に対する想いはピュアな女子らしいものだった。


 蚊帳の外だが、こうも怒っている久遠に、先程解明した内容の全貌を伝えるほど俺は鬼畜ではない。成り行きを見守っていると、非常に強い口調で久遠は玲奈を追い出してしまった。


 呆れて物も言えない。正気かこいつ。


「……先輩、いいんですか?」

「いいんだ」

「僭越ながら。西園寺先輩は傷ついていると思いますよ。追いかけたほうが」

「いいんだ! 玲奈の離脱は残念なことだが、『クラン』全体の秩序を保つにはやむを得ない」


 正気じゃないな。取るに足らない他人百人と、自分を好いてくれる女の子一人。秤にかけるまでもない。


 が、久遠の秤はぶっ壊れているようだ。正直言っていま出ていった子を追い詰めたとき、久遠が乱入してきて一対二に陥ると思った。リーダー権限で理屈を弾き飛ばし、追放されるのは俺だと覚悟した。


 そんな風に、女の子のことはどんなに理屈が通らなくても味方する。その基本がこいつは出来ていない。面白みがないイケメンだとは思っていたが、俺の中の久遠の評価は嫉妬抜きに最底辺に達した。


「じゃ、俺はこれで失礼します。変なところに居合わせてすみませんでした」

「いや、いい。君もこのグループを守るために、どうかこれからも力を貸して欲しい」

「もちろん」


 心にもないことを告げ、俺は玲奈を追いかけた。


――


 雨が降っていた。


 オッカズム郊外の集落の、そのまた端。冒険者用の宿の軒先で、膝を抱えて泣く玲奈を見つけた。


 ずぶ濡れになっている彼女を心配してか、それとも下心があってか。数人の男が取り巻いて声をかけているので、鯉口を鳴らして追い払う。憔悴しているようで、俺が来なかったら玲奈は簡単に今の奴らに付いていっただろう。


「先輩。風邪ひきますよ。中に入りませんか」

「……ひどいな。……圭に告げ口していたの……?」

「まさか。だったらあんな、トンチンカンな非難はしないでしょ」

「……そうだけど、そうだけど……私、これからどうしよ……圭……」


 膝に額をあてて玲奈は泣き続ける。外敵、つまり俺と対峙しているときはあんなに堂々としていたのに。


 身内に切られたときの玲奈の脆さは実に意外なものだった。泣きじゃくる玲奈を引き連れ、建屋に入る。


 俺は心に決めていた。ささっと『生徒会』の敵を討ったらミッションコンプリートのつもりだったが、延長戦をやる。この子は雨の下に放置するにはあまりにももったいない女性だ。久遠が見捨てるなら遠慮なく俺が貰おう。


 濡れた髪を丁寧に拭き、放心している玲奈の背中を抱き寄せる。


 細い。魔法が実に巧みだが、こう抱きしめてみるとか弱い女の子であるのはよく分かった。俺の体温で冷えた体が温まり、玲奈の緊張が解けていく。抱き寄せる手の位置を腰と後頭部に変える。


「あ、あの、三津谷君、ちょっと……!」


 混乱している隙に玲奈の唇を貰い受けた。後で聞いたらファーストキスだったらしい。


 ビクリと肩が震え、身を捩って俺の腕から抜け出そうとするが逃しはしない。抵抗がゆっくり収まったところで一緒に寝具に倒れ込んだ。


「き、君、何をしているのか分かっているの……?」

「分かっています」

「待って……! わ、私、もう一杯一杯でわけわからないの……! せめて一晩考え――」

「一つだけ断言できます。俺のほうが大切に出来ます」

「そ、んな、こと」

「あります。あの男よりはずっとずっとマシです」


 混乱で処理能力の限界を迎えていた。されるがままに二度目の口づけを許し、雨で濡れた服を、風邪を引かないように剥いてあげるのにも抵抗が浅い。


「俺のものになってください。あの『クラン』の中で、貴女が一番いい女です。だから貰います」

「ストップ……! か、考えさせて。確かに三津谷君が、ゆ、優秀なのは、気づかなかった。驚いた。けど、いき、いきなりで……!」

「少なくともあいつよりは俺のほうが相応しい」


 失恋直後に求愛されて、玲奈のガードは意外なほどに緩くなっていた。人肌が恋しいのだとよく分かった。


 三度、舌の熱を交わす。玲奈の瞳孔は混乱や諸々で開いている。息は荒く、真っ白かった頬は暗い部屋でも赤いのが分かる。


 力が緩んでいる隙に片膝を持ち上げ、その間に腰を入り込ませた。


「はーっ……、はーっ……ま、って……わかんない……」

「決めてください。俺を選んでくれたらさっきみたいな嫌な思いはさせません」

「っ!」

「選んで」

「い、い、いいのかなっ……! け、圭っ! 圭!」


 本心では承知しているだろう。あの男は君にふさわしくない。アリバイを作るように元彼の名前をつぶやいているが、首から下は全く抵抗していない。


 狙いを合わせ、俺のに玲奈の体温が伝わってくるまで詰め寄る。


「いいですね」

「い、いいの、かな……いいのかな……」


 少しずつ距離を詰めると、ギリギリと玲奈の小指で赤い糸が張り、ほつれていくのがよく分かった。その糸を問答無用で、


 ぷちん


 と切る。痛みと衝撃で玲奈の体が跳ねた。


「あぐ!」

「ふー……いい子です。俺を選んでくれてありがとうございます。そのまま力を抜いていて」

「圭! ごめん、わ、私、()られちゃった……!」

「暴れると痛むから。じっとして」

「は、はひ」


 ぎゅうっ、と両眼を固く瞑っている玲奈の頭をくしゃくしゃと撫でる。手に入れた。あとは逃がさないだけだ。あの元カレのように下らない理由で手放したりはしない。


「慣れてきたら俺の動きに合わせて」

「はっはい♥、はっ♥ どうしよう! どうしよう圭! っ、っ♥、全部盗られちゃうよ! 私この人のものになっちゃう! 全部書き換えられ――……あ”!」

「ふう、玲奈があいつのことばかり呼ぶから、嫉妬でマーキングしちゃいました。もう一回です。次は俺の名前を呼ぶように」

「は、い♥ 葉介、葉介君っ。お願い、き、きみは、私のことを捨てないで……お願い……!」

「当たり前です、一生俺の側にいなさい」


 これで玲奈の初恋は終わりだ。後は、運命の相手として俺がしっかり幸せにしてあげよう。

よくないところが出てるな

三話に一回くらいのハイテンポでハーレム増やすのはよくない(反省)

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