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第十三話:魔力否定戦術

 一度オッカズムの中心街に戻り、翌日も『クラン』の集会に参加することにした。


 ここで影響力を確保するには少々時間がかかりそうだ。というのも思ったより所属員、特に首脳陣の実力が高い。本腰を入れる必要がある。


 今日は森での討伐クエスト。レッサードラゴンよりもずっと弱いゴブリンの群れの撃退だ。群れの中心に魔術を操るゴブリンシャーマンが居るらしいが、別に魔王軍に強化されているわけではないので大したこと無い。


 少しずつ連携が慣れてきた四郎に背中を任せ、俺は剣を振ってゴブリンを追い払う。


「それにしても結構出てくるな、魔物」

「この辺りは農家ばっかりだからな。元の世界の獣退治みたいなもんだぜ」

「なるほど。田舎なんだな」

「農家でも対処できるんだろうけど……よッ!」

「ふん、忙しいこの時期に人手を割くくらいなら、転移人を安く雇うってことか」

「そゆこと」


 遺憾なことに。まことに遺憾なことに四郎のほうがちょっとだけ、ほんの少しだけ俺より実力が上だ。


 昨日のことで何か吹っ切れたのか自信も見える。短剣を器用に操り、またしてもゴブリンを一匹仕留めた。


「ところで四郎、お前のスキル全然効果が沸かないんだけど。なにこれ外れスキルかァ?」

「それは葉兄が弱すぎるからなんですよね……」


 四郎が言うには、彼の『ブラックジャック』は任意の組み合わせで発動しパーティーの実力を底上げできる。


 でも俺が弱すぎるから、結局四郎一人分の実力しか連結できていないようだ。悲しいなあ。


「俺、葉兄についていって本当にいいのかなあ」

「おい、それ以上言ったら泣くぞ」

「でもよお……アレを見ちゃうとなあ」


 俺達がいるこの辺りは陣形でいうと左翼の端だ。ま、いわゆる脇役。良く言えば縁の下の力持ち。他に援護に向かわせないよう一通りゴブリンの動きを押さえ、こちらの仕事は完了。


 あとはこちらの中核が孤立した敵のリーダー格を潰せばいい。


 その戦場の中心を四郎が指差す。四郎が言ったアレとはつまり、久遠圭と西園寺玲奈のコンビことだ。二人が跳ね飛ぶようにゴブリンの群れに切り込んだ。他の転移人の実力者たちもあとに続く。


 戦場は一対一ではなく、集団戦の様相を呈してきた。


「……た、確かに少しはやるようだ」

「葉兄の千倍強ぇえ。んー……久遠さんのほうが七で、西園寺さんの方が八か九かな」

「お、俺は一だからせいぜい九倍だろ!」

「葉兄は一ってよりもほぼゼロだから……ついていく人、間違えたかなあ……」


 員に備わるのみ。四郎がそんな無情な評価を下す中、対ゴブリンの戦況が動いた。


 純正の魔法使いの玲奈がゴブリンシャーマンの正面に立ち魔術戦を開始。シャーマンが唱える呪文に魔力をぶつけ、ことごとく打ち落としている。


「な、なあ四郎、あれどうやってんだ? 俺、魔法のことはあんまりよく分かんなくて」

「俺も詳しくはないけど……出鼻だ。詠唱の出鼻を狙っている」

「狙えるのか」

「普通は無理だぜ。でも実際にやっている。凄い腕だ。小さい魔力で敵のデカイ魔法を潰しているんだ」


 玲奈の魔法運用は実に合理的なものだった。威力自体は俺が知っている他の魔法使いより小さい。敢えて弱くしているのだとしばらく見ていて気づいた。


 ゴブリンシャーマンが遮二無二発動している呪文を、より少ない魔力ではたき落としている。有利な持久戦だ。玲奈は詠唱速度と魔力貯蔵量に自信があるのだろう。


 魔力の消耗が相手と同等かそれ未満なら、最後に立っているのは自分だ、という戦い方をしている。


 その証拠に、シャーマンの取り巻きを潰す火花も必要最小限。終盤まで脚を温存する差し馬のようだ。そして遂に向こうの息が先に上がった。


「そこ!」


 ゴブリンシャーマンが立っているのすら杖に頼りだした。それを確認して玲奈が戦い方を切り替える。迎撃ではなく息の根を止める気だ。


 つい、と魔法杖を玲奈が横薙ぎに操る。今までは一本ずつ放たれていた閃光が、その杖先の動きに合わせて大量に飛び出した。温存していた魔力が開放され、ゴブリンシャーマンやその取り巻きを一呼吸のうちに黒焦げにしてしまった。


 農家からの依頼ではちょちょいと追い払うだけで良かったゴブリン討伐。終わってみれば、久遠は十体、玲奈に至っては三十体以上の数え切れない量を根絶やしにしてしまった。


 俺だって一体倒したぜ。


――


 ゴブリン撃破の報奨金が配られる。


 一人あたり銀貨三枚。流石にもう一件クエストをこなすのはしんどいので、これが日給となる。久遠や玲奈の方は数倍貰っているだろうけれど、一般的な転移人としてはこんなものだ。


 この世界は町によって相場の上下動が激しい。物流が未発達だから、元の世界のようにどこでもジャンプを同じ値段で買えるわけではない。


 ただまあ、銀貨三枚で大まかに三千円くらいだろう。貯金や装備の新調を考えると厳しいが、食い扶持を稼ぐという意味では妥当なものだ。


「ふーむ。こういうのを月に十件こなせば会費を払える、か。どう思う? 四郎」

「まぁ相場通りってところかな。俺は別に不満ないぜ。現地人が結成している冒険家ギルドみたいなものも、それくらいの会費は取る。その分クエストの情報集めとか、メンバー募集とかが楽だし。備品だって使い放題」

「使い放題はデカいな。で、これプラス生活費、か」

「装備は『クラン』で準備してくれるし、いざとなれば集会所で寝られるからな」


 生活できなくはない。トリバレイのように大きく財を稼ぐのは無理だが。


「けど今は俺達にとって景気が良いんだぜ」

「そうなの?」

「だって今が田植えの時期だぜ。獣も冬眠から覚めてウロウロしだす」

「ああ、そうか。クエストが多いんだ」

「そういうこと。季節が変われば討伐依頼は減るし、農家の方が不作なら支払いも渋くなる。実際、冬の頃は『クラン』も結構厳しかったらしい」


 貯金はしておいたほうがいいぜ、と四郎は言った。季節や年によって収益が動くのか。それは厳しいな。


 そういうのを見越して融資制度もあるとのこと。その辺の運営も玲奈がやっているというから驚きだ。戦闘が強いだけじゃない。すっかり『クラン』の首脳陣に感服した俺は、久遠が爽やかにねぎらってくるのに普通に喜んでいた。


 自慢じゃないが、長いものに巻かれる速度なら誰にも負けん。本当に自慢じゃなかった。


「やあ。黒羽君、三津谷君、お疲れ様。左翼を支えてくれて助かったよ」

「い、いえいえ! 全然何にもできず、はは、すみません……」

「右よりも左のほうが、敵の流れてくる量が少なかった。本当だよ。三津谷君、そういう戦術とか得意なのかい?」

「滅相もない。たまたまですよ! お役に立てて嬉しいです!」

「……この人、首脳陣に食い込むとか言ってたのになあ……」

「四郎! お前も行儀よくせんか!」

「はいはい」


 ガミガミと四郎の態度を叱る。全く、久遠大先輩に尊敬の念が足りんのだこやつは。すみませんね、ちゃんと言って聞かせますので。


「こいつは昔から上下の関係がしっかりしていない愚か者でして」

「いや、構わないよ。俺たちは運命共同体だ。元の世界での学年差なんて気にすること無いさ」

「剣の腕も素晴らしい」

「ん? ああ、俺の剣術かい。実は転移特典に秘訣があってね」

「その実力なら、ミッドランド国のもっと中央で活躍できると思います」

「うーん、そうかもしれない。でも、やっぱり同じ世界の君達と一緒に居たいのさ」

「混乱よりも平和が一番ですよね」

「ああ。まずは秩序だった生活基盤が大事だ」


 中庸。


 保守的。


 いい人。自分の野望よりも全体の利益を優先する傾向。裏表がない。


 異世界で半年暮らし、これでも人を見る目は養ってきたつもりだ。こいつではない。


 もし陸奥葵や他の『生徒会』メンバーを追い出したやつが居るとすれば、こいつではないだろう。


 隣人として理想的。トリバレイとミッドランドの中間、緩衝地帯に据えるとしたらこういう人物がいい。


 我ながら性格が悪くなってきた。久遠の本質を目ざとく読み、公私で抱える案件にインプットしていく。トリバレイ首脳陣やどこぞのバルトリンデ婆さんの性格の悪さが移ったかな。

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