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第十二話:ブラックジャックにもよしなに

 討伐したレッサードラゴンの群れを荷台に載せ、牛に引かせる。


 俺と四郎は『クラン』の根拠地を目指していた。戦いで活躍しなかったのだからこれくらいの雑用に文句は言えない。


「いいところなかったな、四郎」

「……おう」

「お前あんだけ自信満々だったのに一匹も倒せないって……親戚として恥ずかしいわ……」

「葉兄もボウズだろ。ドヤ顔晒して言ってた、何だっけ? 修羅場を越えてきた(笑)とは?」

「……俺は頭脳派だから……」

「数学万年赤点じゃねえか」


 お互いいがみ合いにいつもの鋭さがない。自分が役立たずだったと理解しているからだ。二人揃って肩を落とす。


「……凄かったな、久遠先輩たち。実は俺、一緒に狩りに出るの初めてでさ」

「ありゃ白兵戦の転移特典貰っているな。それに装備も、資金不足なりによく揃えている」


 ウチの姫野佑香には遠く及ばないものの、その辺の現地人魔法剣士とかより何倍も強い。久遠圭。同盟を結ぶには頼りになる相手だ。


 我ながら元の世界では考えられない評価結果だ。仮に平和な高校の中庭で出会っていたら、忌々しいイケメンなんて呪詛放って目を合わせないだけ。


 だが、トリバレイという国を背負っている今の立場なら感じ方も違う。手を結んだり、影響力を広めたりする相手が優秀なのは喜ばしいことだ。


「それに西園寺先輩や、他の人たちも」

「ああ、かっこよかった」


 西園寺玲奈は生粋の魔法使いであった。観察していたところによると、トリバレイの魔女たちとは違って特殊な術式はない。


 ただ、その一つ一つがとんでもなく速い。詠唱速度ブーストのような転移特典があるのかもしれないが、少なくともそれを使いこなす技術がある。異世界の荒波を乗り越えてきた経験値が見て取れた。


 そう、どいつもこいつもしっかり強い。この『クラン』に集まって魔物を討伐する奴らは、それなりに練度が高い。例外は俺ともう一人。隣にいるこの男は、


「四郎」

「ん」

「何か隠しているな」

「は、はは。俺も同じことを聞こうと思っていた。葉兄、何か実力隠してんだろ」


 儚げに黒羽四郎が笑う。


 淡く、そして歪んだ笑みは今すぐにでも草原に溶けて消えてしまいそう。転移特典を隠すのは普通のことだ。自分の実力を公開して、仲間に裏切られたりしたら目も当てられない。


 特に俺のようなピーキーすぎる能力の場合はなおさらに。だから四郎が隠すのもおかしくはない。


 別に俺だって追求するつもりはなかった。従兄弟の表情がホッとしたような、悲しそうなものでなかったなら。四郎がスキルを隠すのは、能ある鷹は爪を隠す以外の理由がある気がした。


「はぁー……じゃあ俺から言うわ。俺の転移特典は革命スキル」

「は? 革命?」

「ステータスはクソ雑魚なんだが、ある一定以上に強い敵なら逆転現象が起きて倒せる。内緒な」

「……マジ? めっちゃ強い奴にも勝てるってこと?」

「むしろ、めっちゃ強くないと勝てないけどな」

「どのくらい?」

「とてとて++くらい」


 レッサードラゴンは強かったが、とてもとても強いというわけではなかった。


 先に俺から秘密を明かしたことで少し肩の荷が下りたのか、それとも誰かに打ち明けてしまいたかったのか。四郎は重い口を開いた。


「俺の転移特典もスキルだったよ。転移時に渡された羊皮紙に出たスキル名は『ブラックジャック』」

「お、かっこいい。そのこころは」

「一人だと発動しない。誰かとペア以上を組めば、お互いがお互いを高めあって強力な連携ができる」

「いいじゃん」

「ただし。ただし、どれだけ組んでもOKというわけではないんだ。組んだメンツの総合値? みたいなものが一定以上強いと、逆に全員ガクンと弱くなる」

「おぉ……!」


 文字通りブラックジャック、ってわけか。


 二十一を超えるとバースト。問答無用で負け。俺は四郎との血の繋がりを改めて感じた。


 お互い妙に限定的なスキルを貰ったもんだ。自分のことを棚に上げてからかってやろうとして、やめた。


 こんな風にあいまいに笑う従兄弟を、長い付き合いの俺は見たことがなかった。くしゃりと前髪を掴んで四郎が続ける。


「慣れてくると見えるんだよ。自分や相手の数値がどれくらいか」

「索敵・評価にも向く。意外と便利じゃあないか」

「……葉兄ならどうする」

「ん?」

「俺が四で、ダチ三人とも実力は六だった。厄介なことに体調や訓練で微妙に変わるんだよ、これ」

「うーむ……合わせてバーストか」


 持ち前の計算能力の速さを発揮した俺は、四プラス六かける三が二十二だということを、たちどころに、十秒くらいで弾き出した。


 ブラックジャックのルールに則ると二十一なら最強。誰か一人、一回り小さい実力ならいい四人組パーティーだったのだろう。


「あの日はたまたま一人が成長して、閾値を超えた。絶好調で魔物狩りまくっていたから、超えてどうなるのか……確かめたことはなかった。でも直感でわかった。このまま四人組を維持したら死ぬって」

「……ほう」

「山中で妙に強い小鬼に囲まれてさ。スキルを発動しないと切り抜けられなかった」


 葉兄ならどうする、と四郎は再度問うた。


 スキルを完全に解除すると全滅する。しかし四人ともスキルで連結しても全滅する。連結が三人なら逃げ切れる勝機が生まれる。


 言い換えれば、一人見殺しにすれば助かる。スキルを維持するためにもその一人とは四郎以外でなければならない。


「どうするって、一人見捨てるしか無いだろ」

「……あのとき、指を一本切り落とせばよかったって今でも思う」


 そうすりゃあ俺の実力が減ってなんとかなるからな、と四郎は無理やり笑った。怖いこと思いつくなこいつ。


「実際にはとっさに一人選んで見捨てた。ダチに好き嫌いなんてなかったから、本当にとっさだった。一番逃げ遅れる位置だった奴」

「死んだのか。そいつ」

「いや、雨も降ってないのに山頂から濁流が突っ込んできてな。小鬼がたまたま全滅した」

「へえ」


 はん? 小鬼が河に流される……どっかで聞いたことがあるお話だ。子供の頃に漫画か何かで読んだのかな。


「たまたま全員助かって、見捨てたそいつにしこたま殴られたよ」

「だろうね」

「他の奴らも疎遠になった。そりゃそうだよな。それで、一人になって……あとは現地人の冒険者と組んではバラバラになって、さ」


 俺はどうすりゃよかったんだ、と四郎がまた問う。


 その問は俺に向けたものではなく自問だった。四郎のスキルは強力だがデメリットも大きい。人間の実力が一定でなく、人間関係も一定でない以上、生涯付き合えるパーティーを組むのは不可能だったのだろう。


 元の世界では人当たりの良かった従兄弟は、この世界では人付き合いに怯え、定住地を求め彷徨う青年になっていた。『クラン』に来たのもパーティーを組む選択肢が多いからか。


 やれやれ、これだから四郎はガキなのだ。年長者として正しい道を教えてやるか。


 最近癖が移ったのか、ピンと人差し指を立てて俺は四郎を導く。


「指を切り落とすなんて論外。親に貰った体は大切にしろ」

「で、でもよ……それくらいしか方法が……」

「それしかない状況に追い込まれたのが悪い。お前は実力に幅を持たせ、そして実力を上下に動かせる術を身につけるべきだ。今からでも遅くない」


 ん……? なんだか喋っていて、自分のことの棚に上げっぷりが加速してきた。


 気のせいかな。気のせいだろう。年下の親戚には見栄を張る物だ。


「実力を、操る?」

「そうだ。ブラックジャックで最強のカードはエースだろ。一にも十一にも、いや、その中間でもなんでも成れる男を目指せ」

「……! なるほど」


 そうすりゃ最強さ。


「そして四郎、俺もまた実力を操る者だ」

「はー? 葉兄さっきからずっとゼロか一なんだけど……」

「修行中なのだ! とにかく……俺に背中を預けろ、四郎。俺とお前のスキルは相性がいい」

「ま、お互い実力を振れさせるなら、悪くない組み合わせか」

「友人がどうだったかは知らんが俺からは離れなくていい。お前の実力があやふやでも、こっちでバッチリ合わせてやるよ」

「は、はは。葉兄って昔から変なところでかっこいいよな」


 四郎が目元を誤魔化すように先行し、荷台を引き始める。お前がどんなに頑張っても牛さんの足元にも及ばないぞ。


 従兄弟が泣き虫で仕方がないので、俺も一緒に荷台を引いてやった。

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