エピローグ
長い、長い話を終えると、彼女はふっと息を吐いて、もう何杯目か分からない、しそ焼酎を一口飲んだ。グラスに入れる氷は話の途中で何度も足され、時計は午前三時を回っていた。
もちろんこの話を彼女は一気にしゃべったわけでなく、時々休みながら、時には僕の質問を受けて話を中断しながら話した。ただ、読者の皆さんに分かりやすいよう、一続きに彼女がしゃべったように、僕が話を仕立て直しただけである。
「それで? その後どうなったの」
話し終えた彼女に僕は聞いた。
「どうもしないよ。そのまま帰って、お母さんにまた叱られて、お父さんは成仏しちゃったから、それ以来東部宇都宮には行ってない。それで――今の私はこんな感じ」
彼女は言って、ふふ、と笑った。僕は黙った。この時彼女は二十三歳で、高校を中退した後、母親の元を離れて、アルバイトをして暮らしていた。彼女が父親に会って救われたかどうかは、僕が客観的に考えても、よく分からなかった。
「――で、どこからどこまでが本当にあったことなの?」
僕はいじわるに聞いた。すると彼女は僕の顔を見て、幽かに笑みを浮かべた。そして二人で座っているソファの脇の床に放り出されていた、ショルダーバッグを手に取った。バッグを開き、財布を取り出した。
「お父さんとの思い出の品は、これしかないから、大切に取ってあるんだけど」
そう言いながら彼女は、財布の中から一片の小さな紙を取り出し、「はい」と僕に渡してきた。
手のひらに置かれたその紙を僕が見ると、それは確かに、
「東部宇都宮→藤岡」
と書かれた、色褪せた赤い切符だった。




