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住宅街を縫ってシンさんの住むアパートに行った。父の住むアパートとは違い新しく、外壁がレンガ造りに模してあっておしゃれだった。
アパートの前にシンさんが立って、片手に傘をさし、もう片方の手で煙草を吸って待っていた。シンさんはグレーのジーンズに白のシャツ、その上に茶色い革のジャケットを羽織っていた。背が高いので、その服装が良く似合っている。その近くで車を停め、父が短くクラクションを鳴らすと、シンさんは煙草を携帯灰皿にもみ消してこちらに手を挙げた。
「おー朱里ちゃんこんにちは。髪切った?」
シンさんは助手席に乗ると後ろを向いて私に笑顔を向けた。「こんにちは」私が言うと、「いやあ悪いね朱里ちゃん、親子水入らずのところをじゃましちゃったみたいで」
私が返答にまごついていると、運転席に戻った父が、
「いいのいいの! 皆でわいわいしてた方が楽しいし、それに会うのももう三回目なんだ」
「三回目! そりゃあうらやましいな」
シンさんが心の底からそう思っていそうな声をあげた。
住宅街から大きな通りに出、車を西北に走らせて宇都宮の郊外へ向かった。その二十分ほどの間、父とシンさんはずっとパチンコの話をしていた。北斗の拳がどうとか、倖田來未がどうとか、どこどこの店は釘がガチガチに締められていて全然回らない、とかそんな話ばかりで、私は一人後部座席で若干退屈した。父とシンさんはそもそも今日も、昼を一緒に食べた後、シンさんがもつ焼き屋の仕込みをはじめる時間まで、二人でパチンコ屋になだれ込む予定だったようだ。私は二人の会話を聞き流しながら、だんだんひなびていく窓の外の雨の中の景色をひたすら眺めていた。
一軒家と林ばかりが目立つ、ずいぶんな田舎に来たところで、道端にあったこぢんまりとした石造りの建物のタイ料理屋に入った。三人でシェアできるコース料理を頼んだ。私は生まれて初めてパッタイとトムヤムクンを食べた。トムヤムクンの辛さに私がむせると、シンさんがおかしそうに笑った。
会計時、父とシンさんどちらが会計を持つかで若干もめた。
「こないだのお礼だって話だったじゃん」
父は言いながら五千円札を出す。シンさんはそれを押しとどめてレジの前に立ち、財布を開いて、
「いやあ、楽じゃないんだろ」
「ついこの前、金入ったところだって。大丈夫だから」
「それは暮らしていくための金だろ」
キリが無いので、私が、三人で割り勘にしましょうかと提案したら、それだけはだめだ、と二人が怒って言って結局シンさんと父で半分ずつ出して解決した。
タイ料理屋を出て田舎道をさらに数分走り、なにやら左手に大きな岩のそびえている広い駐車場に着いた。岩は崖のように直角に切り立って、ところどころ木に覆われている。私が見とれていると、駐車場に車を停めた父が、傘を片手に運転席から出ながら言った。
「大谷資料館って言うんだ。大谷石の採掘場だったところ」
「さいくつじょう?」
私も車から出て、駐車場の奥に歩いていく父について行って聞くと、
「石を掘って、採るところ」
「ふうん」




