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プロローグ
彼女は嘘が巧かった。
それはちょっとした会話の中に織り込まれる小さな嘘もそうだし、彼女が本当にあったこととして語る、妄想じみた体験談もそうだった。そもそも僕との付き合いも、彼女には何年も交際している恋人が別にいる上での浮気の関係だったので、その恋人との交際には少なからず嘘が介在していただろうし、彼女自身「私は嘘をつくのが全然悪いことだと思っていない」と言っていた。
これは、そんな嘘の巧い彼女が、真夏のある夜に、僕に語った長い話である。彼女は彼女のアパートの部屋で、二人掛けのソファの僕の隣に座り、齢に似合わないしそ焼酎の入ったロックグラスを片手に、その独特の湿り気のある声で、
「誰にも話したこと無い話なんだけど」
と前置きして、静かに話しはじめたのだった。