ex みんなで種植えをしよう!
「動かないな」
画面の向こうでショックのあまりか倒れたままの女神様。
俺が種を育てたことがそんなにショックだったのだろうか?
「おーい!」
反応がないただの屍のようだ。
一応ピクピク動いているので死んではいないようだが。
そもそも神様が死ぬのかどうかわからないけど。
神殺しとかいう言葉も在るし、ゲームとかだとしょっちゅう殺されてるけど。
「とにかくもうすぐ二人が風呂からあがってきそうだし、ごめん女神様。続きはまた今度」
俺は画面に向かって手を合わせてから、リモコンでテレビの電源を落とした。
「でも次女神ちゃんねるに繋いだら怒られそうだから、ほとぼりが冷めた頃にしよっと」
それまではこのテレビはただの置物である。
俺はそっとリモコンをテレビの下の棚に仕舞い込むとリビンクの椅子に深く腰掛け息を吐いた。
「しっかし、やっぱりあの種は色んな意味でヤバかったのね。思いっきり育てちゃったけどさ」
とりあえずしばらくあの種を食べるのはやめたほうが良いのかもな。
でも魔力が上がる種をみつけたら絶対に育てたいし。
「その時はその時だな。そもそも他のチートの種がこの世界にあるとも限らないわけだし」
無闇矢鱈に世界中を探し回っても見つかるとも限らないし。
あの種っ子ちゃんが、新しい情報を仕入れてくれるまでは動く予定はない。
そもそもやっとの思いでスローライフ出来そうな今を手に入れたというのに、それを味わう事もなく旅立つなんてありえない。
「拓海様」
「お風呂気持ちよかったダス」
廊下から風呂上がりの湯気を纏った二人がリビングに入ってきた。
うん、色っぽい。
特にカデミアは、その体だけはいろいろとご立派だ。
エレーナの方は……うん、可愛いと思うよ。
「拓海様……」
そんな邪な目で見ていたのを察したのか、エレーナの目がちょっと怖い。
大丈夫だ、俺はどっちも好きだぞ。
「じゃあ今度は俺が風呂入ってくるから、二人は先に寝てていいよ」
「いいえ、まだ眠くないですし紅茶でも飲んでゆっくりしてます」
「カデミアはさっきまで寝てたから全然眠くないダヨ」
たしかにまだ寝るには早いか。
魔道具のおかげで家の中は明かりが灯っている。
この世界の人達は現代日本の俺達と同じく、日が落ちてもすぐには眠らない習慣が出来上がっているのだろう。
俺はそんな二人を置いて風呂場に向かい脱衣所に入る。
ほのかにいい香りがする気がする。
「まぁ俺は変態ではないので普通に二人が入った後の風呂に入っても問題ないわけだが」
などと言い訳めいた事を呟きつつも何故か気恥ずかしい思いで風呂に入るのだった
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて皆さん、準備はいいかい?」
「はい」
「だべさ」
翌朝、俺達は全員そろって庭に並んでいた。
みんな今日は動きやすい格好に着替えている。
エレーナは妹の中学時代の体操服。
残念ながら妹のころはすでにブルマではなく短パンになっていたので皆の期待には添えない。
だが、それはそれでいいものだと俺は思う。
一方カデミアは持ち込みの作業着である。
どうやらダスカール王国で奴隷解放された後、復興のために動き回りやすいようにとエリネスさんが買ってくれたらしい。
上半身は結構ピッチピチのシャツなのでちょっと刺激が強い気がしないでもない。
「ぴぎゅー」
お前はいつもどおりの全裸だろう。
なぜ解説してもらえると思ったのか。
「今日から本格的に畑で野菜を作るつもりだ」
一応エレーナがウリドラと共に里帰りしている間にも何度も育ててはいたのだが、育ったと思ったそばから尽く森の野生動物に食い荒らされてしまっていたのだ。
だが、ウリドラという番猪が帰ってきたことと、ウォール丸太が出来上がった今、もう何も怖くない!
正直やっとここまで来たという気持ちでいっぱいで、少し涙ぐんでしまったのは内緒だ。
「というわけで皆で手分けして家の周りに作った畑に種を植えていってほしい」
緑の手の力を、ちょうどいい加減で与えて耕した畑を指さしながら告げる。
「エレーナさんは右の畑にこの種を。カデミアは左の畑にこっちの種を、これくらいの間隔を開けて埋めていってほしい」
俺はそれぞれに種袋を渡してから、両手で種を植える間隔を伝える。
「ぴぎゅ!」
「ウリドラは……そうだな、今夜は寝ずの番をしていてほしいけど今は特にやることはないけど」
「ぴぎゅう……」
やる気満々だった顔がしょんぼりとする。
といっても本当にウリドラに頼むようなことがない以上どうしようもない。
「そうだな、それじゃあウリドラには午前中は空から鳥とかが種を奪いに来ないように見張りをしててもらって――」
エレーナ達がいない間、俺が馬鹿みたいに美味しい野菜を野生動物に無償提供したからか、実は今も屋根の上や畑の上で鳥が何話も旋回しながら様子を見ているのだ。
種まで食いに来るかどうかは謎だが、用心に越したことはないだろう。
「昼からはカデミアと一緒に森へ狩りにでかけてもらおうかな」
「ぴぎゅ!」
「猟なら得意ダス!」
一人と一匹が嬉しそうに答える。
「それで、カデミアは動物を狩ったあとの処理とか出来るの?」
「もちろんダス。男どもが狩ってきた獲物の処理はオイラたち女の仕事だったべよ」
スローライフをするためにはやっぱり現地で動物を狩って食料にすることも必要だろうとは思っていた。
極力野菜のことしか考えてなかったのは、現代日本人サラリーマンだった俺に動物を捌くのはハードルが高すぎると思っていたからだ。
魚を三枚におろすくらいは出来るのだが、動物はやっぱりきつい。
いつかはやらねばならない。
ちょうどいい講師も目の前にいることだし、カデミアにこれからじっくり教えてもらおう。
でも、まだ今日はいいよね。
うん、ちょっと心の準備とか必要だし。
「じゃあ狩ってきた獲物の後処理はよろしく頼んだよ」
「まかされたべ」
「ぴぎゅ!」
いや、ウリドラは焼くくらいしか出来ないだろ。
しかも消し炭にしそうな未来しか見えない。
「それじゃあ午前のお仕事、張り切っていってみよう!」
「「おーっ!」」
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