ex カデミアの村
はてさて、どうしたものか。
カデミアの突然の告白の後、俺は「お、おぅ。ありがとな」と、当たり障りが無いと思う返事を返すことしか出来なかった。
何故かエレーナから「それだけですか? もっと言い方ってあるとおもいます」等と責められたのが解せない。
エレーナは俺のことが好きなんじゃなかったのか。
なのに何故、他の女性との恋路を応援するようなまねをするんだろうか。
もしかして俺、本当はエレーナに嫌われてるんじゃなかろうか。
髭もないし。
しかし、俺のそんな返答に当のカデミアは何故か俺の返答にスッキリした顔をしていた。
多分ずっと言えずにいた思いを吐き出して胸の支えが取れたのだろう。
「はぁ~、やっと言えたダス」
彼女はそう呟くと、そのままソファーに沈み込むように座り込んだ。
というかさっきから気になっていたんだが。
「カデミア」
「はい、返事くれるダスか?」
「いや、そうじゃなくて」
「じゃあ何ダス?」
正直、筋肉ムキムキマッチョなエルフってだけでも可怪しい女である。
なのにその一応エルフなので端正な美女然とした顔から紡ぎ出される言葉が、まったく彼女の美貌とそぐわない。
「カデミアの実家ってエルフ領のどこらへんに在るの? もしかしてど田舎とか?」
「さすが拓海様だ。オラの実家の場所もお見通しとは恐れ入ったべ」
「いや、うんまぁ。少しだけそうじゃないかなと思っただけなんだけどね」
俺は天才を見つけたとばかりの顔をするカデミアから目をそらしながら答える。
「それでどうしたダスか? も、もしかしてっ!!」
カデミアが何故か赤らめた頬を両手で挟み込みながら、その巨体をモジモジさせ始める。
うん、とっても不気味。
「もうオラの両親に挨拶に来てくれるってことだべか」
彼女はそんな的はずれなことを言いながらモジモジを更に加速させる。
このままではソファーカバーが耐久力0で破壊されてしまう。
俺は彼女のモジモジを辞めさせようと少し腰を浮かした。
その時であった。
「カデミアさん、待ってください」
カデミアの隣りに座っていたエレーナが、カデミアの両肩をがっしり掴んだ。
絵面だけだと、筋肉ムキムキ女子を、お姫様っぽい細腕の少女が抑え込むという信じられない状況である。
ドワーフ族のパワーが凄いのか、もしかしたらカデミアの筋肉は見かけだけの見せ筋なのか。
いや、見せ筋だとしても、それをがっしりとあの細腕で抑え込んでいるだけでも凄いのだが。
「拓海様が困ってらっしゃいますよ」
「そ、そうダスな。オラとしたことがついはしゃいでしまったダス」
その後、俺はカデミアから彼女の身の上話を聞くことになった。
彼女の村はエルフ領でもかなり辺境にあるらしい。
そこでは主に狩りをするのは女の役目であるとか。
もしかしてその村のエルフ女性はみんなカデミアみたいな体をしているのか?と、恐る恐る聞いてみたが、どうやら彼女ほどガタイのいい女エルフは他には居なかったとのことで一安心したのは彼女にはナイショだ。
そんな突然変異的な肉体を得た彼女は、弓の名手が集まるエルフ族の中でも屈指の弓の腕前と言われていたそうで。
さらに風魔法による補助を受けて放たれるその矢は、物心ついて以降、的を外したことはないという。
そんな彼女たちの村の特産品といえば山の幸である。
街に住むエルフたちはすっかり森人精神を忘れて、まともに森の恵みを採りに行くことも無くなっていた。
そんな彼ら街エルフに、森の幸を売り歩いて生計を立てていたのが彼女たちのような森の奥で住まう森エルフたち。
その日も、前日捕れた獲物を解体し、その素材や肉を街に売りに彼女は出かけて行ったのだが。
「街に行く途中の山道で馬車が一台道路脇の溝に嵌って動けなくなっていたダスよ」
純粋な彼女はそれを見て、自分の力なら馬車を溝から持ち上げて抜け出させてあげられると思った。
予想通り彼女によってその馬車は溝から脱し、その馬車の持ち主という商人に街まで一緒に乗っていってほしいとたのまれたそうだ。
街についたら謝礼を払うとまで言われた彼女は素直にその馬車に乗り込み……。
「馬車に揺られている間にウトウトして眠ってしまって、気がついたら奴隷の首輪を嵌められていたダス」
その後、彼女はそのガタイの凄さと弓の腕前から、女エルフとしてではなく男爵の護衛として扱われるようになった。
運が良かったのか悪かったのか。
結果的に俺が助けることが出来たのだから良かったのだろうけど。
「それじゃあ村の人達も心配してるんじゃ」
「んだ。そう思って一応、開放されてからダスカールから手紙さおくっておいたで」
「不当にさらわれてきた皆さんについては、お母様とフィルモア様が責任を持ってご家族への連絡を行わさせていただきました」
そしてごく一部、何やら事情があって帰りたくないという人達を除いて、全員を望む地へ送り届けたそうだ。
ごく一部の人達が微妙に気になるけど、それはただの野次馬根性でしかない。
「さて、カデミアの事はだいたいわかった。早く村に帰りたいだろうに、エレーナのためにここにとどまってくれてありがとな」
「これはオラの望んだことでもあるだで」
望んだこと。
それは多分俺と一緒にいたいとかそういう事なのだろうか。
照れくさいので詳しくは聞かないでおこう。
「そっか、それでもありがとな」
俺はそう告げると「そういえば腹減ったろ? 夕飯温めてやるからエレーナさんと二人で食べなよ」と、椅子から腰を上げ台所へ向かう。
「すっかり忘れてました」
く~っ。
俺の言葉に反応したのか、エレーナのお腹から可愛い音が鳴る。
「あああっ、恥ずかしいですっ」
「腹が減ったらお腹はなるもんだべさ。さぁ、拓海様の作ってくれたご飯を食べにいくだよ」
俺の背後からそんな二人の声が聞こえてくる。
はてさて、レンジの魔力残量はまだ大丈夫だったかな?
そんな事を考えながら俺は、テーブルの上にラップを掛けて置かれていたチャーハンを一皿手にとるのだった。
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