ex ウォール丸太
「ごめんなさい」
俺がウリドラの背中から飛び降りると、エレーナさんがしょんぼりした顔で謝ってきた。
ついのりのりで丸太を差し込み続けていたら、出入り口まで塞いでしまったらしい。
一応今俺が入ってきたようにウリドラに運んでもらうか、ジャンプして飛び越えれば出入りは可能だが、それはそれで誰か訪ねてきた時に大変そうだ。
しかし手刀で出入り口をくり抜けば出入り口は出来るが、こんどはそこを塞ぐ必要が出てくる。
俺にもっとDIYな知識でもアレば自作で扉が作れたかもしれないが、生憎そんな技能はない。
今度街に行った時に、出入り口に使えそうな扉を買ってくるしかないな。
「でもこの世界にホームセンターみたいな店とかなさそうだしな」
「ホームセンター?」
「ああ、工具とか板とか扉とか小屋とかペットまでいろんな物が売ってるお店の事だよ」
「そんなとんでもないお店が拓海様の国には存在するのですか!」
エレーナがさっきまでのしょんぼりしていた姿から、一瞬で好奇心満々な顔になった。
「ああ、まぁね。でも流石にこの近くにはないだろうからどうしようかな」
「出入り口は必要ですものね」
「扉屋さんとか無いよね流石に」
「もの造りが大好きなドワーフのダスカール王国にも無かったので、このエルフ領にはなおさら無いと思います」
「だよねぇ」
でも街の家にはもちろん普通に扉があったよな。
あれはどこで作っているのだろうかとエレーナに聞いてみると。
「普通は建物を作る時に大工さんが一緒に作ることが多いですね。後は鉄製の頑丈なものとかは鍛冶屋さんに作ってもらったりとか」
「それだ!!」
「はえっ」
俺が突然大声を上げたせいでエレーナがびっくりして変な声を出す。
そんな所もかわいい。
とか思ってる場合じゃない。
「たしかファルナスにも鍛冶屋があったよな」
「ええ、ありました。というか拓海様にプレゼントしたガントレットはそこで作ってもらいましたし」
「そこって鉄の扉とか作ってもらえそうかな?」
俺の質問に彼女は少し考えた後頷いた。
「でも鉄扉はかなり高いと思いますよ」
「いくらくらい掛かるんだろうか」
エレーナが口にした金額と、俺の今の経済状況を考える。
うん、ちょっと無理かな。
「また妹の部屋の物を売って金を作るか」
どうせあのまま置いていても使い道のないものだ。
エレーナが住むのに必要最低限な物だけ置いてあとは売っぱらってももんだいなかろう。
そういえばあの筋肉エルフはまだ起きてこないけど、あいつのための部屋も用意しなきゃいけないな。
両親の部屋にでも放り込んでおくか。
「それは今はまだやめておいたほうが良いかと」
俺のアイデアは速攻エレーナによって却下された。
「どうして? どうせ使わないものだしいいんじゃない?」
「いいえ、そういう事ではなく」
エレーナが言うには、前回あれだけ高価なものを売りさばいた俺達は色々な商人にマークされている可能性が高い。
そしてその中には『殺してでもうばいとる』といった、非道な事を裏で行っているような者たちも居ないとも限らない。
俺達だけなら襲われた所で簡単に返り討ちできるが、留守の間に家を狙われたらどうしようもない。
現状はまだこの家の場所は誰も知らないが、そういう奴らは必死になって探す可能性が高い。
なので暫くの間は妹の部屋の物を売るのは控えたほうが良い。
「なるほどね」
俺はダスカール王国から帰ってきたばかりの時の家の惨状を思い出す。
窓ガラスが一つ壊されて、そこから侵入した野生動物によって色々なものが散乱していたあの室内。
野生動物だから外においてあった食料以外は無事だったが、相手が人間で盗賊だとしたらと思うと震えが止まらない。
ちなみに氷室の扉は開けられなかったらしく、中の食材が無事だったのは助かった。
「スローライフって、もっと簡単だと思ってたけど、実際は大変なんだな」
衣食住の確保。
泥棒対策。
野生の動物対策。
考えただけでどこがスローなのかわからなくなってくる。
「とりあえず丸太の内側からセメントで固めておくかな」
「せめんと……ってなんです?」
何と改めて聞かれると困るな。
正直アレの仕組みとかよくわからん。
前にどこかで見たけど、結構簡単に作れるらしい。
石灰石と水と砂とか砂利を混ぜるんだっけか。
とはいえ石灰石なんてここにはないし、どこに有るのかも知らない。
「乾くと固まる泥みたいなもんだよ。とりあえずエレーナさんは井戸で水をくんできてくれるかな」
「わかりましあ」
俺は作業小屋に向かうと、父親がホームセンターで買ったであろうセメントの入った袋と、かき混ぜるための鉄でできた皿みたいなのを持ち出す。
正式名称とかしらないけど、別に名前を知らないとセメントが作れないわけでもないからかまわない。
「お水、持ってきました」
俺が鉄の皿にセメントの粉を慎重に入れていると、エレーナさんがバケツいっぱいの水を片手で軽々ともってやって来た。
あのお嬢様然とした細腕からは想像できない力である。
「それじゃあゆっくりここにその水を入れてくれるかな」
「わかりました、ゆっくりですね」
エレーナはそう答えると、バケツを両手で持ってゆっくりと傾ける。
「どれくらい入れたら良いのですか?」
「うん、あともうちょっとくらい。あ、それでストップ」
さっきセメントの袋の裏を見て使い方を調べたのだが、そこに書いてあった水の量の説明には『適量』としか書いてなかったのだ。
適量とか言われてもわかんねーよ。
そう突っ込みたかったが、とりあえずしゃぶしゃぶにならない程度の水で混ぜればいいだろうと俺は判断したわけだが。
「なんだかプニョプニョしてますね」
「触っちゃダメだぞ」
かき混ぜていくと、セメントの表面から次第につぶつぶ感が消え、つい触ってみたく生るような状態になる。
エレーナの触ってみたいとう気持ちもわからんでもないが。
「さて、そろそろいいかな。これを丸太の間に塗りつけていくんだけど」
どう見てもセメントの量は、家を囲む丸太全てに塗りつけるには足りない。
「とりあえず、丸太と丸太の間に隙間があるところだけ埋めていこう」
「わかりました。がんばります!」
俺達は小屋から持ってきたコテを、それぞれ持って作業に取り掛かった。
何故複数あるのかというと、親父はどうやら『左官こてセット』とかいうのを買っていたらしく、何種類か、大きさと形の違うものが箱の中に入っていたのだ。
多分、塗りつけ用と広げ用と仕上げ用とかそんな感じだろう。
よくわからないけど。
「それじゃ急いでやりますか。早くしないと固まっちゃうからね」
「はい」
それから俺達は、セメントを練っては丸太の継ぎ目に塗り込むという作業を続け、終わった頃にはかなり日が傾いてしまっていたのだった。
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