表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/10

ex ハッスルマッスル

「で、だ」


 俺はエレーナと一緒に昼食の後片付けをしながら、背後にいる一人の女に声を掛ける。


「なんで君はここに居るのかな?」


 台所に備え付けられたテーブルには一人の女性が手持ち無沙汰な顔で座っていた。

 その女性はエレーナたちと一緒についてきていたのだが、俺はあえて無視をしていたのだが、いつまでも無視するわけにもいくまい。

 一応きちんと彼女の分の昼食も作ってあげた事だし、そろそろ目的を聴いても良い頃だろう。


「オイラはその……エリネス様に頼まれて」


 大柄なその体躯とは似合わない『オイラ』呼びのその女。

 彼女は長い耳をしょんぼりとさせながら、その大柄な体を縮こまらせて俺の様子をうかがいつつ答える。


 そう、俺達を男爵屋敷で狙撃してきたあのエルフだ。


 俺に木の上から蹴落とされた事がトラウマになっているのか、とてつもなく怖がられているらしい。

 おかげで声を掛ける度に避けられ、逃げられてきた。


 あの事件の後、彼女は男爵たちの悪事の証人としてダスカール王国に暫くのこる事になっていたのだが。

 もちろん王国で復興に走り回ってる俺とも何度も顔を合わすことになった。

 が、その度にコイツは逃げる。

 逃げる。

 逃げまくる。


 結局俺は最後までコイツと話すこと無くこっちに帰ってきたわけなのだが。

 それがエリネスさんの頼みとはいえ俺の家にまで来るとは。


「エリネスさんに一体何を頼まれたんだよ」

「ひいっ」


 ため息を付きながら振り返り彼女にそう尋ねると、また怯えられた。

 俺ってそんなに怖い?


「拓海様、カデミアさんをいじめちゃだめですよ。私のために来てくださったのですから」


 カデミア。

 そういえばそんな名前だったっけ。


 俺はまじまじと目の前で怯えているエルフの姿に目を向ける。

 その長い耳と美しい顔立ち、そして本人やインティアの証言から、彼女はエルフで間違いはないはずだ。


 だがそれ以外の部分が俺の思い描くエルフ像とかなりかけ離れている。

 特にその体だ。


 簡単に言えば彼女の体は、線の細いエルフ族というイメージを根本から覆すほどのマッスルボディなのだ。

 腕も、足も、スラッとした知的な美しさを醸し出すであろうエルフというイメージと違い太い。

 それも筋肉で太い。


 あの腕で抱きしめられたら、大の大人でも数分も持たずに全身の骨が砕かれるのではなかろうか。

 もちろん今の俺の防御力なら問題ないだろうけれど。


 勿論お腹は完全なるシックスパック。

 どれだけ腹筋したんだよというくらい割れまくりである。

 俺が軽く殴った程度ではびくともしないんじゃないかと思ってしまうほどだ。


 そんなガタイの女エルフが、俺に怯えてその体を縮こませて震える様はなんとも異様だ。


 だというのに彼女はそんな恐怖の対象である俺の家にエレーナのためにやってきたという。

 一体どういうことなのだろうか。


「エレーナさんのためってどういう事?」


 エレーナにそう尋ねると彼女は少しうつむき気味に顔を赤らめて何やら言いづらそうにしている。


「えっとですね。一応色々とお母様に教えてもらったのですけど、まだちょっと不安がありまして」


 あっ。

 俺はそこまで聞いて理解した。

 むしろ理解がおそすぎる。


「うん、だいたい理解したからそれ以上言わなくていいよ」

「で、でもっ。それだけじゃないんです」


 エレーナがパッと顔を上げて言い募る。


「カデミアさんも王国での証人としての役割がちょうどおわりまして。それでエルフ領へ帰る事になっていたんです」

「なるほど、それで里帰りというか、どうせこっちに戻ってくるなら一緒に転送魔道具つかって来ればいいってことか」

「そういうことです。でもカデミアさんには悪いと思っているのですが、後少しここに居てもらってから里に戻るということでお願いしたのです」


 俺がカデミアの方をちらっと見ると、彼女はすごい勢いで顔を上下に振っていた。

 両耳がぶるんぶるんと振り回されていて面白いので、そのまま眺めていたら、カデミアは頭を振りすぎたせいで目を回し机に突っ伏してしまった。

 限度というものを知らないアホの子なのかもしれない。


 しかし結局エリネスさんに頼まれたという事しかわからなかったな。

 ただ里帰りするだけなら一々エレーナと一緒に来る必要もなかっただろうし、エリネスさんの頼みも断ればよかっただろうに。


 それでもエレーナのために恐怖の対象である俺のところにまで来てくれた事は間違いないのだ。


「カデミアが目を覚ましたら、優しくしてあげて俺への恐怖をなくしてあげないといかんね」

「別にカデミアさんは拓海様の事を怖がってなんでいませんよ」

「えっ、それってどういうこと?」


 俺はエレーナのその言葉に驚いて問いかけるが、彼女はなにやら複雑そうな表情を浮かべ。


「その事はカデミアさんの目が覚めてからまた話し合いましょう。それよりさっさと片付けちゃいましょう」

「ん、まぁそれなら後で聞かせてもらうよ」


 その後俺はエレーナと共に昼食の片付けをし、リビングで二人カデミアが目覚めるまでの間まったりとした時をすごしたのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ