クリスマスの魔法
こころの中で鐘が鳴る。
話には聞いたことあるけれど、実際そんな話は信用していなかった。
運命のひとに出逢えたら、こころの鐘が鳴るというのだ。
今までどんなに好きになったひととの出逢いでも、私のこころの鐘は『チリン』とも鳴りはしなかった。
なのにどうだろう。
今まさにこころに鐘が鳴り響いている。
ディンドン ダンドン
これが運命の出逢いだというの?
それともクリスマスの魔法がそう感じさせているだけ?
「どうして」
なぜ彼がここにいるのか、聞いてみたくなった。
「だって約束しただろう」
なんのことを言っているのだろう。
「約束って?」
「去年のクリスマスの日、『来年のクリスマスもまた一緒にこのツリーを見に来ようね』って約束しただろう?」
そんな約束覚えていたなんて。
「でも、私たち……」
「そう、確かに別れた。というより俺が振られたわけだけど」
「ごめん。でも、嫌いになったわけじゃなくって、振り回されるのが辛かったの」
そう。付き合うことに疲れた。
彼に対して『疲れた』わけではなく、忙しい彼のことをあれこれ考えることに『疲れた』のだ。
一度そう思うと、そう、辛いって思いだすと、もう全てが虚しくなる。
彼のことは嫌いじゃないけど、もう限界に感じた。
そしていつものように。
『さよなら』
『え?』
『もう疲れた』
それからも毎朝、通勤電車で見かける彼。
それまでは一緒に通勤していたが、別れてからはなんとなくお互いに距離を取っていた。
「嫌いになったわけじゃないんなら、もう一度やり直そうよ」
嫌いになったわけじゃない。寧ろ好き。
「……」
でも、もう想い悩むのはこりごりだ。
「ダメかな?」
「少し考えさせて」
好きな気持ちだけで、また同じことの繰り返しはしたくない。
「じゃあ、明日。やり直してもいいよって思ってくれるなら、明日の夜、もう一度ここに来てくれる?」
「思わなければ来なくてもいいってこと?」
「……そうだな。俺も何度も振られる言葉聞きたくないし」
苦笑する彼を放っておけないと感じた。
彼の言葉は、私に対する優しさだと知っているから。
でも、もう一度よく考えてみよう。明日まで。
「わかった。もし来なかったらごめん」
「来てくれるまで待ってるよ」
今日はクリスマス。
もう少しだけイルミネーションの海に浸っていよう。
お読み下さりありがとうございます。
いよいよ次話が最終話です。
明日更新します!
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