鐘が鳴る
今日はクリスマス。
本当は今日がクリスマス本番。
なのに仕事。
まあ、社会人なんだから当然といえば当然なわけで。
今日のクリスマスを乗り切れば、楽しい冬期休暇が始まる。
って、そんなに楽しくもないか。
おひとり様の大晦日か。
おひとり様の初詣とか。
おひとり様のお正月も。
案外自由に行動できて楽しいかも……なんてせっかくの日に負け惜しみはこのへんにして。
今日はクリスマス。
家に独りでいても仕方がないから、夕飯後、名残を惜しむイルミネーションでも見に行こうかと、街に出かけてみた。
冬枯れのこころを照らす優しい彩り。
錆びついたこころをそっと包み込む。
目を細めて、心なしか穏やかな気持ちになっていく。
はあーっ、それにしても寒い。
こんなことならもう1枚羽織ってくればよかった。
凍える手に息を吹きかけながら、イルミネーションの海を渡って行く。
色とりどりに彩られ、大海原を航海する豪華客船の気分。
って、どんな気分? なんて独り言なんかを口走っているが、そんなことはどうでもいいくらいに思える。
本当に吸い込まれそうだ。
周りはみんなカップルで、通りすがりにヒソヒソ声やヒシヒシと視線を感じる。
でもいい。気にしない。
綺麗なイルミネーションを見に来るぐらいいいじゃない。
ひとりで来てなにが悪いの?
もう見栄をはるのはやめたんだから。
優しい気持ちになりたいのだから。
そして大航海を終えた先には……。
見たこともないほどにそびえ立つ大きなもみの木。
煌びやかな電飾を纏い、喜びや楽しみや希望など、素敵なことがいっぱい詰まっているだろうオーナメントで化粧をして。
見る人には最高のプレゼントだ。
あまりの壮麗さに我を忘れて立ち尽くしていた。
どのくらいの時間が経ったのだろう。
ふと人の気配を感じて横を向いた。
そこには毎朝同じ時間の通勤電車で見かける顔。
「あっ」
思わず声が漏れ出した。
その声に気づきこちらを向いたその面持ちは、なんとも言えず放っておけないように感じさせる。
悄然とした表情は、なぜかこころを揺さぶる。
「あっ」
彼も私の存在に気づいていたのだろうか。
「いつも同じ電車でお見かけしています」
「はい。私もお見かけしていました」
「綺麗なツリーですね」
「ほんとうに」
そう言うと私たちはまたその美しい光を放っているツリーに目をやった。
こころの中で鐘が鳴っている。
これはいったい……。
お読み下さりありがとうございます。
次話「クリスマスの魔法」もよろしくお願いします!
本日更新します!




