9.鬼の本性?
話す時間も惜しいとばかりに胃袋に料理をしまい込んでいた二人だが、ある程度落ち着きポツリポツリと会話をし始め残った料理を少しづつ消化していた。
「・・・シロ」
「んー?」
「・・・シロは・・・なんで・・・私を・・・助けたの?」
「んー・・・なんでと聞かれると答えにくいんだよなぁ・・・」
俺はタバコに火をつけ考える。
実際自分でもなぜこのガキを斬っちまわなかったのか、苦しみから解放してやらなかったのか、はっきりとはわかっていないのだ。
「まぁーしいて言えば昔の俺と似ていたから・・・か?」
「・・・似てたの?」
「ああ」
「・・・どこが?」
「生きるのに必死だったってとこがな」
「・・・」
「まぁ昔の話だ。今の俺は必死にならなくてもてきとーに生きていけてるんだから、お前もそのうちそうなってくれるといいんだがな・・・」
「・・・シロは」
そうリンが話し始めようとした時。
店の中がにわかにざわついた。
「やっと見つけたぜぇ・・・兄ちゃん」
その男は顔に包帯を巻き血走った目で俺を見ていた。
「誰だアンタ?」
「てってめぇ!ふざけてんのか!」
「いやあいにく俺の知り合いにミイラ男はいないもんでな」
「てめぇにやられたんだよ顎を思いっきりな!」
「・・・あーそういえばギルドの前でたかろうとしてきたやつがいたっけか」
「この期に及んでまだその態度とはな・・・」
そう言うとミイラ男は腰に差した剣に手をかけ
「今ここでその首落としてやっても・・・」
引き抜こうとした瞬間だった。
「リン、やめろ」
「・・・」
いつの間にか対面に座っていたはずのリンが懐に隠し持っていた短刀をミイラ男の首に突き付けていた。
「リン。こいつらに抜くだけの価値はねぇ」
「・・・」(コク)
小さくうなずくとリンは席に戻り再び料理を口に運び始めた。
「いい加減店に迷惑だ。表へ出やがれ」
「上等じゃねーか。殺してやるよ」
「リン。おとなしくそこで飯食ってろ。すぐ戻る」
「・・・モグモグ」(コク)
店の前には俺と5人組の姿。
奇しくもギルドの前であった小競り合いと同じ構図であった。
俺はタバコを地面に落とし足で消しながら男に話しかける
「いい気分だったんだ」
「あ?」
「リンがやっと少しづつ話し出してよ。酒もうめーし料理もうめーしで言うことなしだったんだ」
「何の話してやがる!」
「それをおめーよぉ・・・どう落とし前つけるつもりだ?あぁ?」
「訳の分からねーことをベラベラと!こっちにもメンツってもんがあるんだよ!」
「酒入っちまってるから手加減できねーぞ・・・まぁするつもりもねーがよ」
「死ねやぁ!!!」
ミイラ男が吼え、走った。
対するシロは刀を・・・鞘ごと腰から引き抜きふらっと前に進んだ。
そして。
「ぐぇ・・・」
「・・・」
シロの手には刀の柄が、ミイラ男の喉元には鞘の先端が深くねじ込まれていた。
「てめーの力量も分からねぇで誰彼構わず喧嘩売るからこうなるんだ・・・」
「・・・」(ピクピク)
男は失神してしまったようで小さく痙攣を繰り返すばかりであった。
「おい。子分ども。こいつ担いでさっさと消えな。次俺にちょっかい出したらマジで殺すからな」
「はっはい!」
「し、失礼しましたぁ!」
「おい!早く担げ!」
「おめーも手伝えよ!」
子分たちは大柄なミイラ男を担ぐのに苦労しながらもやっとの思いで逃げ出す準備を整えた。
と、そこに。
「あ、そうだ。迷惑料として有り金全部置いてきな」
「そ、そんな・・・」
「なんか文句でもあんのか?あ?」
「いえ、滅相もございません!」
「これで全部です!勘弁してください!」
チャリンチャリンと皮袋に入った硬貨が地面に落ちて音を立てる。
軽くなった懐を気にしながら子分たちはミイラ男を担ぎ這う這うの体で逃げていったのだった。