8.酒宴
宿屋へ辿り着き自分の部屋の前まで来た俺は小声で部屋の中へと声をかけた。
「リン。いるか?」
「・・・うん」
扉を開けて中に入ると、素っ裸だった。
「お前さぁ。もうちょっとこう恥じらいとかないわけ?」
「・・・?」
「いやだからさぁ・・・毛布かシーツで体隠すとか・・・」
「・・・」
「考え込まんでも・・・まぁいい。新しい服買ってきたからこれに着替えろ。前の服は捨てな」
「・・・」(コク)
「あ、服代もいつかちゃんと返せよ。金貨1枚もしたんだからな」
「・・・」(コク)
「んじゃ着替えたら部屋出てこい。飯に行くぞ」
「・・・」(コク)
部屋の外で待つことしばらく。
遅いなーとか思いながら一瞬着方が分からなかったりしたらどうしようなんて思って俺も分からねーんだけど俺がどうしようとか考えてたら扉が開いた。
「・・・できた」
「・・・まぁそれなりに見れるようにはなったか。よしそんじゃ飯だ。宿出るまでは俺の陰で気配消してろよ」
「・・・」(コク)
無事リンの存在を気づかれることなく宿から抜け出すことに成功した。
改めて考えるとこいつの隠密性はやべーな。
集中してねーと俺まで存在を見失っちまいそうだ。
「リン。何が食いたい」
「・・・なんでも・・・食べる・・・よ」
「なんでもってそういうの一番困るっておかーさん言ってるでしょ!」
「・・・?」
「・・・気にするな。言ってみたかっただけだ。それじゃーあの辺の飯屋でいいか。いろいろあるだろ」
その飯屋はおそらく仕事終わりであろう厳ついおっさんたちやこれまた厳つい冒険者っぽい風体の男たちが皆一様に酒を飲み、顔を赤らめ、飯を食って笑っていた。
いい活気だ。出てくる料理もさぞ腹を満たしてくれることだろう。
酒も久々に浴びるように飲んでみるかね。
丁度良くテーブルの席が空いていたのでそこへ座り、反対側にリンも座らせた。
酒が回っているせいもあるのだろうが周囲の男たちはリンを見ても特に気にするそぶりはなかった。
見た目って重要なんだな・・・やっぱ。
パタパタと忙しそうに走り回るウェイトレスを捕まえて金貨を1枚渡し、この金でおすすめの飯と酒をというと厨房へ飛んで行った。
よく働く娘だなーなんて何の気なしに眺めているとさっそく料理と酒が運ばれてきた。
「おお・・・これはまた・・・」
「・・・」(ゴクリ)
出てきた料理は肉!肉!肉!野菜!そして肉!と言わんばかりの重量級のものばかり。
すきっ腹に香辛料と肉の油の香りが暴力的に突き刺さる。
「おっしゃ!食って飲んで明日に備えるぞ!」
「・・・」(コク)
「あ、お前はまだ酒はダメだぞさすがに小さすぎらぁ」
「・・・」(コク)
「ま、水ってのも味気ねーし。果物の果汁でもあればいいんだが・・・っとあったあった。ねーちゃん!こいつにこの桃の果汁も出してやってくれ!」
「はーい!すぐに!」
言葉どうりすぐに出てきた桃の果汁をリンへと渡し、俺は蒸留酒の入ったグラスをリンの持つコップに軽くぶつけ乾杯をすると二人の酒宴は周りの喧騒とは裏腹に食う音と飲む音以外しない静かなままで進んでいった。