5.名前
甲高い音が鳴る。
少女の頭を砕かんと迫った刃は横に立つ青年の手によって止められていた。
「てめぇらがよ。このガキを受け入れてやるんなら俺はこのまま立ち去ってもよかったんだ」
そう。こいつらは間違いなく鬼だが、それでもこのガキにとっては唯一の救いになれるかもしれなかったんだ。
「な!?」
「てめーナニモンだ!」
「おい!見張りは何してやがった!」
騒ぐ手下どもは無視して盗賊の頭に言葉を続ける。
「俺自身人だか鬼だかわからんような身だから、どっちも変わらねぇと思ってたんだよ」
俺はだれかを救えるような立場じゃない。
できることなら見なかったふりでもして立ち去りたかった。
「何わけのわかんねぇことベラベラ喋ってやがる!」
手下の一人が剣を抜き斬りかかってくるが振りむきもせずに蹴り飛ばし黙らせる。
「だが・・・少なくともてめぇらには救えないことは分かった。だから」
盗賊の頭の剣を跳ね上げ向かってきていた3人の手下を一息で斬る。
横一文字。3匹の鬼が上半身と下半身を2つに分けられ散った。
「・・・皆殺しだ」
「て、てめぇは・・・一体なんなんだ・・・」
「俺が教えてほしいくらいだ」
最後に残った盗賊の頭を構えた剣ごと両断する。
頭が吹き飛び鮮血が舞った。
「おいガキ。気が付いてんだろう」
「・・・」
タバコに火をつけ一度吸ってから吐き出すとともに地面で気を失ったふりをした少女に声をかけた。
少女はゆっくりと立ち上がった。
その目には様々な感情が渦巻いているのが見て取れる。
しかし、やはりというべきか。
その目は、鬼の目であった。
「お前には二つ選択肢がある」
「・・・」
「一つはここで俺に斬られて死ぬこと。だがおススメはしねぇ。いてぇからな」
「・・・」
「もう一つは・・・」
「・・・?」
「・・・お前、人に戻る気はねぇか?残念ながらこっちもおススメはできねぇ。死んだほうが楽だからだ」
「・・・」
「さぁ・・・どうする?」
少女は固く口を閉ざし、ただ黙って俺を見ていた。
いい加減にらめっこにも飽きてきたな・・・
ガキを斬った日にゃ寝覚めが悪いことこの上ないだろうし、これ以上ここにいる理由もない。
これで最後だ。
「お前を斬る気も失せた・・・人に戻りたきゃ、着いてこい。来なきゃそれまでだ」
「・・・」
俺は盗賊の頭の腕から腕輪を抜き取り、少女に背を向けて歩き出した。
「着いてきて・・・るな」
洞窟から少し離れた街道を町に向かって歩きながら振り返らずに背後の気配を探る。
そこには距離を置きながらも件の少女が着いてきている気配があった。
「あーもう。鬱陶しい!」
俺は足を止め振り返ると少女に向かって言う。
「着いてくるなら来るでもっと近くで歩け!つけられてるみたいで気持ちわりぃんだよ!」
そう後ろに向かって言い放ってから待つこと少々。
ようやく少女が姿を見せた。
怯えるような、伺うような目でこっちを見ている。
「・・・」
「・・・」
またにらめっこかよ・・・勘弁してくれ
くそ・・・こういうのは苦手だ
「お前、名前は」
「・・・」
「な・ま・え・は!?」
「・・・リン」
「聞こえてんなら最初っから返事しやがれ」
「・・・あなたは?」
「・・・」
「・・・あなたの名前は?」
「あーもうわかったわかった!あのクソジジイめ拾ったのは野良犬じゃなくて人間だぞクソ」
「・・・?」
「シロだ」
「?」
「シ・ロ!それが名前だ!」
「・・・なんだかワンちゃんみたい」
「あーもう言うな言うな!わかってるから!俺が一番思ってるから!」
「・・・ふふ」
ひょんなことから小鬼を拾っちまったわけだが、これからどうなることやら。
だがまぁ、俺が鬼を人に戻せたならば俺も人に戻れたってことになるのかねぇ。
旅は道連れ世は情け。
渡る世間は鬼ばかりかもしれないが。
それでも必死に生きてゆく。
とりあえずヒロインと出会いました。
今後は考えついてないので追い追い更新します。