4.約束
さて、なぜ俺があのガキを逃がしたのかというと理由は二つある。
一つはあのガキが盗賊団の仲間で街の下見をしていたのかもしれないと考え、わざと逃して盗賊団のもとまで案内させようと考えていたからだ。
もう一つはあのガキは盗賊団とは何の関係もないただの悪ガキでいたずらをしていただけだというもの。
こっちはただの希望に過ぎないが。
「だが・・・なぁ・・・」
そんな希望とは裏腹に少女は町の外へと出るようだ。おそらく前者があたりなのだろう。
希望は所詮希望でしかない。
それにあのガキの目を見た時ある程度は分かってしまっていた事だ。
昔の俺と恐らく同じ目をしていた。
あの目は、鬼の目だ。
生きるためならば何でもする。盗みでも、人殺しでも。
「これは何の因果だろうなぁ・・・ジジイ。俺にあのガキを救えって、そう言ってんのか?」
俺自身がいまだに人に戻れたのかどうかすら分かってないっていうのにな・・・
少女の背を気づかれないように気配を消し追いかけながら俺はそう小さく呟いた。
太陽が沈み夜になろうという頃。
ようやく少女は盗賊団がねぐらとしている岩山の洞窟にたどり着いた。
少女が洞窟に入ってしばらくしてから俺も後に続く。
ずいぶんとでかい洞窟のようで身をひそめる場所も容易に見つかった。
少女は大広間のような空洞にたどり着いた。
そこでは2,30人くらいの男が酒を飲み大声で笑っていた。
俺は大広間の手前あたりにくぼみを見つけ気配を消し様子をうかがうことにした。
「戻った」
「あ?」
「おわっ!このガキほんとに戻ってきやがった!」
「やるじゃねーか!」
「頭ァ!ガキが戻りましたぜ!」
奥の方で椅子に座って酒を飲んでいた男に手下らしき男が声をかける
「ほぉ。・・・んで物は?」
「これ」
少女は手に持っていた袋をその男に渡した。
男は中を覗き込みこう言った。
「よし。よくやったな。さっさと帰りな」
「・・・」
「何してる。もう用はねぇ。さっさと出てきな」
「・・・約束」
「あ?」
「仲間に・・・入れてくれるって」
「そんな約束した覚えがねぇなぁ?おいお前ら何か知ってるか?」
男は手下共にそう呼びかけた。
「いやぁあっしは知りやせんぜ」
「聞いたことねぇなぁ」
「夢でも見てたんじゃねぇのか?」
「ギャハハハハハ」
手下たちは口々にそう言い笑い始めた。
しかしなお少女は
「・・・約束・・・仲間にしてくれるって」
そんな少女の姿に嫌気がさしたのか盗賊の頭は脇に置いた剣を手に取った。
「いい加減にしねぇとたたっ殺すぞガキ」
「な・・かま」
男の目から笑いが消え凍てつくような視線が少女を射貫く。
「そうか・・・なら死ね」
「っ」
少女の目から一滴の涙が零れ落ちたと同時に彼女の頭上に剣が振り下ろされた。