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第1話

新作です。勢いで書いたので、多分数話で終わると思います。




惨めだ。惨めすぎて仕方ない――――――――――――――。




去年の秋、前の仕事を辞めることになった。理由は簡単だ。今の球団から、いらないと言われた。戦力外通告。プロ野球の世界は、決して甘くないという現実を痛感した瞬間でもあった。




俺は学生の頃からこんなに落ちこぼれだったわけではない。むしろずっと小学校の時から野球エリートで、中学時代はエースとして世界大会でも優勝した。当然、県内外の数多の高校からスカウトされ、俺は最終的に大阪の名門高校に野球留学した。高校ではエースとして甲子園に何回も出場し、俺は東京の名門大学に進学した。大学でも1年生からエースとして活躍してた俺は、4年前のドラフトで複数球団からの指名を受け、鳴り物入りでプロの世界に入った。




俺は1年目から1軍の試合に使わせて貰えた。1年目の成績はパッとしなかったが、先発で勝ち投手になれることができた。初勝利のウイニングボールは実家で大切にしまっている。しかし、その年の秋に右肩を故障。2年間全く投げることができず、3年目の秋、球団から戦力外通告を言い渡された。


球団からは育成選手としてチームに残ることができると言われた。しかし、俺は育成契約を断り、トライアウトを受けることに決めた。しかし、結果は散々。当然、どこの球団からも声はかからず、俺は野球から引退することを決めた。俺がトライアウトで投げた球は、肩が悲鳴をあげまくって、もはや素人が投げる球だった。そう、今の俺にはその球しか投げれなかったのだ。


初めから落ちこぼれだったなら、こんなに落ち込むことはなかっただろう。プロ入りする前は、全く苦労せず、第一線で活躍し続けたので、想像以上のショックを受けてしまった。俺は天狗になっていたのかもしれない。






野球を辞めた俺は実家に戻り、仕事もせず、ニート同然の暮らしを送っていた。親は共働きで、10歳離れた高校生の妹も学校があるので、平日の日中はいつも1人だった。




朝起きるのはいつも9時くらいだろうか。大体この時間には目が覚める。この時刻はもう、両親も妹も家にはいない。朝は低血圧なので、ベッドでずっと横になってることが多い。幸い昼食代だけは毎日用意してくれるので、昼になったらコンビニまで行き、そこで買ったものを家で食べる。日中はテレビを見るか、ゲームをするか、スマホを眺めるかのどれか。夕方になり妹が帰宅し、その後、両親も帰宅した時に夕食を食べる。そして夕食後は風呂に入って、そのまま自室に篭って、スマホを眺めるか、意味もなくラジオを聴くかで時間を潰していた。そして、深夜の1時か2時には眠りにつくという生活を送っている。




夜、スマホのラジオアプリをつけると、すごくキャピキャピした歌声が聞こえてきた。番組表を調べると、どうやらアニメソングの番組のようだ。野球をしていた時は、忙しくてテレビなんか見てる暇なかったし、ネットもほとんど使ってなかった。だから、ここ数年の流行りなんてほとんど知らなかった。それこそアニメなんて、幼稚園か小学校低学年の時に見ていた・・・ってくらいのもの。当然、今流れている曲は知らない。そして曲が終わり、パーソナリティーのトークが始まった時・・・






聞いたことがある声だ・・・






ラジオから聞こえてきた声に、思わず体が反応して、スマホを見つめてしまった。話し声に聞き覚えがあるのだ。俺はとっさに番組表を確認し、パーソナリティーの名前を確認した。この声とこの名前・・・小中9年間でただ一人、ずっと同じクラスだった奴かもしれない!




番組が終わった後、俺はその同級生かもしれないパーソナリティーの名前を検索した。やはり彼女だった。顔もほとんど変わっていなかった。今は東京で声優をしているようだ。しかし、俺はすっかり名前も、存在も、忘れてしまっていた。それもそのはずだ。俺と彼女は中学卒業以来、10年間一度も会っていなかったからだ。成人式の時も俺は地元に戻らなかった。そして、俺が高校以降に過ごしてきた経験がかなり濃すぎたからかもしれないのも書き足しておこう。






翌日、俺は中学校の卒業文集を出すことにした。中学卒業以来、10年会ってないが、やはり顔はほとんど変わってない。そして、将来の夢を書かれたページを見てみる。俺は「プロ野球選手!」と、そして彼女は「歌手か声優さんになる!」と書かれていた。




知っている奴の声を、公共の電波で聞くだけで、こんなにびっくりするとは思わなかった。そして、彼女についてネットで色々検索することにした。色々調べてみると、あるサイトで、今大人気の売れっ子声優と紹介されていた。俺にはどうすごいのかは分からないが、ここ数年、毎クール10本ほどのアニメに出演し、主演作品は数知れず。また、歌手としても数曲出しており、先月、武道館ライブを成功させたらしい。夏には全国ツアーも控えるようだ。






しかし、彼女が将来の夢に「歌手か声優」と書いていて、しかも両方成功させていたとは。そして、俺と彼女が小中9年間で一緒に過ごしてきた思い出も次第に蘇ってきたのだ。結構仲良かったかもしれない。かなり惚れてた気がする。今はメガネをかけてないが、当時はメガネをかけていた。背も低くて地味だったけど、相当可愛かったのは確かだ。しかし、彼女が俺についてどう思っていたのか。きっと『背高くて、野球やってて、やんちゃしてた』って思われてたのだろうか。勝手な憶測だが。そして、彼女との記憶が段階的に蘇った時、俺はうっすら涙を潤ませていた。

1話時点では名前はお互いまだわかりませんが、後々名前は出します。

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