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官能の音色

作者: 喜久之湯

 初夏も近いと思わせる暑い日でした。

障子越しに見る庭の緑は柔らかく、時おり涼しい風が入ってきます。私は畳の上に横たわり、姐さんが来るのをじっと待っておりました。

 まるで茶室のようなこの部屋は、妙に居心地が良く落ち着きます。少し古ぼけた内装と四畳半という狭さが、淫靡な雰囲気を醸し出していました。


 姐さんがもうすぐやって来ます。こうして、昼間に相対するのは考えてみたら初めてでした。

普段は、夜眠る前のひとときだけ、姐さんの部屋で余り大きな音を立てずに触れ合うだけです。


 足音が聞こえてきました。少し緊張しています。

廊下側のふすまが静かに開きました。透き通るような白い生足が、赤い浴衣の裾からのぞいて見えます。

 軽く汗でも流してきたのでしょうか、石鹸の甘い香りが辺りに広がります。熟した女だけが放つ大人の色香が、うなじから白く伸びる首すじに漂っておりました。

姐さんは私のすぐ横に来てひざまづきます。

「さあ、始めましょうか…… 」と、独り言のようにつぶやきました。


 姐さんは、いきなり私を膝の上に乗せます。浴衣越しに太もものぬくもりが伝わって来ました。

右の手は私の胴を抱えております。左の手はというと…… いきなり私の棹に触れてきました。棹先は、ただもう天井の隅の方を向いて固くなっております。

 私の棹は太くはありません。

一度だけ、仲間の太くて黒光りした棹を見たことはありましたが…… 。

姐さんは左の手を下から絡め上げ、棹に掴みかかります。白くて柔らかな指先が私の棹をまさぐり始めました。

たまらずに張り詰めた私の声が漏れてしまいます。

「今日はいい感じよ…… 」姐さんが微笑みました。



 そう、私は三味線なのであります。三味線冥利に尽きるとはこのことでございます。

姐さんの膝の上に乗りながら、私はしみじみとそう思っておりました。


横に寝かせて 枕をさせて 指で楽しむ琴の糸


という都々逸がありました。

そんな艶っぽい世界が好きです。 

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