邪な動機
皆さん初めまして。山口陽子と申します。
「初めまして」という通り、初投稿となります。どうか生暖かい目で見ていただけると幸いです。
俺は江口勇気。私立・依古島高校に通う、どこにでもいる普通の高校生だ。俺はこの学校でまだ見ぬ女の子と出会い、愛を育み、リア充ライフを送る……はずだった。
そう、はずだったんだ……。
それなのに、どうして俺は……。
「5000m走なんてしてるんだああああああ?!」
* * * *
《三ヶ月前》
桜舞い散る季節。俺、江口勇気は千葉県の公立中学から、私立・依古島高校に進学した。中学時代はアニ研所属。アニメのことは全然詳しくなかったが、同期のカワイイ女の子と仲良くなることを企んで入部した。
モンスターしかいなかった。
文化部女子が悪いとは言わない。アニ研女子が悪いとも言わない。だが、俺は「カワイイ」女の子と仲良くなりたいんだ。
だから俺は、運動部に入る。俺の経験則上、運動部女子の顔面偏差値は文化部女子よりも高めだ。
でも、俺は反復練習 ーー特にスタミナ向上のための持久走ーー なんてクソ食らえだと思ってる。だから緩めの運動部に入って、カワイイ女の子と仲良くなる!
さよなら、文化系喪男の俺。こんにちは、体育会系モテ男の俺!
ここ、私立依古島高校は総生徒数2400人の共学校。文武両道を掲げるだけあって、進学実績と体育大会成績は目を見張るものがある。
そんな学校でも、緩く運動したいと考える人間は少なからず存在するはずだ。俺はその穴場運動部を狙う。
俺は新入生用パンフレットの部活紹介ページを歩き読みする。
さすが私立校。凄い人混みだ。だが、歩きスマホの達人である俺なら、この人混みの中でも問題なく歩行可能……!
フッと鼻息混じりで笑ったその瞬間、ドンと何かにぶつかった。何が達人だこの野郎。
「あっ、すみませ……」
条件反射で謝罪の言葉を発したその時、文字通り、俺は息を呑んだ。
俺の目の前には、女の子がいた。目はぱっちりとして、肩に満たない茶色がかったショートヘアー。小柄ながら、運動部上がりを思わせる脚が、美しい曲線を描いて短めのスカートから伸びていた。
一目惚れというのはこういうことなんだなと悟った。
「あの……大丈夫ですか? ボーッとしてますけど……。当たりどころが悪かったですか……?」
少女は心配そうな顔つきで俺に声をかけた。いえいえ、大丈夫です。ちょっと恍惚としていただけです。当たりどころも悪くないですよ。むしろ大当たりです。
「ああ……えと、大丈夫でしゅ!」
やっちまった。カワイイ女の子と話すと、テンパって必ずと言っていいほど噛んでしまう。恥ずかしすぎる。この役立たずの舌を引っこ抜いて焼肉にして食べてしまいたい。
俺は彼女の顔を一瞥する。なにやら様子が変だ。口角が緩まり、目元も僅かにつり上がっている。
「……大丈夫でしゅ……。しゅ! って……ぷっなははははは!」
俺が噛んだことがそんなに面白かったのだろうか。少女は笑い出して止まらない。失態を犯してしまったと思い詰めていた俺は、彼女のその笑い声に救われた。
……とは言うものの、全然笑い止んでくれない。しまいには嗚咽混じりに笑うのだから、もしや俺は、単に嘲笑されているだけなのではと勘繰りたくもなる。
「はー、面白い人ですね! 私、三池 霧子って言います。中学の時は《ミケ》って呼ばれてました。よろしくね!」
にこりと微笑むミケちゃん。なんだこの天使は。ぜひお友達になりたい。
「お、俺は江口勇気。ち、中学時代のあだ名は《えろぐち》で……」
「えろ……?」
ハッと口を塞いだ。痛恨のミスをしてしまった。中学時代、俺は溢れ出る性欲から、クラスでは《えろぐち》と呼ばれていて、男子からは畏怖、女子からは侮蔑の念を向けられていたのだ。俺は慌てて訂正する。
「あっいや、あははは! ま、また噛んじゃったよ。普通に江口って呼んでくれ」
「なはは、江口君ってよく噛むんだね!」
助かった。恐らく特に変には思われていないようだ。
……俺は脳内で独り言を言う癖があるな。16年間生きてきて初めて気がついた。
とにかく、俺はミケちゃんと仲良くなりたい。と言うかぶっちゃけた話、お付き合いしたい。この獲物は絶対に逃せないぞ、俺!
「み、ミケちゃんは部活とかってもう決めてたり……する?」
彼女の胸を一瞥する。制服の上からでもわかる貧乳。運動部である可能性が高いか? 俺の身長が160センチであることから目測するに、彼女の身長は150センチちょっとってところ。 ということは、バスケは無いだろう。テニスをするにしても、もう少し背が欲しいところではあるし、バドミントン……無くはないか。いや……。
「陸上部だよ」
「……え? いや、よく聞こえなかったんだけど、もう1回言ってもらっても……」
おい、ウソだろ、 俺の聞き間違いだろ? そうだと言ってくれミケちゃん!
「私、中学で陸上部で3000m走やってたから、高校でもするつもり!」
「み、ミケちゃん……高校では他のスポーツをやったりとか、そういうのとは考えてない……? ミントンとか……」
「考えてないよ。だって、そのためにここに来たんだから」
えぐち の めのまえは まっくらに なった!
バカな! 陸上競技だと!? それも長距離走なんて……あり得ない。体育嫌いの俺が独断と偏見で選ぶ、滅びればいい種目ランキング第1位の長距離走だぞ? 無理だ、出来るわけがない。
でも、ミケちゃんかわいい。この先、部活で忙しくなる彼女と会える時間は皆無に等しいだろう。それに、同じ部活の男子にミケちゃんを奪われてしまうかもしれない。そんなことは耐えられない!
俺は……。
「じゃあ私、そろそろ陸上部の方に行くね! じゃあまた……」
「ま、待って! 俺も入る……陸上部!」
* * * *
正門から歩いて約5分。校舎東側の奥に大きな陸上競技場がある。グラウンドは土ではなく、試合で用いられるタータンで、この競技場で大きな大会を1つ行えるほどの規模だ。
「も、もしかして、この競技場をうちの陸上部が独占して使うのか……」
「うん、依古島高校陸上部は中・長距離パートだけでも40人を超える強豪校だからね! 」
強豪校という言葉に俺はぎょっとした。強豪校ということは、練習も並の陸上部以上にハードになるのか……。先が思いやられる。
「それにしても、誰もいないなあ。パンフレットでは今日も練習あるって書いてたんだけど……」
彼女は首をかしげる。確かに、競技場内は閑散としていて、人のいる気配はしない。
「もう練習終わったのかもしれないな」
「違うわ。まだ始まってないだけよ」
うんうん、そうかそうか、まだ始まってなかっただけか……って誰だあんた?
いつの間にか俺の隣に、俺よりもやや身長が高い女の子が仁王立ちしていた。ピンク色を基調として、黄色のラインが入ったジャージを着ていて、胸には《YOKOSHIMA》のワッペンが入っている。依古島陸上部の上級生だろう。
「新入生ね。あなた、名前は?」
「あっ、俺は江口……」
「あなたじゃないわ、 チビ」
ち、チビ……。俺が下級生と言えども、初対面の人間に向かってチビだと……? この女ァ……!
「私は三池 霧子です! こっちは友達の江口勇気君」
「そう、あなたが三池さんね。私は2年の小田原 瑠衣。ようこそ、依古島陸上部へ。歓迎するわ」
ん? ミケちゃん、この性格ブス子と知り合いなのか?それはともかく、この女、せっかくミケちゃんが俺のことを紹介してくれたのに、全く意に介さなかったぞ。
「早速、今日の練習に軽く参加してもらいたいんだけど、用意は持ってきてるかしら?」
「はい! もちろん持ってきてます!」
「よかったわ。じゃあすぐに部室にいらっしゃい。案内するわ。江頭君? は、さよならね」
はい、お疲れ様です! って……。
「ちょっと待てよコラァ!!」
「キャッ! びっくりした……」
「ちょっと、うるさいわね! それに上級生に向かってなんて口の利き方をするの?!」
しまった、心の声がダイレクトに口から出てしまった。ミケちゃんに引かれてないだろうか。それはともかく、なぜ俺はここまでスルーされるんだ?
「えっと、すみません。ちょっと本音が出たというか……。いや、違います違います。あと俺、江頭じゃなくて江口なんですけど……」
「そんなことどうでもいいわ。そもそもあなた、ここに何しに来たのかしら? 覗きなら警察に通報するわよ」
誰が覗きなんてするか! 俺は陸上部に入って正々堂々と陸上女子の女体を視姦るだけだ!
「何しにもなにも、僕も三池さんと同じく入部希望なんですけど」
「はあ?」
瑠衣は訝しげに俺を睨みつけた。なんだ? 俺はそんな素っ頓狂なことを言った覚えはないが……。当惑する俺にミケちゃんがそっと耳打ちした。
「あの……江口君。すご〜く言い出しにくいんだけど、依古島陸上部ねーー」
「女子陸上部なの」
どういうことだってばよ……。
皆さん初めまして。山口陽子と申します。
この度は、私の小説のようなものをご覧くださり、誠にありがとうございました。
この小説のようなものは、陸上競技、特に中・長距離走を中心に取り扱った学園コメディとなっております。一応、私自身も陸上競技を嗜んでおります。それでもやはり至らない点はたくさんあると思います。そこで、厚かましいことは重々承知でありますが、「ここが変だった」「もっとこうしたほうがいい」「そもそも表記・記述方法がおかしい」などなど、指摘箇所を感想等に明記していただければ嬉しいです。
では、もし機会があればまた。
【追記】
行頭を修正しました。