005入学式前日4
入学式前日はコレで終わりです、次のストック一応あります
「今なにをしていた」
突然の質問と、先ほどまでと違う先輩の緊迫した雰囲気、威圧感に呑まれ、何も言えずに声が出なかった。
湊が初めて人に恐怖した瞬間だった。
「あの金色に光っていた六芒星の魔方陣はなんだと聞いている」
なんだ?といわれても防御魔法陣の最高位魔術なのだが・・・異世界では使えない魔術だったりしたのかも・・・先輩の剣幕に押されつつ返事をした。
「さっ・・・さっきのは、防御魔法陣の最高位魔術です」
「防御魔方陣?最高位魔術・・・お前はかの者等の仲間なのか?」
「かの者?それは誰ですか?」
「ここ十年程度の間、様々な国で問題を起こしている、お前と同じ金色の魔方陣を操る異邦人共のことだ」
「といわれましても・・・」
「お前は他にも金色の魔方陣を使うことができるか?」
他にもか・・・使えるけど、正直に答えるとやばそうな雰囲気だし、先輩はなぜそんなに警戒しているんだ?金色の魔方陣を操る異邦人?あの手紙には、俺の望むがままに世界を楽しんでよかったんじゃないか?いきなり問題が転がり込んできたぞ、でもそういえば魔王とか勇者もいるんだっけ?更に異世界転移の俺もいてあいつらもいるんだよな?・・・・・・問題ばかりじゃないか、絶対に俺に絡んでくる問題が幾つも出てくるだろうな、学園にいる間だけでも何も起こらなければいいんだけど、色々知りたいし。
先輩が「使うことができるのか、できないのかはっきりしろ!」と声を上げて俺のほうへ迫ってきた。
湊は両手を挙げると「できますよ!できますっ!」と慌てて言った。
「他には何ができる、お前が使える金色の魔方陣に関わる魔術名を全て吐け」
「えっと・・・・・・」
金色の魔方陣で使える魔術は、最果ての宮殿の六神官にかかわる魔術だけだ、全ての魔術を覚えているが俺が使えるのは、さっき使った最高位防御魔方陣の《完全な白》他に11種類だ、六神官の魔術は1神官につき2つまで魔術を覚えることができ、6人いるので合計12種類覚えることができる、魔術を習得するためには激難易度ストーリー型クエストをクリアしなくてはいけないでの、12種類覚えている人は少なかったはずだ。俺は防御主体のキャラだったのだが、唯一高火力な呪文を覚えられるクエストだったので、防御に関わる魔術より自身の強化と直接火力に繋がる魔術を覚えていた。
俺は先輩に言われた通り、自分の使える魔術名を12魔術すべての魔術名を話した、すると先輩の顔色が少しやわらかくなった気がした。
「お前が使える金色の魔方陣はそれだけだな」
「はっはい、そうです」
「そうか・・・・・・お前の話した魔術名は全て俺の知らない物だった、奴等が使っている物とは本質的な物は似ている気がするが、奴等は他に隠してない限り12種類の金色の魔法陣の魔術しか使ってこない、俺の知っている魔術以外を使うって事は奴等とは関係が殆どないということか・・・・・・」
少しの間、考えるしぐさをした先輩は顔をしかめたまま下を向いたが、ふと顔を上げると
「まぁこの学園に特待生で入学できたということは、あの学園長の御眼鏡に適った者というわけだ、なら心配することはなかったか・・・いきなりすまないな、色々とこの件であってな」
「えっあっ、はい大丈夫です、此方こそすみません」
「お前があやまることはないよ、勘違いした俺が悪いんだ、まぁなんだ、この詫びはいずれ必ず返す、入学前日にすまなかったな、いきなり怖い思いをさせただろう・・・この通りだ。」
そういうと先輩は頭を下げ、俺に謝ってきた。色々と深い事情があるのだろうが、正直話についていけてなかった、入学してひと段落ついたら色々と調べてみることにしよう。俺は「ほんとに大丈夫ですよ、何かあったらお願いしますね、それじゃあ先に部屋に戻ります」そういうと、先輩の前を横切り、もと来た道を戻り自室へ帰るのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
タルト荘から出た時の外の空は、すでに赤みがかっていて、少し肌寒かった。入学の時期は春だと固定概念があったが、海外だと違うように、この世界でも季節は違うのだろう。
ふと吹いた風に、想像以上に身震いした、先ほどの先輩から感じた恐怖、威圧感がまだ残っていたせいなのか「早く部屋に戻って、布団にもぐって明日を待とう」そういい残し、元来た道を戻っていく。
来たときよりも時間がかかったが、難しい場所を通ったわけではないので迷わずに帰り着くことができた。
部屋に入るときに使った生徒手帳を寝台の横にある台の上に置き、少し大きめのシングルベッドに体を預け、今日を振り返る。
「うん・・・・・・異世界だ、ふふっ・・・・・・でも異世界って事は日本みたいに安全なわけじゃないんだよな、この学園にいる間は大丈夫だと思うけど、さっきの先輩の剣幕は正直怖かった・・・金色の魔方陣を使う異邦人か・・・。」
多分この場所にいる限り襲われたりしても誰かが助けて、護ってくれるのだろう。護るのは俺の専売特許なのだがあのゲームみたいに動けるようになるにはまだまだ時間がかかると思う。
(まずは自分の立場の明確化、そしてこの世界を知ることが目標かな?あっ、後は知り合い作りも優先した方がいいか、適当な基盤ができたら自分の戦力強化かな?)
これから自分が必ずしなくてはいけないことを考えてまとめていく。せっかく異世界に来たんだ、あの世界ではできなかったことを楽しまなくちゃだね。
日本にいたときとは比べ物にならないくらい危険があるはずだし、しっかりしなくちゃな。
夜の帳が落ちた後、部屋を照らす光がなくなり、部屋が黒く染まった。
(電気がないのって不便だよな・・・明日のこともあるし、寝るか・・・)
これからのことを考えていたが、考えれば考えるほどやりたいこと、やらなくてはいけないこと、色々と出てくる、それらの思考を止め、寝ることにした。
部屋は静まり返っている、意識して寝ようとする湊の深呼吸の音だけが部屋に心地よいリズムで響いている。
そろそろ寝れそうかな?ってときに突然部屋をノックする音が鳴り響いた。この世界にいる知り合いがといえば隣の部屋の先輩しかいない、先輩が再度話をしにきたのか?いや、、静かだし隣の先輩の部屋を叩く音がこっちまで響いて聞こえているのだろう、そう決め付けると、湊はノックの音を無視した・・・のだが。
コンコン、部屋をノックする音が再度鳴り響き、
「蒼井 湊様、夜分遅くに申し訳ありません。隣の部屋の主、ダーフィル・ティー・ノーノに使えております、執事のトゥルジと申します、蒼井 湊様が起きているのでしたら、お時間いただけないでしょうか。先ほどの件の謝罪をさせて頂きたく主に代わり参りました。」
先ほどの先輩の執事が来た。
(この世界には執事がいるのか!さすが異世界、というとメイドもいる可能性が、これはこれは・・・)
再度ノックの音が鳴り響き、湊を呼ぶ。
湊はベッドからスッと立ち上がると、部屋の入り口のドアを開け、とりあえず挨拶をした。
「こんばんわ」
「こんばんわ、蒼井 湊様、夜分遅くに申し訳ありません」
「いえお気になさらず・・・それで執事さんがなぜ俺のところに?」
「戸を閉めてもらって部屋の入り口で話しても?
執事さんにそう進言されたので、特に問題はないだろうと「いいですよ」と言い部屋の入り口へと招きいれ、戸を閉めた。
「ありがとうございます、それで話なのですが。朝方、蒼井様が頼られた我が主様より、自分の代わりに謝罪をして欲しいとの願いあってまいりました」
「そうですか・・・正直話に付いていけず、ただ驚き、いや恐怖ですかね、しただけなので、わざわざ謝罪しなくてもいいですよ」
「それでも異邦人共の同類と決め付けて、主様が行動しご迷惑をかけたのは本当ですので。ここに深くお詫びと、何かお詫びの品をと思ってまいりました」
「お詫びの品ですか?」
「はい、何なりとお申し付けください。我が主様は資産家でありますので、ある程度の値打ちのある物でも大丈夫ですよ」
「そういわれても・・・正直そこまでするもんなんですか?ただ勘違いしただけなのに」
「そうですね、蒼井様が特待生でなかったのなら、此処までの処置を主様はなさらなかったでしょう。この学園の主に認められ、入学した者を疑い、勝手に脅迫し罰しようとした事がよくありませんでした。この件が学園の主にばれた場合、どのような結果になるか正直想像が付きません。幸い学園の主にはこの事実が発覚していないようですので、先手を打ち、両者合意の上での解決したという名目を作りたいのです」
「はっはぁ・・・・」
この生返事である。湊は執事が何を言いたいのか理解していない、ただ異邦人と間違えたことが学園長にばれるとヤバイ、程度しか理解していないだろう。なぜやばいのかは分かっていないのだが・・・。
たが物は考えよう、お詫びの品をくれるといっているのだ、貰えるに至った理由なんて正直どうでも良い、貰える物は貰っておこう。さて何を貰うべきか・・・・・・とにかく今一番欲しいのは情報だ、俺は今、この世界の情報を何一つ持っていない。情報を得るには何をお詫びの品として貰えばいいか・・・?本、これはタルト荘の図書館に色々あると聞いている、それでどうにかなるだろう、特殊な情報しかなかったとしても、学園の図書館には一般的な情報はあるはずだ。じゃあ純粋に金か?だがこの世界の価値観がまだ分からないからな・・・この世界のことを詳しく知っている人を借りるか?でも俺は知らなさ過ぎるので何か勘ぐられるかもしれない、よくあるラノベのように、変に巻き込まれるのは勘弁だ。
じゃあどうする、何か良い物はないか・・・いや人を借りるってのも一応なしだがありなのか・・・人、物ほぅ・・・ラノベ・・・・・・あっ、もしかしたら奴隷とかいるんじゃないか?金銭で購入できる、ソコソコな値段の奴隷を買えば、多くの情報を持っているはず、主従契約とかあったら俺のことを話さないように強制できる?この世界のことを知っている人間を常に俺の横に置いておける、これがベストな回答じゃないか?そして可愛い女の子を所望すれば・・・金額的に無理か?いや、奴隷を望むのも変か?一応オブラートに包み込んで聞いてみるか。
「じゃあ、俺の身辺のお世話をできる人を用意してもらうことはできますか?この身一つでこの学園に来たので、お世話役が欲しいなと思いまして」
「ふむ・・・確かに特待生の蒼井様に執事もしくはメイドがいないのは変と思っていたのですが、1人でいらっしゃったのですね」
「あっはい、そうなんですよ。実家が遠くて、連れて来ようにも色々と事情がありまして」
「そうですか・・・主様のお抱えを派遣してもいいのですが、それは不自然ですね・・・・」
「ある程度の価格で身売りされてる奴隷とか・・・」
「奴隷でいいのですか?確かにそれならば金銭で解決でき、特に問題は起きませんね、お詫びの品ですし、人を貸すのを品とするのはどうかと思いましたが、奴隷を品とするのはありですね。それでは蒼井様の身辺のお世話をできる奴隷をお詫びの品としますがよろしいですか?」
「それでお願いします、いくつか条件をつけたいのですがいいです?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「それでは----------」
湊が望む奴隷の条件を執事へと告げた。
「かしこまりました。蒼井様、それではお詫びの品を受け取ることで手打ち、門外不問と言うことでお願いします。お詫びの品はできるだけ早くにお届けいたします。少々早とちりが過ぎる我が主様ですが、これからもよろしくお願いします、それでは夜分遅くに申し訳ありませんでした」
「いえ、こちらこそ勘違いさせる行動をした訳ですし」
「いえいえ、それでは、早いうちにまた後日、失礼します」
そういうと執事さんは優雅に一礼し俺の部屋からさっていった。
なんだかよく分からない理由でお詫びの品(奴隷)を貰うことになりました。異世界でのお詫びの品といったら可愛い女性の奴隷だよね?
そんなこんなでお休みなさい。