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絶対領域の守護者  作者: マユ・クロフト
第二話『ヴァーチカル ワーキング』
20/20

This is only the beginning

 あぁそうそう、軌道エレベーターのステーを滑り降りる私達が、あれからどうやって止まったかと言うと……。


『まだまだぁ! セナ・ジン!』


 ゼルラ氏がちっとも心配なんてしていないような気合い声と共に、私の機体を抱きしめていたヴァリスの片方の椀から、ワイヤーガンを進行方向左側に向かって発射した。

 同時に私のヴァリスに抱えられているセナ・ジン君のヴァリスも、ゼルラ氏と言葉を交わすまでもなく、阿吽の呼吸で、私の機体に抱きついていた腕からワイヤーガンを発射する。

 たちまち二本のワイヤー先端のアンカーが、緩い弧を描いて進行方向左側およそ100メートル程の位置の地面に固定され、間のワイヤーがビンッと一直線に張り詰めた。

 この時、人工島の岸壁までおよそ100メートルと少し。

 ゼルラ氏が何を企んでワイヤーガンを人工島の地べたに打ち込んだのかは、すぐに体感することで理解できた。


「ウガッ」


 突然、私の身体がコックピット内の右内壁へと、ぐべしっとばかりに押し付けられた。

 三機のヴァリスが、岸壁から今まさに海へと飛び出さんとする寸前で、左側100メートルに打ち込まれたワイヤー先端を支点とすることによって、左方向へと急カーブを始めたのだ。

 ゼルラ氏達は、一年前の経験から、万が一とはいえ、次にまた同じ事がおきた場合に備え、対応策をちゃんと考えていた。

 海までに止まれないならば、海に向かわなければいいのだ!

 まるでブランコを横倒しにしたような、猛烈な横方向への遠心力に押し潰されそうになりながら、私達のヴァリスは岸壁から車体を半分はみ出させるようにしてカーブを続け、無事Uターンに成功した。これで海に落ちる心配は無くなった。

 高度420キロからの垂直落下のベクトルを、ステーを伝うことで水平方向に変え、さらにそのベクトルをワイヤーを打ち込むことで半径100メートルの左カーブに変え、私達は、ついに無事地上に降り立つことに成功したのだ!

 ……と思ったところで、ヴァリスの腕が遠心力に耐えきれず限界を迎え、ブヂッともげた。


「ひやああぁあぁ!」


 急にワイヤーの頚木から解き放たれたヴァリスは、ド派手に車体をスピンさせながら、今しがた降りてきたばかりのステーの基部に、コンとぶつかって、今度こそ静止した。

 …………あ~目が回った。

 幸い、ステー基部にぶつかる頃には、スピードは停止寸前だったので大事無かった。

 私がようやっと深い深~い溜息を洩らすと、突然無数の光の柱が上空から私達を照らした。

 同時に、猛烈な爆音が頭上から響き渡る。

 私達の上空に、救助用ティルト・ローター機やら報道ヘリやらが集まってライトで照らしだしたのだ。

 おお、刑事映画の逃走犯みたいだ!

 私はコックピット天井のハッチを開放し、上半身を乗り出させると「ぷはぁ!」とばかりにヘルメットを脱いだ。

 一週間ぶりの地球の空気が肺を満たす。

 ふと正面の方を見ると、ゼルラ氏もヴァリスから半身を乗りださせて、私とまったく同じ事をしていた。

 長いポニーテールの赤毛を振り乱しながらヘルメットを脱ぐシーンは、まるで映画のワンシーンのようで、是非ともリピート再生したいところだった。


「あ~しんどかったっ」


 あ~楽しかったと字幕がついてそうな、そんなニュアンスで、彼女が額の汗を拭う姿に私は思わず見惚れた。

 私達の間では、セナ・ジンがコックピットからはみ出させた上半身を、ベタッとヴァリスのボディに突っ伏させていた。


「セナ・ジンく~ん! 大丈夫ですか?」


 やっぱ怪我でもしてるんじゃと声をかけると、少年はビクッと跳ね起き、何故か顔を真っ赤にしてわたわたと顔の前で手を振ると、小さな声で「大丈夫」と答えた。


「なら良いんですけど……」


 私は、それでも後でちゃんと病院で検査してもらおうと思った。


「まったく、あいつも素直じゃないよなぁ~」

「はい? 何がですか?」


 頬杖をつきながぼやくゼルラ氏に、私は尋ねた。


「セナ・ジンの奴さ、『自分だって一年前にゼルラと一緒にユカリコを助けたのに、ゼルラにばっかユカリコは感謝してる! けしからん!』な~んてぼやいててさぁ……」

「…………あ!」


 まったくもって抜けていたことに、私は彼女に言われるまで、セナ・ジン君が思って当然のその気持ちに全然思い至らなかった。

 一年前の例の事件で、真っ先に駆けつけてくれたのは確かにゼルラ氏だけど、セナ・ジン君だって命がけで私を助けてくれた人間なのだ。なのに、彼と再会してから私はその事実に関して、まったくもってスル―し続けていた。

 いや、ヴァリス・パイロットに慣れるのでそれどころじゃなかったってのもあるけど、ぶっちゃけ何の言い訳もできやしない。

 そりゃあ、私への態度に、多少のギクシャクがあったとしても文句言えないわ。

 ……でも、だからと言って今さらどうしよう?


「あ、あのぉ…………せ、セナ・ジン君?」


 もの凄い気不味さに襲われながら、再びセナ・ジン君を見下ろすと、私を見上げていた彼と目が合った。少年は何故か、顔を真っ赤にしながら慌てて目を逸らすと、何やらゴニョゴニョと呟いた。


「はい? 何ですって?」

「だから! ぁ……ぅ」

「はい?」


 訊き返せば訊き返す程、何故か彼は顔を真っ赤にさせていった。やっぱ、どっか具合悪いんじゃ……早く病院に連れて行かなけれ……


「だ~か~ら~! 『助けてくれて、ありがとう!』って言ってんの~!」

「へ?」


 私は、しばらく彼の言っている意味が分からなかった。ただ、急に眼頭が熱くなって、視界がぼやけていくのを感じただけだ。


「ユ……ユカリコ!?」


 ゼルラ氏が、突然涙をぽろぽろこぼし始めた自分に、狼狽するのが聞こえた。

 しかし、私はもちろん悲しくて涙を流しているわけじゃ無かった。


「ユ……ユカリコ?」


 私は、空を見上げると、周りの二人がドン引きする程に笑い転げた。それはもうケタケタケタ、ブヒャヒャヒャヒャッと。

 自分でも知らなかった、仕事をしていく上で一番聞きたかった言葉を、私はようやく耳にすることができたらしい。

 

 

 

 

                                     つづく……………………かな


ここまで読んで下さった方々ありがとうございます。

一応この『絶対領域の守護者』はこれをもちまして一時終了となります。

内容的には続きを書くことは可能ですので、ご要望があれば以降の物語が書かれることもあるかもしれません。その時はよろしくお願いいたします。

また、連載は終わりますが、劇中のロボット・ヴァリスの創作検討用モデルの写真を年内にはアップしたいと思っております。

 その時もまたよろしくお願いいたします。

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