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絶対領域の守護者  作者: マユ・クロフト
第二話『ヴァーチカル ワーキング』
18/20

♯11 ◆

いよいよ残り二話です。

どうか最後までお付き合い下さい。

 微かだったコオゥ~という風の音が、そのボリュームを増していた。それに合わせて機体がビリビリと震え始める。夜の暗闇が占めていた地上方向の視界が、淡いオレンジ色の光のベールに覆われていく。

 落下中なのにも関わらず、コックピットの中で肉体が下から押し上げられるような不可思議な感覚に襲われる。

 私のこの後の展開を知っていた。幸か不幸か、すでに一度、一年前に経験済みだった事がこれからまた起こるのだ。

 つまりは大気圏への突入である。

 私を襲っているのは、大気圏突入によって生じる凄まじい振動、熱、減速Gなのだ。


「セナ・ジン君! 大丈夫!? 返事して!」


 私は自機の後方、天空方向で切り揉み回転し続けるセナ・ジン機に、必死で呼びかけ続けた。

 白地に蒼いストライプのセナ・ジン機からは、その両脚部が噴き飛んでいた。

 他にもダメージがあるかは分からないが、これからの展開を考えるに、それは生死に関わる非常にまずい状況と言えた。

 一年前がそうであったように、この状況から生還するには、一刻も早く、再びピラー壁面に張り付いて減速しなければならない。

 さもなければ、地上に叩きつけられてゲームオーバーだからだ。その前に大気圏突入を乗り越えなければならないのだけれど。

 ソーラーパネルを避ける為にピラー壁面からジャンプしなければ、そもそもこんなことにはならずにすんだのだが、今更そんな事いってもはじまらない。

 セナ・ジン君からの返答は、いくら待てども返ってこなかった。

 まさかデブリがコックピットを貫通したんじゃ……当然の不安が襲ってくる。

 たとえ僅か数ミリのデブリであっても、それくらいの貫通力があるのだ。そしてそれを傍から見て判断するのは今は困難だった。


「αヴァリスⅣユカリコよりエルカ、聞こえますか? ゼルラさん!? カーミラちゃん!?」


 必死で他の誰かに呼びかけるが、返事は来ない。


「αヴァリスⅣよりデブリウォッチ、聞こえますか? αヴァリスⅣよりパシフィカOEVコントロール! 聞こえますか?」


 セナ・ジン君は仕方ないにしても、なぜ他の人達まで返事してくれないの!? 一瞬パニックに陥りかけるが、答はすぐに分かった。

 HMDの隅に映るヴァリスのコンディションを表示するCGモデルから、無線通信アンテナモジュールがマルっと無くなっていた。さっきにデブリで吹き飛ばされたんだ!

 つまり今、私は誰からの助言を受けることもできないまま、この状況を乗り切らねばならなくなっちゃったわけなのだ。

 もちろん、ゼルラ氏はカーミラちゃんやヒュー隊長は、私達を救うべく、最善の手段を講じていてくれているだろう。

 ……けれど、どちらにしろ今、この場所にいるのは私とセナ・ジン君の二人だけだ。

 こうなれば選択肢は一つしかなかった。

 なんということだろうか!

 あれから一年が経った今、昼夜が変わっただけのあの事件の再現を、私達は再び行おうとしているじゃぁないか!

 前と違って私は生身じゃなくヴァリスに乗ってはいるが、その分セナ・ジン君の機体が程度不明のダメージを受けているし、夜だから視界は悪いし、なにより私は助けられる側ではなく、助ける事を使命とする側になってしまっていた。

 ド新人であろうが無かろうが、私は今ヴァリスのパイロットであり、コンヴィニエンツの一員なのだ。

 このピラー壁面、高度420キロから地上1キロの【絶対領域】内において、今、セナ・ジン君を助けられるのは、ダメージは多々あれども五体満足な私のヴァリスしかいないらしい。

 偶然の神様のユーモアセンスには全く付いていけない…………。

 他人任せにできるなら泣いて喜んでそうする。だが、この状況から現実逃避するルートは、今の私には残念ながら存在しないらしい。

 あ~、もうっ!

 ならば……私は腹を括った。

挿絵(By みてみん)


「ぬおおおぉぉ」


 私はヴァリスの手足をジタバタさせ、まるで空を泳ぐようにして、オレンジ色の光にくるまれた自機をセナ・ジン機に接近させると、ぶつかる様にして彼の機体を抱きつき、即座に地上に背を向けた。かつてゼルラ氏のヴァリスに私がしてもらったように。

 セナ・ジン機のコックピットにデブリで穴が開いてないかはまだ分からないし、今回私達は自由落下では無く、UD018の処理の為に地上方向に思いっきり加速してしまっている。大気圏へぶつかる衝撃は、一年前の比じゃ無いはずなのだ。

 可能な限り、私はセナ・ジン機を庇うようにして落下した。

 風の音が轟音となって聴覚の全てを塗りつぶす。振動が最高潮に達し、コックピット内がシェイクされる。大気圏突入の難所に突入したのだ。

 HMDの視界が、朱色のプラズマの輝きで満たされる。

 コックピット内が熱くなってきたような気がするのは、先入観による錯覚なのだろうか?

 どちらにしろ、パイロットスーツの中でかきまくっている嫌な汗は本物だ。

 異常加熱の警告アラームが鳴り響き、HMD上のヴァリスのCGモデル全体が、みるみる赤く表示されていく。

 私は轟音に紛れて思いっきり悲鳴を上げながら、ただひたすらにその時が過ぎるのを待った。今は他に出来ることが無かった。

 ……燃え尽きないよう祈る以外は。





 風鳴りが、ゴォ~というやかましい音からヒュォ~という、それまでに比べたら心地良いくらいの音へと変わった。

 脳がゲル化してしまいそうな程の凄まじい振動が弱まり、コックピット内がそれまでからはウソのような静寂に包まれた。……と言っても、真空無音の宇宙にいる時に比べれば、それでも充分騒々しいのだけれど。

 永遠にも思える長い数分間が過ぎ去った。

 一年前よりも速い速度で大気圏に突っ込んだわけだけれども、どうやら私は燃え尽きずに済んだようだ。なにしろこうして生きているのだから間違いない。

 だが以前にも増して、ありとあらゆる種類の警告アラームが鳴り響きまくっている。

 パイロットは無事に済んだものの、機体にはかなりのダメージを受けたようだ。

 特に過熱警告アラームが、緊急排熱を求めていた。

 落下速度は、一年前と同レベルの大気圏内終端速度にまで落ちていたが、そこに至るまで大気圏突入時の無理苦理な減速で、運動エネルギーが熱に変換されちゃったということか。

 HMDの視界の背面を中心に、視界の半分以上がノイズに覆われて見えなくなっている。背面カメラ他が大気圏突入の熱でやられたのだ。

 今見えるのは、天空方向に伸びる航空警告灯によって、赤い糸のように見えるピラーと、大気の層や、時々通過する雲に阻まれ、霞んで見えるようになってしまった星空だけだ。

 ……が、とりあえずヴァリスは私の意思通りに動いてくれるらしい。

 確かめるようにヴァリスの手足を動かす度に、それまでは感じることの無かった空気の抵抗を感じた。

 とりあえず地球には帰ってこれた……地球・・には。

 私は視界をとり戻す為、思いきってヴァリスの頭部を覆っている、巨大紙飛行機のようなカバーを爆砕ボルトでパージ(緊急切り離し)した。

 バフッという微かな振動と共に、巨大な三角形の頭部センサーモジュールが、パシフィカの空に舞っていった。まさしく紙飛行機のように。

 これによりカメラからのHMD視界は完全に無くなってしまうが、その下、私の頭が納まっているコックピットブロックの上部バルジ表面は、昔の戦闘機のような透明バブルキャノピー状になっており、そこから肉眼で直接視界を得ることができる。

 肉眼にる正面方向の視界のみで、カメラ映像のような便利さは無いが、これでも状況を考えたら上出来だ。

 私はセナ・ジン機を抱えたまま機体を反転させ、地上を向いた。

 一瞬、予想外の眩しさが眼球を襲い、思わずきつく目を閉じた。それから恐る恐る目を開けると、眼前には色とりどり輝きで出来た、恐ろしく巨大な光の花が咲き誇っていた。

 目測でも差し渡し10キロはある。幾つもの六角形を組み合わせた、雪の結晶のようなシルエットだ。

 それは、上空から見下ろした夜のパシフィカ・アイランドだった。

 太平洋のど真ん中にできたこの人工島は、半径3000キロ内で最も巨大な都市でもあるのだ。当然、夜になればそれに見合った輝きを発するのだ。

 人工島上のありとあらゆるビル、住宅、商店街などの建築物はもちろん、移動している自動車や鉄道が、光る動脈となって人工島を放射状・環状に移動している。

 この島に再訪して半年以上経っているはずなのに、私は今、初めてこの島の本当の姿を知ったような気がした。

 …………なんとなく、巨大な深海クラゲを下から覗きこんだようにも見える……。


「……凄い……綺麗……」


 一瞬、今の状況を忘れ、私は眼下の景色に見とれた。

 だが、もちろんそんな場合じゃなかった。

 パッと何か、街の灯り以上の眩い閃光が、パシフィカ・アイランドの縁の二カ所で光ったかと思うと、私の後方上空で、何かが爆発的に燃え上がり、夜空に私達のヴァリスを山吹色に照らしだした。

 そうだった……すっかり忘れていた。

 一年前のあの時、大気圏突入を終えた私達を次に襲ったのは、地上からの…………。

 また地上からの一瞬の閃光、今度は私の下を先行して落下していたらしい物体が、弾けるようにして燃え上がった。

 一瞬、燃え上がった物体と地上との間に、細長い光のV字直線が見えた気がする。燃え上がった物体から上方にも同じV字の直線が、より鮮明な光となって見えた。

 パシフィカ・アイランドからの、対テロ・対デブリ用レーザーによるデブリ迎撃が始まったのだ。

 今消し飛ばされたのは、さっき切り離した三角形の頭部モジュールと、デブリの命中で吹き飛ばされ、そのまま一緒に落下してきたセナ・ジン機の脚部か何かのパーツだろう。

 それが何であれ、パシフィカ・アイランドに落下して損害を与える物だと認定されてしまったら、それがたとえ人間が乗った機械であろうと、かまわずに消し飛ばされる。

 つまり次は私達かもしれない。

 今気づいたことなのだけれど、迎撃レーザーは、二基一組で使用されるらしい。

 一基のレーザー砲で、デブリを蒸発させる程の出力のレーザーを撃った場合、デブリの彼方にOEVピラーがあった場合、どうがんばってもピラーまで撃って傷をつけてしまう。

 だけども、二基で一組のレーザーで、ピラーを避けつつ目標をクロスするようにしてデブリを撃てば、傷つける心配は無いわけだ。

 ……頭良いなぁ……だなんて感心している場合では無い! 

 夜間に目撃するレーザーは、一年前、昼間に見た時よりずっと鮮明で鋭かった。あんなもんに命中したら、たまったもんじゃない。

 助かるには、一刻も早く再びピラー壁面上に再接地しなくてはならない。レーザー迎撃対象から逃れるには、落下物では無くなるしかないからだ。

 私達の迎撃優先対象順位を、カーミラちゃんかヒュー隊長あたりが、きっと裏で手をまわして最後にしてくれているはずだと信じてはいるけれど。いつまでも待っていてはくれないだろう。

 しかも、レーザーは気が付いた時にはすでに命中している上に、基本的に不可視だ。

 私は一年前にゼルラ氏のヴァリスがそうしたように、セナ・ジン機を抱えながら落下しつつ、猛烈な速度で下方から上方で流れ行くピラー壁面に、ヴァリスの脚部タイヤを押し付けた。

 そして盛大に失敗した。



『ひぃぁぁぁ…………』


 セナ・ジン君のヴァリスが、ピラー接地の際の突然の遠心力に耐えきれす、両のマニピュレーターの中から吹っ飛んだ。

 今ちょっとなんか、微かに悲鳴が聞こえたような気がする。

 ……ここでちょっと待って考えてみるべきだった。

 時速数百キロで動くランニングマシーンに、ひょいと飛び乗ったらどうなるかを。

 そりゃ時速数百キロの足払いを食らったようになるさ。

 私のヴァリスは、済んでのところで上半身をピラー壁面に激突させるところを免れながらも、高速で前方宙返りを続ける破目になってしまった。

 ゼルラ氏でさえ上手くできなかったのに、私にいきなり出来る訳が無かったんだ。

 あ~……頭に血が昇る。

 私は両の手足をジタバタさせてなんとか回転を止めると、わたわたと空を泳ぐようにして再びセナ・ジン機を掴まえた。

 ……だが時間が無い。難しかろうがなんだろうが、ともかくピラー壁面にひっつかないとレーザーにけ消し飛ばされる!

 再びセナ・ジン機を抱えたままピラーに近づく。

 だが、またチャレンジして、今度こそ上手くいくだなんて、とても思えなかった。

 ここで失敗したら、再チャレンジする時間はもうないだろう。

 何か手を考える必要がった。何か良い手段を……。

 一年前、ゼルラ氏がピラー再接地に手こずったのだ、私を抱えていた為に両椀が使えず、再設置時のバランスがとれなかったからだ。さすが人型ロボットだと言うべきなのか、ヴァリスは自機のバランスをとるのに両腕を使いおるのだ。

 つまり両腕さえフリーならピラー再接地は可能なのだ。つまり両腕さえフリーなら……。


「!」


 私は決断した。

 セナ・ジンを抱えたままギリギリまでピラー壁面に近づくと、脚部のタイヤが高速で過ぎ去るピラー壁面に触れる寸前で、セナ・ジン機をごく軽く、ひょいっと放りあげた。


『ひぃぁぁぁ…………』


 ……また微かに悲鳴が聞こえた気がする……。

 セナ・ジン機が両手から離れた隙に、すかさず私は自分のヴァリスを脚部をピラー壁面に近づけさせた。

 接地する直前、強力な電磁石の効果により、ピラー壁面の方から一瞬引き寄せられるような感じを覚えると、バチンッとヴァリスの脚部タイヤがピラー壁面に吸いついた。同時に猛烈に機体が前後に揺さぶられる。それを両の腕をわたわたと振り回して耐えた。

 ピラー再接地には成功した! 次は!


「そいや!」


 すかさずヴァリスの両椀に装備されたワイヤーガンを、放り投げたセナ・ジン機に向けて発射、命中させると、ワイヤーを巻き取ってセナ・ジン機を三度抱きとめた。

 やたっ!

 我ながら滅茶苦茶な離れ業だったけれど、上手くいっちゃった。

 一瞬、頭上をレーザーの光が瞬いた気がするけど、気にしないことにしよう。

 ピラー壁面への接地と同時に、なり響く警告アラームの内の過熱警告が鳴り止んだ。大気圏突入時に発生した熱が、接触しているピラー壁面を通じて排熱されたのだ。

 一年前、ゼルラ氏が生身の私を抱えていた時には、今の手段は使えなかった。生身の私にワイヤーガンを打ち込むわけにはいかないからだ。

 だがセナ・ジン君のヴァリス相手になら、何の遠慮もなくワイヤーを打ち込んで引き寄せても構わないわけだ。だから一瞬だけ彼のヴァリスを放り投げ、ピラー接地後にワイヤーで彼を回収したわけなのだ。

 まさかこんな事態を想定して、ワイヤーガンが両腕に装備してあったわけじゃないだろけど、この装備があってホント良かった。

 そして良くこの手に気づいた。偉いぞ私!

 ……っていうか、一年前セナ・ジン君のヴァリスが私の掴まるゼルラさんのヴァリスに対してやった事を、今自分がやっただけとも言える。

 自分を褒めている場合では無い。私は自分のヴァリスの下半身のみをリフト形態に変形させると、思い切りブレーキングを開始させた。



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