8.なあ、ちょっと聞いてくれよ。 この前、討伐いったんだが・・・
主人公大変です。 中間管理職の宿命?
■■8.なあ、ちょっと聞いてくれよ。 この前、討伐いったんだが・・・
「よう、沖田。 元気?」
田中がやってきた。 知ってるよね、元気無いって。
「なんだよ。」
「えー、親友にそれって無いんじゃないの?」
ん? いつ、お前が親友になったんだ?
「それより案件、案件。」
討伐案件である。 難易度は適正っぽい。 しかし・・・
あれは1週間前。 サスケを加えた俺のチームは、順調に案件をこなしていた。 順調すぎた。 結果、サスケが天狗状態である。 さすがに赤坂も、永倉さんすらにも目に余る状態となるが、サスケはまったく意に介さない。 暴走野郎である。 一応、斉藤課長には相談しているが、痛い目をみないと駄目だろうという結論だった。 死んでも生き返る訳だが、ルールがね・・ 俺が一番恐れているのが、サスケの心が折れて、復活できなくなること。 これはかなりの戦力ダウンでもあるし、俺の精神的にもトラウマになりそうで、結構怖い。 沖田はサスケの新人研修を引き受けたことをかなり後悔していた。 どうすっかね。
赤坂を見ると、何故悩んでるの?という顔をしている。
「うし、やるか。」
こうして、おれは、そのトラブルの扉を開いた。
ということで、俺達はドルフという町に来ている。 この町の周りに、最近ゴブリンとかダークウルフが集団で現れるようになり。農作物や家畜への被害がでているらしい。 その討伐である。
早速ギルドに向かう。 ・・・ なんだと? 受付がおっさん? 俺は帰りたくなった。 だから赤坂さん?、短剣で刺すのやめろって。
ええ、今にして思えばそれがフラグだったわけですよ。
まず、状況を把握する。 手分けして、町の人たちに話を聞いていくことにした。
「こんにちわ、魔物被害の調査にきたんですけど、何か教えてもらえますか?」
「ああ、冒険者さんか。 最近、よく出るようになったんだよね。」
「どの辺によくでますか?」
「んー、昔は西の畑のほうにしか出なかったし、出てもそれほどの数はいなかったんだが、最近は北にも出るようになったな。 しかも北のは数も多い。」
何人かに聞いたが、大体同じだった。 一旦集合して、状況確認するか。
「サスケ? 一旦状況確認するから。 ギルド前に集合。」
「了解っす。 もうちょっと調べてからいきます。」
「なるはやな。」
なんか、嫌な予感するな。
とりあえず、ギルド前で待ってると、赤坂と永倉さんがやってくる。 サスケはちょっと遅れるらしいと伝えて、とりあえず情報共有をすます。
やはり同じようだ。以前は西で、数はすくない。 今は北で、数が多い。 ちなみに北はすぐ森がある。 なんか北に新しい瘴気のたまり場でもできてるのかね。 ギルドの係員の「おっさん」に聞いてみると、そういう情報はないらしい。 というか、あまり北にはいかないようだ。 この町は農業中心のようで、狩りをする人はあまり居ない。 なので森は危険なため、入る人が少ないらしい。
しっかし、サスケ遅いな。
「サスケ? なにやってんの?」
ん? 応答がない。 赤坂がレーダーをチェックするが、範囲には居ないようだ。 なんでいないの? この町そんなに広くないだろ? 凄く嫌な予感がした。さっきレーダーチェックしとけばよかった・・・
赤坂にはギルド前に待機してもらって、サスケに連絡を取り続けるよう伝える。俺と永倉さんで北に向かう。
森に入ると、特に危険な感じはしない。 普通の森である。 注意しながら、進んでいく。 でも、どっちに向かったのか、見当がつかない。 マジ、どうすっかね。
「んー、どっちですかね?」
「さあ、これだと分からないね。 さすがに足跡とかを探していくようなスキルはないから。」
「ですよねぇ。」
ただ、永倉さんも、サスケが一人で森にはいったであろうことは、結構確信してるっぽい。 まあ、あの暴走野郎ならやりかねん。
適当に見当をつけて、進んでいく。 しかし、動物がいない。 狩りもそれほどしていないのに、ここまで少ないって、なんか変だ。
「動物いませんね。」
「ああ、おそらく魔物の影響だろう。」
魔物が増えてくると、動物を狩ることがある。 瘴気でいきていけるのに、狩りをするのは、食べるためではなく、殺傷本能のようだ。
「赤坂。聞こえる?」
「ばっちり聞こえますよ。 こっちにはまだ戻ってませんし、連絡もとれていません。」
「んー、こっちも今のところ手がかりなし。 そのまま継続ってことで。」
「了解です。 気をつけてくださいね。」
しばらく歩くと、あちこちに動物の死体が見つかる。 どうも当たりっぽい。
さらに奥に気配を感じる。
「永倉さん。」
「おう。」
永倉さんと奥に走り出す。 音が聞こえる。 どうも戦闘中らしい。 黒い影のようなものが、ゴブリンに囲まれていた。
「サスケ! 一旦離れろ!」
サスケは聞こえていないようだ。
「永倉さん、サスケを頼みます。」
「了解。」
俺が威嚇しながらゴブリンの中に突っ込んで、hateを採る。 一斉にゴブリンがこちらを向く。 その隙に永倉さんがサスケを引きずり出す。
「ok。 でもサスケ君ショック状態っぽいな。」
「了解です。あとはこっちでやるんで、サスケお願いします。」
どうやら、サスケは大丈夫なようだ。 あの装備のおかげだろう サスケが救出されたことを確認すると、そのまま離れるように、ゴブリンを誘導しながら、1匹ずつ倒していく。 まあ、数は多いけど、何とかなるだろう。 とりあえず、半分ぐらいに減らしたところで、事態が悪化した。 援軍である。 通常なら、魔物はそこまで統制はとれない。 しかし、そこにはオークがいた。 オークもそれほど賢くはないが、ゴブリンの統制をとるケースはこれまでも確認されている。 ゴブリンも、オークも、それほど強くは無いが、集団で統制が取れた状態というのはかなりヤバイ。 永倉さんだったら、平気だろうけど、俺にはかなり重荷。失敗した、俺がサスケを確保に行けばよかった。 いまさらだけど。 まあ、あの場合は俺が魔物をひきつけるのがセオリーだから、しょうがない。 結果はともかく、あの時点では正しい判断だと思う。
「沖田くん、逃げろ!」
永倉さん、それ無理。 俺が逃げたら、こいつらそっち行くし。 さすがにサスケ抱えた状態では、永倉さんでも無理だろうと思う。
「永倉さん、抑えますんで、逃げてください。」
まあ、正直嫌だけど、この場合はこっちが正解。まずはサスケの救出が最優先だ。リスクは少ないほうがいい。それは永倉さんも分かってる。 永倉さんが動き出すのを確認する。
「かかってこいや!」
とりあえず、言ってみる。 嫌だけど。 本当はこなくていい。 つうか帰れよ、お前ら。
まあ、オークとゴブリンのタッグは強いよ、本当に。 結構頑張ったけど、さすがの中級装備もぼろぼろ。 剣もぼろぼろで切れなくなってきてる。 というか、致命傷がないのが奇跡的。 大体、360度囲まれた状態で攻撃受けるって、普通はありえないから。 盾で防御したとたんに、違う方向から攻撃されてるし。 ああ、そろそろやばくなってきた。 死ぬのって久々だな。 まあ、30匹ぐらいは倒したから、よしとしよう。 意識が飛んできた。 ついでに何か飛んできた。 何?
「ファイア(範囲)」
◆◆◆◆
沖田さんと永倉さんの会話をウォッチしていて正解でした。
「サスケ! 一旦離れろ!」
「永倉さん、サスケを頼みます。」
(ああ、これは結構まずそうです。 場所は先ほどの会話のときに、レーダーで確認済み。 久々に全力で飛ばしますか。)
赤坂恵は元アスリートである。 サスケには及ばないものの、そのスピードはかなりのものである。 たとえ森の中であっても。
「沖田くん、逃げろ!」
(ああ、これは本当にヤバそうです。 というか、サスケほっといて、永倉さんがフォローに入ればいいのに。)
ある意味正論かもしれないが、残念ながら、研修期間中の新人を優先して守る、というルールが存在する。 そしてサスケは優秀とはいえ、新人研修期間中であった。 沖田も永倉も、そのルールを知っているがために、今回の行動にでている。
「永倉さん!」
永倉がショック状態のサスケを運んでくるのが見える。
「赤坂さん。何故ここに?」
「理由はあとで。 沖田さんは?」
「沖田君はこの奥だ。 オークに統制されたゴブリンと戦闘中。 その数およそ60。」
「了解しました。」
「気をつけてくれ。」
(ゴブリン60っておかしいでしょう、それ。 ちょっとゴブリン何してくれてるのよ?)
赤坂は走り続けた。かれこれ20分は全力疾走をしているが、一向にスピードが落ちる気配がない。
そして赤坂が見たものは、ゴブリンに囲まれ、崩れ落ちる沖田だった・・・
「ファイア(範囲)」
赤坂は最新の注意をはらってファイアを打つ。 そう、以前に沖田に間違って当ててしまっているから。 あんなミスは二度としない。
崩れ落ちた沖田の右側のゴブリンが焼き尽くされる。
「ファイア(範囲)」
左側も同じように焼き尽くされる。
ゴブリンたちは逃げ始めるが、オークが赤坂に気がつき、襲ってくる。
「来なさい! ブタ野郎!」
一撃で殺すつもりは無かった。 沖田が味わった同じ苦しみを与えるつもりだった。 しかし、おそらく沖田は瀕死だ。 回復しなくては。
「ファイア(最大出力)」
ファイアがオークを丸こげにする。 即死である。 統制を失ったゴブリン達は。一斉に逃げ出した。
「沖田さん!」
赤坂が沖田に駆け寄る。
沖田が目をうっすらと開け、何か言いたそうに口を動かす。 が、聞こえない。 沖田の首がうなだれた。
「回復」
「回復」
赤坂は何度も回復呪文を唱えるが、沖田は反応しなかった。
しばらくして、沖田の体は光に包まれ、その光は拡散していった。
泣き崩れる赤坂だけが、その場に残された。