6.祭りの後は、やっぱり祭り
会社に良くありがちな話?
■■6.祭りの後は、やっぱり祭り
瘴気除去室からでると、千葉さんや永倉さん達は、報告などに追われていた。 ジャイアントスパイダーの発生と、あの異常なまでの強さなどが問題視され、うちの近藤部長や越後屋なども交えて会議をしているらしい。 俺と赤坂は事務系の事後処理。 いろいろ使ったので、総務に経費などの申請をしなくてはいけない。 ついでに、赤坂にも教えるのだが。 まさに、サラリーマンである。
とりあえず、総務部に挨拶がてら、赤坂を連れて行く。 ちなみに、社内では赤坂も普通のカッコをしている。 OLですから。
総務部につくと、窓口に行列ができている。 ただ、1箇所だけ。 総務部のアイドル、白鳥 可憐さんのファンクラブである。 こいつら、仕事してねーだろ。
「毎度。 花子ひさしぶり。」
花子というのは、三村 花子という、俺の同期だ。
「沖田ーーー! 花子いうなぁ!」
花子は花子という名前が、どうも嫌らしい。 知ったことではない。
「いや、花子は花子だろ? それともセイラとかにする?」
花子の鉄拳が飛ぶ。 ちなみに花子は戦闘部を希望していて、俺より才能はある。 ただ、暴走するため、総務部に速攻でまわされた。
「あ、彼女が例の赤坂さん? はじめまして、三村です。 この馬鹿の同期なの。」
この女、いい人モードにトランスフォームしやがった。
「2課の赤坂です。よろしくお願いします。」
「赤坂さんて、社内では普通のカッコなのね。」
なんか、赤坂の顔が赤くなったような気がするが、気のせいだろう。 というか、総務部の視線がこっちに集まってるんだが?
「はいはい、男子ー。 仕事してねー。」
すかさず、花子が回りに殺気を放つ。 GJ。 社内では、白鳥さん派と赤坂派の2大勢力があるらしい。 ちなみに花子派というのもあるらしいが、強制入会という噂である。 そう、俺とか、田中とかが犠牲者になっている。
「今回いろいろやっちゃったから、後始末で面倒かけると思うけど、よろしく頼むわ。」
「なんか凄かったらしいね。 噂でもちきりだよ。 あとで教えてね(はぁと 」
おい、花子、そういうエゲツない殺気を放つのはやめろ。 仮想身体じゃないんだから、死んでも生き返れないんだが。
とりあえずHPが0になる前に、簡単な打ち合わせをすませて、総務部をでる。
え? 白鳥さんはいいのかって? 残念ながら、白鳥さんはたしかに綺麗だが、「猫耳」ではない。 つまり、そういうことだ。 花子が「猫耳」だとしたら、その時は全力&決死でつぶしにいく。 そんなものは認められない。 決して。
しばらくの間、ひたすら資料を作る。 で、総務部に出しに行く。 この手の処理は一般的でないため、オンラインでの処理ができない。 ま、総務部にいくのは赤坂だから。 そのためにわざわざ挨拶しにいっている。 花子という核弾頭に、わざわざ近づくことはないのである。 これを政治というのだよ。
しかし、政治というのは万能ではなかった。 そう、花子の襲撃である。 それは突然やってきた。
「沖田! お昼に行こう! あ、赤坂さんも一緒にどう?」
戦闘部2課に第一種警戒アラームが発令された。 真田課長以下、全員が警戒、迎撃態勢に入る。 だめです。 敵が強力すぎます。このままでは、防衛ラインを突破されるのは、時間の問題です。 いや、撤退はできない。 ここが我々の最後の砦なのだから。
ということはなく、あっさり花子に拉致された。 まあ、俺を見捨てれば、花子という災害は去っていくのだから。
とりあえず、田中も拉致しにいくことにした。 当然お財布要員として。
「で、例の案件てどうだったの?」
ランチを食いながら、最初の突入から説明していく。 例の俺の光る話はとりあえず伏せておく。 田中と赤坂はしっているが、目の前の核弾頭に知られたら、何が起こるかわからない。 一応、緘口令もでているし。 現状としては、近藤部長と真田課長、越後屋、田中の4人で冒険者ギルドに報告にいったらしい。 やはり生存者は0だったそうだ。 スパイダーは獲物を仮死状態にしておくことがあるが、時間の経過があったため、こちらに依頼が来た時点ですでに死亡していただろうとのこと。 赤坂が変に責任を感じるとまずいので、確認して説明しておいてある。 あのあと再調査を行い、魔物の分布に問題ないことを確認している。 現在は6課による瘴気の分布や流れの調査フェーズらしい。 しばらくあのダンジョンは封鎖だろう。
しばらくして、花子と赤坂が女子会のような盛り上がりをし始めたため、俺と田中は近況の確認をする。
「なあ、沖田。 今回の新人の噂しってる?」
「いや、現場入り浸ってたから、しらないけど。」
「なんかね、またまた凄いのがいるらしいよ。」
またまたっていうのが気になるが、どうやら、戦闘部希望のルーキーがいるらしい。 で、そいつがどうも2課に配属になりそうなのだそうだ。 その他、最近景気がいいからボーナスが増えそうだとか、良く行く喫茶店の店員にかわいい子が入ったとかいう話をしていく。 女子会が終わりそうに無いので、営業部の経費で会計を済ませて、先に会社にかえることにした。 そのための田中である。
しばらくして、開発部からお呼びがかかった。 斉藤課長と一緒に、開発部にいくと、徳川部長を始め、真田課長と上条さん、永倉さんまでいた。
「すまないね。お呼びたてして。」
徳川部長に座るように促される。 座ったら負けのような気がするが、座らないと終わるような気もするので、負けるほうを選ぶ。
「早速だがね、例の光る現象について、テストをしてみたいんだが。」
斉藤課長も了解済みだそうだ。 逃げられねえ。
「死にませんよね?」
「ははは、大丈夫。 命にかかわるものではない。」
上条さんの目が泳いでいる・・・ 真田課長の目とか、猛禽類の目にしか見えない。 ふふふ、終わったな、俺。
翌日からテストが始まった。 どうやら、例の光る現象は、特定条件で発生することがわかっているが、その条件を把握することが目的のようだった。
装備や測定器具をつけて、シミュレーターで戦闘を繰り返す。 シミュレーターは仮想身体なので、やられても死なないが、出現させる環境や魔物、強さを自由に設定できる。 瘴気もON/OFFを設定できるらしい。 とりあえず、ゴブリンあたりから始まって、先日のジャイアントスパイダーぐらいまでを、いろいろな条件でこなしていく。 つうか、1週間ぐらいかかってるんですが。 ちなみにジャイアントスパイダーはあっさり負けた。 死ぬ前にストップがかかったけど、あの前足で瀕死の重傷をくらった。 アレよけるとか、無理ゲーすぎる。
結局、どのパターンでも、現象は再現できなかった。 ただ、真田課長と永倉さんは結構満足そうだったけど。 理由は嫌な予感がするので聞かなかった。
ようやく通常業務に戻る。
「沖田さん、お帰りなさい。 ちょっと聞いてくださいよ・・・」
俺がいない間、赤坂は研修という名の、座学の拷問だったらしい。 すまんな。 それも仕事だ。
相変わらずの田中案件 かっこ かんたんなおしごと かっことじ をこなしていく。 どうも田中専属になりつつあるような気がする。 そして、護衛案件が結構増えてきている。 どうやら、ボーランドさんたちがあちこち宣伝してくれているようだ。 例の盗賊の件がキッカケだと思う。 これが名指しでくるので、そういうことになっているようだ。 まあ、指名されるってのは、悪い気はしない。 指名料は入らないけど。 でも、ボーランドさんがらみだと、おかしな仕事はないので、こっちも安心して仕事できるメリットもある。 そして、不思議なことに、ボーランドさんがらみの案件は、ギルドの受付が「猫耳」お姉さんである確立が非常に高い。 これは喜ばしいことである。 最大のメリットだ! この仕事していて良かった、と心から思う。 親父、お袋、生んでくれてありがとう!
もうひとつの通常業務。 そう、課の定期会議だ。
これは、業務の進捗やトラブルの報告をしていくのだが、資料を作らなくてはいけないため、結構面倒である。 普段は剣だ、魔法だ、といってる自分がサラリーマンであることを自覚する。
俺の順番が回ってくるが、良くある案件しかないし、この間のジャイアントスパイダーの件はすでに報告済みであるので、比較的簡単に説明が終わる。 で、気がついたのだが、俺と赤坂の案件成功率は、なにげにいい。 というか、上位にはいっている。 ベテラン勢と並んでしまっている。 なんでだろ? 俺って優秀? とか思い上がると痛い目にあうので、たまたま運が良かったと理解しておく。
会議の後半は、新規の大型案件などについての情報共有であるが、この辺はあまり関係がないので、スルーしている。
「おい、沖田。 お前の案件成功率なんだが、なんか秘訣とかあるのか?」
うわ、いきなり来た。 なんでそういう話になってるの・・・
「いや、特に思い当たるものはないですね。 運がよかっただけではないでしょうか。 一応準備とか努力はしてますが。」
「うーん、確かにお前の準備の良さとかは認めざるを得ないな。 やっぱり準備だろうか。 ということで、準備の強化を徹底していこう。」
よかった。 スルーした。 ん? なんでこっち見ているの? 赤坂さん? 手を上げるのやめて? 千葉さん達も、その目をやめて・・・
「赤坂、なんかあるのか。」
「はい、成功率の件ですが、おそらく猫耳が関係あるかと思われます。」
一同絶句。 俺、即死。
「私たちの成功した案件ですが、すべてギルドの受付の女性が猫耳である、という共通点があります。 また、猫耳である場合の沖田さんのモチベーションは、当社比で200%ほどアップしていることが確認されております。」
さらに絶句。 斉藤課長ですら、即死級のダメージを受けている。 がんばれ、斉藤課長。
「なるほど、赤坂君ありがとう。 で、どうしろと? ギルドに受付に猫耳の女性を配備するように依頼する? それって沖田以外に効果があるのか?」
赤坂、真っ赤。 まあ、赤坂の分析はあながち間違っていない。 でも、それって会議でわざわざ発言することか? でもしょうがないから助けてやるか。 俺っていい人。 なので、赤坂も「猫耳」お姉さんに俺のいい人アピール手伝うように。 そこ重要。
「あー、そういえば、例の盗賊の件あったじゃないですか。 あれ以降、ボーランドさん達がどうも宣伝してくれているようで、その絡みの仕事が増えているように思います。 で、クライアントもボーランドさんの顔がありますので、変な依頼もしにくいと思いますので、結果として優良案件が増えている、ということはあるのではないでしょうか。 ま、信頼を築くということですか。」
俺みたいな若手が「信頼」とかいうと、集中攻撃されるんだが、今回ばかりは、全員うなずいている。 赤坂以外。
ということで、何とか会議は終了。 ああ、なんでこんなに視線が痛いの・・・・