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49話 おまけ2

■49話 おまけ



「沖田、落ち着け。大丈夫だ。」


 俺の目の前で、先ほどから田中が行ったり来たりしている。


「田中、落ち着くのはおまえだろ。」


「ばかやろう、これが落ち着いていられるか。」


 お前、矛盾しているのがわかってるか?


「なあ、田中。お前が結婚するわけじゃないだろ?」


 そう、これから俺と赤坂の結婚式がはじまるのだ。

 

「え? あ、そ、そうだが。でも、お前落ち着きすぎてやしないか?」


「まあ、2回目だしな。」


 そう、俺と赤坂の結婚式は、実は2回目である。数か月前に向うの世界で結婚式も入籍も済ませている。

 こっちの世界では島の関係者だけでちょっとしたパーティを開く予定だったが、近藤部長が評議会でぽろっと漏らしたところ、騒然となったらしい。そして、かなり重要な議題があったにも関わらずすべてペンディングとなり、俺の結婚式をどうするか、という話が最重要議題となったそうだ。意味がわからん。

 

 結局、評議会の各国代表を招待する形で俺と赤坂の結婚式が行われることになり、評議会による実行委員会も立ち上がることとなった。俺たちからは、斎藤課長と田中が実行委員会へ参加することになったようだ。

 

 正直、どうでもいいがこの実行委員会が曲者で、各国の結婚式というのはそれぞれ形式などが違うらしく、自国の形式を採用させるべくさまざまな駆け引きがあったようだ。たとえば、誓い一つとっても、国、つまり国王に誓う、精霊に誓う、大地に誓うなど、さまざまなパターンがあるらしい。

 結局、話は平行線をたどりまったくまとまらないため、基本的には俺たちのやり方をそのまま当てはめることになったのだが。

 

 それだけではなかった。会場も問題になった。

 当初は例のステージか食堂を使う予定だったが、招待客がなんと2000人をこえるそうで、とてもおさまらないことが分かった。

 さらに問題が発生する。新婦はなにかに乗って入場するというのが、この世界の共通認識であったため、そこだけは譲れないとのことだった。

 これについては、ユニコーンを使う予定でいたが、横やりがはいる。そう、ミストレアだ。ぜひとも騎乗してほしいと、だだをこね、あやうく町一つが灰になりそうになったのだ。

 結局、ミストレアに騎乗することになったのだが、そうすると当然ステージでは手狭となる。

 

 最終的に、ゆくゆく作るつもりだったコロシアムを前倒しで作成することになったのだ。もちろん、全天候型のドームである。設計とデザインは熊本さん達三村建設で、施工は熊本さん指導のもとでヨーレルの職人たちが担当することになっている。当然、熊本さんの設計なので、どこぞの競技場のように予算の倍かかるなどということはなかった。ドーム部分は間に合わないものの、信じられない急ピッチでコロシアムは出来上がっていた。もちろん手抜きとかはない。


 いろいろと課題も多かったが、なんとか実施の目安も立ってきた。招待客だが、各国の王族、有力商人、その他2000人規模となる予定で、その警備なども当然必要であり、戦闘部の手の空いている人たちが残らず警備に駆り出されることになった。とはいえ、この警備についてもひと悶着あり、赤坂ファンクラブによる妨害工作が懸念されていた。

 どうでもいい話だが、赤坂ファンクラブはこの結婚式に対して、赤坂の幸せを純粋に願う容認派と、反対派の二つに分かれており、反対派による妨害が予想されるが、容認派は妨害の絶対阻止を宣言し、かなりの激戦が予想されていた。

 ところが、この件に頭を抱えていたサスケをフォローするように、しーちゃんが賛成派に赤坂のウェディングドレスの限定プロマイドを配布することを宣言したとたんに反対派がいなくなったらしい。おまえら、ポリシーとかプライドは無いのかと問い詰めたい。

 結局、赤坂ファンクラブの一致団結により、予想をはるかに超える警備体制が組まれることとなった。

 

 そうそう、赤坂のウェディングドレスだが、ロンドガルの超有名デザイナーによるオートクチュールとなることが決定している。どうも、是非やらせてほしいという話がきてたらしい。ちなみに俺はタキシードではなく装備だったりする。一応新品なんだけどね。まあ、着慣れてるし問題はない。

 

 あと、新郎と新婦には、それぞれ従士がつく必要があるとのことで、俺の従士はサスケ、赤坂の従士は花子がそれぞれつくことになった。赤坂の従士はしーちゃんという話もあったが、結婚、もしくは婚約している女性は従士になれないそうで、しーちゃんは子供のころにサスケと婚約しているそうなので、花子になった。ちなみに男は問われないそうだ。


 また、料理についてもいろいろと問題があった。まず、2000人を超える招待客に出す料理の材料の確保と料理人、給仕などを用意する必要がある。これについては青山財閥配下のグループ会社に頼むしかないかと思われたが、なんとラフェリアから申し入れがあり、料理等についてはラフェリアに一任することができた。

 

 こうして、なんとか式の用意も進み、結婚式当日を迎えることができたのだった。

 

「沖田さん、そろそろ始まるっす。」


 サスケが俺たちの控室に入ってくる。

 

「じゃあ、俺は先に行ってるよ。」


 そういうと、田中は台本を片手にそそくさと部屋を出ていく。

 

「俺たちも準備するか。」


 サスケが頷くと、俺たちも部屋を後にする。

 


 俺とサスケはひな壇のようなところに立っている。そして、新婦の入場を待っていた。

 

「新婦の入場です。」


 田中のアナウンスに合わせて、扉が開かれる。しかし、そこにはミストレアも赤坂も花子もいない。

 

「おい、あいつらどこに行ったんだよ。」


 思わず、隣にいたサスケにささやく。

 

「お、沖田さん。う、上っす。」


 サスケの言葉で見上げると、上空をゆっくりと何かが飛んでくるのが見える。

 

「え? あれって・・・」


 上空を飛ぶ何かは次第に近づくと、その輝く体を閃かせながらスタジアムへと優雅に降りてくる。しかも、風ひとつ巻き起こさずに。いったいどういう仕組みだよ。

 

「おおおおぉぉぉ」


 会場からどよめきが上がる。そして、そこには、ミストレアにお姫様乗りした赤坂がいた。ついでに花子も。

 いろいろと突っ込みどころ満載だが、突っ込む気力さえ失せていた。

 

「なんで花子まで乗ってるんだよ・・・」

 

 そして、気を取り直してミストレアに歩み寄り赤坂に手を差し伸べ、ミストレアから新婦を受け取る。

 

「なんかすごいことになってるな。」


「ええ、私もびっくりです。」


 思わず赤坂と苦笑してしまう。

 

 こうして、式が始まった。こちらの世界でも、来賓祝辞というやつはあるようで、先ほどから各国の王族などのスピーチが延々とづついている。しかも、話の内容はほぼ同じときているので、さすがに飽きてくる。

 まあ、結婚式にありがちなおやじギャグがないだけマシなのかもしれない。

 

 しかし、それは嵐の前の静けさに過ぎなかった。そして嵐はエルフの長老、ロベルトとともにやってきた。

 この世界におけるエルフとは、各国の王族からも一目置かれる存在であり、その長老ともなれば、神に匹敵するともいえる存在であろう。

 実際、俺たちが誓いを立てたのは精霊になったのだが、その理由としてこの島にいるエルフ達の存在が大きかった。俺たちはどこか特定の国に誓うわけにもいかないため、いずれの国からも問題がでそうにないエルフ達の信仰する精霊に誓いを立てることでバランスをとった。そのため、エルフの長自らが誓いの立会人となったのだ。まあ、俺たちからすると知り合いの村長に頼んだぐらいの認識だったのだが、各国からするとエルフの長立会のもとに精霊に誓いを立てるというのは、たとえ王族であったとしてもめったに叶うことではなく、羨望のまなざしで見られることとなった。いや、なるはずだった。うーん、どうなんだろうか。

 

「それでは、精霊の名において誓いの言葉を述べるがよい。」


 村長に促され、俺と赤坂が誓いの言葉を述べる。

 

「私たち二人は、精霊の名において一生愛し続けることを誓います。」


 そして俺と赤坂が見つめあう。

 

「では、この婚姻に意を唱えるものがあれば申し出よ。」


 よくあるセリフである。映画だとここで突然扉が開いて、男が乱入してきたりするが、そんなことはありえない。・・・はずだった。

 

「うむ、おらんか。では儂が意を唱えさせてもらう。」


 一斉に村長に注目が集まる。

 

「そもそも、この結婚には反対じゃ。なぜ、エルフの姫が勇者とはいえ、このような馬の骨と結婚せねばならぬのだ。だいたい、姫をそんな風に育てた覚えはござらん。」


「あの村長、沖田さんは馬の骨ではありませんし、私は村長に育てられた覚えもありませんが。」


 赤坂が冷静に突っ込む。

 

「うっ、そ、それは。ともかく反対でござる。絶対に反対でござる。」


 おい、村長。おまえ何者だよ。こんな展開はさすがに予想していなかった。カルロスやジュリアの方をちらっと見ると、奴らも想定外の展開だったようだ。頭を抱えて何やら話し込んでいた。

 

「じゃあ、俺たちはどうすればいいんですか。」


 俺の問いかけに、またしても村長に注目が集まる。

 

「それは、その・・・ ずばり結婚のとりやめじゃな。」


「じゃあ、俺たちは結婚できないってことですか。」


 実際、あっちの世界では式も入籍も済ませているので、別に問題ないわけだが。

 

「でも、精霊は反対してませんけど?」


 赤坂が首をかしげていた。ああ、赤坂は精霊と話ができるんだったな。そういえば・・・

 

「なあ、ここに精霊が勢ぞろいしてたりするのか?」


 小声で聞いてみる。

 

「ええ、みなさんいらっしゃいますね。」


「じゃあ、例の海の精霊って方もいるわけ?」


「ええ、さすがにふんどしに蝶ネクタイはどうかと思いますが。」


 赤坂が苦笑していた。

 

 突然、カルロス達が動き出した。にこやかに愛想をふりまきながら壇上にくると、だだをこねて暴れる村長を押さえつけて、そのままどこかに運び足していく。そして、壇上には俺たちとジュリアが残った。

 

「皆様、お見苦しいところをお見せいたしました。大変申し訳ございません。」


 ジュリアが優雅に謝罪の礼をする。それに合わせて、会場がほっとするのが分かった。

 

「それでは、精霊の名において、このお二人が夫婦となることを認め、ここに祝福します。」


 一斉に会場全体が立ち上がり、拍手が巻き起こった。

 

「では、祝福のキスを。」


 レイラがにっこりとほほ笑む。

 

「レイラ、それ聞いてないんだけど。」


 慌ててレイラに小声で聞く。しかし、レイラはにっこりとほほ笑んだままだった。しかし、目は笑ってない。それどころか、さあ、早よ!!と、物語っている。

 

 ちらっと警備の連中の方を見ると、思った通りで弓を構え始めるやつや、思わせぶりに杖を叩いているやつらが見える。こいつらはファンクラブのやつらだろう。

 

「沖田さん、いえ、守さん、大丈夫です。いざとなったら障壁を張りますので。」


 あのな、障壁とかどうなのよ。

 

 しかし、その言葉で俺も決意した。そして、ゆっくりと唇を近づけていく。

 

 結局なにもなく、無事に終わった。というか、いつの間にか弓や杖を構えていたやつらがいなくなっていたが。その理由は深く考えないことにする。そう、俺は何も悪くない。

 

 そのあと、近藤部長の音頭で乾杯を行い、待望の食事が運ばれてくる。

 食事については、ラフェリアが国を挙げて支援しただけあり、どれもこれも絶品だった。しかし、なぜかスケルトンラーメンも出ていたのには、さすがに驚いた。


 そして、アトラクションとして、ミーソラ率いる選抜チームによる舞踏が繰り広げられ、スタンディングオベーションすら巻き起こっていた。どっちが主役だよ。


 こうして、いろいろとあったが、無事式を終えることができた。


 さて、式が終わると、俺たちの退場となり、やはりこの世界でもブーケトスはあるようだ。

 そして、俺たちの目の間には数百人の女性たちが待ち構えていた。

 

「なんか、大丈夫なのかこれ。」


 俺はとなりのサスケに聞くと、サスケは一生懸命インカムで支持を出していた。まあ、なんとかなるのだろう。

 今かと待ち構える女性たちを見ると、ジュリアやリーゼ、レイラ、ミーソラなど見知った顔も見える。

 当然、花子もいるわけで。

 

 そして、赤坂が手にしたブーケを群集に向かって高く投げた。

 

 突然、手を挙げる群集から一つの影が飛び出る。リーゼだ。猫人族ならではの跳躍で、ブーケに襲い掛かる。

 

「にゃにぃ!!」


 ブーケに手が届く寸前に、突然軌道が変わる。

 

「ふふふ、私がいただきます。」

 

 どうやらジュリアが風の精霊の力で軌道を変えたようだ。ブーケはレイラの方に軌道を変えていた。そして、勝ち誇った顔でジュリアがブーケをつかもうとした瞬間に、ロケットパンチがブーケを掴む。レイラの発明だ。なんか無駄な発明にしか思えないんだが。

 しかし、それで終わりではなかった。

 

「甘いわよ。」


 レイラのロケットパンチはミーソラの鉄扇により動きを止められ、またしてもブーケが空高く舞い上がる。

 次々と変わる軌道に合わせて群集が一斉に移動する。正直、いつパニックに陥ってもおかしくないだろう。

 

「ま、まずいっす。」


 サスケの指さす方向を見ると、なにやら花子が構えをとっていた。

 

「静さん、三村さんを止めるっす。」


 しーちゃんばこの事態を予測していたようで、花子の背後をとっていた。

 

「大地波動拳!!」


 花子が馬鹿な技を発動する寸前で、しーちゃんが花子の動きを止める。すかさず、花子は警備に取り押さえられていた。あれが決まっていたら、群集は将棋倒しになり、けが人続出、いや下手したら死人すら出ていたかもしれない。

 

「みんなを足止めするつもりだったんだろうけど、あれはマジやばすぎだろう。」


 俺はほっとしてつぶやいた。

 

 ブーケはというと、ジュリア達の風魔法やら、レイラのロケットパンチやらで、さらに上空高く舞い上がっていた。

 

「でも、あのブーケってまったく壊れそうにないけど、なにでできてるんだ?」


 ブーケといえば、単なる花束だったはずだ。あれほどの衝撃を受けても一向に壊れる気配がないということは、なんか特殊素材で出来ているのだろうか。

 

「いえ、普通のブーケですが、念のために障壁をかけておきました。」


 まさか、この事態を予測していたってことか・・

 

「「ああっ!!」」


 突然、群集から悲鳴のような声が上がる。そして、全員が空を見上げていた。

 見上げると、ブーケを咥えたミストレアが悠々と空を飛んでいた。

 

 こうして、無事かどうかはわからないが、まさかのミストレアの乱入によりブーケトスも終わり、長かった俺達の戦い?もようやく終わりを告げたのだった。

 

 <完>

これで完結となります。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。

また、評価、ブックマークいただいた皆様方、本当にありがとうございました。1章だけの予定でしたが、励みとなり3勝まで続けることができました。

心より御礼申し上げます。

書きかけのものや、構想中のものなどありますが、機会があればまたお会い?できますように。

See you next story!

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