5.覚醒 って何? おいしいの?
ダンジョンの続きです。
■■5.覚醒 って何? おいしいの?
とりあえず、一度帰還。 千葉さんと田中がクライアントに状況説明に向かい、行方不明の冒険者の生存率は非常に低いことや、ダンジョン封鎖の許可などをもらいに行く。 冒険者ギルドも、依頼内容を救出から、おそらくいるであろうジャイアントスパイダー討伐に変更し、問題がないことを確認できるまでの間、ダンジョン封鎖することを了解した。 ファイアによる窒息を使ったとしても、1ヶ月程度で再開可能になるだろう。
俺と赤坂は、会社の規定に従い、瘴気除去室にこもっている。 俺達のような低レベルは、ダンジョンに入ったら瘴気除去室に入ることを義務付けられている。 まあ、魔物になることは無いと思うが、免疫がないといろいろと問題があるそうだ。
瘴気除去室は、4畳ほどの部屋で、気圧とか酸素割合とかを変えている。 長時間こもるため、飲食自由、トイレもある。 中では喫煙と飲酒以外は何をしていてもいい。 おそらく赤坂は録画してあった、魔法少女シリーズを見ているものと思われる。 俺はひたすら寝る、寝る、寝る。 なぜなら、ファイナルクエストシリーズの最新作を買いに行ってる暇が無かった。 ジャングルさんでぽちっておかなかったことが悔やまれる。
結局、俺が6時間、赤坂は最長記録の24時間こもり続けた。
再突入に向けての作戦会議。 冒険者ギルドの許可は取得済み。 基本方針は前回決めたもので行くことにする。 よって瘴気量の多いところを探して、ボス部屋を見つける。 ついでにボスも討伐。 念のため、2課からバックアップ部隊もでるらしい。 おそらくあるであろう、行方不明の冒険者達の死体の搬出とか、討伐以外のことは、任せてしまう。 だって、赤坂に蜘蛛の素材回収とかやらせたら、間違いなくファイア(特大)とかで丸ごと炭にするだろうから。 瘴気分布の変化調査なんかもあるけど、それは今回の依頼には含まれないので、別案件として6課あたりが動くのだろう。 そうそう、瘴気探知機もあっさりできたらしい。
再突入。 フォーメーションは同じ。 赤坂のカッコは、どうでもいい。 気にしたら負け。
あ、そういえば、バックアップ部隊の編成が困難を極めたらしい。 なぜなら、応募者多数。 他の課からも希望者が来たらしい。 理由は赤坂。 知らなかったが、結構人気があるらしい。 お前ら、馬鹿か、死ぬの? つうか、営業とか総務がダンジョン入るって、おかしいだろう。 マジ死ぬよ。 生き返るけど。 俺のところにも、突然敬語で来る先輩とか、始めてみる人とかが結構来た。 俺に、メンバーの選定権あると思ったらしい。 で、結局、斉藤課長が介入して、メンバーが決まったけど、そのおそろいのハッピは何? 旗とペンライトも持ち込もうとしたらしいけど、さすがにそれはNGだったらしい。 お前ら本当に仕事しに来てる? ていうか、千葉さんと静岡さんが、ハッピの入手方法聞いてるんですけど。 もうやめて、俺と埼玉さんのライフは0よ!
1層目は、サクッと終了。 2層目の問題の場所にいく。 ここで埼玉さんが瘴気探知機で調べていく。 一応、他のメンバーは周辺の警戒。 警戒? してねー!!! だから、魔法少女ネタで盛り上がるのは ヤ メ ロ。
唯一の良心ともいえる埼玉さんが、どんどん調べていく。
「あ、ここ結構な反応ありますね。」
「よし、世の理を解き明かすぞ。」
いえ、千葉さん、そのセリフおかしいです。 というか、うなずくのやめてください。 あんたら、何者ですか?
いろいろ調べるが、何も無い。 うーん、どっかにジャイアントスパイダーが出入りできるような穴とかがあると思うんだが。
やっぱり、飽きてきたらしく、例によって魔法少女ネタで盛り上がってきやがりました。
「埼玉さん、どこかに穴あるはずですよね。」
「うん、ジャイアントスパイダーが出入りできるぐらいだから、それなりに目立つとは思うんだけど。」
埼玉さん、素敵。 こういう人をベテランていうんですね。 それに加えてあの連中は・・・・
「千葉さん、違います。 こうです。」
やつらはポージングの調査を進めているようです。 あのな・・・ あっちでやれよ。 邪魔だっつーの!
「ぐわ!」
あ、千葉さんがバランス崩して盛大にこけました。 天罰です。 しかも、壁壊しました。 斉藤課長に言いつけてやります。
「「・・・・ん?」」
千葉さんって、ぶつかっただけで、壁壊すって何者?
「なんじゃこりゃ?」
どうやら、千葉さんが壊した壁は、ジャイアントスパイダーの出入りに使われていた穴らしく、ご丁寧に糸を接着剤にして岩を使って偽装までしていたようだ。 ジャイアントスパイダーって賢すぎる。
「千葉さん、やりましたね。 世の理を解き明かすなんて凄いです。」
「おう、任せておけ。」
いや、赤坂、それ違うから。 それと、千葉さんに任せるのは、危険だと思います。
念のため、3層も調べたところ、やっぱり同じような偽装した穴を発見した。
バックアップ隊に2層の穴の封鎖をお願いして、こちらは3層から突入することにする。
「全員、酸素ボンベ装着。」
今回はファイアによる窒息も想定しているため、酸素ボンベを用意している。 といっても、これも開発部が作った特製で、かなり小さいから、動きに影響はない。 あと、赤坂の瘴気酔い対策もある。 穴の中は、ボスクラスが動ける程度に瘴気が濃い。 瘴気は呼吸のほかに、皮膚などからも吸収するが、呼吸からの吸収がなるなるだけでも、それなりに効果はあるはずだ。
どんどん進む。 途中、スパイダーが出てくるが、サクッと討伐。 そろそろ瘴気がMAX。
俺と千葉さんを先頭に進んでいくと、ちょっと広めの部屋に出た。 出た。 でたああああああああ。
「ジャイアントスパイダーを発見。」
ジャイアントスパイダー1匹と、その周りにザコが数匹。
「戦闘フォーメーション。 天に代わってシバいてやる!」
あのね、千葉さん? だ か ら ・・・・ 無視。 スルーする。 だって、ライフ0・・・
埼玉さんが弓で牽制しつつ、その隙に千葉さんがジャイアントスパイダーに突っ込む。 俺はザコに突っ込んでいく。 永倉さんは、魔法職の護衛だ。
千葉さんの剣と埼玉さんの矢が、ジャイアントスパイダーを襲う。
ジャイアントスパイダーは千葉さんや埼玉さんに糸を放ち、拘束しようとするが、二人は華麗によけていく。
ジャイアントスパイダーの前足は、異常に発達しているようで、あの足なら岩に穴を開けることも可能だろう。なので、糸につかまるということは、あの足の攻撃をモロに食らうということで、永倉さんの防具でもない限り、間違いなく防具を突き破って即死するだろう。
「千葉さん、チェンジ。」
永倉さんが千葉さんに配置交換を告げ、永倉さんがジャイアントスパイダー正面に、千葉さんが魔法職の防御にあたる。 さすがベテランである。 でも、赤坂の近くにいけて、千葉さんうれしそうなのは、おそらく気のせい、気のせい、気のせい? ・・・・ さすがにネタでもりあがることはないよね・・・ 戦闘中ですよ?
永倉さんは、あの前足の攻撃を、盾で裁いていく。 盾の性能もさることながら、あのスキルは凄い。 しかも、隙をついて、どんどん攻撃も仕掛けていく。
しばらくして、ジャイアントスパイダーが糸を体にまとい始める。 糸は固まるとかなり硬い鎧のようになるようで、攻撃が効きにくくなってくる。 ジャイアントスパイダー賢すぎる。 魔法職による風攻撃が始まるが、やはり糸の防具に弾かれているようだ。 俺? ザコと遊んでます。 とりあえず、1匹倒したけど。 当然、静岡さんに回復してもらってますが、なにか?
「ファイア用意!」
千葉さんがファイアを使うことを決めたので、魔法職がファイアを放つ。 まとわり着いた糸が燃え上がっていく。 物理攻撃が通るようになったが、まだ致命傷にはいたらないようだ。 ていうか、永倉さんの剣すらダメージ少ないって、硬すぎないか?
静岡さんと赤坂が盛大にファイアを放つ。
ファイアにより、酸素が減少して、気温が跳ね上がっていく。 かまわず、連発する。
酸素はともかく、気温の上昇がやばい。 ファイアを赤坂にまかせ、静岡さんはクーリングをかけ始める。 クーリングすげー。 死ぬほどの暑さが、灼熱まで一気にさがる。 熱いが暑いに変わるだけだが、効果抜群だ。 一方、赤坂は涙目になりながら、ファイアを連発していく。 こいつのMPもおかしいだろ。
周囲の温度はどんどん上昇し、ついに壁まで燃え出した。 岩すら燃やす温度って何度よ・・・ さすがにジャイアントスパイダーの動きが鈍ってくるのが分かる。
しばらくして、酸素がなくなってきたのだろう。 ファイアが不発し始め、周りの火も鎮火し始めた。 ジャイアントスパイダーも動きを止め始めている。
そして、俺がザコを全滅させたその時、俺の目の前の壁がはがれた。 そこには、糸に絡められた冒険者の死体が・・・
やはり、冒険者はこいつに捕獲され、ここにつれてこられたようだ。 どんどんはがれる壁から、他の冒険者の死体がみえる。
「・・・ぶっ飛ばす」
おれのスキル「怒り」が発動する。 例によって、俺が怒るだけ。
「「あ!」」
光ってる。 光ってるよ。 でも、とりあえずジャイアントスパイダーに向かう。
「うりゃ!」
背後からジャイアントスパイダーの足めがけて切りつける。 足が切り取られる。 続けて足に斬りつけていく。 ジャイアントスパイダーは殆ど動けなくなったようだ。 その隙に、静岡さんが氷魔法で糸の出口を固めてしまい、糸を出せなくする。
「調査のために、生け捕りにする。」
千葉さんの指示により、とどめは指さず、念のため、すべての足を切っておく。
ふー、戦闘終了。 特に被害なし。 赤坂も目に涙を溜めているが、大丈夫だったようだ。
千葉さん達がバックアップ隊に連絡をとり、後処理をすすめていく。
ん? 永倉さんが誰かと連絡とりながら、俺をニヤニヤみてる。
「ええ、きましたね。 現象確認しました。 驚きですよ、俺の剣より切れましたからね。」
嫌な予感がするが、とりあえず千葉さんの許可をとって、泣きそうな赤坂を外に連れて行くことにした。 バックアップ隊がくるのと入れ替わりに、俺と赤坂は外に向かうが、その時のバックアップ隊の俺に向ける視線が・・・・ ここでスキル<スルー>を華麗に発動するが、何の効果もなかった。
前回同様に、瘴気除去室へ入る。 酸素マスクをしていたとはいえ、今回の瘴気の量は想定外だったため、今回は千葉さん達も入るようだ。 千葉さんとか永倉さんなんかは、久しぶりなので、うきうきしていた。 さすがに、入った途端に爆睡だった。