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40話

■40話



 草原を一人の少女が走っていく。その少女はダンガリーのワンピースに、白いリボンのついた麦藁帽子をかぶっている。

 俺は、その少女を追いかけた。しかし、その少女は動きやすくはないはずの服装にもかかわらず、追いつけないほど早かった。

 

 ふと、少女がスピードを緩めて振り返る。その少女は赤坂だった。

 

 ようやく追いつけるかと思ったその矢先、何かに足をとられてころびそうになり、そのまま赤坂に倒れかかるように左手を伸ばす。

 

 むにゅ。

 

「あ・・・」


「沖田さん、エッチ・・・」


「いや、これは誤解だ、事故だ・・・」


 俺は思わず跳ね起きる。

 

「ゆ、夢か・・」


 左の掌をじっと見つめる。今のは夢かもしれないが、この掌に残った感触はリアルだ。

 

「ん? ここはどこだ?」


 俺は、ようやく周りの異変に気がつく。ここはあの幽霊船の中ではないことは間違いない。そして、どこか見覚えのある部屋だった。

 

「瘴気除去室か。」


 そう、その部屋は瘴気除去室だった。俺達はあの幽霊船の、異常なまでの瘴気の中で戦闘をしていた。であれば、瘴気除去室にいるのはルールであり、何の問題もない。しかし、俺はあの部屋で気を失った。

 

「沖田さん・・」


 その声に振り返る。

 

 そこには、ベットに寝ている赤坂が居た。

 

「へ? 赤坂?」


「ずっと守ってくださいね・・」


 俺は思わず頷く。

 

 はたと、周りを見渡すと、何度見ても、ここは確かに瘴気除去室だ。ただ、普段使っている部屋より広く、ソファーも置いてある。で、そのソファーに俺が寝ていたわけだが。それより、何で赤坂と同じ部屋にいるんだ?

 

 もう一度、ベットの赤坂を見る。あ、こいつ熟睡してるわ。ということは、先ほどのは寝言だろう。そして、その夢に俺がでているようだが、少なくとも嫌われるようなことはしてなさそうだ。よかった。じゃなくて、だから俺と赤坂が同じ部屋に居るっておかしいだろうと。

 

 念のため、赤坂の顔を覗き込む。うん、たしかに寝ている。そして、その寝顔がやたらと可愛い。ここでおでこにキスとかしても、ばれないようなきがしないでもない。うん、大丈夫なような気がする。そして、ものすごくキスしたいぞ?

 

 いきなり、部屋の内線電話が鳴る。

 

 あわてて、直立不動の姿勢をとる。そして、はたと受話器をとった。

 

「お目覚めのようね、沖田君。ダメよ、レディーを襲ったりしては。」


 その声は、瘴気除去室の担当者の石川さんだ。見上げると監視カメラが目に入る。

 

 忘れてた。状況を確認するために、この部屋には監視カメラがついているのだ。そして、がっつり録画もされている。つまり、今の俺の行動は、全て見られた上に、録画もされているということだった。しまった。

 

「ところで、体のほうはどうかしら。」


「ええ、ちょっとだるいですけど、特に問題はなさそうですね。」


 俺は軽く腕を回してみる。若干だるさは感じるが、頭痛や吐き気などの症状はなかった。

 

「じゃあ、今のところ大丈夫かしら。」


 受話器からは、石川さんがキーボードを叩く音が聞こえる。

 

「いや、あの、何で俺と赤坂が同じ部屋にいるんですか?!」


「だって、沖田君が赤坂さんを離さなかったからでしょ。」


「え? 俺が赤坂を離さなかった?」


 そういえば、気を失う寸前に赤坂を抱きしめた記憶があった。じゃあ、あのままの状態でここまで運ばれたってことか。

 

「一応、沖田くんと赤坂さんは別な部屋に入ってもらうつもりだったけど、あなたが離さないからしょうがなく一緒にはいってもらったのよ?」


 うん、よくわからん。なんで?

 

「まあ、斉藤課長や近藤部長の許可も取ったから、別にいいんだけど。っていうか、あなた達付き合ってるの?」


「え? な訳ないじゃないですか。」


「だって、さすがに男女が同じ部屋に入るとか前例もないし。大体、赤坂さんが目を覚ましたら、大騒ぎになると思うんだけど。」


「俺もそう思いますね。じゃあ、部屋変わってもいいですか?」

 

 俺は早速部屋を出る準備をする。といっても、よく考えると手荷物は何もなかったが。


「ちょっと、それ無理よ。知ってるでしょ、瘴気の除去は緻密なコントロールが行われてるの。」


 やっぱり。まあ、そんな気はしていたが。

 

「とりあえず、赤坂さんが目覚めたら、こちらからも説明するけど、一応覚悟はしておいてね。」


 覚悟とか・・・

 

「あ、そういえば、他のみんなは大丈夫だったんですか?」


「ええ、斉藤課長は部屋の中で筋トレ三昧よ。あなた達と同様に、あと2日は入っててもらうけど。」


 ん? 俺達はあと2日は同じ部屋にいないといけないってことか・・・

 

「サスケ君は今日中には出れる感じかな。三村さんはサスケ君と同じぐらいだったけど、耐性がない分時間がかかって、明日ぐらいになりそうね。近藤部長達は、とっくに出てるわね。」


「じゃあ、みんな無事だったんですね。」


「ええ、軽症が何人かいたぐらいね。あなた達二人が一番重症かも。」


 ああ、あの瘴気の中にずいぶんいたしな。

 

「ねえ、本当に大丈夫?」


 なんかまずいことになっているのか?


「ええ、大丈夫ですけど。」


「おかしいわね。戦闘の録画を確認したんだけど、あなたと赤坂さんは光魔法を打ち続けてるわよね。」


「ええ、怨念を浄化する必要がありましたんで。」


「知ってるとは思うけど、光魔法って連発は厳禁なのよ。あなた達みたいに継続して使うなんてもってのほか。」


「え?」


 知らなかった。だって、赤坂はそんなこと言ってなかったが。

 

「ちょっと、ちゃんと習ったはずよ! 寝てたの?」


「いや、習ってないんですが。」


「ええっ? どういうこと?」


 受話器の向こうでカタカタとキーボードを叩く音がする。

 

「沖田君、あなた魔法は初級なの?」


「ええ、最近初級とったばっかりですね。」


 突然、沈黙が訪れる。なんかまずいことを言ったか。

 

「なんで初級で光魔法が使えるわけ? あなた何者?」


 何者とか言われても・・・

 

「すみません、どういうことですか?」


 受話器の向こうで、石川さんがため息をつくのが聞こえる。

 

「まずね、光魔法は上級以上でないと使えないと言われているの。そして、光魔法はMPと一緒に精神力や生命力も使ってしまうのよ。」


「え?!」


「赤坂さんが倒れたと思うんだけど、それって精神力と生命力の限界で倒れたはずなの。まあ、あそこまで使える時点で、いくら上級とはいえ赤坂さんも普通じゃないんだけど。」


 まあ、赤坂は普通ではないな。

 

「ところが、沖田君、あなたは初級なのに光魔法を使えるだけでなく、赤坂さんと同じぐらい使ってるのよね。」


 初めて使ったとか、いわないほうが良さそうだな。

 

「一番驚いたのは、赤坂さんもあなたも、ここに来たときには生命力が戻ってたわけ。どういう事なのかしら。」


「よく分からないんですが、生命力ってすぐには戻らないものなんですか?」


「ええ、少なくとも、気絶するほど減った状態だと1週間ぐらいでようやく戻り始めるぐらいかしら。全快するとなると、1年以上はかかると思って間違いないわ。」


 うーん、なんか嫌な予感しかしない。

 

「とりあえず、念のためにゆっくり休んでいてよ。あとで食事は差し入れするわ。」


 そういうと、石川さんは電話を切った。

 

 とりあえず、冷蔵庫から水の入ったペットボトルを1本とりだし、半分ほどを一気に飲み干す。寝ていたとはいえ、2日もの間水分を取っていなかった体に、水がしみこんでいくのを感じる。

 赤坂を見ると、まだ寝ているようだ。先にシャワーを浴びることにする。この部屋はシャワールームや洗面室は鍵がかかるようになっていた。なので、いきなり起き出した赤坂とバッティングすることはない。ついでに、着替えも石川さんに頼んでもらう。俺達は戦闘からそのままこの部屋に来ているので、装備のままである。赤坂はまだいいが、俺はプレートメールだった。よくこのカッコで寝ていたと思う。

 

 シャワーを浴びて、ジャージに着替えてシャワールームを出ると、ベットがもぞもぞ動いていた。どうやら、赤坂が目を覚ましたようだ。

 いきなり、布団から顔を半分だけだした赤坂と目があう。

 

「おはよう。大丈夫か。」


 先手必勝である。さりげなく、爽やかに挨拶してみる。

 

「おはようございます。沖田さんも大丈夫ですか?」


 赤坂は半分だけ出た顔が真っ赤だった。これはまずいかも。

 

「ああ、おかげさまでちょっとだるいぐらいだな。」


 爽やかに笑ったつもりだが、どうやら顔が引きつったようだ。覚悟を決めるか。

 

「あの、お水もらえませんか。」


 赤坂が、テーブルに置かれた俺の飲みかけのペットボトルを指差す。俺は冷蔵庫から新しいペットボトルを取り出して渡した。

 赤坂はなるべく布団に隠れるように水を飲むと、ちょっと落ち着いたようだった。

 

「そういえば、どのくらい寝ていたんでしょうか。」


「俺もさっき目が覚めたばっかりだけど、2日ぐらい寝てたらしい。ちなみにあと2日はここに缶詰だそうだ。」


 おそるおそる、赤坂の表情を伺う。あと2日もいるとか、どういう反応をされるか怖かった。

 

「じゃあ、ゆっくりできそうですね。私もシャワー浴びてきていいですか?」


 赤坂は冷静だった。おそらくここで騒ぐのはまずいという理性が働いたのだろう。なんていい子だろう。

 そうして、装備をざっと直すと、着替えを持ってシャワールームへ消えていく。覗かないでくださいね、とか言われると思ったが、意外にいわれなかった。どうやら信用されてるらしい。

 

 赤坂が出てくると、石川さんから食事の差し入れがある。石川さんも、赤坂が冷静なのを見て、ちょっと驚いていた。しかし、その目はあんたらつきあってんじゃないの? と物語っている。いや、ほんと付き合ってないから。赤坂とつきあうとか、ファンクラブ怖いし、青山会長とか社長から呼び出されたりしそうで、もっと怖いから。その前に無理だけどな。

 

 とりあえず、食事をしながら石川さんに聞いた情報を赤坂に伝える。光魔法の件は、一応伏せておくが。食事も終わったところで、急激に眠くなり、俺はそのままソファーに倒れこんだ。

 

「沖田さん、これ。」


 赤坂が毛布を一枚手渡してくれる。

 

「ありがとう、ありがたく借りておくよ。」


 俺は、赤坂のぬくもりの残る毛布に包まると、そのまま寝てしまった。

 一応、念のため断っておくが、毛布の匂いをかいだりはしていない。というか、その前に寝てしまっていた。

 

 

 ひさびさの勤務だ。結局あのあと、俺は赤坂に起こされるまでずっと寝ていた。俺が起きた時には、すでに斉藤課長は居なかった。<報告書を忘れずに>という置手紙をのこして。

 

 俺を待っていたのは、報告書だけではなかった。間近にせまったマーケットのオープン準備やらが待っていた。

 

 そして、田中の持ち込む問題も。

 

「でだ、なぜかファッションショーのモデルのオーディション希望者とやらが大量に来ている。」


「そんなのまで募集したのかよ。」


 田中は即座に首を振って否定してくる。

 

「まさか。そもそもファッションショーのモデルって、参加する店で用意することにしてある。だから、俺達ではなく商人と交渉してもらうように伝えてある。」


「じゃあ、問題ないだろ?」


 田中が不気味な笑いをした。

 

「ところがな、その中にダンスショーのオーディション希望者も混ざってたんだ。」


「いやいや、あれって1回だけの特別企画だろ?」


「周りはそうは思っていなかったようだな。」


 思っていなかったって、特別企画って言ったはずなんだが。

 

「結果として、オーディションをやることになった。よってよろしく頼む。」


「いやまて、オーデションってなんだよ。それに、よろしく頼むってどういうことだ?」


「オーディションは、ダンサーを決めるオーデションだ。よろしく頼むってのは、そのままの意味だが?」


 思わず頭を抱える。

 

「じゃあ、なんだ? ダンスショーは継続するってことか? 場所はどうする?」


「場所はアキバにある某劇場みたいなのを、大急ぎで作っている。つまり、入場料を取って事業として継続して行うってことだ。」


「アイドルってことか。」


「そそ。」


「よろしくってのは、振り付けとかマネジメントのことを言ってるのか?」


「そそ。誰か探してきて。」


「いや、探してきてっていわれてもな・・・」


 赤坂に後ろから肩を叩かれる。赤坂の指差すほうを見ると、そこには帆船の研究という名目で船のプラモデルを詰みまくっている青森さんがいた。しかも、なぜか長門とか金剛とか赤城だったりする。絶対、遊んでるだろ?

 

「・・・いたな。」


 マネジメントとは、つまるところが調整である。そして、そこには暇をもてあましている調整の達人がいた。

 

「青森さん、お願いしますね。」


 青森さんは、話がみえていないようだが、勢いで「はい」とか返事していた。これで言質はとったな。

 

「マネージャーは決まったな。振り付けが問題か。」


「当面は赤坂ちゃんにお願いしたいのだが、いつまでもと言うわけにもいかんしな。」


 赤坂の振り付けはシリーズの数だけある。これだけでも軽く1年以上もつのだが、そもそも著作権とかそういう問題もあるしな。

 

「こっちは難しいな。あっちの世界から振り付け師を呼ぶわけにもいかないしな。」


「ああ、なんでよろしく頼むよ。」


「一応、探してはみる。」


「じゃあ、先にオーディションやっちゃうか。」


 ダンサーの希望者達は、それぞれの国の船着場で待機しているようだ。さすがにビザがないとこの島には入れないし、そもそも今は定期船も運航していないのだ。よって、希望者達を一度この島に集めてオーデションをする。

 

 

 翌日、各国からオーデション希望者達が島にやってきた。下は10代から上は40代ぐらいだろうか。ちなみに女性だけかと思いきや、男性もいた。総勢100人ほどであり、男女比は3:7といったところだ。

 採用の方針については、昨晩検討している。カテゴリーは3つ。一つ目はアイドル部門である。これは俺達の世界のアイドルグループをイメージしている。人数は10人~20人だろう。そして、二つ目は歌手部門で、踊りはダメでも歌がうまい人というのも居るかもしれないということで、急遽決まった。三つ目は男性アイドル部門。よくテレビでみかける5人ぐらいのグループを想定していた。

 

 審査員は、田中、しーちゃん、俺、赤坂、花子、そして青森さんの予定だったが、なぜか島根さんがいつの間にか参加していた。サスケはスマイリーやザンギ達と応募者の整理に回っている。あと、審査員が素人なので、念のためビデオ撮影もしている。審査が割れたときに、ビデオ判定で決めるのだ。大体、100人とか見て後で思い出せるわけがないのである。

 

「1番、チャーズから来ました、サクラーダーです。ダンスします。」


「2番、ラフェリアから来た、イシュノーと申します。歌とダンスです。」


 つぎつぎと出てくるが、正直よく分からなかった。全員同じように見えるんだが。

 突然、参加者達がざわつき始めた。そして、一人の女性が前に出た。年齢は30代前半ぐらいであろうか。明らかにオーラが違う感じである。ぱっと見た感じは女性だけでやっているあの演劇というかオペラというか、あれだった。

 

「45番、ロンドガルから参りました、ミーソラと申します。」


 そして、優雅な一礼をすると、美しい歌声にあわせて、優雅かつダイナミックなダンスを披露する。明らかにレベルが違っていた。

 

「なあ、なんか凄すぎるんだが。」


 田中も頷いてる。

 

「有名な人なのか?」


「さあ、正直そっち方面は良く知らないからな。」


 サスケを呼んで、ボーランドとかレイモンドに聞いてみてもらうことにする。

 

 しばらくして、サスケが戻ってくる。どうやら有名な人らしい。いくつかの国の王族の前でも歌や剣舞といわれるダンスを披露したこともあるそうだ。って、なんでそんな人がくるんだよ、と思う。

 

 そして、なんとか100人全員の審査が終わった。それぞれのプロフィールと写真の貼られた履歴書のようなものの束が、目の前にあった。

 

「正直、ミーソラって人しか覚えてないぞ。」


 田中がそのプロフィールを眺めながら言う。


「ああ、俺もだ。」


 俺も田中に同意する。さすがにあのインパクトは別格だった。

 

「困りますね、みなさん。私は、この辺がいいかと思いました。」


 そう言うと、赤坂がリストアップした資料を配りだした。正直、俺には違いが良く分からなかったが、それぞれにコメントまでついており、評論家の域に達しているように思う。凄すぎるだろう。

 

「私はダンスを中心に評価してみました。結構、踊れる方がいらっしゃいましたね。」


 たしかに、踊れる人の中には、ミーソラには及ばないものの、プロと呼んでもいいくらいのレベルが何人かいた。赤坂がリストアップしたメンバーの動画をあとでチェックしていくとこにする。

 

「私は歌とかアイドル性なんかを中心に見てみた。」


 花子もリストアップした資料を配りだした。花子とアイドル性にどんな関係があるのかは分からないが、たしかにリストアップされているメンバーは歌がうまかったり、どことなくアイドル性があったような気もする。これも後で動画をチェックだ。

 

「こちらは、調和性なんかを中心に見てみた結果ですね。」


 青森さんがリストを配る。グループで活動する場合には、調和性は重要だ。別に仲が良い必要はないが、調和性がないと組織はうまく働かないことが多い。しかし、あの時間で調和性とかまで分かるのだろうかと思うが、なにげにポイントがあるらしい。ただ、聞いても即実践に使えるようなものではなかった。やはり観察眼とか経験は必要になる。

 

「じゃあ、このリストを中心に動画チェックやろうか。」


 そういうと、田中が動画の準備を始める。

 

「ああ、なるほどね。たしかにダンスに切れがあるな。」


「結構うまいっすね。声の質なんかもいい感じっす。」


「まあ、性格がよさそうな気はするが、正直調和性があるかどうかは、さっぱりわからんな。」


 ダンスや歌は見比べてみるとその違いが分かるのだが、やっぱり調和性については分からなかった。性格がよさそうに見えても、周りとうまくいかないこともあるようで、この部分だけは何度見てもさっぱりわからん。

 

 なんとか絞り込むが、問題がでてきた。

 

「このミーソラはうますぎて浮きまくってるな。」


 ミーソラは、素人集団にプロが混ざってしまった感がありありで、浮きまくっている。さらに、ミーソラに目がいってしまうので、周りが単なるエキストラ状態になってしまっていた。

 

「やっぱり、ソロでやってもらうしかないっすね。」


 みんな頷き始める。

 

「でも、ミーソラのステージの次とか、公開処刑状態ぽい気もする。」


 流石の花子でもそう思うのか。一般人なら、なおさらだろう。

 

「かといって、採用しないという手もないですからね。」


 赤坂の言うとおり、ミーソラは確実に売りになる。また、ミーソラに周りが引っ張られることで、成長するであろうことも間違いない。

 

「とりあえず、一度本人と話してみましょうか。」


 青森さんになんか策があるようだ。この件はマネージャーである青山さんに任せるとしよう。

 

「じゃあ、青森さんにお任せします。あと、最終メンバーの選定もお願いします。」


 最終メンバーについては、青森さんのやりやすいように、かつ売れるような組み合わせを考えてもらえばいいだろう。

 

「沖田、次いくぞ。」


 さっそく田中が次の問題を持ってきやがった。

 

「例の幽霊船な、今真田課長とか上条さんを中心に開発部がいろいろと調べてたんだが、なんで動いていたのかがわからんそうだ。」

「いや、帆船なんだから風じゃないのか?」


「あの帆をみただろ? あの帆で船が動くと思うか?」


 あ、たしかにボロボロだった。あの規模の船だと無理かもしれないな。そして、さらに田中が話を続ける。

 

「しかもな、あの船はとんでもない量の財宝を積んでた。」


「まあ、海賊船だしな。それなりにはあったろう。」


 よく海賊の宝の場所をしめす地図とかって話もあるが、実際にはそんな都合よく隠せる場所ってのもないようで、結局ある程度は売り払い、残った分は積んでおくことが多いとレイモンドが言っていた。

 それだと、船が沈んだらだめだろうと思ったが、海賊にとって船は命よりも大事なものだそうなので、船と運命をともにするため問題にはならないのだそうだ。

 

「それなりじゃないんだ。俺達の基準だと最低でも億はかるく超えているぞ。」


「お、億?」


「ああ、しかも最低だ。なかには国宝級なんかもあるようで、それは値段をつけられないらしい。」


「そ、それどうするわけ?」


 花子もさすがにびびってる。まあ、億とか言われてびびらないのは、赤坂ぐらいだろう。

 

「越後屋が評議会と、絶賛相談中だ。でも、扱いによっては戦争になりかねんから、一応俺達に所有権がある形で納まるだろうとのことだった。」


「たしかに国宝級とかだと、その所有権をめぐって戦争が起きてもおかしくないな。」


「でも、証拠とかそういうのってあるんじゃないの?」


「花子、あまいな。証拠なんぞ、いくらでもでっち上げてくるぞ? そもそも、その証拠とやらの正当性をどうやって証明するんだ、って話もあるしな。」


 田中も同じ意見らしく、俺に頷いてくる。

 

「お金って怖いよね。」


 花子のセリフにみんなが頷いていた。

 

「でも、その宝ってのろわれてたりしないっすかね?」


 ああ、よく聞く話だな。

 

「そこは流石に考えたぞ。触ったら不幸になるとか、洒落にならんからな。」


「それって調べられるんですか?」


 赤坂が興味津々だった。

 

「なんと、真田課長が呪い探知機を発明した。」


「なんじゃそりゃ?」


 さすがにあきれ返った。呪いって科学的に解明されたってことなのか?

 

「仕組みはよくわからんが、確実に呪いがかかってるものだと反応して、呪いがなければ反応しないことは分かっている。」


「でも、呪いっていろいろ種類ありますよね?」


「ああ、サンプリングしまくって、考えられるパターンで実験もしたそうだ。」


 開発部は暇なのか?

 

「そういうわけで、宝に呪いがかかってないことは証明されている。まあ、例外があった場合には、諦めるしかないだんがな。」


 嫌過ぎる話だ。評議会が俺達に宝の所有権を渡す理由の一つに、呪いの件もありそうな気がしてきた。

 

「でも、呪いは置いておくとしても、宝の件は越後屋に任せておくしかないだろ。」


「そうだな。だが、終わりじゃない。マーケットのオープンを控えて、確実に船が足りない状況だ。早急に船を作る必要がある。」


 それは俺も懸念していた。

 

「さっきの話にもどるが、あの幽霊船なぜ動くのか分かっていない。なので、あの船が本当に帆で動くという保証もないんだ。」


「でも、試しに帆を張って動かしてみたらいいのではないですか?」


 俺も頷く。やってみればわかることだと思う。

 

「そうなんすけどね、なんか回収後から劣化が激しいっすよ。」


 もともと数百年以上前につくられた木造船が、現在まで残っていることが珍しいのだ。しかも、碌な手入れなどもされていない船だ。おそら怨念などがなんらかの影響を与えていたのだろうという推測はされている。そして、その怨念がなくなると元の古い帆船になってしまっているわけで、急激に劣化しているのだろう。

 

「つまり、実験とかしている暇はない。早急に技術の解析やら、構造の調査やらを進める必要もあるんだ。さらにまずいことに、自走できないわけだ。」


「たしか、ヨーレルでやるはずだったよな。」


「ああ、そのつもりだが、ここまでクルーザで運ぶのすら結構厳しかった。ヨーレルまで運ぶ途中で沈没する可能性もあるな。」


「ヨーレルの人にこっちに来てもらうしかないんじゃないの?」


「花子、何度もいうが、それはダメだ。まず、あれを置いたままでマーケットをオープンさせる訳にはいかない。アトラクションとか言ってられるのは、お前ぐらいだ。こっちの世界の人達にしてみたら、恐怖以外の何者でもない。」


 世間を騒がせまくった幽霊船の実物だしな。好奇心で見たい人ってのも居るかもしれないが、どっちかっていうと、単に怖いと思う人が圧倒的に多そうだ。それは、マーケットにとってダメージにしかならないな。

 

「それに、マーケットが始まると、かなりの人数がこの島にくる。そんななかでヨーレルの連中を放し飼いにするわけにはいかん。一応この島は重要なものにはセキュリティはかかっているとはいえ、技術オタみたいな奴らが何をしでかすかわからん。警備が手薄なら、なおさらだろう。」

 

「ああ、マーケットの隔離エリア内ならまだしも、エリア外に作業場を作る必要があるから、やぱり警備が手薄な状況だとやばそうだな。」


「で、どうやってもってくか、絶賛悩み中っすよ。」


「それって、浮かべてるからまずいんであって、持ち上げたら大丈夫なんでしょ?」


「まあ、箱組みしてやって、力がからないように持ち上げれば問題はないだろうな。でも、どうや手持ち上げるんだ?」


「そりゃ、沖田とサスケでえいっと。」


 花子、あのな・・・

 

「ああ、その手がありましたね。」


「いや、赤坂。それは無理だから。大体、あの大きさを俺とサスケで持ち上げるのが無理だし、大体、俺とサスケは海の上はあるけないぞ?」


「いえ、沖田さん達が運ぶのではなく、持ち上げて運ぶってほうです。」


「「「???」」」


「ミストレア達に持ち上げて運んでもらえばいいんですよ。」


 なるほど、ミストレア達なら空を飛べるし、持ち上げることもできそうだ。

 

「赤坂がミストレアに話をとおせばいいわけか。いや、赤坂に頼まれたら、喜んでやるだろうな。」


「じゃあ、ヨーレルにミストレア達がいくことを伝えておけばいいな。」


「ああ、そうだな。さすがにいきなりミストレア達がいったら、大混乱だろうしな。田中頼む。」


 さっそく全員が自分達のやるべき仕事に向かっていく。青森さんは、花子とオーデションの対応に向かう。赤坂はミストレア達と話しをしに、田中やサスケ、しーちゃんはヨーレルへの連絡や幽霊船の運搬、それにマーケットの準備である。」

 

「さてと、俺も・・・おい! 一人で報告書つくんのかよ!」


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