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39話

■39話



「沖田!た、た、た、大変だ!」


 先日のプレオープンの報告書を作っていると、田中が落語みたいな感じで部屋に飛び込んでくる。

 

「なんだよ、うるさいな。」


 見ると、田中の後ろにはレイモンドもいる。

 

「ゆ、ゆ、ゆ、幽霊船がで、で、出た。」


「「はぁ?」」


 一斉に、部屋のみんなの手が止まった。

 

「なんだ、その幽霊船って。」


「俺から説明しよう。」


 そういうレイモンドは、ちょっと顔が青ざめてるっぽい。

 

「今から千年近く昔に伝説の海賊というのがいて、この海を縦横無人に荒らしまくっていたらしい。しかし、さまざまな国に狙われ、この海の果てまで逃げたという言い伝えがある。そして、数百年前ぐらいから、そいつらがこの海にまた現れ始めた。そう、幽霊船としてな。」


「レイモンド、それって見間違いとかじゃないのか?」


 レイモンドは首を横に振る。

 

「見間違いどころか、襲われた船も数しれん。」


 お、襲うのか・・・

 

「つまりだ、この島と大陸を行き来する船も、何時襲われるか分からないってこと。」


 さすがに田中の表情も暗い。

 

「でも、そんな被害が出てるなら、なんで評議会とかは討伐しないのでしょうか。」


 たしかに赤坂の言うとおりだ。サスケや花子も頷いている。

 

「・・・。 できんのだよ・・・」


 レイモンドが苦しそうに話す。レイモンドに視線が集中していた。

 

「幽霊船に乗っているのはゾンビだ。それも数百ほどのな・・・」


 船いっぱいのゾンビって、なんだよ、それ。

 

「ちなみに、船の大きさはどのくらいですか?」


 おそるおそる赤坂が質問する。

 

「俺達の船より、ふた周りほど大きいか。」


 ふと、俺の頭に疑問がわいた。

 

「さっきから、みてきたような話方してるけど・・・」


 レイモンドが俺を見る。

 

「ああ、俺も見たことがある。さすがに離れた場所からで、その後は大急ぎで逃げたがな。それでも、甲板の大量のゾンビは見えたし、ほかの船が襲われるところも見た。」


 ああ、そういうことか・・・ 本当にいるんだ・・・

 

「レイモンドさんの船よりふた周りほど大きい船となれば、その甲板にいっぱいいたら数百はいてもおかしくないですね。」


 赤坂が考え込んでいる。

 

「たしかに、そんだけのゾンビがいる船となれば、さすがに討伐とかできんな。」


 ゾンビはそれほど強くない魔物だが、噛み付かれるとゾンビになってしまう。いかに大型とはいえ、逃げ場のない船の上でゾンビと戦うというのは、間違いなくゾンビにしてくれといっているようなものだ。

 

「ということで、お仕事だ。よろしくね。」


 田中がニッコリ笑っている。

 

「ちょ、ちょっと田中。ゾンビになったらどうしてくれるのよ?」


 花子が田中に食って掛かる。

 

「花子、待て。おい。」


 あわててサスケと二人掛りで花子を止める。

 

「離せ、田中のバカをとっちめるんだから。」


「いや、バカはお前だから。」


 花子が頭の上に「?」マークを出しながら、俺を見る。

 

「自分達はゾンビにはならないっすよ。」


 俺も頷く。そう、仮想身体はかじられようが、何されようが、ゾンビウィルスを受け付けない。つまり、ゾンビになることはない。

「花子、それ研修で教わってるんだがな? 寝てたろ?」


 花子がきょどり始める。

 

「え? ま、まさか。し、知ってたわよ、それぐらい。」


 まあ、花子だししょうがないってことだ。

 

「とりあえず、もう一回研修いってくるか。今度は寝ないでな。」


「ちょ、ちょっと・・・」


 そういえば、あの研修を寝ないで最後まで受けきったやつを知らないな。赤坂でさえ寝てたらしいしな。

 

「よし、赤坂。ミストレアを呼べ。ブレスでぶっ飛ばす。」


 正直、ゾンビにならないと分かっていても、ゾンビと戦いたくなどない。ならば、ミストレアのブレスで炭にしたほうが早いし楽だ。

 

「ちょ、ちょっと、沖田。それはまずい。」


 田中とレイモンドがあわてている。

 

「幽霊船は数百年以上も海賊をやっているのだ。おそらく、あの船にはとんでもない量の宝が積まれているはずだ。」


 なんでも、船の沈み方も、まるで荷物を満載にしているかの様な沈み方をしているらしい。つまり、宝が満載されている可能性が非常に高い。

 

「じゃあ、地道にやるしかないのか。」


「そそ、地道な努力は必要だぞ。」


 ちょっとイラっとするが、大人なので笑ってすます。

 

「でも、さすがに俺達だけだときついぞ?」


 いくらゾンビにならないとはいえ、数百のゾンビを俺達だけで討伐するとか、ちょっと考えたくないな。

 

「大丈夫。助っ人は手配済み。」


 田中が言い終わる前に、突然部屋の扉が開いた。そして今度は魔王こと、近藤部長が入ってくる。斉藤課長と、土方課長率いるブラックシャドウも一緒だった。

 ああ、助っ人というか、主役だな。

 

「沖田。準備はいいか?」

 

「いや、準備以前に、幽霊船とゾンビの話を聞いたばっかりなんですが。」


「じゃあ、1時間やる。とっとと準備しろ。」


「「「えー。」」」


 なんなんだ、このおっさんは・・

 

「あの、近藤部長? 俺達、プレオープンの報告書作成があるんですけど・・」


「あ? そんなのは後だ。報告書は逃げんぞ。」


 幽霊船も逃げないと思うぞ? つうか、できれば遠くに逃げてほしいぞ、幽霊船には・・・

 

「それって、締め切りも延長されるってことですよね?」


 一応、確認する。

 

「いや、締め切りはかわらんな。」


 をい!

 

「じゃあ、幽霊船は近藤部長達だけでお願いします。」


 俺達は一斉に頭を下げる。

 

「ば、ばかもん。おまえらが行かないと、面倒なことになるんだ・・・」


 ん? なんだそれは? 斉藤課長が頭をかきながら説明してくれる。

 

「評議会から、正式に幽霊船の討伐依頼があってな。最初は俺と土方課長達でやるつもりだったんだが、近藤部長から沖田にやらせろとご指名がかかったわけだ。で、そのお目付け役には俺がいくとなってな。それ以上の理由は察してくれ。」


 ああ、もう聞きたくない・・・ ちなみに斉藤課長は、土方課長にじゃんけんで勝ったそうだ。よって、土方課長は評議会に居残りである。なんか負けて居残りのほうが、良さそうな気もしないでもない。

 

「では、近藤部長。締め切りを4日延ばすという条件でいかがでしょうか。」


 さすがは赤坂だ。絶妙のタイミング。

 

「ん・・ わかった。その条件をのもう。 とっとと準備してこい。」


「「「了解しました。」」」


 俺達は部屋を飛び出していく。報告書作成に飽きてきたところだったので、合法的に気分転換ができるのは、俺達全員にとってありがたい。これも赤坂の手柄だな。

 

 

 1時間後、俺達はクルーザーに引っ張られるボートに乗っていた。幽霊船の場所は特定済みとのことで、当初レイモンドの船で送ってもらうつもりだったが、レイモンドが嫌がった。しかしクルーザーには俺達全員が乗れないため、乗り切れなかった俺達はボートで引っ張ってもらっていた。

 

 しばらくすると、黒い船が見え始める。あれが幽霊船だろう。

 

「あれですね。」


 赤坂は珍しく双眼鏡を使っていなかった。おそらく、あれだろう。見たくもないものが見えてしまうことへの恐れ。正直、ゾンビが乗ってると分かってる船なんぞ、誰も見たくないな。

 

「うわっ、これはえぐいわ。」


 いや、いた。一人いた。花子、絶対お前おかしいと思うぞ? ホラーマニアか何かか?

 

 そうこうしているうちに、どんどん近づいていく。


「一応、念のため確認な。ゾンビは頭を狙うこと。頭以外はダメージにならない。」


 全員が頷く。

 今回は赤坂が珍しく黒いメイド服のようなものを着ている。そして、その手には大鎌がある。そう、以前にアメリカ研修のあのカッコである。さすがに量が多いので、戦闘中のMP切れを懸念しているのだろう。

 そし、花子もめずらしくクローを装備している。こちらもさすがにゾンビを殴るのはいやなのだろう。

 

 そして、クルーザーの近藤部長達が幽霊船に乗り込んでいくのに続いて、俺達も乗り込んでいく。

 

「うわ。」


 甲板には、びっしりとゾンビがいた。そして、この船は瘴気に包まれており、ちょっとしたダンジョンのようになっていた。

 

「船型ダンジョンか、面白い。はっはっはっ。」


 近藤部長が一人で勝手に盛り上がっていた。

 

 そんなことをしているうちに、ゾンビが襲い掛かってくる。近藤部長が軽く手を振ると、ゾンビ達の首がぽろっと落ちる。いつの間にか、その手には刀が握られていた。

 

「いくぞ。」


 近藤部長の号令にあわせ、一斉に戦闘が始まる。今回は作戦などなく、ひたすら殲滅していくだけである。


 俺達は一定の間隔を置いて、じゅうたん爆撃のごとく殲滅していった。おそらく、2時間ほどもあれば、全部終わるだろう。

 

 と、思ったとその時だった。誰もいない背後に気配を感じて振り向く。

 

 そこには、倒したはずのゾンビが居た。いや、復活していたのだ。

 

 復活したといっても、倒したゾンビ全てが復活したわけではない。おそらく1割か2割ぐらいだろう。しかし、首をはねられたゾンビが復活するという話は聞いたことがない。こいつらは何物だ・・・

 

「花子、後ろを頼む。」


 花子は頷くと、復活したゾンビに襲い掛かっていく。それは、獲物を狙う山猫のようだった。いや、熊か。

 

 一見、順調に討伐しているように見えるが、近藤部長や斉藤課長の表情が暗い。ゾンビが復活している、その事実は不安要素にしかならないのだ。仮に復活する量が増えたらどうなるか。全滅させるより先に、俺達が疲労で動けなくなるのが先だろう。

 かといって、戦闘をやめるわけにもいかない。つまり、状況が悪化する前に対策を考える必要があった。

 

 俺はゾンビと戦いつつ、回りを伺う。きっと何か手がかりがあるはずだ。目の前のゾンビ達は、見た目は特に変わったところはない。少なくとも、変種や亜種ではなさそうだった。なら、なぜ復活する?

 

「切り刻めば、復活が遅くなるみたいよ!」


 後ろから花子の声がする。花子はクローをつけている。これは複数の刃で切り刻むようなタイプの武器だ。

 

「よし、切り刻んでいけ!」


 近藤部長の声が響く。復活は止められないが、遅くなるだけでもありがたい。でも、なぜ切り刻むと復活が遅れる? 修復に時間がかかるのか?

 

「「修復?!」」

 

 もう一人の声のしたほうを向くと、赤坂と目があった。その目は俺と同じ結論に達していたようだ。俺が赤坂のカバーにはいるように動くと、赤坂が後ろに下がり、四次元バックから四角い箱を取り出す。そう、瘴気探知機だ。これは以前、瘴気の量を確認するのに作ったものだ。その時は、瘴気によって成長した魔物を探すために作ったのだが、瘴気で成長するなら、瘴気で復活することもありうるのではないか?

 

「あのドアの向こうに、瘴気が濃いエリアがあります。」


 赤坂の指差す先には、地下の船室へと続く扉があった。しかし、そこまでの間には大量のゾンビがひしめいてた。

 

「近藤部長、範囲魔法を使います。始末書は後で提出しますので。」


 赤坂は、俺達をも巻き込んだ範囲魔法を使うつもりだ。ここで範囲魔法を使えば、扉までのゾンビは始末できる。そして、赤坂の魔法は俺達には聞かない仕様になっている。問題はルールだけだった。

 

「始末書はいらん! 許可する!」


 近藤部長が叫んだ。

 

「いきます! ファイア(広域)」


 炎が甲板の1/3ほどを覆う。一瞬、息苦しさを感じるが、暑くはない。そして、後には俺達しか立っていなかった。その付近にいたゾンビ達は灰になっていた。範囲だけでなく、炎の火力も上げていたのだろう。

 赤坂が一瞬ふらつく。俺はあわてて近寄るが、大丈夫なようだった。どうやら、急激なMPの減少によるめまいのようだった。

 そして、ある程度は甲板に引火するかと思っていたが、引火する気配はなかった。むしろ、甲板には焦げ後すら付いていない。

 

「よし、いくぞ。」


 近藤部長が扉に向かって走り出す。しかし、近藤部長が扉に辿り着く前に、何物かが立ちはだかる。3mはあろうかという大きさのゾンビだった。もともと体の大きいゾンビなのだろうと思うが、瘴気でさらに成長したかもしれない。そして、その手には巨大なバトルアックスが握られていた。

 

 巨大ゾンビがそのバトルアックスを振り回し始めるが、近藤部長はそれを避けつつ、その足に刀の一撃を入れる。思わず巨大ゾンビがよろけるが、その傷はあっという間に消えてしまう。

 

「こいつ・・・ 不死身か・・・ 斉藤、奥を頼む。こいつはここで抑えておく。」


「了解。」


 斉藤課長が俺達に目で合図しつつ、扉へと向かう。俺達もその後へと続く。

 

「ん? 開かんか?!」


 俺と斉藤課長が扉に体当たりする。その扉は見た目ボロボロの木製なのだが、鉄製であるかのように硬い。先ほどの甲板といい、この扉といい、只の木造の船と思えない何かがある。

 そのまま、体当たりを続け、5回目の体当たりでようやく扉が開く。そしてそこには、下へと続く階段があった。

 

「開いた。」


 斉藤課長を先頭に、奥へと進んでいく。

 

 階段を降りると、そこはいくつかのテープルと椅子が置かれた部屋だった。おそらく食堂かなにかだろう。そして、数体のゾンビがいた。

 

「まかせて。」


 花子がゾンビ達に襲い掛かり、そのままひき肉のように切り刻む。

 

「気配はないっす。」


 サスケが周囲をうかがっている。

 

「瘴気は向こうが濃くなってます。」


 赤坂がいくつかの扉のうちの一つを指差す。

 

「先を急ぐぞ。」


 俺達はさらに奥へと進んでいく。そして、廊下の突き当たりに次の部屋があった。

 

 そこは、寝室なのだろう、2段ベットが多数並べられていた。ここで待ち伏せされたら、ちょっときつい感じだ。

 

 ふと、ベットを見ると、ヤバイ物を見つけた。蜘蛛の巣だった。

 

「きゃー!!」


 赤坂が悲鳴を上げる。ふと上を見上げると、ジャイアントスパイダーが天井に張り付いていた。

 

「まずい。ジャイアントスパイダーだ。」


 ジャイアントスパイダーは強力な足の攻撃に加え、その糸を操り相手の動きを止めたり、糸を自分の体に巻きつけて防御力をアップさせたりする。なので長期戦になればなるほどこちらが不利になる。

 

 しかし、幸いなことに赤坂の悲鳴に驚いたようで、動きが止まっていた。

 

 斉藤課長とサスケ、それに俺の3人の刀と剣が一斉に天井に張り付いたジャイアントスパイダーに襲い掛かる。その攻撃はジャイアントスパイダーのやわらかい背中を切り裂いていく。

 そして、糸を吐く間もなく、ジャイアントスパイダーは息を引き取った。と思う。ゾンビが復活したこともあるので、ひょっとしたらジャイアントスパイダーもそのうち復活する可能性がないとはいえないのだ。

 

「赤坂、大丈夫か?」


 赤坂は立ったまま、気絶していた・・・

 

「あっち。」


 俺は赤坂の落とした瘴気探知機を拾って画面を確認すると、扉を指差す。斉藤課長やサスケ、そして花子がその扉に駆け出した。俺も駆け出そうとするが、赤坂は気絶したままである。しょうがないので、赤坂を背負って、みんなの後を追う。なにげに大鎌が持ちにくい。

 

 いくつかの部屋で、何度か戦闘を繰り返す。赤坂が戦闘に参加できないのと、俺も赤坂を背負いながらの戦闘のため戦力の低下はあったが、それでも次々と敵を倒していた。

 

 俺達は廊下に出ていた。そして、その突き当たりの部屋がどうやら瘴気の発生源のようだ。しかし、その廊下は俺でも分かるぐらいに殺気だっている。おそらく、廊下に面したいくつかの扉にも魔物達が潜んでいるようだ。

 

「居るな。」


 斉藤課長が刀を構える。

 

「ええ、いるっす。それも大量っす。」


 ふと、背中の赤坂が動いた。どうやら意識が戻ったらしい。

 

「あ、すみません。」


 俺が赤坂をゆっくり背中から降ろすと、ふらつくこともなくまっすぐに立つ。どうやら大丈夫なようだ。

 

「赤坂、あの扉の奥みたいだ。」


 赤坂が俺の指差した扉を見て、渡した瘴気探知機を確認する。

 

「ええ、間違いありません。あの扉の奥です。」


 赤坂が大きく深呼吸して、大鎌を握りなおす。

 

「突っ込むぞ。」


 斉藤課長のその言葉で、俺達は廊下へ飛び出していった。

 

 俺が先頭で突っ込んでいくと、予想通りにいくつかの扉からゾンビの群れが現れる。

 

「かまわん、そのまま奥の扉に突っ込め。」


 俺は出てくる魔物達を無視して、奥の扉に渾身の体当たりをすると、4回目でその扉は派手な音を立てて粉々に砕け散った。

 そして、その扉に入ると水の中にいるような感触に襲われる。

 

「注意しろ、この部屋は瘴気がものすごく濃い。」


 とりあえずそう言ってみたが、正直どうしようもない。部屋からでればいいのだが、俺の目の前には椅子に座って海賊船の船長が良くかぶるようなハットをかぶったスケルトンがいた。そして、そのスケルトンの心臓のあたりには、どす黒いオーラに包まれた直径10cmほどの玉のようなものが見える。

 

 俺に続いて、斉藤課長も部屋に飛び込んでくる。そして、俺と斉藤課長がスケルトンに切りかかった。

 しかし、ガチンという音とともに、俺と斉藤課長の攻撃は弾かれた。

 

「こいつ、俺の刀がきかないだと・・」


 玉のどす黒いオーラが俺達の攻撃を弾き返しているようだった。斉藤課長の刀すらも弾き返すとか、このオーラは何なんだ。

 そのスケルトンは立ち上がると、剣を抜いて俺に切りかかってくる。盾を持ってきていないので剣で防御しようとするが、瘴気が纏わりついて思うように動けない。しかし、なんとか剣で受けることができた。

 

「瘴気がまずいな。」


 斉藤課長はそう言うと、瘴気を少しでも逃がすために窓を叩き斬る。しかし、一撃では壊れなかった。続けて二撃、三撃をいれて、ようやく窓は壊れ、30cmほどの穴があく。木造船であるが、魔法では燃えることがなく剣でもなかなか壊れないとか、この船はどうなってるんだ。

 

 扉が壊れ、窓に穴があいたことで、少しづつ部屋の瘴気が外へ漏れ始める。

 

「三村、サスケ、ゾンビをこの部屋に入れるな。」


「「了解」」


 二人が部屋を飛び出し、廊下でゾンビの群れを迎え撃つ。廊下には大量のゾンビがいるが、サスケと花子なら十分食い止められるだろう。

 ついでに、花子がこの部屋を出て戦うことは意味がある。花子は俺達ほど瘴気に対する耐性がない。よって、この部屋の瘴気は花子にとって危険だった。

 

「よし、このバケモノをなんとかするぞ。」


 斉藤課長が刀を構える。しかし、俺達の攻撃が効かないとなると、どうやって攻撃すればいいんだ?

 

「あの黒いオーラのようなものは、怨念のようです。おそらく怨念が瘴気を生み出しているようです。」


「じゃあ、あの胸の黒い怨念の塊を先になんとかすればいいのか。」


 赤坂が俺に頷く。でも、怨念とかどうすればいいんだ? 斉藤課長も厳しい表情をしていた。

 

「沖田さん、光魔法で怨念を浄化します。手伝ってください。」


 斉藤課長が、俺の代わりに前にでる。正直、スケルトンの攻撃は俺でも十分耐えられるので、斉藤課長にしてみればぬるいものだろう。だが、こちらから攻撃できない状態が続くと、話が変わってくる。スケルトンは疲労しないが、俺達は疲労が避けられない。俺達が疲労したところで、形勢はあっという間に逆転するだろう。

 

「手伝うのはかまわんが、俺は光魔法なんて使えないぞ?」


 赤坂が俺の目を見つめてくる。

 

「いえ、沖田さんは天照大御神の親戚にあたりますので、光魔法を使えるはずです。」


「なあ、そういう冗談を真顔で言うな、真顔で。しかも、こういうタイミングとか、無いぞ?」


 しかし、赤坂の目は相変わらず真剣だった。

 

「手をつないでください。そして詠唱をお願いします。」


 そういうと、赤坂は右手のグローブを外して手を差し出してくる。うん、有無を言わさずってやつだな。

 しょうがないので、左手の装備を外し始める。

 

「ミストレア!」


 赤坂が叫ぶと、窓の外にミストレアが現れる。おそらく近くに待機していたのだろう。

 

「浄化のブレスをその穴を通して使いなさい。できますね?」


 ミストレアが頷く。

 

「お任せあれ。」


 30cmほどの穴だが、ブレスのコントロールを覚えたミストレアにすれば、この半分ほどの穴でも余裕で通してくるだろう。

 

 俺が赤坂の左手を握り締めると、赤坂が俺に詠唱を教えてくれる。

 

「・・・本当にそれなの?」


 赤坂の目は、相変わらず真剣である。今日は一体なんなんだ? でも、赤坂と手をつなげたので、良しとしよう。

 

「沖田、いいからとっとと始めろ!」


 斉藤課長がイラついていた。攻撃できないのが原因だろうが、こっちに当たるのはやめてほしいものだ。

 

「詠唱をお願いします。」

 

 俺は赤坂に頷くと、詠唱を始める。

 

「光の精霊に伝える。沖田守は青山紅を一生守ることを誓います。」


 俺と赤坂は、掌をスケルトンの胸の玉に向ける。

 

「「光よ!」」

 

 赤坂の右手から、波動を感じる。光の波動だろう。そして、赤坂の左の掌から、光魔法が放たれる。それに合わせて、ミストレアも浄化のブレスを怨念の玉に向かって放ち始める。

 

 俺の右手からは光魔法はでていなかった・・・


 やっぱ、光魔法とか使えないじゃん、と思った矢先のことだった。

 

 突然、俺の右手が光を放ち始めた。そして、その光の中から、猫人族のようなシルエットが現れる。シルエットはどんどん鮮明になっていく。


「お袋?!」


「お義母様!?」


 それは、昔写真でみたことのある、俺のお袋の若いころにそっくりな女性だった。いや、若いころのお袋そのものだ。でも、なんで猫耳のカチューシャとかしてるわけ?

 あと、赤坂さん? 俺のお袋なんだが。「お義母様」とか、え?!「お義母様!?」

 

 そんな俺の思いを無視して、お袋は俺に微笑みかけてくると、光とともに俺を包み込んだ。そして、俺の体の中から、赤坂と同じような光の波動が湧き上がってきて、俺の掌から光魔法が放たれた。

 

「うわっ、やば。」


 その光魔法は俺の体の中を蹂躙してきた。あわててコントロールするが、うまくコントロールできない。

 

「集中しろ、集中しろ。」


 自分に言い聞かせるようにつぶやくと、なんとかコントロールできるようになってきた。

 

 赤坂と俺の光魔法と、ミストレアの浄化のブレスは、確実に怨念を浄化していた。そして、浄化にあわせて部屋の瘴気も薄くなってきているように思える。

 

「よし、このまま押し切るぞ。」


 スケルトンは、浄化が進むにつれて、動きが鈍り始めている。斉藤課長もスケルトンにダメージは与えられないものの、確実にスケルトンを押さえ込んでいた。


 このまま押し切れるか、と思ったその時だった。赤坂の体が大きく揺らぐ。

 

「おい!」


 あわてて左手を離し、赤坂を抱きかかえるように支える。

 

 むにゅ。

 

 俺の左手は、なにか柔らかいものに触れていた。触れている感触がある。ある。そう、このやわらかい感触は赤坂の胸・・・

 

 あわてて左手の場所を動かす。が、赤坂はMP切れで意識を失っているようだった。

 

 しかし、更なる悲劇が襲う。むにゅという感触で、俺の集中力はものの見事に消えさっていた。それをトリガーにして、光魔法が暴走し始め、俺のMPは恐ろしい勢いでなくなり始めていた。

 

 コントロールしようともがけばもがくほど、光魔法は暴走していく。

 

 悲劇はさらに拡大していた。ミストレアのブレスも弱くなりつつあったのだ。絶妙なコントロールを身に付けても、絶対量は増えることはない。おそらく過去のミストレアであれば、もっと早く切れていたであろう。しかし、その絶妙なコントロールを持ってしても限界がきていた。

 

 ミストレアのブレスがついに切れ、残るは俺の光魔法だけとなるが、その最後のよりどころのはずのものも、暴走を止められずに今にも切れそうな状況だった。

 

 怨念の玉は5cmほどの大きさになっており、オーラもまだらになってきていた。

 

 あとすこし。しかし、俺も目の前がかすみ始めており、MP切れも時間の問題となっていた。

 

 そのとき、怨念の玉に2mmほどの穴が開いたような気がした。

 

「そこだ!」


 斉藤課長の突きが、その穴へと解き放たれ、その刀は掛け声とともに怨念の玉を突き破っていた。

 そして、怨念の玉は刀によりその呪縛を解き放たれ、空気中に溶けていくかのように消えて無くなっていく。

 

 終わった。

 

 何もかもが終わった。部屋に充満していた瘴気も、怨念の玉がなくなったことで急速に減少している。

 

 ふと、左手に抱えた赤坂を見る。その表情は、穏やかではあったが、生気が感じられない。

 

「赤・・、紅!!」


 俺は残った全ての力を振り絞り、赤坂を両手で抱きしめる。なぜ、そうしようと思ったのかは分からないが、そうしなければいけないという確信があった。

 

 しかし、俺に残された力はわずかで、俺も赤坂を抱きしめながらも、目の前が暗くなっていく。

 そして、赤坂を抱きしめたまま、崩れるように倒れこんだ。

 

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